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神様たちの冒険  作者: くずす
7章 Cランク冒険者、許嫁エルフに振り回される
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エルフの女王

「………」

「どうか気を楽にしてください。ここは謁見の間でもありませんし、人払いも済ませております。なにより、今の私は女王としてではなく、ただの個人―――ただのジュリアとして、かけがえのない親友の子とお話をしたいのです」

「わ、わかりました……」


 王宮についた僕たちは、使用人と思われるエルフの案内で応接室に通された。

 そして、そこでしばらく待っていると、二人のエルフがやってきた。


 先にやってきたのが、礼装を着こなした銀髪のダークエルフの女性。

 いかにも武官という空気を纏った彼女は、挨拶もそこそこに、『もうしばらく待つように』と告げた。

 その言葉に従い、もうしばらく待つと、今度はドレス姿のエルフの女性がやって来た。

 ただ、その女性こそがジュリア=クエゥ=レスファリア。

 レスファリア森林国の現女王であった。



 全く予期していなかった女王様との対面に僕たちは少なからず動揺した。

 だが、それは内心の事。

 みっともなく取り乱すようなことだけはなんとか避けることができた。


「それにしてもさすがカンナの息子ですね。実はもう少し慌ててもらえるものだと、密かに期待していたのですが」

「え?」

「陛下……」


 まあ、当の女王陛下からすると、目論見が外れたのかもしれないが……


「お小言は勘弁してね、ネアちゃん。今はプライベートなのですから、これぐらいのお茶目は許してくれてもいいでしょう?」

「はぁ。わかっていますよ、お母様。とはいえ、サプライズにしてもいささか悪趣味だと忠告させてもらいますがね。年甲斐もなくはしゃぐ母親など娘としては恥ずかしいだけですし」

「むぅ。毎度の事だけど、ネアちゃんは手厳しいわね」


 ダークエルフの武官とそんなやりとりを交わす女王陛下。

 それは計らずして場の空気を和ませる一手となった。


「えっ?あの、お母様ということは―――」

「すまないな。陛下のお達しで先ほどは伏せさせてもらったが、私の名はネア=クエゥ=レスファリア。この国の第一王女であり、王国軍第二騎士団を預かる主将でもある」

「やはりそうでしたか……」

「あれ?サクヤは気づいていたの?」

「レスファリア森林国の姫将軍……その勇名はユナニア王国にも届いていましたからね。3年前のリノタ帝国との国境で起こった魔獣災害の逸話とか特に有名なんだけど、聞いた事ない?」

「それって、確か『レスファダルク大森林』で厄介な事になりそうだったってヤツだよね?話としては聞いた覚えがあるんだけど―――」

「勉強不足ね」

「シーケの街はユナニア王国でも南部にあるからね。王都とかだともう少し騒ぎになっていたようだけど」

「当時の私たちはまだ子供でしたし、サクヤちゃんが知っている方がおかしい気もしますが……」


 とはいえ、この時の僕たちはいささか緊張感が足りていなかったように思う。

 もちろん唐突な対談となった事には驚いていたし、全く緊張していなかったわけでもないのだが、神の力を得た僕たちは知らず知らずのうちに権力に対する畏怖とか危機意識が薄れていたのだ。

 まあ、この時に関してはそれがかえっていい方向に働いてくれたので結果的には良かったのだが……


「フフフッ、懐かしいですね、この感じ」

「え?」

「いくら私的な時間だと銘打っても立場というのはどうしてもついて回るものですからね。カンナがいなくなってから、このように談笑する機会もめっきりなくなってしまって……」

