謎の戦士 まだ見ぬ脅威
ワタル編
真っ暗な穴を転がり落ちて、谷を流れる川に落ちた航は何とか自力で岸まで辿り着くが...。
イルサ編
坑道の奥深くには部屋があった。
扉を開けると中央にあるテーブルに「みすぼらしい」姿の大男が!イルサは襲いかかってきたその男を倒すが、中央のテーブルの陰にもう1人、フードを目深に被った小さな姿があった。
そのローブを着た小さな人物は魔法の詠唱を始めた。
「呼吸と聴覚」を奪うその魔法に、イルサはなすすべもなく床に崩れ落ちる。
「ワタルく...ん」
ハルカちゃんの声がする...。
「ハルカちゃん...」
手を伸ばし彼女に触れようとした...。
だけど、そこにいたはずの彼女はフッと消え去ってしまった。
そこで意識が戻った。
「はあっ、はぁ!」
オレは確か水に落ちてなんとか岸に辿り着いたはずだ、そのあとは覚えてない...。
でも生きていた。
ぼんやりと目を開けて辺りを見回す。
「ここは...どこだ...?」。
とても喉が渇いている、それに体力の消耗が激しくて体が動かない。
...ん?
何か言い合っているような声がする。誰かいるのか?
「だ、誰か助けて...」
残った力で這いながら助けを求めると、何かがこちらに近付いてくる。
まてよ?何かおかしいぞ!?
グガっ!
ボギャ!
ヴぅウー!!
な、なんだ?動物が喋ってる!?だんだんと声が近付いてくると、今度は強烈な悪臭が漂ってきた。
近くまで来ると、それはハッキリと分かった。
「豚が二本足で歩いてる...?」
それに何か棒のようなものを持ってるぞ。どこかで、いや、何かで見たことがあるような...。
「思い出した!あれは「オーク」だ!!映画やゲームに出て来るモンスターだっ!!」
ヴオぃナンヴぇンダ!
グガッ!
ボギャ!
オークが騒ぎ出した、何やら訳の分からないことを言っている。3匹いるみたいだぞ。これは「3匹の子豚」ならぬ3匹のオークだっ!
いやっ!冗談を言ってる場合かっ!!
とうとうオークたちはオレの目の前までやって来た。
「ヤ、ヤバいっ、殺されるっ!!」
だけど、逃げようと思っても体が動かない!!!
1匹のオークが手にした棍棒のような物を振り上げた!
オレを殺そうとしてる!
「し、死ぬのか...。だが待てよっ!オレはまだ17歳だぞっ!!殺すには早すぎないかっ!?」
「せめて痛くないようにお願いしますっ!でもこれは絶対に痛いだろうなっ」
そして無言のままオークが棍棒を振り下ろす!!
ブンッ!
「終わった...。みんなさようなら、遥香ちゃんにもう一度会いたかったっ!」
ドンッ!
〝あたまを潰されてオレは死んだ〟
チャラリラチャラリラチャララ〜。
あなたは死にました
...
あれ...?
目の前にオークの頭が転がってる。
「どうなってるんだ...?」
それを見たのを最後にオレは意識を失った。
ザッ
ー残りのオークは逃げたか。ー
長旅をして来たであろう旅の戦士が、気を失い倒れている航を見下ろしていた。
ーほう、こやつまだ生きているな。ー
そう言うと戦士は、オークの首をはねた長剣を鞘に収めた。
ーしかし、こんな所に倒れているとは、今までよく無事でいたものだ。ー
◇刻を同じくして◇
キーン
その空間だけ酸素も音も存在しなかった。
「呼吸と聴覚を奪う魔法」の直撃を受けたイルサは意識を失いかけていた。
もうダメかと思ったその時!!
「ブンッ!」と羽音をさせてシャルが詠唱者に突進した!
「このぉー!!」
魔法が放たれる瞬間にイルサの肩から飛び退いたシャルが、詠唱者に向かって一枚の銀貨を投げつけた!
「えいっ!」
完全に不意をつかれた詠唱者の右目に、シャルが投げつけた銀貨がまともに当たった!!
ぐわっ!
予想外の出来事に詠唱者は呪文を中断する!
その瞬間、イルサの周辺を包んでいた空間が元に戻った!
はあっ、はあっ!
呼吸が戻っていた、それに聴覚も。
イルサは膝をつきなんとか立ち上がったが、まだ意識が朦朧としている。
なんとか短剣を拾うと、フラつきながら敵を探した。
くっ!
すると、視界に入ったローブの男が再び詠唱を始めている!
「はあっ!はあっ、もう一度、今のを喰らったらおしまいだわ」
イルサは短剣を握り直し攻撃態勢を取るが、意識が朦朧として相手の位置が定まらない!
その時、「ブンッ」と羽音をさせてシャルがイルサの肩に戻ってきた。
「イルサっ!しっかりして!!敵はそこにいる!!」
そう言いながらシャルは、詠唱を終えようとしている敵を指差した!
「はあっ、はあっ!」
フラつきながらも敵を捉えたイルサは、相手を見据えて睨みつけた!
ここに来てイルサは「戦闘モード」になった!
金色の髪が逆立ち、耳は尖り、そして青い瞳は漆黒に変化する!!
ぐ、ぐわぁ...。
ローブの男が詠唱を中断した。そして、頭の異常を感じてフードを剥ぎ取ると、顔の血管が今にも破裂しそうなほど浮き上がっていた。
イルサは容赦なく、さらに漆黒の瞳で睨みつける!
ローブの男はあまりの激痛に頭を抱えて膝をついた。
その隙を見逃さずイルサは飛び掛かった!!
一瞬だった。
相手は何が起こったか分からないまま死んでいっただろう。
ドサッドサッ!
2つの物体が床に転がった。そう詠唱者は首をはねられていた。
はあっ、はあっ...。
イルサは膝で息をしていた。
「シャル、ありがとう...」
「ううんっ!勝ててよかったねっ!それより大丈夫!?」
シャルはイルサの周りを飛びながら心配そうにしている。
「うん、なんとか平気。でもシャル、なんで魔法だと分かったの?」
「うーん、なんでかなぁ?どっかで見たことある気がしたんだっ!だから魔法だなって思ったの」
シャルは空中でクルクルと回りながら言った。
「そっか」
「うん。そういえばイルサっ、イージスは使わなかったの?」
〈説明しよう!〉
〈イージスとは、密度の異なる大気を瞬時に混ぜ合わせ、光を異常屈折させて幻影を作り出すイルサの特殊能力だ。現在のイルサが幻影を展開できる範囲は1フィートほど〉
「使ったよ...」
イルサはテーブルのイスに体を預けながら言った。
(まだまだ未熟ね、もっと訓練しないと...)
戦いで疲れた体を休めながら、イルサはそうつぶやいた。