第0…序、おっパブ。
都市ノ侍第0話、どうぞ〜‼︎
黄木浜市、日本最大の貿易港を持つ都市。発展した都市には必ず風俗店がある。片凪禅太郎(27)がいるのは、世間でいう、俗に言う、「オッパプ」である。
というのも禅太郎は、友人に無料券を握らされ引っ張り込まれたのだ。しかしまぁ、来たのだから楽しむ。その腹積もりだった。
暫く待たされると、春近のいるボックスに女が来た。恐らく二十歳すぎたくらいの娘だ。水着《魅惑的な》姿で、入って来た女は、愛嬌たっぷりの笑顔で挨拶をする。
「ミナミでぇす♡よろしくお願いしまぁす♡今日はたっぷりとサービスしちゃいますねぇ♡禅太郎君♡」
禅太郎は一瞬で萎えた。顔立ちはとてもよく、メイクもあってかなり可愛い。胸は推定Fカップ。腰はキュッとしまっていて、パンツの下に伸びるスラッとした白い足は魅惑的。茶髪でケバい髪型こそしているが、顔に整形らしいところもない。
正直言って、これなら一発と言わず一晩中相手してもらいたいくらいだ。しかしそれは、禅太郎には無理だった。何故かと言えばそれは「元カノ」だったのだ。
「…南道華…源氏名じゃなくて苗字だな。」
「そーよぉ。え?誰?」
「片凪禅太郎…忘れたならいいや。」
「えぇーーー⁉︎ゼンなの‼︎ウッソォ、元カレじゃん!じゃあ張り切ってあげようかな‼︎」
道華が座ろうとした瞬間、白い手がスッと伸びてきて、道華の腕を掴み引き倒す。
「ねぇ禅太郎、私というものがありながらこんな店に来たというのはどういう意味かしら?」
禅太郎の今カノ、鞘枝夢(25)である。
「しかも聴いてたら元カノ元カレ…これは何?浮気かしら?ねぇ?」
夢の革靴の爪先が、禅太郎のジーパンの股間をなぞる。段々と圧力がかかり出す。
「違う!断じて違う‼︎」
「断じて…って、貴方のココを断じてやろうかってのよ。この豚野郎。この豚野郎。豚豚豚豚豚豚豚豚豚豚豚豚豚豚豚豚豚」
豚と言うたびに、股間の圧が増して行く。
「ゲシュタルト崩壊させる気か!そして潰す気か⁉︎」
足首を掴んで反抗する禅太郎。しかし夢は、さっきまでのドSを、さながら勇者のマントのように翻し、目に涙を浮かべ叫ぶ。
「キャーーー変態‼︎触らないでよ!この下衆野郎‼︎あんたなんか知らない‼︎誕生日なのに主役来ないから探してたら、まさかこんな店で見つけるとは思わなかったわ‼︎死ね‼︎そしたら許す‼︎」
「どこの楡野さんだ⁉︎朝ドラか!『半分、青い』ハマってんのか⁉︎」
「いや、ラインニュースでやってたから知っただけ。観てないわ。律の子供と会話するシーンとか、観てないわ。」
「嘘下手か!」
「あら?私は貴方には嘘をつかないと決めてるの。勿論浮気もしないし、ホストクラブとかも行かない。まぁ、貴方はおっパブ来てるわけだけど。」
禅太郎は小さくなり、頭を下げる。
「すまん。こういうとこ来たことなかったもんだから、つい興味が湧いて…すまん。」
夢は禅太郎の頭を撫でる。少し長い髪を、つむじから流れに沿って毛先まで優しく撫でる。
「えらいえらい、よく言えました。さぁ帰るわよ。」
夢はやっと右足を床に戻した。
二人が出たのち、道華はバックヤードに戻った。
二人は車に乗る。夢が運転席、禅太郎が助手席。グレーのワンボックスは走り出した。後部座席の足元に、日本刀を置いたまま。