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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

図書室でボッチを決め込んでいた俺は、名前も知らないヤンデレ女生徒に恐怖を抱いた

作者: 四悪

息抜きに書きました。


 高校二年生。放課後。これだけ言えば大体の人は俺が言いたいことは分かるな。舞台は学校の図書館。まばらに人が居るのみのそこであえて俺は隅の方まで歩き、四人掛けの席に一人座った。ここが落ち着くのだ。俺は家から持参したカバーの付いた小説を開いた。ジャンルは純文学みたいな感じ。感想? 読んでる最中だ。まぁ、もう読み終わるから、そしたら語ってやろうじゃないか。


 「本が好きな子。この指とまれっ!!」


 「……」


 やけに距離が近い場所から聞こえる声。背後か? 俺は振り向かない。なんせボッチだからだ。待ち合わせも何もしていない。またお年頃の女生徒が仲間と共に本を読むわけでもなく駄弁りに来だろう。俺は頭の片隅でそう考え、少し居づらくなった感覚を持ち合わせてしまった。今日は退散しておくか。


 「あれれ? 本が好きじゃない? なら私が好きな人、この指とまれ!」


 「……」


 やけにでかい声が俺の耳に入る。普段ならシャットダウンするような内容の言葉の羅列。だけど、こいつの声はやけに通り過ぎていて俺の耳、特に右耳に滑り込んでくる。本を読む際、勝手に声を付けて再生しながら読む俺には致命傷だ。しかもさっきから出てくるヒロインの台詞があの女の声で再生される。


 「不愉快だな」


 「どして?」


 「……」


 なぜか俺の呟きに返答が来た。俺は目線だけを右斜め上に上げる。すると目がクリクリした茶髪の女が俺を見下げて笑っていた。涼しそうな夏用ブレザー制服を着た女。スカートの丈は短いし、ブレザー制服は気崩しされている。かなりの陽キャと見た。陽キャ対策ばっちりな俺は嫌々、顔を上げた。


 「な、なんですか?」


 「さっきから声掛けても無視する男の子が居るの!」


 「へ、へー。それは嫌ですね」


 だからって俺の方に来ないで欲しい。どうせ、わざとノリ悪い素振りを見せて女を困らせるのを楽しむ輩なのだ。これで俺に話しかけてよなんて頼むもんなら速攻逃げる。


 「そういう思想を持っているくせに無視は良くないよ!」


 「は、はぁ?」


 「なに? その何の話ですか? みたいな顔! 傷つくなぁ! 私、こう見えてナイーブなんだよ?」


 女は腰に手を当てて笑いながら怒る。一体、何の話だ。俺は話しかけられた記憶など無い。


 「あ、ほ、本当になんの話か分からなくて」


 「え? だから君にさっきから話掛けてたの! 本が好きなの? とか私が好きなの? とか」


 「は?」


 それは先ほどこの女が言っていた言葉だが、それは仲間内の――――そういえばこいつの仲間は? こいつに気を取られて気づかなかったが、こいつの周りに仲間が居ない。


 「え?」


 一瞬、女から目を離し、後ろを振り返るがこの女の仲間のような人物は居ない。俺のように孤独と本を愛するロンリーボーイズまたはガールズのみだ。目を疑わう必要は無い。日に焼けた男もメイクが上手い派手な女子も居ない。


 「さっきの質問は俺にだったのか……」


 「そそ。分からなかったの? 酷いなぁ」


 「ご、ごめんなさい」


 思わず謝ってしまった。だが、女の表情は傷ついた。酷い。とは真逆で口角が上がっていた。マジで何の用なんだろうか。


 「愛染(あいぞめ)君さ」


 「は、はい」


 なんで名前知ってるんだ。俺はこいつの事など知らないのに。俺は彼女が笑うのと比例してどんどん目尻を下げた。何を考えているのか。俺は人間の感情を察するのが苦手なのに、この女はどんなやつよりも分からない。


 「愛染君、彼女いる?」


 「居ませんけど……」


 えー、その年で童貞? なんてベタなセリフを言って……あり得ないな。こんなネットネタ言うわけがない。だが、この質問の意図はなんだ? あれか? 実は見えない場所で仲間が潜んでいるのか? そして俺から根掘り葉掘り聞いて後で取り巻き連れてバカにする気か?

