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たとえ夜を明かすのに幾億の剣戟が必要だとしても【Web版】(書籍版タイトル:幾億もの剣戟が黎明を告げる)  作者: 御鷹穂積
デア・フライシュッツ

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76◇対峙

 



 そして、試合の時は訪れた。

 お姫様だっこでフィールドに連れて行ってくれとギリギリまでねだっていた妹は、どこか不服そうに隣を歩いている。

「あちらの姉弟愛が羨ましいです」

 わざとらしく頬を膨らませている。

「そう。不甲斐ない兄でごめんね」

 なので、ヤクモもわざとらしく申し訳なさそうな声を出した。

「そういう意味じゃないです! 兄さんは最高の兄さんですがそれはそれとしてお姫様だっこしてほしかったのです! 観客全員に兄さんの相手はわたしで確定しているのだと知らしめたかったのに!」

 そういう理由だったのか。

 なんとか断りきれてよかったと安心するヤクモだった。

 反対側からアイアンローズ姉弟が現れる。

 今日も、アサヒが羨むお姫様だっこでの登場だ。

「やぁ、スペキュライトくん」

「あぁ、トオミネ」

「わたしもトオミネですけど」

「お前はトオミネ妹って呼んでんだろ。区別はつけてる」

 彼なりの、距離の置き方なのかもしれない。

「アサヒちゃんにヤクモくん。出来ればお二人とは戦いたくありません。でも、私達にも譲れないものはあるから。だから、ごめんなさいね」

 悲しげに目を伏せるネアに、アサヒは首を振る。横に。

「謝らないでください。わたし達も、申し訳ないとは思いませんから」

 アサヒはネアと意気投合していた。

 辛くない筈がない。胸が痛まない筈が無い。

 だが、それを理由に捨てられる程、兄妹の夢は軽くない。

 それは、姉弟にとっても同じなのだろう。

 学内ランク三十九位《魔弾》スペキュライト=アイアンローズ

 対

 学内ランク四十位《白夜(ファイアスターター)》ヤクモ=トオミネ

 順位だけを見れば、最下位争い。

 だが一部の者や、当人同士は理解している。

 これは紛れもない、強者同士の戦いなのだと。

「オレは正直、お前らが嫌いじゃねぇよ。うちの馬鹿な姉貴を、むかつく目で見ない、数少ない人間だ。感謝さえしてる。だがな、それとこれとは別だ」

「大丈夫だよ、スペキュライトくん。大丈夫だ。負けたらそれは、きみ達の方が強かったというだけのこと。恨みはしないよ」

「そうかよ」

「ただ、僕らは負けない。ここから先、一度だって負けやしない」

 まっすぐと彼の瞳を見て、ヤクモは宣言する。

 それを見て、スペキュライトは獰猛に笑う。

「ハッ。普段は人畜無害そうな面しやがって、内側に飼ってるもんはなんてこたぁねぇ、オレと同じじゃねぇか」

 なら、彼も大切な誰かの為に戦っているのか。

 その為ならばどんなことだって出来る。命を懸けることさえ惜しくない。人生を費やす覚悟だってとうに出来ている。自分を棄てているのではない。自分の意志で、それを選んだ。そうしたいから。

 同じなのか。

 だとしても、いやならば尚更、負けられない。

「互いに道を譲る気はねぇときてる」

「その道を渡れるのはどちらか一方のみ」

「なら、方法は一つだな」

「勝った方が道を征く」

「決まりだ。手を抜くんじゃねぇぞ」

「あぁ、それじゃあ意味が無い」

「分かってるじゃねぇか」

「きみもね」

 会話はそれで終了。

 最早言葉は必要無し。

「行くぞ、姉貴」

「うん」

 姉弟が見つめ合い。

「行こう、アサヒ」

「はい」

 兄妹が手を繋ぐ。

撃鉄を起こせ(イグナイト)――ウィステリアグレイ・グリップ」

 薄紫を帯びた灰色の拳銃が、スペキュライトの右手に握られる。

抜刀(イグナイト)――雪色夜切(ゆきいろよぎり)赫焉(かくえん)

 ヤクモの髪が白銀に染め上げられ、同色の刀と粒子が出現する。

 審判の合図と同時、それは放たれた。

「――ショット」

 『必中』の魔弾。

円盾(えんじゅん)重掛(かさねがけ)

 『必中』に弱点らしい弱点は無い。

 しかし付け入る隙きはあった。

 弾丸は必ず銃口から発射される。

 また、対象が軌道から外れんと動かない限りは弾道も変化しない。

 つまり、銃口と引き金に集中していればどこへ飛んでくるかを判断することは可能。

 無論、全てを一瞬で済ませる神業に対しそれを行うなど容易いことではない。

 だが、ヤクモとアサヒならば出来る。

 半瞬の遅れさえ命取りになる戦いの中で生き抜いてきた二人には見える。

 彼が撃つ一瞬前に、対抗策は打っていた。

 軌道上に複数の小さな盾を展開。

 それらは弾丸を止めること叶わず穴を穿たれるが、神速を減速させることには成功。

 鋒を弾丸に向ける。いや、ほんの僅かではあるがずらして待ち受ける。

 魔弾の軌道上すれすれに、刀の右側面――鎬地――を合わせる。

 火花を散らしながら弾丸が迫る。

 金属音を鳴らしながら、鍔に向かって。

『一刀軌切(きせつ)

 そのギリギリのタイミングで、ヤクモは刀を右に振るった。

 弾丸が強引に軌道を曲げられ、弾かれる。

 即座に『必中』が働き、弾頭は再びヤクモを向き、走る。

 稼げたのは一秒程の時間。

 それが欲しかった。

「……見えた」

『一刀片断(へんだん)

 再度迫った弾丸は、最早綻びを見抜いた後の魔法。

 最高速に達してもいないそれの、ヤクモから見て右半分に鋒を食い込ませる。

 火薬が爆ぜるような音と共に、『必中』が崩壊する。

 最初はこう考えていた。

 刹那の内に、綻びの見極めと斬撃を行わなければならない、と。

 だがそれが不可能なら?

 刹那を引き伸ばし、綻びを見極める時間を稼げばいい。

 神速の段階で破壊出来なくても良い。凌ぎ、時を稼ぎ、見極め、斬る。

「残り五発」

「……お前らが雑魚じゃねぇことくらい、承知の上だ」




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