「あ、すいません。女王陛下の前だというのに礼を欠くような真似を―――」

「いえいえ、それで構いませんよ。ここは公の場ではありませんし、なにより私がそう望んでいるのですから」

「そ、そう言ってもらえるとありがたいです……」

「では、まずはカンナの近況を聞かせてもらえませんか?今は確か宿屋で働いているのでしたよね?」

「え、ええ―――」


 それからしばらくは穏やかな談笑が続く。

 主な話題は母さんの事であるが、僕たちのことも普通に話したし、女王様や王女様の話を聞く事もあった。

 ただ、忘れてはいけないのが、僕たちはここに仕事に来たという事。

 故に、その話もしなければいけないのだが―――


「ええと……そろそろ依頼の話を伺ってもよろしいですか?」

「ああ、そうだな」

「ええ、もうおしまいなのですか?」

「……お母様……」

「はぁい……」

「……それで依頼の件なのだが―――まずは先に謝らせて欲しい」

「「「え?」」」


 ―――そちらについては、ネア王女の謝罪から始まった。




◆◆◆




「簡潔に言わせてもらうと、君たちがこちらに来るまでの間に状況が変わってしまったのだ。だから、依頼内容を変更したうえで改めて君たちにお願いしたいのだが―――」

「状況が変わったのですか?それはどのように?」

「もともとの依頼は、私の妹―――第二王女のイレーナの護衛を頼む予定であったのだが……当のイレーナが姿をくらませてしまってな……」

「……はい……?」

「まあ、まずは事のあらましについて話をさせてもらおうか」


 事の起こりは件の第二王女に縁談が持ち込まれたことから始まる。

 もちろんただの縁談なら騒ぎなど起きない。

 縁談の相手はリノタ帝国第三王子、ザイオン=シユ=リノタ。

 所謂、政略結婚ということなのだが―――


「この場合、話を持ちこんだ御仁が問題でな。カムローク翁は回顧主義な長老衆の中でも、その筆頭とされる人物なのだよ」

「回顧主義のエルフの長老ということは……派閥としてはイレーナ様を推す立場ですね?」

「正しくそのとおりだな」

「え?ええと……?」

「私は見ての通りダークエルフとして生まれたからな。エルフという種に拘る長老たちからすれば、私よりも妹の方に国を継いでもらいたいのさ」

「あっ……」


 ―――問題となるのは、話を持ち込んだ人物がそれを政争に利用しようとしている事。


「カムローク翁がどのような展開を望んでおられるのかまではわからぬが、リノタ帝国のザイオン王子といえば機知と権謀に富んだ野心家との噂。いや、それ以前に、かの王子は次の帝位をかけて血族たちと暗闘中のはず。そんな時期に縁談を持ち込むこと自体が謀略であると考えるのが自然だろう?」

「ザイオン王子の人となりは私たちの国にも伝わっております。そして、その噂通りの人物であれば……保身のために他国に婿入りなどはしないでしょうね。むしろ――――」

「―――帝国共々自分の手中に収めようとするであろうな」

「それがわかっているのなら、この縁談は当然なかったことになりますよね……?」

「そうできれば良かったのだが、それがそうもいかぬ。我が国と違い、帝国は強大だからな」

「それに、国境を挟み睨み合う二つの国が王族同士の婚姻により関係を改善するというのは、建前としてはこれ以上ないものですわね」

「他種族との融和は私が推し進めてきた政策です。長老たちに裏の思惑がなければ、私としても喜んで賛同できたのですが―――」


 そして、大抵の政争というのは面倒くさいもの。


「断りたい話だけど、簡単には断れないと……」

「なにしろまだ顔も合わせていない段階だからな。相手側の面子を考慮すると、一度対面させるところぐらいまでは話を進めるしかない」

「そこで断るというのはアリなのですか?」

「いかに相手が大国の王子であろうと、望まぬ相手との婚姻を強要するほど、我が国は誇りなき国ではないのでな」

「すっ、すいません。大変に失礼な事を―――」

「よい。気にするな。望まぬ相手とあれば断れるが、そうでなければ断れぬというのも事実だ」

「なるほど。姫様の護衛を必要としたのはそれでですか」

「……そうだ。この話はイレーナが断ればそれで終わる。だが、イレーナが断らなければ話は進めざるを得なくなる。であれば、長老衆はイレーナをなんとしても受け入れるよう()()するだろう。その為なら、それこそ手段を選ばず、な……」

