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神様たちの冒険  作者: くずす
7章 Cランク冒険者、許嫁エルフに振り回される
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サヨとイエリスの一時神化

第7章開始です。

「決めました」


 サヨさんがそう言ったのは、あの日から10日余り過ぎた頃。


「あ、決めたの?」

「それで、誰にお願いするのですか?」

「サクヤさんでお願いします」

「あら、私でいいの?」

「はい、お願いします」


 ちなみにサヨさんが何を決めたのかというと、誰に『一時神化』をお願いするかである。

 勇者の力を取り戻したサヨさんは『魔神王の呪縛』を制御できるようになった。だが、それは同時に魔神の力の覚醒も意味しており、世界の理に拒絶される状態にあるというのは変わらない。

 その為、出来るだけ早く『神化』させる必要があったのだが……そこで問題がひとつ。

 誰がサヨさんを『一時神化』させるのかという問題だ。

 いや、最初は僕がする予定であったのだが―――


「あ、あの、余計な事かもしれないけど、ルドナ君に『一時神化』してもらうのは少し考えた方がいいと思うよ?ルドナ君の『系統神』になるって事は、自分の存在のほぼ全てをルドナ君に委ねるって事だからね?もちろんそれで何かが変わるというわけでもないんだろうけど……でも()()だよ……」


 顔を赤く染めたノアさんからそんな忠告が入り、サヨさんもその言葉の意味を理解した。

 マナを分け与えるという前提で行われる『一時神化』は、両者の間に強い魂の繋がり―――『ライン』をもたらす。いや、それ自体は悪いことではないのだが、なんとなくでも相手の心が伝わるという状態はトラブルを引き起こす要因になりかねない。


「ノアさんのような献身的なタイプには諸刃の剣よね。るーが何をして欲しいのかわかるから、それをしてあげないわけにはいかなくなるもの」

「そのあたりは人それぞれですし、誰に『神化』させてもらうかはそこまで関係ない気もしますが……」

「サリアちゃんとか、気にしてなさそうだもんね~」

「いや、あのコと同じように考えるのは危険だと思うわよ。あのコはるーの剣に宿った意思を一時神化させたものだもの。最初からるーの所有物だったわけだし、あのコにとっての幸せはるーに大切に使()()()()()()ことでしょ?」

「それは確かにそうなんですが―――」


 ちなみにノアさんが口にした()()な理由についてはここでは割愛する。

 重要なのはサヨさんの選択である。

 とはいえ、『一時神化』はあくまで仮契約。

 簡単に破棄できるものではないが、取り返しのつかないものというわけでもない。『世界渡り』を済ませた後には、皆を正式に『神化』させる予定なので、それまでのお試し期間といえなくもないのだ。


 故に、サヨさんがサクヤを選んだ理由もそこまで深いものはない。

 僕を除いた三人の中で、一番親しくしていたのがサクヤだったというだけ。

 まあ、この短い期間に二人がそこまで仲良くなるというが多少予想外ではあったが、サヨさんはゴーレムというか魔導兵器というか―――『チキュウ』でいう『ロボット』的なものが好きらしく、それをきっかけにサクヤと交流を深めていた。

 性格的にはわりと正反対な二人だが、共通の趣味があるというのはそれ以上に大きいものであるし、似たような性格のコより、かけ離れた性格のコの方とウマが合うというのも世の中には往々にしてよくある事。サクヤはわりと面倒見がいいところがあるし、対人方面に少しばかり臆病なところのあるサヨさんとは、周囲が思う以上に相性が良かったのかもしれない。

 なので、サヨさんの決めた事に異論はない。



「それじゃあ、私もサクヤちゃんにお願いする……」


 そんなサヨさんに続き、イエリスさんが告げる。

 サヨさんに並々ならぬ執着心を持つイエリスさんであるし、この選択は当然のように予期できた。

 もっともすでに神クラスの力を持つイエリスさんであるので、『一時神化』させる事にそこまで意味はない。

 まあ、神クラスの力を持つ事と神と呼ばれる存在になる事は必ずしもイコールではないので、全く意味がないわけでもないし、単純に保持できるマナの量を増やすだけでもメリットとしては十分ではあるのだが……

 実のところ、自力で神の領域まで上り詰めたイエリスさんは、保持できるマナの量がそこまで多くない。単純なエネルギー量でいえば、『一時神化』した精霊たちよりも少ないくらいである。

 故に、僕とイエリスさんが互いの存在が消滅するまで戦うと、僕の方が必ず勝つらしい。もっともそれは、僕が何百回、何千回と倒されても諦めず、ちまちまとエネルギーを削り続けて行けばという机上の空論。よほど特殊な事情でもなければ、そんな泥沼の消耗戦にイエリスさんが付き合う理由はなく、普通に僕を倒して勝ち逃げするだけである。

 そもそもイエリスさんの強さの秘密は1万年という時間をかけて磨かれた技量にあり、瞬間的な戦闘能力では僕たちを圧倒するという点は変わらない。

 いや、だからこそ、そんなイエリスさんをパワーアップさせてどうするの?となるのだが―――


「あら?イエリスさんも私でいいの?」

「うん……サヨといっしょがいいから……それにサクヤにはいろいろとお世話になっているし……」

「そこは持ちつ持たれつだと思うけど、イエリスさんがそういうのなら、ここは素直に受け取っておくわね」


 イエリスさんもサクヤとの仲は良好。

 ただし、仲良くなった経緯はサヨさんのケースの真逆で、よく似た二人だから気兼ねなく付き合えているという感じ。

 イエリスさんがスライムの感性で行動しているのであまりそう思えないかもしれないが、合理性を優先し、無駄を極力省くというスタイルはサクヤとよく似ている。何より二人共、頭の回転が速い。だから、相手が何を優先するのかさえ把握してしまえばお互いを理解するのが容易になるし、いらない気遣いもする必要がなくなる。

