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神様たちの冒険  作者: くずす
8章 Bランク冒険者、世界渡りの本格的な準備を始める
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模擬戦(エクストラ・ハード)・その2

 ミントとサヨさんの戦いはわりとすぐに膠着状態になった。

 その傍ではミカ・グエル・ファウ・ウルの四人の天使が高速飛行をするゴーレム(フェレス)と戦いを繰り広げていたが、こちらも似たような状況なので横から手を出すような余裕はない。


「これはなかなかに厳しいです……」

「そう言ってもらえるのはありがたいですが、ここまで条件が揃ってしまうと少し申し訳なくも思いますね」

「条件は同じなわけですし、ハンデにはならないと思いますけどね」


 剣と杖を交差させながら、ミントとサヨは会話を交わす。

 まだまだ序盤ということで、お互いに様子を見ている部分もあるが……この二人の戦いは見かけ以上にハイレベルな技の応酬に突入していた。

 まあ、そうなっている時点で、ミントの方が己のペースで戦えているとも言えるのだが……


 本来、サヨさんは『圧倒的なパワーで相手を叩き伏せる』という戦い方を得意としている。

 ただ、それは単なる力押しではない。

 もともと高い戦闘技術があってのものであるし、神器『フェネクス』の特異性―――様々な形態をとれる変幻自在な武器という特性、死亡してもすぐに復活する【自動蘇生(オートリザレクション)】、周囲に放出されたマナを回収する【マナ・リサイクル】など、いくつかの要因が合わさった結果、出来上がったスタイルである。


 しかし、現在の状況がそのスタイルを許さない。

 なにしろ一度の戦闘不能で戦線離脱となるルールなので、【自動蘇生(オートリザレクション)】は意味を成さない。

 そして、ミントが新しく装備した『地脈の靴』も相性が悪い。

 『地脈の靴』は地脈を通じてマナを吸収し、装備した者の魔力を回復するというものなので、周囲のマナを回収する【マナ・リサイクル】と同系統の能力といえるのだが……それが故に、周囲のマナを分け合う形となる。

 しかも、発動条件などを考慮すると、単純なマナ回収量では『地脈の靴』に軍配が上がる。


 ただ、これらをハンデとするのも無理がある。

 そもそも『即時復活』のある神人同士の戦いなので、【自動蘇生(オートリザレクション)】だけを例外とする根拠がないし、『地脈の靴』も『フェネクス』と同様に神器であるので、片方だけを認めるというのもおかしい。

 条件としては五分と五分なのだ。


「ルドナ君から聞いてはいましたが、正直、ここまでやりにくいとは思ってもいませんでした」


 故に、サヨさんはミントの評価を上方修正し、一段ギアをあげる。

 バックステップで一旦距離をとり、剣を振るう事で神器『フェネクス』を長槍へと変える。


 高い技量をもつサヨさんであるが、それは基礎的な能力の高さを生かしたもので、言ってみれば正統派―――王道の剣である。だが、それ故に読まれやすいという弱点もある。

 まあ、攻撃を先読みされても防げない一撃を与えるというのがサヨさんの戦い方なので、それを弱点といっていいのか悩むところではあるのだが……


 ただ、ミントと対峙するとその相性の悪さが浮き彫りになるというのは確か。

 もともと守りに主眼を置くミントであるが、彼女の戦い方は相手をいかに無力化するかという点に重きを置いていて、相手の力を削ぐことに長けている。

 そして、それを可能とするのが、攻撃を先読みする力。

 凄腕の武闘家が闘気(オーラ)の流れで相手の動きを読むように……

 あるいは練達の魔術師が魔力の流れから魔法の効果を読み解くように……

 ミントは相手のマナの流れを感じることで全ての攻撃を見切るのだ。


 もっとも、ミントがその極意に気付いたのはわりと最近のこと。

 それまでは漠然と『直感』のようなものと捉えていたミントであるが、神人になり、マナへの理解を深めたことで、自分が感じていたものの正体に気づいたわけだ。

 ちなみに―――ミントがこの感覚を習得した過程から考察すると、生命力を魔力的な感覚で察知することが大事なのではないかと思われる。

 回復魔法などで対象の生命力に触れる機会の多い神官だからこそ、生命力を魔法という視点で解析し、その結果、マナへの理解を深める事に繋がったのではないだろうか。

 ミントも『生命探知(ライフサーチ)』の応用みたいなものと言っていたし、この推察はおそらくそれほど間違ってはいないと思う。

 もっとも、完全に感覚的な部分の話なので、これが正しいとも限らないが……


「貫いて!」


 剣から炎の長槍に変化させたサヨさんは神速の突きを三度放つ。

 炎の長槍は伸縮自在であるために、間合いも読みづらい。

 しかし―――その全てがミントの前面に展開した小さな光の盾に防がれてしまう。


「……今のは……【ホーリーシールド】ですか……?」


 それを目にしたサヨさんが驚きと共に疑問を口にする。


「はい。【ホーリーシールド】で間違いないですよ。ただ、少しアレンジさせてもらいましたが……」

「アレンジ……ですか?多重起動ではなくて……?」

「多重起動と言えなくもないですが、【ホーリーシールド】は連続発動に向かない魔法ですし、普通にしたのでは今の三連撃は防げないでしょう?ですから、範囲を限定することで展開速度をあげた【ホーリーシールド】を複数展開させました」

「ひとつひとつの強度を維持する為に、守る範囲を絞るしかなかったということですよね?」

「はい、そのとおりです。ですが―――この【ホーリーリーフ】はそう簡単に破れませんよ」


 ミントは自身が開発した新しい術式【ホーリーリーフ】に余程自信を持っているのか、珍しくドヤ顔を見せる。

 【ホーリーシールド】をアレンジすることで生み出された【ホーリーリーフ】は、魔力障壁を手の平サイズに留めることで、強度を維持しながら、展開速度を速めたもの。

 多重起動や連続発動時に展開速度が急激に落ちる【ホーリーシールド】の欠点を改善したものなので、先ほどのような連続攻撃を防ぐのに向いていると言える。

 もっとも、弱点がないわけではない。

 というよりも、穴はこれ以上ないくらい明白。

 小さな盾では防げるポイントなど限られてくるからだ。

 だが―――


「では、行きますね」

「え?」


 ミントの方から距離を詰められて、サヨさんは虚を突かれた。

 とはいえ、そこはかつての勇者の記憶を持つサヨさんである。わずかばかり反応は遅れたが、長槍で迎撃を繰り出す。

 もちろんミントも無策で突っ込んだわけではないので、【ホーリーリーフ】でこれを防ぐ。

 ただ、ミントは同時に杖を突き出してもいる。


「なっ!?」


 小さな盾はもちろんそれを邪魔しない。

 だが、それだけでなく……


「は?え?な、なんですか、これは―――」


 同時展開した小さな盾は要所要所でサヨさんの動きを妨害する。

 なにしろひとつひとつが【ホーリーシールド】と同程度の防御力を有しているのだ。生半可な攻撃では崩れない。


「またエグイ真似を……」


 それを見ていたサクヤがそんな事を呟いていたが、僕としても感想は同じ。

 【ホーリーリーフ】は大抵の防御魔法と同じくそれそのものに攻撃力はない。だが、武器を振り上げた腕や駆け出した足を抑えられては、まともに白兵戦などできるわけがない。

 ミントの【ホーリーリーフ】は1対1の白兵戦において無類の強さを発揮する究極の防御魔法であった。





この章が終わるまで、毎日投稿する予定です。

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