Bランク昇格とお祝いパーティー
だいぶ間が開いてしまいましたが、新章開始です。
レスファリア森林国から戻って来て一週間あまりが経過した頃。
僕・ミント・サクヤ・ノアさんの四人はBランクに昇格した。
ただ、これには少々特別な措置が取られている。
というのも―――本来、ランク昇格試験はそのランクに合わせた活動ポイントがないと受けられず、ノアさん以外のメンバーはその基準を満たしていなかった。
しかし、何事にも例外はある。
冒険者はもともと実力が全てみたいな業界であるし、ギルドの方も優秀な冒険者には少しでも多く活躍してもらいたいと考えているため、ランクから逸脱するような高い能力を持つ冒険者には特別な措置が行われることがままあった。
そして、今回の僕たちの場合、レスファリア森林国の『推薦』というのが大きな理由となる。
王族を害するような陰謀を未然に防いだということで、僕たちの行動が高く評価されたわけだ。
まあ、これを裏読みすると『国の一大事を解決した英雄がCランクでは格好がつかないからランクをあげて欲しい』というお願い(圧力?)がギルドになされたとなるのだが……レスファリア森林国は小国であるし、ギルドへの影響力もそこまで大きくはないと思うので、『推薦』という表現で問題ないと思う。
特別に昇格試験を受けられたというだけで、試験そのものが免除されたわけでもないし、それぞれの審査は普通に試験を受けるよりも厳しく判定されたらしいので、僕たちもギルド側もやましい事などなにもないのである。
そんなわけで―――その日、『銀のゆりかご亭』では僕たちのランク昇格のお祝いパーティーが行われていた。
ただ、パーティーの名目は他にもあって、イレーナの歓迎会やマブオクさんのランク昇格、ククルの冒険者デビュー、果ては銀のゆりかご亭で預かっている子供たちの誕生日祝いなど、ここ最近の祝い事をまとめて行ったという感じ。
まあ、お酒が入る夜の部を前に子供たちは解散しており、今頃は就寝前のお風呂の最中だろうが……
例外的に残っていたのは、クランメンバーであるカズキ君とリーヴァちゃん。あとは厨房で鍋を振るっていたニーズ。
先ほどもちらりと述べたが、マブオクさんの昇格やククルの冒険者デビューなど、今回はクランとしてのお祝いの面が強いので、食堂は『銀の七星盾』のメンバーの貸し切りのような形になっていた。
ちなみに―――『銀の七星盾』はこの一ヶ月余りでクランメンバーを3人ほど増やしている。
といっても、その内の1人はイレーナであるわけだが……
市井の暮しに強い憧れを持っていた元王女様は、冒険者の暮しにも憧れていたようで、冒険者の活動もそのまま続ける事になった。
しかし、他の事にも興味津々で、『銀のゆりかご亭』で子供たちの世話をしたり、僕の母親のもとで花嫁修業をしたりと、それだけをガッツリ行っているわけではない。
半年後には『世界渡り』もあるし、元王族だけあってお金も特に不自由していないので、『やりたいことをやりたいときにする』というスタンスで特に問題がなかったのだ。
で、残る2人。
こちらはメビンスさんが声をかけた冒険者で、名前はモルクさんとアンさん。
モルクさんは20代前半の男性で、Cランクの付与魔術師。
アンさんはモルクさんより少し歳下の女性で、Cランクの格闘家。
クラン入りのきっかけは、とある依頼でメビンスさんたちと臨時パーティーを組んだ事で、面倒見のいいメビンスさんがいろいろと世話をした結果との事。
まあ、そのメビンスさんは『なんで独り者の俺が他人の恋路の世話をやいているんだろうな……』と、テーブルでイチャつく二人を眺めながら、遠い眼で酒を煽っていたが……
(うん、今はそっとしておこう)
そんなメビンスさんから距離をとり、僕は話し相手になってくれそうな人を探す。
いや、わざわざ探すほどのものでもないのだが……
「あれ?ルドナ君、どうしたの?メビンスさんところに行ったんじゃないの?」
「うん、そのつもりだったんだけど……」
「もう聞いてきたの?それで、ソーンさんとイオさんはやっぱり―――」
「いや、それは聞いてないよ。やっぱりこういう事は本人たちに聞くべきだと思うし……」
話しかけてきたノアさんに答えながら、僕は少しばかり顔をひきつらせる。
メビンスさんの相棒であるソーンさんは、ここ最近、『銀のゆりかご亭』の新人従業員のイオさんと仲良く話しているところを度々目撃されていた。
今この場にソーンさんがいないのも、子供たちの世話をするイオさんを手伝っていたからだ。
だから僕たちの間で『ひょっとして付き合っているのかな?』という話が出ていたのだが……
(い、今のメビンスさんにそれを聞くのは悪いよね)
―――メビンスさんのぼやきを耳にしてしまった以上、そんな事は聞けない。
(メビンスさん、いい人なんだけどなぁ……)
そう思うものの、十歳以上年下の僕にそんな事を言われても困るだけだろうし、受け取り方によっては嫌味ともとられかねない。
というか―――僕がメビンスさんの立場なら間違いなくブチギレる。
なにしろ、数十人と彼女がいる身でありながら、更に一人婚約者が増えたのだ。
そんな僕に何が言えるというのか……
それに僕が何かを言うまでもなく、メビンスさんを慕う者は多い。
「メビンスのアニキ、今度は俺たちと一緒に仕事をしてもらえやせんか?」
「うん?お前らとか?」
「ようやくCランクにあがった俺が言えた事ではないんですが、カズキもリーヴァも冒険者としてはまだまだ未熟な部分がありやしてね。アニキたちから学ぶ事も多いと思うんですよ。それで―――」
「あ~!それなら私たちも一緒に行きたいです!噂の勇者君の実力も見てみたいし―――」
メビンスさんを中心に次なる冒険に盛り上がるクランメンバーたち。
それを眺めていた僕たちにナナエさんが声をかけてきた。
「ずいぶんと盛り上がっていますね」
「あ、お姉ちゃん」
「ちょっと昔を思い出すわね」
「うん……」
一時は活動休止にまで追い込まれていた『銀の七星盾』である。
ノアさんやナナエさんには感慨深いものがあったのだろう。
二人の言葉にはいささかノスタルジックなものも含まれていた気がする。
僕たちが冒険者となり間もなく半年―――世界を渡る日も確実に近づいていた。
第8章です。
この章が終わるまで、毎日投稿する予定です。




