新しい装備
「え?何、これ……」
種船の船内に設けられた大型倉庫。
その中央で山のように積み上げられたアイテムの数々を目の当たりにして、イレーナは完全に固まっていた。
「とりあえず、運べる分は全部持ってきた……」
「ありがとう。イエリスさん」
それらのアイテムは以前にイエリスさんから渡された僕たちの共有資産で、今まで『神層世界』に保管されていたもの。
つまり―――そのほとんどが祭器や神器である。
初めて目にするイレーナが驚くのも無理はない。
「なにかいいものはあるかしらね?」
「こうしてみると、武器が大半なんですね。防具とか装飾品はあんまりないみたいですけど、何か理由があるんですか?」
「……私スライムだから……防具とか装飾品はいらないし……」
「ああ、なるほど……」
ちなみに、アイテムの大半は武器であるが、これはイエリスさんがスライムであることが要因。
防具や装飾品はスライムである彼女にとって使い勝手が悪く、優先的にお金に換えてきたからである。
あと、興味深い話として―――
「でも、よくこれだけ集めましたね」
「ん?」
「いや、イエリスさんが長い事生きてきたのは知っていますけど、それでもこれだけの数を集めるのは大変だったんじゃないかなって……」
「ん~、そうでもない……『神層世界』はもともとダンジョン・システムのプロトタイプだから……」
「え……?ダンジョン・システムのプロトタイプ……?」
「……マナが魔素に変じやすい環境を作り出して……マナを貯蔵するのがマリサ様たちの作り出した世界のシステム……そのプロトタイプが『神層世界』だから……数多の世界のどのダンジョンよりも古いもの……だから、最下層には祭器や神器もいっぱいある……むしろ、勝手に生まれてくる……」
「……神器や祭器が勝手に生まれるんですか……?」
「最下層にいる『パンドラ・ミミック』は自分で神器や祭器を作れるから……それを倒せば、結構な確率でドロップする……自然発生する宝箱もあるけど……そちらはあんまり期待できない……罠がかかっていることも多いし……」
「な、なるほど……」
―――というようなものもある。
まあ、ダンジョンで魔法の道具が自然生成されるのは普通にあることだし、数多の世界の中で最古のダンジョンというのなら、神器や祭器クラスのアイテムがゴロゴロ落ちていたとしてもおかしくはないのかもしれない。
で、暫くの間、皆でワイワイと宝の山を物色。
「とりあえず、僕はこの剣と弓かな?」
「私はこの靴をもらいますね」
「私はこの宝珠とイヤリングかしら。あと、この斧槍も貰っていい?私が使うわけじゃないけど」
「じゃあ、私は―――」
―――結果、いくつかの品を自分のものとする。
僕が手にしたのは剣と弓。
剣の方は『晴嵐』という風獣の力を宿した小剣で、サリアとリフスが勧めてくれたもの。
弓の方は『月光の弓』という月の力を宿した弓で、こちらはルシウスとエドが勧めてくれた。
ミントは『地脈の靴』という地脈から魔力を吸収する靴。
サクヤは『黒き宝珠』という黒系の元素魔法の威力をあげる宝珠と、『守りの耳飾り』という魔法障壁を強化するイヤリング。あと、ゴーレムに持たせる為の武器をいくつか。
ノアさんは『飛竜落とし』という投げ槍と、『結界破り』という短剣。
あと、ニーズがやたらと巨大な包丁を自分のものにしていたり、イレーナが魔法の矢筒を手にしていたりもするが、細かいものは置いておく。
ちなみに、これらのほとんどは祭器クラスで、神器クラスはミントの『地脈の靴』とノアさんの『飛竜落とし』のみ。
『晴嵐』も神器クラスに近い性能を持っているらしいのだが、今、一歩足りないとの事。
(まあ、神化後の事を考えるとそっちの方が都合いいのよね)
(神器は明確な意思を宿している場合が多いですもんね~)
ただ、それもサリアとリフスの狙いのうち。
サリアやリフスの狙いは明確な意思を宿していないアイテムの確保であった。
武具や魔道具に自然と宿った意思―――いわゆる『付喪神』的な存在というのは、精霊の亜種というべきもので、周囲の環境に合わせて望む姿を得るらしく、ある程度の自我が確立するまで性別なども決まっていない。
とはいえ、もとより『形』を持つものがほとんどなので、わざわざ別の姿を得るものは少ないし、そこまで『進化』するものも滅多にいないのだが……このあたりは小精霊から中位精霊・上位精霊と進化していく過程を参考にしてもらうとわかりやすいかもしれない。
あと、ひとつ注意してほしいのが、アイテムのランクはそのものの性能を示すものであるので、祭器クラスや神器クラスであっても、必ずしも意思を宿しているわけではないという事。
事実、ノアさんの手にしている『飛竜落とし』は純粋な性能だけで神器クラスであり、人格といえるほどの意思はない。
ミントの『地脈の靴』には『地龍』の意思の欠片のようなものが宿っているらしいのだが、こちらもあくまで欠片であって、今のところ明確な意思などはないようである。
―――と、これらの事を僕は知識としては理解していたが……だからといって、サリアやリフスの思惑に気づくかどうかは別。
(サリアちゃんも自分の勢力確保に動いたわね)
(私たちもしていることですから文句はいえませんけどね)
(……というか、リフスがサリアに協力するのはいいの?)
(皆が仲良くしている分には問題ないよ~)
(なるほど)
『付喪神』が精霊の亜種とするならば、それをスカウトするというのは、先の種船クルー勧誘と同じ問題が発生する。
この時の僕はその事に全く気が付いていなかったのだ。
この章が終わるまで、毎日投稿する予定です。