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黒天は落日を嗤う  作者: 立木 片
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第一話「目標と目的」

 "十三月七日事件"以降の双方の国の殺意とはとても酷いもので、

互いの尊厳どころか身体の破壊を目指す者で溢れかえるようになってしまった。



例えば、永遠と相手国への誹謗中傷を世界に発信し続ける者。


例えば、その相手国民に対し暴言脅迫を続け生活基盤を圧し折る者。


例えば、対国の人間を見かけたら容赦無く

言葉と力を用いて理知無く傷付けに行く者。


そしてとても恐ろしいのはそのことを咎め、

憂う人間が数少なくなっていったことである。


 目が合えば睨み合い、手を返り血で汚し、口では罵倒を繰り返す日常に

人間の躰は醜く変わり果て、その眼は慈しみを忘れ、

焦点も想いも虚ろな者へと変わっていってしまった。


 国民同士ではなく国同士が暴力を容認しこの地獄を冷観する、

極めて冷たい争い(にくみあい)が始まったのである。






―――体を射抜く冷たい風が荒んだ心を通り抜けるこの世界の中、

火陽国の一角にて一人の青年が白い寝床の上で身を起こした。


……始末とはどういうことなんだ?


「あ、そこから聞いてくれる……いや、そこを都合よく聞こえてくれたのね。

下らない質問から始めなくて済むからこっちも都合がいいわ。」


焦点の合ってない()けた眼で声の主に問い返すと

声の主は冷静な口調で質問に反応した。


眼の焦点が合ってきた。どうやら声の正体は黒い礼装を着た少女のようだ。


「眼もしっかり機能しているようね。脳も疑問を持つ位には問題ないし、

後はどれだけ確実に迅速に始末を出来るかの身体試験だけか……」


彼女は短い疑問系の言葉に対してでも満足したのか、

未だに問いを返すこと無く一人で思案している。


「取り敢えず一回実戦経験させたほうが……

え、何?ああ、始末って何なのかって質問だっけ?」


漸く言葉の内容を汲み取った少女は疑問系で質問に応え直した。

開けた視界で此方に顔を向けた少女の姿を再確認する。

二つに分かれた赤黒い髪を茶色い手絡で結えており、

やや釣り眼ながら顔は全体的に幼く見え、

小柄な体型からも十代程度の年相応の少女だと断言出来そうだ。

しかし、だとすると造ったとは一体―――


「……私の容姿で品定めでもしているの?

だとすると脳を弄り直した方が良さそうね、醜男(けだもの)。」


……そういったつもりでは全くないのだが。

何一つ状況が掴めていないのにそんな感情を持っている場合ではない。


「……まぁ、それもそうね。

んであんたの質問に答えるけど簡単よ。

私がこいつって思って指示した奴に殴り込めばいいの。」


殴り込むだって……?何故そのようなことを。


「何故って、彼奴等は自分のやった罪を

頑なに否定し続け白を切る愚かな輩なのよ?

だから私がそんな奴等を指定して貴方が鉄槌を下し、

奴等の果ての果ての子孫全員までに

罪を認知させ、心の底から謝罪させてそれを反省したまま生かすの。」


此方が相槌を打つ前に、更に彼女は言葉を繋げる。


「それを続けて国全体に罪を周知させ、

認めさせ、罪旗をしまわせることで

互いの考えを平和にする。それが私の目的であり貴方の目標。」


言葉に一拍が付くと、彼女は真剣な眼差しで此方を見た。


罪とは何なのか。

鉄槌とはどこまでなのか。

そして奴等とはどういった者なのか。

様々な思惑が脳を過る。



「―――と、長々と話したけどね。

さっきも言ったけど彼奴等は間違いなく悪人だから

言われた通りにやっつければいいのよ。」


「ちゃんと貴方の身の回りの世話はするからさ」


此方の複雑な迷いを一掃するかのように簡潔な答えをもう一度彼女は返す。


まだ自分がなんなのかすらわかってない。

まだ自分の名前すら思い出せてない。

まだ自分を取り巻く世界すらわかってない。

ただ目の前で此方の保護を提案している少女を

彼女が用意してくれた寝床の上で見ている。


―――そんな自分を彼女は世話すると言っているのだ。

ならば応えるべき事はこれが妥当な判断なのだろう。


『わかった、協力しよう。』


後腐れ無い返事として、素直にそう応えた。


「良い返事ね。じゃあ私から早速贈り物なんだけども……」


贈り物だと?


「貴方の名前というか呼び方よ。

自分の名前すら分かんないなんて呼ぶ時に

不便だろうから決めてあげたわ。」


……本来の名前すら分からない以上、

呼ばれ方にどうこう反発するものでもない。

それで、名前とは?


「貴方の名前はそうね……



"七鬼(ななき)"。"十三(とさ) 七鬼(ななき)"よ。


そして私が貴方の指揮官、睦月(むつき) 挂蓮(かれん)


これから宜しくね。この時代の調停者君。」

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