婚約破棄などしてみませんか?
初めての投稿です。誤字脱字あるかと思いますが、温かい目で見て頂ければ幸いです。
幸せとは何だろうか。目の前の男女を見ながらふとそのようなことを考えて、自嘲気味に笑った。私は、いつからそのような哲学的な人間になったのだろうか。
私の名は、マリア・グレース・アルメリア。
かつて、単騎で天災と呼ばれるドラゴンを倒し、生きる伝説の異名をもつアルメリア辺境伯の愛娘であり、また、次期王太子妃候補などとも言われている、まぁ、少し特別な女の子である。勿論、私自身それを自覚しているからこそ驕りはなく、皆に誇れるよう努めてきたつもりだ。大好きな乗馬や剣術は淑女らしくないからと取り上げられた時も、大嫌いなマナーやダンス、勉強を叩き込まれた時も、泣き言ひとつ言わずにやってきた。それも一重に、婚約者であるオースティン殿下に認めて欲しかったからなのだけれど。
「オースティン様、何だか疲れて見えるわ」
そんな婚約者の隣には、親しげな少女。彼女は確か…誰だっけ?
最近は専ら本の虫と化していた私には、御令嬢の名前さえ覚える暇もなかったらしい。そういえば随分前に、私の婚約者と懇意にしている者がいると聞いたことがあるような気がしたが、なるほど、このお方がそうなのだろうか。
蜂蜜色のふんわりとした髪に、青空色の瞳。お人形のような可愛らしい顔で、体つきも華奢。細い手足は、少し力を入れただけてぽっきりと折れてしまいそうだ。
それに相対するは私の婚約者である、オースティン殿下。色素の薄い輝く様なブロンドに、深緑の瞳。まるで絵本の王子様がそのまま飛び出してきたのような、端正な顔立ち。
白魚のような手が彼の頬を愛おしそうに撫でれば、何かの絵画の様な状態が出来上がる。これほどまでに自然体で、優しげな目をした殿下を私は拝見したことがあっただろうか。
そこでふと気づいてしまった。オースティン殿下は、他でもない彼女に心を許している。あの方たちの幸せは既に出来上がっているのだ。
―そうか、私が邪魔をしているのか。
カチリと、抜けていたピースが嵌ったような音した。
足元に、抱えていた筈の本が落ちる。やけに堅苦しい文字で、幸せの定義などと書かれているそれに、私は全く見覚えがなかった。その筈なのだが、持ち出したのは私なのだろうと、確信をもって言える。それはきっと―。
本を拾い上げ、目の前の男女に目を向ければ、彼らは何とも言えない顔でこちらを見ていた。その顔が面白くて、私は思わず、淑女らしくない大きな声を出して笑った。
「オースティン殿下、僭越ながら御提案がございますの」
そう言った私の顔は、彼らの目にどのように映っただろうか。
―私たちの幸せの為に、婚約破棄などしてみませんか?
それは悪魔の囁きか、天使の囁きか。
奇しくも囁いたのは、後に王国騎士となり『天使の皮を被った悪魔』の異名を大陸中に轟かせる、ひとりの少女であった。
天使で悪魔な少女は、自分の身長程の大剣を片手に、今日も楽しそうに笑う。
「お父様は、天災のドラゴンを単騎で倒したと言うではありませんか。ならば私は、人々が最も恐れているという魔王なる殿方を、この身一つで倒してご覧にいれましょう」
生きる伝説の娘が、生きる伝説と呼ばれる日も、そう遠くはないのかもしれない。
最後までお付き合い頂きありがとうございました。
ちょっと解説
マリアの『認めて欲しい』って感情は、恋愛感情ではなく、臣下が主に向けるあれ的なものです。なので王国騎士団に所属して、自慢の騎士になれるように精進してる感じですが、多分、行き過ぎて引かれてると思います。けど、根が脳筋なので気づいてないです。