依頼の確認
「要するに囮だな」
公務があるからとジュリア女王陛下が退席されたところで、変更された依頼内容について改めて説明が行われた。
そこでネア王女が口にしたのが、そんなセリフであったわけだが―――言わんとしていることは理解できる。
「よほどの事情がないと断れない縁談ですが、既に婚約者がいたとなれば、断るしかありませんからね」
「救国の英雄であるカンナ様の息子であれば、格としては十分だからな。もちろん相手が納得するかどうかは別だが……」
「少なくとも回顧派の長老たちにとっては最悪の展開でしょうね。融和政策の流れを作った英雄の息子が第二王女と結ばれるとか……」
「それ故、連中も動かざるを得ないだろう?今までのように周りを切り崩すやり方では時間がかかり過ぎるからな」
「事態の打破にはかなり有効な手ですわね。ですが、ひとつだけ確認したいのですが―――」
交渉担当のサクヤは、ある程度納得したところで一番重要な質問をぶつけた。
「―――この件が無事に解決したとして、その後はどうするおつもりですか?」
まあ、それはあくまで僕たちにとって重要ということなのだが……
「それは状況次第であるが……おそらくはどうもしない。当人たちの意志に委ねる事になるだろうな」
「当人たちの意志ですか?」
「先ほどのお言葉から察するに、お母様としてはルドナ殿を本当に婿として迎えたいと思っておられるようだがな。それにイレーナも嫌とは言うまいよ」
「……そうなのですか?」
「イレーナはカンナ様に強い憧れがあると言っただろう?カンナ様のお話を聞き重ねる中で、許嫁の約束も聞かされていたし、本人もかなり前向きに受け止めていたからな」
「ああ、そうですか……」
その言葉を聞き、サクヤがため息をつく。
そんなサクヤを気にしてか、ネア王女がフォローをいれる。
「ま、まあ、あくまで当人の意志次第であるし、こちらとしても無理強いをするつもりはないが―――」
ネア王女は僕たちがどんな関係であるのか、ある程度察しがついていたのだろう。
だが、それはあくまである程度。全てを把握していたわけではない。故に、少しばかり誤解がある。
「あ、いえ、そこは問題ありませんよ。むしろ、問題なのはこちらの方でして―――」
「うん?」
「るーの―――この男の前に許嫁を差し出すとか、完全に『カモネギ』なのですが、それはよろしいですか?」
「は……?」
サクヤの言葉にネア王女が固まる。
僕としても黙ってはいられない。
だが―――
「いや、ちょっと、待って、サクヤ!それは流石に誤解があると―――」
「―――サヨさんの事、忘れたわけではないわよね?」
「うぐっ。あ、あれは結果的にそうなっただけで……」
「そうね。サヨさんの事はなりゆきが大きかったとは思うわよ。でも、今回もそうならないとは限らないわよね?」
「なりゆきに任せるとか、もうその時点でフラグでしかないと思うよ」
「確かにちょっと否定できないかな……」
「え、ええと―――」
実のところ、サクヤが問題視していたのは、その先の話。
「英雄色を好むとありますが、この男はすでに何人も彼女が居ますからね。今更一人二人増えたところで構いません。ですが―――この国に婿入りするという事だけはありません。そして、それを理由に諦めるという事もありえません。もちろんこの男が本気になったとしたら―――というお話ですけどね」
「……ん?ああ、なるほど。キミはそういうタイプの男か……」
サクヤの言葉にネア王女は一つ納得を示す。
そして―――
「そういうことなら心配は無用だ。当人たちがそれを望むというのなら、父も母も認めるだろうよ」
「……一国のお姫様にしては扱いが軽いですわね……」
「はは、確かにそうかもな。だが、それも本人が望めばという話だ」
「なるほど」
笑顔でそう告げると、話をまとめに入る。
「それで、話を戻すが……依頼内容はイレーナの捜索と保護に変更させてもらう。期間と報酬は最初に提示したとおりだが、場合によってはそれ相応の報酬を追加させてもらう」
「イレーナ様の足取りは掴めているのですか?」
「いいや、全くないな。だが、だからこそ、この国―――この森から出ていないと思う。『神樹の加護』は神樹であるレスファリア様の元で真価を発揮するものなのでな」
「その『神樹の加護』というのはどのようなものなのでしょうか?」
「『神樹の加護』の効果はいくつもあるが、イレーナの場合、併せ持つ『狩人の加護』との組み合わせが厄介でな。『カモフラージュ』という認識阻害系の隠密スキルと『森の抜け道』という特殊な移動スキルがある。森の中に隠れ潜まれると我らエルフでも探し出すのは困難だ」
「……でも、イレーナ様は大人しく隠れ過ごすつもりはないと―――」
「ああ、だからこそ、君たちに依頼をしたいのだ。長老側が動くよりも先にイレーナと接触し、できれば王宮に戻る様に説得して欲しい」
「わかりましたわ」
依頼を受けた僕たちは手続きを済ませ、王宮を後にした。
短いです。前話と合わせても良かった気がしますが、今更ですね。
7章が終わるまで毎日更新する予定です。