 

 「本当に? 嘘。嬉し――――」


 「嘘。やっぱり居る」


 色々考えが纏まらないうちに彼女が何かを言おうとしたもんだからつい、口走ってしまった。随分大きく出た見栄だと思う。


 「え……?」


 彼女はそれまで笑っていた表情を隠し、動揺したのかフリーズした。そんなに衝撃か? 俺に彼女なんて居るわけないとバカにしていたのだろうが、残念だったな。一番残念なのは嘘を付いた俺だが。


 「あ、あー。あれでしょ? 二次元彼女?」


 少し表情が強張る女が俺の顔に迫り、綺麗に整った眉毛をひくひくさせながら聞いてきた。なんという失礼な奴だ。そこまでして彼女が居ないことにしたいのか。実際居ないのだが。


 「げ、現実でふ」


 噛んだ。噛んでしまったああ! 最悪だ。恥ずかしい。つい、焦って噛んでしまった。恥ずかしい恥ずかしい。


 「嘘……嘘だよね?」


 「ほんと! 今から俺、デートだし! じゃっ!」


 棒読み、早口、羞恥を前面に出されたセリフを紡いだ俺は思い切り、テーブルの椅子から飛び跳ねて図書室を出た。最後の彼女の表情がまるで自殺一歩手前みたいな顔をしていたのは気のせいか。気のせいだろう。まさか俺に彼女が居ただけで自殺するなんてあり得ない。


 「あ、本忘れた」


 一心不乱に下駄箱まで早足で到着した俺は持参していた小説を忘れた事に気づいた。思わず放り出してしまったらしい。


 「愛染君、帰り?」


 「ん?」


 どうしようか悩んでいる俺に声を掛ける女生徒が居た。その女生徒は奇遇も奇遇でうちのクラスの委員長の白羽さんだった。彼女は俺のクラスでクラスカースト中位の人物で勉強が出来る清楚系。クラスではほとんど話した事は無い。だが、時折こうして放課後まで残っている俺は委員長と会う事があったのだ。さきほどの女とは打って変わってブレザー制服が一切乱れていないし、スカートの丈も規則通りだ。ジャンルが違うから比べるのはさすがに失礼か。

 向こうは俺をどう思っているかは分からないが、俺はこういう人が彼女になったら幸せなんだろうと思う。そういえば忘れた小説のヒロインもこんな子だ。だからあの女の声で再生された時、イメージぶち壊しで不愉快になったのだ。


 「し、白羽さんも帰り?」


 「うん。委員会の仕事で遅れちゃって」


 「お疲れ様です!」


 つい声が上ずってしまった。本当に情けない男だ。心の中は強気なのに。どうしても態度が萎れてしまう。もっとあの小説の主人公のような人物になりたい。正義感溢れてて優しい男に。


 「大げさだよ! 愛染君は?」


 「図書室で本を読んでました」


 「いつも残って読んでるよね。そういえばどんな本読むの?」


 「え、えっと。最近は……」


 そこから委員会の白羽さんと小説の話で盛り上がり、白羽さんと途中まで帰る事にした。白羽さんは少女漫画なども読むらしい。正直、俺は専門外だがおすすめの漫画を聞くことによって会話を保った。こんなに女子と話したのはいつぶりだろうか。友達との会話にも飢えていた俺はまるで水を得た魚のように話した。


 「二十一巻も出てるなんてすごいね」


 「うーん、でも若干中だるみ部分もあるから……ん?」


 「どうしたの?」


 急に白羽さんが後ろを振り向いた。俺も一緒に後ろを振り返り確認するが犬の散歩をしている男性に仕事帰りのサラリーマンが居るくらいだ。変わったところなど無い。


 「ううん、ごめん。誰かに見られているような気がして」


 「こ、怖いですね」


 「愛染君、別に弱弱しい男の子じゃないんだから守ってくれるもんね」


 「え!?」


 「冗談冗談。ちょっと少女漫画のヒロインになりきってみただけ」


 お茶目な一面を見せる彼女に俺は可愛いすぎると本気で思った。この時点で俺は図書館であった変な女の事など脳の片隅にも無かった。


 「じゃあ、私右だから」


 「あ……」


 ちょうど分かれ道。俺は左だ。楽しい時間は短い。これまで良い思いなどせず溜めてきたんだから少しは大目に見てほしいもんだ。神様の馬鹿野郎。


 「じゃあね。愛染君、楽しかったね。また一緒に帰ろうね」


 「あ、うん! また!」


 白羽さんの微笑みが俺を包み込み、そこから俺は羽が生えたような軽い足取りで自宅に帰宅した。勉強机に向かった際、置いてきた本を思い出したが、忘れ物箱にあるだろうと思い、さっさと頭の中から追いやった。


 ――――


 次の日、昨日の良い気分を引きずったままの起床でまったく普段の気だるさを感じていなかった俺はルンルン気分で学校に到着した。クラスの入り、白羽さんを目線で探した。ざわざわとしているクラス。だが、目的の人物は目視で確認出来ずにいる。


 「あれ、居ないのかな」


 小さくそう呟いた俺の声はガッカリしていた。だが、白羽さんが居ないなんて珍しい。彼女は朝一番に教室に居るのに。まさか、トイレとか?


 だが、そこから彼女は登校せず、ホームルームで朝早く自宅の外で何者かに襲われかなりのけがを負ったらしいことが分かった。可哀想に。見舞いでも行こうかな。いや、やめておこう。一日下校を共にしただけで彼氏面しているなどと思われたくない。


 そこからは怠惰な一日を過ごした。授業を受け、ボッチ飯。そして放課後。俺はいつも通り、図書室に行き、忘れ物箱を漁る。だが、段ボールをそのまま流用した忘れ物箱に俺の本がない。まさか盗まれた? 