「……となると、イレーナ様が姿を消したというのも―――」

「自分が姿を消せば周りの者を巻き込む可能性を減らせると考えたのだろうな。浅はかというしかないが……」


 サクヤの問いかけに、ため息をつきながら答えるネア様。


「イレーナちゃんなら、むしろ自分を囮にして黒幕を捕まえようとか考えているんじゃないかしら?」


 それに続き、女王陛下が何故か楽しそうに告げる。


「……ええと……それは無謀ではないのですか……?」


 正直、そんな女王陛下に思わず唖然となる僕たちであったが……


「あのコの辞書には無茶とか無謀とか、そのあたりの単語が綺麗さっぱり抜け落ちているのよね」

「ええっ……」

「あ、あの……し、心配はされていないのですか……?」

「ん~。心配は心配ですよ。でも、同じくらいあのコの事も信頼していますから」

「そ、そうですか……」

「今のところ、誰もイレーナの居場所は掴めていないからな。そういう意味では上手くやってはいるのだろうが……」

「あのコには『神樹の加護』と『狩人の加護』が与えられていますからね。本気で隠れられると、私たちでも見つけられないのですよ」

「このまま大人しく隠れていてくれるのなら、それはそれでアリだがな。しかし―――」

「そうはならないと……?」

「ならないでしょうね。あのコはとにかく行動するってタイプだし……そもそもあのコは、カンナに強い憧れを持っていますからね」

「―――え?」


 思わぬタイミングで飛び出した母の名に、僕は驚きを隠せない。


「カンナ様は我が国の英雄だからな。憧れる気持ちはわからなくもない。だが、積極的に行動する事と軽挙に走る事は違うと思うのだがな……」

「それも間違ってはいないわよ。でも、英雄の行動というのは、大抵は()()でしかないもの。迷って機を逃すくらいなら―――」

「―――とりあえず全力でやってみろ……ですか……」

「そうそう。やっぱりカンナの息子ね」

「まあ、子供の頃から散々叩きこまれましたからね」


 しかし、僕たちが本当に驚かされるのはこの後。

 それというのも―――


「いや、あの、るー……」

「……カンナさんが英雄扱いされているところはスルーしていいの……?」

「まあ、母さんだからね。正直、何をしていてもおかしくはないんだけど―――」

「今のこの国があるのは全部カンナのおかげですよ。そもそもカンナがいなかったら、ネアちゃんもイレーナちゃんも生まれていなかったわけですしね」

「当時、敵対関係にあったダークエルフとの和平を進め、お父さまとお母さまの婚姻を周囲に認めさせたのがカンナ様であったと我々は聞き及んでいる。そしてそれをきっかけに我が国は他種族との融和政策を進めていく事になったとも」

「……カンナはこの国で生まれた『人間(ヒューマン)』でしたからね。種族の違いに拘る愚かさを誰よりも理解していたのでしょう。そんな彼女と親友になれた事が私の何よりの誇りですよ」

「……ありがたいお言葉です。母に代わり、お礼を申し上げます」

「いえいえ、お礼を言うのはこちらですよ。過去の縁に縋り、助けを求めた我らに、カンナはこうして答えてくれました。それだけでも十分というものですよ―――『婿()殿()』」

「「「……はい……?」」」


 ―――女王陛下が僕の事を奇妙な呼び方をした為だ。


「正直なところ、私もカンナが約束を覚えてくれているとは思いませんでした。互いに子供が生まれてくる前の約束など戯言と思われていても仕方がありませんしね。でも、こうしてここに来てくれたという事は、イレーナちゃんとの『婚約』を受け入れてくれたのですよね?」

「―――え……?」

「……やってくれましたね……カンナさん……」

「……まさか、ここに来て、許嫁の登場とか……どんな嫌がらせですか……」


 まあ、自分でも口にしたことであるが……母さんなら何をしていてもおかしくはない。

 おかしくはないが―――流石にこれは想定外すぎた。





7章が終わるまで毎日更新する予定です。

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