第2…[裁ち鋏]其の二
第2…どうぞ〜!
ロクは缶ビールを冷蔵庫から持ってきて、禅太郎に近付く。ピッチャー大きく振りかぶって…投げた!豪速球が空を切り、風を巻き起こし…ストライク‼︎禅太郎の顔面ど真ん中に、缶がめり込んだ。
缶が落ちると同時に、171センチの身体は足下を軸に倒れる。頭が倒れた先は、夢の足元。夢は真上から禅太郎を見下ろし、いや見下して微笑む。そして、禅太郎は闇に包まれた。
ロク目線から解説。夢が禅太郎の顔を踏みつけた。
なんでこんな惨劇に遭っているのかと言うと、大した理由はない。それ相応の、致し方ない理由がある。
1分前、禅太郎は右手で夢の、左手でロクの胸を鷲掴みにして言い放ったのだ。「ぶり返してきたから抜いてくれ。」そして物語は冒頭へ…。
なぜこんなことを、平気で平然と自然に言ったのかといえば、やはり疲れていたのだ。始まりは今月の初め、つまり五月二日のこと。朝日の気持ちいい午前7時、東は電話をかけた。
「あの、もしもし…東と申します。東京、東京と書いて東京です。失礼ですが、都市侍さんでよろしいですか?」
「ハイハイよろしいよろしい。なんだいね?東京さんとやら。」
電話口に出たのは、10歳そこらの幼女だった。その向こうで、大人の男の声がした。
「あ!何をするのだいね!」
しばらく争うような音がした。
「ウルセェ‼︎接客は俺か夢の担当だ!冷蔵庫のコーラ飲んでいいから、あっち言ったろ‼︎…はいお電話変わりました、どちらさんでしょうか?」
「私、東と」
「あ、いえ!ロクのやつがスピーカーホンで出たので聴いてました。こちら都市侍です。妖怪、幽霊、呪いやその他、あらゆる怪異に対応しております。依頼は会って聞くので、取り敢えずいつどこで会うか決めるのと、どうして手前どもを知ったかを教えて下さい。」
「知り合いに以前お世話になった方がいて…庇算って言うんですが…」
「あぁ、鬼兜の…」
「鬼?」
「いえ、なんでも…では日時と場所を指定してください。」
「午後五時半に黄木浜市役所の前の、[エイリーナ]と言うカフェでお願いします。」
「わかりました。それでは」
「あの!」
「はい?」
「それが怪異だとか、妖怪だとか幽霊だとか呪いだとか…何の確たる証拠もないんですが…大丈夫でしょうか?」
「それを調べることから、手前どもの仕事となります。勿論、話を聞いて違うと判断した場合は、料金は頂きません。その辺の打ち合わせも、会ったからいたしますのでご安心下さい。」
「ありがとうございます。それではまた後ほど。」
「はい。後ほど、カフェ[エイリーナ]に17時ですね?」
「はい。ありがとうございます。」
「それでは。」
こうした何気ない、いつもの仕事の依頼だったのに。それがどうしてこんな偶然、悪意すら感じる偶然になったのだろう。
禅太郎は起き上がると、缶を拾った。プシッと気持ちの良い音。缶ビールを飲み干した