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たとえ夜を明かすのに幾億の剣戟が必要だとしても【Web版】(書籍版タイトル:幾億もの剣戟が黎明を告げる)  作者: 御鷹穂積
ファイアスターター

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48◇欠陥

 



 放課後。

 ヤクモは今日も試合観戦に臨んでいた。

 一回戦が終わり、風紀委では兄妹とラピスペア、まだ見ぬ二組が勝ち抜いているらしい。会長副会長の二名が一回戦で敗退したことは、それなりに話題になっているようだ。

 二組とも、去年は本戦まで勝ち進んだ実力者。

 それが《無謬公》は四十位の夜鴉に倒されてしまい。

 《金妃》は一位の前に為す術もなく敗北を喫した。

 しかも、その一位は今年の新入生だった。

 入校試験の段階で、既に学舎に在籍するあらゆる実力者よりも優秀と判断された者。

 ネフレンのように四十位スタートというだけでもその才能を称えられる程だというのに、《黒曜ペルフェクティ》グラヴェル=ストーンと、その《偽紅鏡グリマー》であるルナ=オブシディアンは即座に頂点を獲った。

 そしてそのルナは――アサヒの実妹だというのだ。

 かつて無能の烙印を押され放逐されアサヒは、自分と異なり優秀だった妹と、十年を経て同じ学舎に通うこととなった。

 片や四十位、片や一位。

 一見、十年経っても格差は変わっていないように思える。

 それでも彼女は十年前とは違う。

 優秀な妹への劣等感を克服し、戦うことを決意した。

「あの姉弟の試合ですか。ネアさんには是非とも頑張ってほしいですね、同志として」

 そう。今日から二回戦が始まる。

 だがスペキュライトとネアのペアは、今日まで謹慎だったのだ。

 どうして二回戦に参加出来るかというと話は単純で、彼がシードだったから。

 三十八位である彼がシードだったのは、トーナメントの組み方がランダムだからだ。

 幸運、と言うべきか。

 更に言えば、彼が今回あたるペアは、一回戦を不戦勝で上がってきている。

 というのも、そのペアの対戦相手というのが、スペキュライトが全治三ヶ月の重傷を負わせた二十位だったから。

 しかし。そんなことよりも。

 妹が思いっきりヤクモの腕に絡みつきながら、フィールドを見下ろしているのが問題だった。

「アサヒ」

「おぉっと先に言っておきますけど、離れませんよ? これをした時の兄さんの言い訳は歩きにくいというものばかりでしたが、わたし達は今! 直立かつ不動で! 試合観戦をしようというのですからね。歩行を伴わない以上、わたしが兄さんから離れる必要性は最早無いのだ……!」

 ふっはっはという高笑いつきで妹は言う。

 ヤクモも、別に嫌というわけではないのだ。

「でも、アサヒ。やっぱり離れてくれないと困るよ」

「どうしてですか? 兄さんと離れる方がわたしは困りますが?」

 ヤクモは悩む。

 だが結局口にした。

「これだと、緊張して試合に集中……出来ないから」

 暴走が目に余るものの、アサヒは本当に魅力的な少女なのだ。

 相棒としての立ち位置を定められる戦闘中や、寒さを凌ぐために身を寄せ合っていた壁外ならともかく、もう壁の内で、今は観戦に来ている。

 限りなく日常に近い中で、アサヒとの接触は少々毒だった。

 ヤクモとて、健全な男児なのである。

「ぬぉっ……こ、これはヤバイです……! に、兄さんが……がわいい」

 アサヒが顔を朱色に染め、唇をによによともどかしそうに動かす。

 反応が可愛いような気持ち悪いような。

 とにかくアサヒは腕に入れた力を緩めてくれた。

「兄さんがあまりに尊かったので、譲歩します」

 譲歩しても離れてはくれないようだった。

 だが正直それで充分。密着性が薄れた分、理性の働く余地はあった。

「……来たよ」

 スペキュライトとネアだ。

 ただネアは車椅子に乗っていない。

 スペキュライトが腕に抱えていた。

「お、お姫様抱っこというやつですよ! 兄さん! すんばらしいですよあれは。わたし達も今度からあれで登場しましょう!」

 大興奮の妹に対し、ヤクモは冷静だ。

「嫌だよ」

「そんなこと言わずに~」

 駄々をこねる妹。

「あの二人には意味のある行動なんじゃないかな。車椅子で行くと、試合の邪魔だし。壊れたりしても、多分補償なんて無いだろうしね」

 頼めば審判や大会運営が運び出してくれることもあるかもしれないが、スペキュライトの性格ではそれをしないだろう。姉のことで他者の手を借りたくない、というのが短い会話の中でも分かったのだ。

「スペくん。お姉ちゃんは本当にいつもこれが恥ずかしいんだけどな……」

 ネアが羞恥のあまりに両手で顔を覆っている。

「オレはどうでもいい」

「お姉ちゃんの心を護ってはくれないの?」

 悲しげな声を出すネア。

「出来てねぇか。オレには」

 スペキュライトは一瞬だけ姉を見下ろし、ぶっきらぼうに呟いた。

「……ううん。ごめん。出来てるよ。スペくんは良い子」

「落とすぞ」

「酷い!」

 今日も関係は良好そうだ。

「ネアさーん! 頑張ってください!」

 妹が素直に声援を送っている。

「わぁ、アサヒちゃんの声だよ。聞いた? スペくん。頑張ろうね」

「十六位よか、三十九位のオレらの方が相手取りやすいってだけかもしれんぞ」

「もう、ヤクモくんもアサヒちゃんもそんな子じゃありませんー。疑り深いのはよくないよ?」

 そう。彼の対戦相手は十六位だった。

 八重歯が魅力的な少女の《導燈者イグナイター》と、おどおどした《偽紅鏡グリマー》。

 十六位の少女は元気に笑う。

「面白い登場の仕方だね! スペキュライトくん!」

「うるせぇ」

「あはは! 君のおかげで一回戦は力を温存出来たから、今回は最初からフルスロットルで行くよ」

「あんな雑魚、出てたところで早晩脱落してただろうよ」

「二十位捕まえて雑魚呼ばわりとはねっ。楽しみだ!」

 学内ランク第三十九位《魔弾》スペキュライト=アイアンローズ

 対

 学内ランク第十六位《獣牙》パイロープ=キャンドル

 戦いが始まる。

 勝ったほうが、ヤクモの次の対戦相手となるのだ。




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