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 新居の台所は中々使い勝手がいい。

 師匠の家よりも狭いから色々と手が届きやすいのもある。


 ちなみに薪は夕方頃に薪売りがそこらへんを歩いているので、小銅貨三枚で一束買える。一束あれば三日は保つのでかなり安い。まあ、タッカ市では二束買えただろうけど。


 朝食は昨日買ったリンゴもどきのコンポートとパン屋で買った固いパンだ。

 この世界のパンはフランスパンみたいなのが主流で固いけれども、もう十八年も経つのでさすがに慣れた。今更柔らかいパンなんて食べたいとも思わないし、これはこれで味がある。

 そもそもこちらの小麦では柔らかいパンなんてできなかった。たぶんグルテンとかなんかそんな感じのやつが違うんだと思う。


 それにしても、一人で食べる食事ってのは味気ない。

 今までは師匠と一緒に食べていたから余計に寂しく感じる。

 作る量もちょっと間違えた。


 パンを牛乳で飲み下す。

 王都にも牛乳売りがいる。毎朝カランコロンと鈴を鳴らしながら歩いているので、聞こえたら外に出て瓶に入れてもらう。

 王都の牛乳はタッカ市の牛乳よりも美味しい。これはいい発見だ。


 朝食を終えると、俺は工房に入る。


 ひとまず、商売をするには見本があった方がいい。

 素材とインゴットを作業机に並べる。


 まずはインゴットからだ。


 鉄のインゴットは二キロ単位になっているので、大凡二百グラムずつに分ける。

 魔法で簡単に切り分けられるのでこういうところは魔法があってよかったと思う。


 今回は義手と義足をそれぞれ作る。

 見本用なのでかなり簡略化するけれども、機能は手を抜かない。


 魔法で鉄の形を変えていく。鍛造はできないけれども、分子の並びを均一化できるので強度的な不安はない。

 ちなみに炭素鋼にするときは炭を使う。空気中の二酸化炭素なんて知覚できないので使えない。構造をわかっていても使いようがないのだ。


 フレームは固い炭素鋼を用い、外装は比較的柔らかいものを使う。錆止めの塗料を塗って、可動部には精製した動物由来の脂を噛ませる。


 今度はミスリルだ。

 ミスリルは銀に核を魔法で添加したもので、基本的な性質は銀に似ている。けれども、魔力を通すと鋼よりも硬くなるし、その一方で柔軟性も増す。

 問題は鉄とミスリルを混ぜるのが難しいということだ。


 そもそもミスリルは元々銀だから、鉄とは融点が大きく違う。

 だからどうしても分離してしまう。


 そこは魔法の出番だ。

 箱状の魔法障壁を作り、鉄とミスリルを二十対三の割合で入れて溶かす。

 これがかなり熱い。魔法で高温にして溶かしているとはいえ、熱がある程度漏れてくる。

 時々空気を漏らして膨張を抑えるので余計に熱が漏れる。


 熱いが我慢だ。


 どちらも液状になって混ざり合ったところで、一気に魔力を通す。鉄は魔力を通しにくいが、ミスリルは魔力を通しやすい。この性質を利用して、ミスリルの分子を一定に並べていく。

 その状態で魔力をさらにかけて圧力を増す。すると魔力が通りにくい鉄にも魔力が通り、ミスリルの網目構造の隙間に鉄がさらに網目構造を作る。全体に魔力が馴染んだら、魔法障壁の内部に一気に水を満たして冷やす。

 膨張して破裂しそうになっても力業で抑え込む。


「……ふう。これ結構疲れるんだよな」


 ようやく出来上がったのは魔導回路基板用のミスリル合金だ。

 ちなみにオリハルコンと鉄を合金にするときはもっと難しい。オリハルコンの方が融点が高いし、魔力は通しやすいけどミスリルよりも通しやすいのでさらに繊細な力加減が必要になる。


 魔法で基板用に薄い板を切り分ける。


 一枚は鏨で網目状の溝を掘り、裏面に回路用の溝を彫る。

 表にはワイバーンの鱗の粉末を埋め込んで、裏面には核の粉末を埋める。

 魔導回路は一種の魔法陣のようなもので、魔術師それぞれにとっての企業秘密でもある。


 ただまあ、バレたところでミスリルと鉄を合金にできるのなんて師匠以上の魔力がないとできないし、魔導回路も合金を前提としたものだから、解析されたところで誰も作れないし使えないはずだ。


 それでも使用者の魔力量は関係がないから、余計な情報の秘匿を考えずに済むのは好都合。


 一枚目の魔導回路は魔力受信用の基板だ。

 制御用の基板は二枚目を使う。


 一枚目と同じように鏨で回路の溝を彫る。今度はかなり深く彫る。溝の深さ半分ほどをユニコーンの角の粉末で埋め、その上から核の粉末を少しだけ被せ、最後にミスリルで蓋をする。

 これで中枢ができた。


 あとはタッカ市から持ってきた魔獣の革などをより合わせて疑似筋肉を作り、フレームの各所に接続していく。魔力に応じて収縮と弛緩をするので結構便利だ。

 ちなみに俺の魔導義肢の疑似筋肉は赤竜の薄皮だ。指の疑似筋肉は翼膜を使っている。めちゃくちゃ反応がいい。

 見本用はオークの皮だけど、まあ問題はないだろう。収縮量は少ないけど、より合わせてねじってあるので少ない収縮量でも大きな収縮になる。


 それらが終わると基盤をはめ込んで、魔力貯蔵タンクというか電源みたいな役割の心材をはめ込む。今回はグリフォンの嘴の欠片だ。均質な構造をしているので性質的には無理がない。鳥系の魔獣の骨や嘴は心材に向いているような気がする。


 最後に外装を取り付けて完成だ。

 一応成人用のサイズで作ってみた。我ながらそこそこの出来映えだ。


「やっぱり鉄がほとんどだから重たいな……」


 義手だけで五キロちょっと。短時間ならいいかもしれないが、つけっぱなしにできる重さではない。

 一応腕に取り付けるベルトではなく、上半身で重さを支えるタイプのベルトをつけておく。


 若い人ならまだしも、ある程度年があると疲れそうだ。女性ならもっと無理だろう。


「改良の余地あり、だな」


 一度解体して、強度がいらないところを最低限の厚みにしてみる。

 それでも一キロは減らない。

 思い切って必要な強度が保てるギリギリまで削る。フレームも芯を抜いてパイプにした。


 ようやく四キロ弱にまで軽量化できた。

 強度が不安だったが、パイプ構造は案外強いようだ。

 せっかくなので内部の構造も変えてみる。支えが必要なところをハニカム構造にしてみる。

 外装も肉抜きして、代わりに撥水塗料を塗ったオーク革で中枢を覆う。


「かなり軽くなったな、うん。これなら見本にちょうどいいか」


 最終的には三キロ弱になった。これなら少しぐらい長い使用に耐えられそうだ。。


「やっぱり自分を基準に作ってたらダメだな。もっと勉強しなくちゃなあ」


 魔力任せの自分を基準にしたら普通の人が使える魔導義肢なんて一生作れないはずだ。

 もっと工夫をしないとダメだ。

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