夢の世界の現実
辺境の地アルテニル。
ここは広大な大陸の一部に過ぎない。
見渡す限りの草原、朽ち果てた古代の遺跡、険しい渓谷、そして遠くには灼熱の火山地帯が広がっていた。
闇を這いずるもの、巨大な姿、奇妙な鳴き声、私達の知識からは想像もできない不思議で危険な世界。
なんとか夜を乗り切ったオレは、朝靄の中を太陽の昇る方へと歩いた。
「パンイチ」で一夜を過ごし、冷え切った体に今度は容赦なく陽射しが照りつけてくる。
最初は冷えた体を温めてくれたんだ。だけど、時間とともに、オレの体から水分と体力を奪い始めた。
それにしてもあの夢は...。いったい何が起こったんだ⁉
ハルカちゃんはどうしているかな?きっとオレのことを心配しているはずだ...。
それに親父は...?いや、息子をほったらかしていつも飲み歩いてるんだ、まだ気づいてないかも知れない。だが親父っ!もしもう帰れなかった時のためにこれだけは言わせてくれっ!!今まで育ててくれてありがとう!!!
あとは友達の翔平、あいつ、突然オレがいなくなってビックリしてるだろうな?
ぐるるっ~
そんなことを考えていると急にお腹がすいてきた。喉も渇いてる...。ど、どこかに水は...!?
だけど、辺りを見回してもどこにも水の気配はない。草原があるんだからどこかに川が流れているはず、どこかに...。
オ、オレはこのまま死ぬのか...⁉
強烈な陽射しを遮るように、手で庇を作ってオレは空を見上げた。
すると、頭上になにかが飛んでいる、鳥?いや、それにしては大きすぎる!!
飛行機か⁉その瞬間!それはこちらに向きを変えて急降下してきたっ!!!
なんだあれは...⁉
翼の先には爪がある手、尖った顔...。き、恐竜だっ!!恐竜のプテラノドンにそっくりなんだよっ!!
ヤ、ヤバイっ!
オレは必死に逃げた!!裸足で全速力だ!!!
≪ごおぉーッ!!!≫
それは物凄い勢いで追いついてくる!もうダメかと思ったその時!!!
うわぁー!!!
オレはぽっかりとあいた穴に転がり落ちた!
”イテテ〟
尻もちをついたまま見上げると5メートルほどの高さに光が見える。
幸い、柔らかな土と生い茂る草のおかげでケガはなかった...。
「それはそうだろう、そうじゃないと困るんだっ!だって、自慢じゃないがオレは”パンイチ”なんだっ!」
「いやっ、自慢してる場合かっ!!」
「だけど、この高さ、戻ることができるのか⁉それに戻ったとしても、またさっきのヤツに襲われるかも?」
辺りを見回してみると、まだ先の方になだらかに下っているようだ。
どこまで光が届いているのか?
どうする...?戻ることはできないし、進むしかない。
手さぐりでゆっくりと進み始めていくと、だんだんと暗闇に目が慣れてきた。
はあっ、はぁ、この空腹感、おなかがキュッとする感覚は知っている。だけど喉がカラカラだ、どこかに水は...。
先に進むほどに徐々に暗さが増してゆく。そしてオレは一度、足を止めてから手探りでさらに奥へと進んだ。
ここは自然にできた穴なのか?人工的に作ったのなら、こんな急坂だしロープか梯子くらいあるだろう、それに明かりも。
その時、手探りで進んでいたオレにアクシデントが起きた!
手を置く場所があると思っていた所が、まさかの暗闇の空間だったからだ!!そう、中腰の姿勢じゃないと進めなかった穴がいきなり広くなった!
”わあぁー‼”
想定外の出来事にあっけなく暗闇に落下した...。
〝オレの人生は終わった...。
ドスンッ!
しかし、すぐ下に地面があり、オレはお尻から落ちるとそのまま斜面を転がり落ちた!その時はもう、真っ暗闇の中でも瞼をきつく閉じ、オレは覚悟を決めていた...。
どっひゅーーん!!
急に目の前が明るくなった、いったいなにが起こったんだ...?と思った瞬間、瞼を開いたオレの目に飛び込んできたのは激しく流れる川だった!
ドボーン!!〝ブクブクッ〟
く、くるしい...。
上下感覚も分からないまま、オレは水面であろう方向へ向かって必死に泳いだ!
ぷはぁーっ!!はぁ、はぁっ
あ、あっちに岸辺が見える...。
こ、こんなところで死ねるか!
そしてなんとか岸にたどり着いたが、オレはそのまま気を失った...。