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たとえ夜を明かすのに幾億の剣戟が必要だとしても【Web版】(書籍版タイトル:幾億もの剣戟が黎明を告げる)  作者: 御鷹穂積
デア・フライシュッツ

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77◇弾種

 



 フィールドを蹴って彼に近づく。

「アサヒ」

『大丈夫です。弾丸程度の熱で赫焉アサヒちゃんが溶けるものですか。まだまだいけますよ!』

 彼女の言葉を信じて動き続ける。

 スペキュライトは本来ならば弾倉が収まっているだろう箇所に左手を当てていた。

 不意に左手を離し、銃を構える。

「フレシェット・ショットッ!」

 発砲。

 一見先程までと違う点は見られない。

 先程と同じように円盾を展開し、そこで変化は起きた。

 弾丸がひとりでに割れ、中から無数の、そして極小の矢が飛び出してきたのだ。

 ――弾丸の形状変化が可能なのか!

 これまでの情報には無かった。

 まさしく隠し玉。

 ヤクモ達の弱点も上手くついている。

 セレナが首に展開していた極小の魔力防壁と理屈は同じだ。

 小さすぎるが故に綻びを発見しにくい。

 しかも弾丸の中に潜んでいた矢の数は一本や二本ではない。

「デュプレックス・ショットッ!」

 フレシェット・ショットに対応する間を与えてくれる彼ではない。

 続けざまに放たれた弾丸も詳細は不明。

 だが、こちらは見ただけで分かることもあった。

 一度の発砲で二発の弾丸が同時に発射されているのだ。

 『必中』はあくまで六発まで。

 つまり彼は先程と合わせて、既に四発も使用していることになる。

 ヤクモはデュプレックス・ショットの為に円盾を残しておく。

 それらを一部貫いて自身に迫る矢の群れを見据える。

雪解(ゆきどけ)

 雪色夜切本体を粒子に変換し、それを薄く霧状に展開。

 矢の群れが突っ込んできたところで形状変化。

「凍結」

 固まる。

 霧を板とすると、矢の群れは鏃が貫通した段階で止まってしまっている状態。

 だが『必中』の効果は当たるまで続く。ここで雪色夜切を固定しておくわけにもいかない。

 方法はあった。

 ヤクモは矢の群れに素早く触れる(、、、)

 『必中』は当たるまで続く。ならば、当たりに行けばいい。

 役目を果たした弾丸が消失する。

 これで二発を無力化完了。

 一列に並んだ二発の弾丸は、何事もなければ一度目と同じように捌ける筈だが。

 そうはいかなかった。

 円盾の全てが砕け散る。

 前方のそれは盾に穴が空いただけのものよりも高威力の弾丸のようだ。

 そして後方の弾丸が弾けたと思えば、中から出てきたのは――巨大な網だった。

『……蜘蛛の巣状のネット!? こちらの身動きを封じる気です!』

 前方の弾丸を斬るには一度弾き、見極めねばならない。

 だがそれをすれば網に捕まってしまう。

 網を斬るには、まず弾丸をなんとかしなければならない。

 無理だ。

 ヤクモは網を見た。

 綻びを探す。発見。

 前進する。

 左手を、弾丸に叩きつける。

『兄さん!?』

 手首から先が弾け飛ぶ。

 同時に、着弾と判断されて弾丸が消失。

 激痛が走るが、呼吸法で鎮める。

 片手上段からの一閃にて網を縦に切り裂く。

『な、なっ――。どうするんですか! ゆ、指と破片、後で集めないと……兄さんが右手だけになってしまう……』

 妹は慌てているが、ヤクモはスペキュライトだけを見据えている。

「残り二発」 

「いいや、一発だ」

 ヤクモの腹に、穴が空いている。

 ――いつ撃たれた!?

「インビジブル・ショット」

『見えない弾丸!? そんなのって――』

 いや、単に見えないだけならば反応出来た。

 音さえも無かった。

 だがそこまで問答無用の魔法があるものか。最初に叩き込んでこなかった時点で何かある筈。

 ――そうか。

 傷が思った程深くないことで気づく。

 弾速を犠牲にしているのではないか。

 彼の長所でもある神速を捨てることで、ようやく見えなくなる弾丸。威力も低減し、トドメを刺せるという程ではない。

 それでも魔法を持たないヤクモ相手ならば、腹にぶち込むだけで充分以上の戦果というわけだ。

 他の者ならば魔力防壁や遠距離魔法が主な戦闘手段だが、ヤクモは赫焉と近距離戦を組み合わせて戦う。

 ヤクモ自身の機動力さえ奪えば、後は魔力防壁と一発の弾丸もあれば事足りる。

 出血によって、時間の経過はヤクモにのみ不利に働くというわけか。

「甘い……!」

白縫(しらぬい)

「……なんだ、それは」

 トルマリン戦から、ヤクモ達はずっと赫焉の扱いを訓練してきた。

 純白の粒子が極細の糸となり、ヤクモの傷口を縫い合わせる。

 あくまで応急処置。しっかりと魔力炉を撃ち抜かれている為、トルマリン戦の最後に見せた一瞬限りの魔力強化も出来ない。残存魔力では効果もたかが知れている。

「残り一発、だったね」

「ハッ……」

 スペキュライトの笑みは引き攣っていた。

 とても苦しそうだ。彼自身、魔力炉を損傷していた身。魔法の発動は激痛を伴う筈。

 彼が左手を弾倉にあてる。ありったけの魔力を込めているようだ。

 ヤクモは粒子を周囲に引き戻す。どんな弾であれ対応する。

「殺さねぇようになんて考えは捨てる。それでも言うぜ、トオミネ――死ぬなよ」

「その予定は無いよ」

 それは確かに弾丸の形をしていた。

 だが、凝縮された魔力を無理に閉じ込めたそれは、おそらく着弾と同時に大爆発を引き起こす。

 弾いて斬ることも出来ない。弾いた瞬間に爆ぜるから。

「バースト・ショット……ッ!」

 弾の形をした爆弾が、迫る。

『兄さん、これは斬れません』

 その通りだ。

「あぁ、だから斬らない(、、、、)

 ヤクモは動く。

 勝つ為に。




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