 ただ……


「いいの?ルドナちゃん」

「いいもなにも、イエリスさんがそう決めたのなら仕方ないでしょ」

「でも、サクヤちゃんとイエリスさんの組み合わせって、碌な事にならない気が―――」

「―――問題はそこだよね……」


 周りからするとこの二人の組み合わせは最悪に近い。

 いや、だって……エロサキュバスに天然スライム(無性なので男も女もいける)のコンビとか、その先の展開なんて言わずもがな。


「とはいえ一番の被害者はサヨさんだし、サヨさんが止めないなら受け入れるしかないと思うけど……」

「……ルドナちゃん的にはスライムプレイもありなんだね……」

「ノ、ノーコメントで……」


 冷たい視線を向けてくるミントから目を反らしながら、僕はサヨさんの方に目を向ける。

 するとサヨさんも同じように僕から目を反らす。


「まあ、そのサヨさんも見事に買収されちゃったみたいだけどね~」

「え?買収?」

「護衛用にマキナちゃんの姉妹機を組んでもらうみたいだよ」

「いや、護衛用って……勇者で魔神なサヨさんにはいらないでしょ。そもそも誰と戦うのかって話だし……」

「まあ、そうだよね~」


 サヨさんが目をそらした理由についてはリサが語ったとおり。

 だが、それにはもうひとつ事情がある。


「でも、サクヤちゃんにしても、サヨさんにしても、スポンサー様には勝てないからね~」

「あ~……」


 今のイエリスさんは僕たちのスポンサーのような立場にいた。

 それ故にその意向を無視するのはなかなかに難しい。

 僕たちの財布を預かるサクヤからすればなおの事である。

 ただ、正確にいうとイエリスさんはあくまでスポンサーのような立場であり、本当にスポンサーになったわけではない。

 むしろ、最初は―――『持参金』。

 僕たちのもとでお世話になるのだからと、自分がこれまで貯め込んでいた資産を共有財産として提供してくれただけなのだ。

 ただ、その額が問題だった。

 1万年という時間の大半を『神層世界』の最下層で過ごしてきたイエリスさんにとって、お金というのは特に必要なものではなく、必要になればその都度用意する代物だった。

 だが、『神層世界』の最下層で手に入る希少品の価値は、地上のソレとは桁が二つも三つも違う。しかも、数千年という単位で拾い続けていればそれなりの数にもなる。

 イエリスさんとしてはいつでも換金できるコレクション程度の位置づけであったのだが―――祭器や神器が山のように積み上げられた光景は、正直、目を疑うのもやむなしといった感じで、僕たちは完全にドン引きした。サクヤをもってしても、『これ、市場に流したら絶対ダメなヤツでしょ……』と言わしめたぐらいである。

 なので、イエリスさんの財産については、イエリスさん本人が管理するという事で落ち着いた。

 どうしてもお金の工面が必要な時には相談させてもらうという約束は交わしていたが、それはあくまで小口に限った話。神器や祭器には手を付けないというのが僕たちの中で生まれた暗黙のルールである。

 とはいえ―――資産は資産。

 イエリスさんがもたらした財宝はやはり大きな意味を持つ。

 なにしろ、1年以内に1億ゴールド(資産含む)を集めるという課題はこれで一気に進展した。

 祭器クラスのアイテムでも値段なんてそうそう付けられる代物ではないが、神器は更にその上。一つの領地と交換されたという逸話を残すものもあるし、それ以上の価値があるとされるものも当たり前のように存在する。

 実のところ、値がつけられない神器を数点集めた時点で、この課題はほとんどクリアしたといってよく、細々とお金を稼ぐ意味はなくなっていたのだ。

 当然、そんな恩恵をもたらしてくれたイエリスさんを軽く扱うようなマネは出来ない。

 いや、まあ、それ以前の話として……


「―――そうすると、誰にどのくらいのマナを渡すのかが問題になるわね。サヨさんにイエリスさん、それにもう一体の『デビル・コア』の作成となると結構な量のマナが必要になると思うし―――」

「それなんだけど……コアに精霊を宿すことは出来る……?サヨにはそっちの方があっていると思うんだけど……」

「フェネクスで呼び出した火の精霊をコアに出来れば、ゴーレムとフェネクスの間でエネルギーの共有も出来るようになるかもしれませんしね」

「なるほど。それは面白そうね。でも、私、精霊魔法は専門外だから、二人にも協力をお願いする事になると思うけど―――」


 新しく組み上げるゴーレムの話で盛り上がる三人は本当に楽しそうである。

 だとすれば、余計な茶々をいれるのは無粋というもの。


「ま、まあ、仲良くなるのはいい事だよね……」

「そうだね~、るー君的には損はないもんね~」


 結局のところ、誰のもとで『一時神化』しようと、僕とサヨさん、僕とイエリスさんの関係は変わらないわけであるし、皆が仲良く出来ているなら、それで問題ないのだ。





第7章開始です。

とはいえ、今回の内容は6章のその後……的な話ですね。

ストーリーが進むのは次からです。


第7章の終了までは毎日更新していく予定です。

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