装備の見直し
人の肉体は魔物と比べるとかなり脆弱である。
それ故、人が魔物に対抗するには『強力な装備』が必要となる。
とはいえ、強力な装備というのはそう簡単に手に入れられるものではない。
それが駆け出しの冒険者ならなおさら。
『金を惜しんで命を落とす』なんていうのは間抜けのすることではあるが、『高額な装備を無理して購入したが、生活苦でそれを手放す』というのも間抜けな話に違いない。
なので、『自分の身の丈にあった範囲で、出来るだけいいものを揃える』というのが大事になるのだが……
僕・ミント・サクヤの三人はFランクの時から装備をかえていない。
神人となり、神の力を得た事で、装備に拘る必要性がほとんど無くなったからである。
とはいえ、全く意味のないかと言われると―――決してそうでもない。
周りの冒険者からすると、初期装備のまま活躍を重ねる高ランク冒険者というのは奇妙に映る。
世界樹の事や神人である事を隠しておきたい僕たちからすると、それはよろしくない。
その点でいえば、装備をらしくするというのも十分に意味があった。
ただ―――
「買いかえるなら……鎧かなぁ?」
「私もローブくらいですね」
僕とミントはあまり乗り気でないといった反応。
「剣はサリアがいるし……練習用に弓を買うぐらい?」
「良い物があれば考えますけど、なかなか合うのが見つからないんですよね……」
僕の場合、神剣以上に神様な剣がいるので、武器には困っていない。
ミントの場合、身につけている装備の大半が聖別されたものなので、やたら疎かに扱えない。
「まあ、そうなるわよね」
「そういうサクヤちゃんはどうなの?」
「私も買いかえる必要はないわね。杖もローブもすでに強化済みだし」
「「「あ~……」」」
サクヤはサクヤで、自分の装備を強化していたらしく、今更新しい装備に手を出す気にはなれない様子。
「あれ?新しい装備とか、冒険者なら誰でも喜ぶものじゃないの?」
そんな僕たちの様子に首を傾げるイレーナ。
その疑問はある意味で間違ってはいない。
もし、これが『普通に装備を買いかえる』だけなら、僕たちももう少しテンションをあげていたと思う。
だが―――
「いや、普通ならそうなんだけどね……」
「自分で自由に選べない買い物って煩わしいものでしょ?」
「いっそ、ファッションと割り切った方がいいのかもしれません……」
「ええと―――」
「イレーナさんに当てはめるなら、今の皮の鎧より上等で、それでいて、今の冒険者ランクから逸脱しないようなものを見つけてきてって感じかな?」
「あっ、なるほど。ちょうどいい品を探すのが面倒なのね」
「付け加えると、自分たちで用意するならそこまで苦労しないというのもあるのかもしれません」
「というか……そもそもいらないもの……?」
「強い武器や防具ってだけなら、イエリスちゃんのコレクションもあるしね~」
テンションが上がらない理由はいくつかあるが、要約すると面倒の一言に尽きる。
もっとも、それで済ませられるなら、サクヤも初めから提案したりはしない。
だからなのか、サクヤは意外な事を口にする。
「まあ、るーやミントの気持ちもわかるけど、別に今すぐかえろとまでは言わないし、いい感じのものがあれば確保しておきなさいって事よ。それにミントの言う通りファッション―――見せかけだけのものでも構わないわよ?」
「え?」
「……え?」
ただ、それを意外と感じたのは、僕やミントがサクヤの言葉の意味をきちんと理解できていなかったからだ。
「えっ……て、何よ?」
「いや、だって……」
「サクヤちゃんって、そういう無駄使いは嫌いでしたよね?」
「ああ、そういう事ね。でも、それなら今回の事は当てはまらないでしょ?それこそ服とか同じで」
「……え?」
「え?じゃなくて……私たちは神様の力を持っているわけでしょ?その力で『強化』すれば、どんな武器でもそこそこのものにはなるわよ。それに、『再現性』の事を考えると『愛着が持てるかどうか?』という方が遥かに重要よね?」
「あ……」
「な、なるほど……自分で『強化』できるわけですし、気に入ったものを選べばいいんですね……」
言われてみれば……というヤツであるが、その発想は僕やミントにはなかったもの。
神人になって半年余りが過ぎたとはいえ、僕たちも神様としてはまだまだ未熟。
それに、アイテム強化は錬金術士であるサクヤの得意分野なので、その発想に至らなかったとしても致し方なし……と言えなくもない。
あと―――
「それなら、サクヤちゃんに作ってもらうのはどうなの?サクヤちゃんってそういうのが得意なんでしょ?」
「あ、いや、それは―――」
「その手もないわけではないけど、私は錬金術士だから、武具の作成は本職じゃないわよ?」
「え?そうなの?」
「錬金術士はどちらかというと素材生成と調整・調合がメインだからね。鍛冶師のように武器は作れないし、付与魔術師のように魔法付与もできないのよ。もちろん得意じゃないってだけで、それなりのものは出来ると思うけど……」
「喩えとしては正しくないのかもしれないけど、魔法の系統分けと似たような感じだね。元素魔法・精霊魔法・神聖魔法……細かく言えば他にもいろいろとあるけど、それらはアプローチの仕方が違うだけで、魔力を使って、何らかの現象を起こすというのは同じ。でも、やり方が違うから、得意な分野もそれぞれ違う、みたいな……」
「ただ、神人である私たちが力を使うと、大抵のことはなんとかなってしまうので、差が出にくいんですよね……」
「早い話……本職じゃないサクヤだと、力の調整が難しいんでしょ……神器や祭器クラスの武器を量産されても困るし……」
「……まあ、そういう事よ」
―――武器や防具を自分たちで制作するという方法は最初から考えていなかった。
出来るか出来ないかでいえば、間違いなく出来るのだが……イエリスさんの言う通り、神器や祭器クラスの武具を量産しても、今回の問題は解決しないからだ。
しかし―――
「そっか。それじゃあ、仕方がないね。あ、でも、それなら、『神層世界』の探索には使えるんじゃないの?」
「……え?」
「……えっ?」
「………」
「……あ、あれ?私、なにかおかしな―――」
「「「「ああああああ~っ!」」」」
イレーナの指摘で、僕たちはそれ以上の見落としに初めて気がつくのであった。
この章が終わるまで、毎日投稿する予定です。