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戦士

〝パチパチッ〝


どこか懐かしい、木が弾ける音と暖かさ、それにこの匂い。

「うーん...」

夕闇の中で目を覚ますと、オレは布のような物を掛けられていた。

ここは?


部屋じゃないようだ、巨大な岩が張り出した洞窟の入り口のような場所だった。そして中央には焚き火が焚かれていた。


「そうか、オレは異世界に転移してしまったんだ。そうだっ!川に落ちて岸辺でオークに襲われてそのあと...。なんだろう、よく思い出せない」

「それにしても、ものすごく喉が渇いてる、水が飲みたい...」

「おや?焚き火の傍に鍋のような物が置いてあるぞ、もしかしたらあの中に水が入ってるかも?」


オレはなんとか立ち上がった。

「イテテ、どこかにぶつけたのか?身体中が痛む...」


鍋の中を覗いてみるとやっぱり水が入っていた。

「やったっ!、水だっ!!」

行儀が良くないけどオレは顔を突っ込んでゴクゴクと水を飲んだ!

「ぷはぁっ!生き返るようだっ」


その時、1人の人物が入り口を潜るようにして入ってきた。


オレは少し警戒しながらその人物を観察した。

フードの下にはボサボサの長髪に髭を生やしている。彫りの深い顔、髪の色からして日本人ではないようだ。どうだろう、年齢は30代くらいか?


それ以上に気になったのは、長い剣と細い鎖のようなもので編み込んである鎧だ、あれはゲームなんかに出てくるチェインメイルか?そう、今までのリアルさからして、映画の撮影なんかじゃないのはハッキリしている。


「目覚めたか」

その人物が口を開いた。


今のは日本語だ、この人はいったい。


「あなたは?」

「俺か?俺はライハルトだ」

やはり言葉が通じるようだ。そうだっ!思い出してきたぞ!確かオークに殺されかけて...。ということは、この人が助けてくれたのか?とにかくお礼を言わなくちゃ。


「あ、あの、助けてくれてありがとうございます」


よくみるとその人物は肩からウサギのような動物を背負っている。そして、男はナイフのような物を取り出すと、その動物を捌きながら問いかけてきた。

「何故あんな所に倒れていたんだ?お前、どこから来た?」

オレは戸惑ってしまった。だってなんて答えればいいのか?まさか東京都〇〇市からですっ!とは言えないだろう。

「えっと、話すと長くなるんですけど。夢を見ていて気が付いたらこの世界にいました」


男は捌いた肉を焼きながらジロリとオレを見ると、

「ハハッ、何を言い出すかと思えば。では、何処かの国からこの地に飛んできたとでも言うのか?」

少しだけムッとしたオレは逆に質問した。

「あの、ここは...どこですか?」


男はこちらを気にせずに言った。

「ここは風の渓谷だ」

「風の渓谷?じゃあ、どこの国ですか?ここは地球?」

「チキュウ?なんだそれは?」


オレは逆に質問されてしまった。


この人がウソを言っているようには見えない。いよいよオレは本当に異世界に来てしまったんだ...。


「さあ、これを食うがいい」

そう言ってライハルトと名乗った人物は、焼いた肉をくれたんだ。

(この人、口は悪いけど意外といい人みたいだ...。助けてくれた上に食べ物までくれるんだから)


「あ、ありがとうございます...」

この世界に来てから初めての食べ物だ。しかし、原始人でもないのにこんなの食べたことないぞ。でも、バーベキューだと思えばいいかな。

おっ、肉汁が溢れて意外とイケるっ!オレは久しぶりの食事に夢中でかぶりついた!


