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黒天は落日を嗤う  作者: 立木 片
1/5

序話「■夢の■■り」

 とある世界線にて、世界は二つの国に分けられ隣在していた。

一つは数多の男性が主軸となり社会の進歩への手綱を引く"火陽(かよう)国"。

もう一つは数多の女性が中心となり社会の進展への手鞭を取る"麗月(れいげつ)国"である。


 初めは互いにただ「隣にある」程度の認識だったが、

互い違いの住人が触れ合うと「異物感」を感じ

次第の感情は「障害物」「邪魔者」「嫌悪」「憎悪」と発展していった。

その禍々しく黒い感情は理性を狂わせ、互いに日々に憎み、常々に侮蔑し、

果てには凶行までに及ぶことも増えていくようになった。


この互いの人間の感情は国の風情すら大きく薄暗く変えて行くこととなり、

世界全体の風貌も悲しく、酷く、醜く変わり果て

冷たい風が吹き荒ぶ大地となってしまったのである。


 そんな荒れ果てた世界において重大な事件が起こった。


それは10年程前、火陽国の人間が多くの麗月国の人間を攫い、

非人道的な仕打ち、直視出来ない陵辱の果てに殺したという()()の判明である。

この出来事に麗月国の人々は憤り、火陽国を大きく非難した。


 ところが、火陽国の人々はそれを荒唐無稽な出鱈目だと論拠を揃え否定した。

そして二国に向けた会見の中継にて

この話は正しく逸脱したものであると結論付けるが如く、

全人間に対し皮肉交じりにこう返した。




「―――この事件が起きた日を付けるのならば、"十三月七日"と記すであろう。」




男は更に言葉を続ける。




「其れ位、この逸話は有り得ないことであると断言する。」


「これは、麗月国による悪質極まりないでっち上げである。」

 

 中継の会場も、それを傍受していた人間も互い違いの感情に震えた。

片や笑いを堪えるかのように口元を上に歪ませ、侮蔑の悦に浸り、

ある者は日頃の怨恨が頂点に達し、怒りの儘、音が鳴る程に拳を固めた。


「10万を超える犠牲者がここで出たって?

どうやってこの狭い監獄所にそんなに収容できんだよ」


『人体実験行ったって言われているけど、

どの実験内容もあり得ないものばかりで笑いが出るわ』


「実験の様子を写した画像も結局違うものだったじゃん、

何を嘘付いているんだか…」


「事実に対して茶化すことでしか自分を保てないのか!人殺し共め!」


「血も涙もない鬼共め!死んでしまえ!」


「一刻も早く関わりを断つ為にさらなる防壁を作るべきだ!

私達にこれ以上の被害が及ぶ前に!」



この一件を期に、冷え切っていた両国の関係は更に悪化することとなり

両者は日常生活に於いて"別種への暴力"というものを

取り入れる様になっていった。



こういった世界を故に生き地獄と云うのだろう。




―――悲しく憂う風が激しい憎悪の炎をも揺らすこの世界の中、

火陽国の一角にて一人の青年が白いベッド上で身を捩らせていた。


……起きようとするもとても気怠い。体が重い、瞼が重い。


しかし神経は徐々に開いていく。

そんな中、遠くあった声が耳元で段々と近くへと表れ聞こえてくるように感じる。


……この声に関しての記憶がない。いや違う、()()()()()()()()()()()()


寝ぼけていた神経と身体を最大限尖らせ声の元を探る。

すると漸く声の中身が聞き取れる様になっていく。


「―――――なさい、……く……なさ……」


もう少しだ、もう少し耳と手を傾け――



「早く起き上がりなさい。貴方はこれから多くを"始末"して貰わなきゃいけないの。」


「その為に貴方を"造った"というのに。」



絶望の大地の果てを見届けるかの様に。

過去を奪われた一人の青年が此処に眼を覚ました。

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