第1…[裁ち鋏]其の一
第2…どうぞ‼︎
木刀などを入れる長細い袋を担ぎ、禅太郎は車を降りる。夢は車の鍵を閉め、禅太郎についていく。入った駐車場は黄木浜市内のシティーホテル。3階の突き当たりの部屋。部屋に入りオートロックが閉まったのを確認する。
「で?禅太郎…どうだった?あたり?」
「多分あたり。だろ?ロク。」
禅太郎は袋から長身の日本刀をだし、鞘から刃を抜く。その名も名刀[鬼祟り長光]だ。
「そうだいね〜。」
キラリと光る刃の向こうに、見た目年齢10歳弱の幼女が現れた。長い白髪を後ろで結んだそいつは、銀色に輝く大きな眼で禅太郎を見る。
「あの女、間違いない。〈侍〉だいね。ただ…自覚がない。全く無い。」
ロクは喋りながら冷蔵庫を開け、入っていたビールの缶を開けた。夢はそれを見て、頭で理解があってもやはり止めてしまう。
「ねぇロク?あなた、お酒呑んでいいの?」
ロクはスルーしてビールを吞み干す。最後の最後まで呑み干してから、言葉にはならない感嘆の声を上げ、そして横目で夢を見る。
「この第六天魔女に物申すのかいね?齢六百を超えるこのアタイに物申すと言うのかいね?小娘。」
「ウルセェババァ…じゃなかった。やはり見ている人からすると、ドキッとするから…そうね、人前ではやめたほうがいいわ。」
「今ババァと言ったのかいね?」
夢は無表情で禅太郎の後ろに隠れる。
「なぁ、本題に入らないか?女の喧嘩に口出しはしないが…」
[女?このちびっ子が?笑わせないで…それとも何?禅太郎はロリコン?『生まれた其の時から女は女だ』とか、『中学生はおばさんだ』とか?」
「誰がロリコンだ?もし俺がロリコンなら、今俺はお前と付き合ってないだろ?」
「たしかに。」
夢は無表情を貫こうとしたが、それでも惚気が漏れた。つまり、口角が上がった。つまり、笑顔になった。つまり、頬を赤らめて黙って閉まったのだ。
「本題に入らないのかいね?」
前髪を右手で払い、ロクは腕組みをして仁王立ちした。
「入ろう。南道華は、俺と同い年だ。血液型はB型。両親は離婚。母に引き取られて、南姓になったが、元は東条だ。」
ロクが喋ろう息を吸った瞬間、夢が喋り出す。
「彼女があの店で働いてるのはバイト。劇団に所属していて、近々大きな舞台があるらしいわ。だから、明日から暫くあの店は休むそうよ。」
「小娘、流石のストーキングだいね?」
「私はジャーナリストよ。ストーカーじゃないわ。」
「ハハハハハ‼︎何がジャーナリストだいね!オカルト雑誌の記者風情が‼︎」
「ウルセェお前ら。話が進まんだろ!」
「あら?禅太郎…貴方はどっちの味方なの?」
「南道華の味方。」
一瞬の間の後、夢とロクが声を揃えて叫んだ。
「死ね‼︎」