レスファリア森林国
今回から種族としての人間を表わす時は『ヒューマン』とルビを振ることにしました。
依頼を受けた僕たちは準備を整えレスファリア森林国に向かった。
といっても、移動はギルドが手配してくれた『転送屋』を使ったので、所要時間は1時間にも満たない。
ちなみに今回のメンバーは、僕・ミント・サクヤ・ノアさんの4人。リサやサリアたちもいるが実体化していないメンバーは割愛。あと、サヨさんとイエリスさんの二人だが……彼女たちはもともと冒険者ではないので、今回は連れてきてはいない。
今回の依頼は冒険者である僕たちが引き受けた仕事なので、彼女たちの力を借りるというのは筋が違う。
そもそも誰かの協力をお願いするなら、クランメンバーのカズキ君たちやメビンスさんたちに声をかければいい。
ただし、今回のような依頼の場合、それもなかなか難しい。
僕たち自身まだ詳しい依頼内容を知らないし、正式に依頼を受けたわけではないからだ。
「まずは詳しい話を聞いてみない事には、ね……」
「王宮に行って、ギルドの書状をみせればいいんですよね?」
「そういう話だったね」
僕たちが転移した先は森の中に佇む小さな遺跡。
そこから10分ほど森を進んでいくと、レスファリア森林国の王都『レスファオーツ』にたどり着く。
ただ、その街並みは一国の首都としては小さく、僕たちの暮らすシーケの街の方が発展しているようにも見える。
もっとも、これは文化の違いが大きい。
もともとレスファリア森林国は『レスファダルク大森林』に住まうエルフたちが築いた国で、森と共存する暮しが深く根付いている。それ故に無闇矢鱈と森を切り開くようなことはせず、自然との調和を主眼においた街づくりがなされているのだ。
ただし、それだけの街というわけでもない。
レスファリア森林国は近年、様々な種族を迎え入れる政策が進められており、その影響を街のいたるところで目にすることができた。それにもかかわらずそれらが悪目立ちしないのは、既存の文化に上手く馴染ませる形で取り入れているからだろう。
このあたりは人間よりも遥かに長い寿命を持つエルフならではというか、新しい技術を生み出すと試さずにはいられない人間との大きな違いだと思う。
―――と、そんな経緯で生まれた『レスファオーツ』の街並みは大きく二つの区画に分けられる。
ひとつは元からエルフたちが住んでいた街の北側―――中央区。
もうひとつは新しく移り住んできた者たちが多く集まる街の南側―――新区。
僕たちが目指す王宮は、当然、中央区にある。
だが、その中央区に入る手前当たりでリサが『心話』で話しかけてくる。
(それじゃあ、るー君、私たちはそろそろ行くね)
(うん、気をつけてね)
(気をつけるのはるー君たちの方でしょ。私はおば様たちのところに挨拶しに行くだけだよ?)
(まあ、そうなんだけどね)
リサと精霊たちはここから別行動をとる事になっていた。
その理由は主に二つ。
ひとつは、リサの正体が露見する可能性が高いから。
というのも、エルフはもともと樹精霊から別れた種族であり、精霊との親和性が非常に高い。長く生きた者や強い力を持つ者ならなおさらである。
更に言うと、『レスファダルク大森林』には、二本の『神樹』があり、その力と恩恵を受けるエルフたちは世界樹の気配に敏感なのだとか……
ちなみにこの『神樹』というのは、世界樹であるマリサ様から別れた『分体』で、この世界を産みだす時に世界の軸とした女神たちを指す。
故に、リサからするとおば様となるわけだが―――
その二人の『神樹』に挨拶をしに行くというのが、もうひとつの理由になる。
もっとも、挨拶だけならそこまで急ぐ必要もないので、理由としては先の理由の方が大きい。
いや、そちらの理由も余計な騒ぎになるのを避けるための措置というだけで、そこまで隠し通さなくてはいけないものでもないのだが……
エルフたちにとって、様々な恩恵を与えてくれる『神樹』は一種の信仰対象。
だとすると、その『神樹』を生み出した『世界樹』はどうなるのかという話で……危害を加えられることはまずないが、大きな騒ぎになるのも避けられない―――そんな予測は容易に成り立つ。
そして、そういう事態を僕たちは望まないという話。
ただ、正体を隠すというのは、それなりに不便も生むもので……
(というか、向かう場所は一応一緒だよ?)
(ああ、うん、それもわかっているんだけどね。まあ、いいや。女神様たちによろしくね)
(は~い)
実のところ、リサも僕たちも向かう先は同じである。
レスファリア森林国の王城は、国名にもなっている『神樹・レスファリア』の巨大な洞の中に築かれていたからだ。
だが、だからこそ、根回しが必要と言うか……
王城で仕事の話をしている最中に女神様がご降臨でもされたら、一発で僕たちの正体がバレる。
そのような事態を避けるためにも、リサには先に女神様へ話を通してもらう必要があったのだ。
7章が終わるまで毎日更新する予定です。