奇跡
――――ピピピ,ピピピ
目覚ましの音で彼女は目覚めた。
彼女の目からは涙が溢れていた。
「あぁ、自分は死ねなかったのだ」と、悲しみの涙が。
今日は土曜日。
特に用事もない。もう一度寝ようかと思っていた。
……その時。
彼女は気付いた。
自分の体が、今までとは明らかに違うことに。
彼女は、急いで洗面所へ向かった。
洗面台の鏡にうつった自分は
確かに、男になっていた。
平たい胸。
ゴツゴツした手。
しっかり出た喉仏。
全てが、自分の望んだものだった。
そこで彼女は…いや、彼は、自分以外を確かめることにした。
もしかしたら、もう来世なのかと思ったからだ。
しかし、家の内装も、外の風景も、何も変わりはない。
そして、まだ寝室で寝ていた、母親も。
全てが「彼女」の時のまま。
自分だけが、奇跡を起こしていた。
何故男になったのか。
そんな疑問も浮かんだが、彼には喜びの方が強かった。
そう、奇跡を起こしたのだ。
悩み続けた自分に、神が微笑んだのだ。
これからは、今までよりもずっと自由に生きれる。
そう喜んだ。
だが、朝から気持ちが高ぶっていたためか
すぐに眠気が襲った。
彼は、そのままベットに倒れ込み
2度目の眠りについた。