「さて、聞かせてもらおう。お前、武器も持たずそんな格好で何をしていたんだ?偶然、俺が通り掛かったからいいものの、一歩間違えればお前はオークに殺されていたぞ」

ライハルトは焼いた肉をかじりながら言った。


やっぱり、あれはゲームや映画に登場するオークだったんだ。だけど、どうしよう?違う世界から来たなんて言ったらどう思うだろうか。


「えっと、目が覚めたら草原にいて、空からモンスターに襲われて、そしたら穴に落ちて、転がってまた落ちた所が川で、なんとか泳いで岸に辿り着いたんです」


「なるほどな」

そう言うとライハルトは剣を手に立ち上がった。


デカい、改めて立ち上がると身長は190センチ近くあるだろうか?だけど何よりも驚いたのがその体格だ、それに筋肉も凄い...。

まさかボディビルダーじゃ⁉

...いや、冗談です。


この人は「戦士」というのだろうか?物凄く強そうだ。


そう、オレは後になってそれを目の当たりにする事になる。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



◆刻を同じくして◆


部屋の中には2つの死体と隅には木箱が置かれていた。


「ねぇイルサっ!この箱、開けてみない!?」

「そうね、何が入っているのかしら」


イルサはその箱を調べてみた。どうやらカギのようなものは見当たらない。イルサは短剣を使って慎重に箱をこじ開けた。

すると中には、少しの銀貨とスクロール、それと青い液体が入った小瓶があった。


「これは何かしら?」

紐を解き、スクロールを開いてみると、そこには見たこともない文字が書かれていた。

「おばあさまなら、これが何か分かるかもしれないけど...」


「イルサ、どこかで売れるかもしれないよ、持って行こうよ」

イルサの肩に掴まっていたシャルが言った。

「そうね、この瓶の中身も気になるわ、大きな街に行けば何か分かるかも」

それに、何かの役に立つかもしれない。

イルサは、腰の後ろにさげたポシェットにそれらをしまった。


いつのまにかイルサの肩から離れたシャルが、

「イルサ!この剣はどうするの?」


大男が持っていた湾曲した剣だ。イルサは知らなかったがこれはシミターという剣だった。

それなりに鍛えられた剣だが、イルサには大きすぎる。それに、運ぶとなると間違いなく邪魔になってしまう。


「それは置いていきましょう、持って行くと邪魔になるわ」


シャルが戻ってきた。

「そうだねっ、これはイルサには大きすぎるよね、それに重たそう」


そして、二人は少し休んでから部屋を出た。


ギイィ


イルサは通路の先を警戒しながらドアを開けた。


来た通路を戻ると、さっき壁に不気味な文字が書かれた通路に進んだ。

〝この先に進むな!〟

そう書いてあるが通路はもうこちらしかない、進むしかなかった。


イルサは松明をかざし通路を進んで行った。途中、分かれ道がいくつかあったが、長い年月に、そのほとんどは岩盤が崩れて道を塞いでいた。


その時、


バサバサバサッ!!


「ギャーッ!」

イルサの肩に掴まっていたシャルが突然悲鳴をあげた!

松明の明かりに反応したのか、コウモリが群れを成して飛び回ったのだ。


ブンッ、ブンッ!

イルサは松明を振りかざしてコウモリを追い払った。


「た、食べられちゃうっ!」

イルサの肩に掴まっていたシャルは、体半分イルサの髪の中に隠れている。

「大丈夫よ」


ブンッ!

イルサはコウモリを追い払いながら駆けだした。

「キリがないわ」


かなりの距離をイルサは一瞬で走った。


「はぁっ、はぁ、もう平気ね」

シャルは振り落とされないようにイルサの肩につかまっている。

「もう追ってこない?」

「うん、もう来ないみたい」

「はぁーっ、びっくりしたぁ」


その時ふと、かざしていた松明の炎がゆらめいた。


「風だわ、風が吹いてきている、きっと出口が近い!」

そのまま通路を進むと先の方にわずかな光が見える。


「出口だわ!」

そう言うとイルサは駆け出した!


「やっとかぁー、もう疲れたよぉ」

イルサの肩につかまっているシャルが疲れた表情をみせた。

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