 「愛染君」


 「え?」


 不意に名前を呼ばれた。だが、聞き覚えの無い綺麗な声だ。昨日といい今日といい、なんだか女子によく話しかけられる。モテ期か? 無いな。さて、一体誰だろう。俺は振り向き、その人物を見た。


 「あ、あれ? 君、昨日の子? あれ? 違うかな……」


 あのうるさい女だった。だが、雰囲気が違う。まず髪が黒くなっていた。そして、ブレザー制服をきちんと着こみ、スカートの丈も規則通りの長さになっていたのだ。ていうか、声色も違う。まるで昨日とは別人だ。


 「大丈夫、合ってるよ?」


 「そ、そっか。えっと、随分様変わりしてて別人かと」

 

 「どっちが良い?」


 「え、あ、あの……」


 なんだ? なんか怖いぞ。鬼気迫るというか、まるで圧迫されているような気分になってくる。彼女の虚ろな目が俺を射抜く。俺は動けず、図書室のカウンターにどんどん追い込まれていく。


 「あの、そこで立ち話はやめてください」


 「あ、す、すいません!」


 不意に図書室のカウンターで貸し借りをしていた図書室の先生が弱々しく注意をしてきた。額から冷や汗を垂らしていた俺は焦りながらも謝り、奥の方へ逃げ、飛び込むように四人席のテーブルの椅子に腰かけた。


 「ねえ? 急に居なくなると不安になるよ?」


 「っ?!」


 そして俺の横の席に当然のように座り、俺の迫る女。一体、なんだこれは。


 「彼女さん、可愛いね。でもどうかな? 君に合うかな?」


 「へ? か、彼女?」


 「昨日居た清楚な子。でもあれって狙ってるよね。私は特定の誰かを狙ってるからこの格好してるけど、あの子はどうだろうね? 誰でも良いんじゃないかな?」


 意味不明な言葉を投げかけてくる女。俺は耳を塞ぎたくなるのを我慢しながら左から右へ流した。清楚な子というのは白羽さんだろう。彼女がビッチだという説をこの女は言ってきているのだ。失礼にもほどがある。それにあの子は彼女じゃない。だが、昨日彼女が居ると言った手前、嘘でした。なんて言ったら後が怖い。


 「ごめん、何言ってるの?」


 「あ、この本返すね?」


 俺の質問には答えず、彼女は本を突き出した。それは昨日、俺が忘れた本。でもカバーが違う。この書店で買ったものじゃない。


 「これ、俺の?」


 「違う……?」


 「いや、本は同じなんだけどブックカバーが違うからさ……」


 「……そっか。ごめん、実は君の忘れた本、ボロボロにしちゃってさ。昨日、急いで本屋に行って買いなおしたんだ」


 「そ、そうなんだ。え、でもなんで?」


 「嫌な事を聞いちゃったから。つい、八つ当たり。あ、物に当たる子嫌い? そしたら治すよ?」


 「物に八つ当たりは俺とか関係なくダメだからね?」


 「そっか。うん、そうだね。ごめん」


 「いや、良いよ。俺も弁償してくれたなら何も言う気無いし」


 昨日と違って話が分かるようだ。だが、本当に雰囲気が違う。今はまるでこの小説に出てくるヒロインのような大人しさだ。


 「あ、そうだ。俺も謝らなきゃいけないことあるからお相子でどう?」


 「うん。なに?」


 「昨日、彼女居るって言ったけど嘘なんだ。ごめんなさい」


 「え……じゃああの子は?」


 「たまたま一緒に帰っただけだよ」


 「そっか。仲良さそうだから勘違いしちゃった。酷いな。私、ナイーブなんだからね」


 すると彼女は昨日のような元気そうな笑みで俺に笑いかけてきた。俺もなんだか肩の荷が下りたような感覚になり、ホッと息を吐いた。


 「本当にごめんなさい」


 「良いの良いの。勘違いしてごめんね。あーあれで我慢して良かった。()()()()()良かったよ。でもダメだよ?」

 

 元気な笑みが一瞬で怖くなった。やるってなんだろう。何の話だろう。俺は彼女に恐怖を感じながら、立ち上がる彼女から目を離せずにいる。そして彼女は俺の耳元に口を近づけ、囁いた。


 「次違う女の子なんかと歩いてたらその子、足を骨折じゃ済まないかも」


 そう呟いて離れた彼女は図書室から笑いながら俺に手を振りながら出て行った。腰が抜け、椅子に深く座ている残された俺は思わず握っていた弁償品の文庫本を汗で濡らしてその場で動けなくなってしまった。

どうして彼に惚れていたのかの視点も書こうと思ったのですが、もしかしたら読者の想像力に任せても良いかもしれないと思ったので割愛しました。

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