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たとえ夜を明かすのに幾億の剣戟が必要だとしても【Web版】(書籍版タイトル:幾億もの剣戟が黎明を告げる)  作者: 御鷹穂積
デイブレイク・レイヴン/トライ

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280/307

280◇回顧

 



 空が闇に覆われ、太陽と星々の輝きが届かなくなった世界。

 陽光で魔力を生み出していた人類は、宵闇で魔力を生み出す魔人との戦争に敗れる。

 それからどれだけの年月が流れただろう。

 かつて栄華を極めた人類は、滅びへの道を辿る中で懸命に生き残りの道を探った。

 模擬太陽と呼ばれる装置を頼りに壁を築き上げた都市、人類領域。

 そんな人類領域において、戦う術を持つ者を領域守護者という。

 模擬太陽の力で生んだ魔力を運用する、《導燈者イグナイター》。

 自身の身体を武器に変じ搭載された魔法を遣い手の魔力で発動してもらう、《偽紅鏡グリマー》。

 彼らの活躍によって、人類はいまだ辛うじて存続していると言えた。

 人類に必要なのは、模擬太陽を動かすだけの魔力。非戦闘員は魔力を都市運営が為に税として収める。

 では、それが出来ない者は? 金銭や、特殊な技能でも税の代わりとすることは許されている。

 それさえ、無い者は?

 壁の外に捨てられる。

 ヤマト民族。かつてサムライなる戦士を生み出し、魔力もなしに魔人を斬ったとさえ言われる民。

 だがサムライのほとんどは戦争で散った。今も残るは、ろくに魔力も作れぬ穀潰し共のみ。

 だから、捨てられた。

 ヤクモとアサヒは、捨てられた。日々魔獣が迫る、壁の外に放り捨てられた。

 しかし死ななかった。何故生き残ることが出来たか。

 同じように捨てられたヤマトの民は村を成し、互いに助け合って生き延びていた。そこに拾われ、家族として扱われた。二人は恩がある。返しきれぬ、大恩がある。

 そんな家族を、幸福にする術が一つだけ、二人の前に提示された。

 領域守護者になること。それを育成する機関にて強さを示すこと。四つの組織合同で年に一度行われる、純粋な戦闘能力を比べる大会にて、入学一年目で優勝すること。

 様々なことがあった。

 差別があった。助けがあった。戦いがあり、挫折と奮起があった。

 ヤクモとアサヒは大会予選を突破。

 そして明日から、本戦が始まる。

「兄さん?」

 明かりのない寮室の居間に、小さな声が染み渡る。

「あぁ、アサヒ」

「明かり、点けますよ」

 魔力灯と呼ばれる、魔力を利用した照明が輝きを放つ。人類領域は常に魔力不足。一部を除けば、ある時間から都市の明かりは消える。照明用の魔力供給が絶えないのは、此処が訓練生とはいえ領域守護者の詰める施設だからだろう。緊急時にすぐに明かりが点けられるように。

 魔力の重要性はヤクモも承知している。だから居間のソファーに腰掛けながらも、明かりは落としていたのだが……。

 心配そうな顔をする妹に、それを説く気は起こらなかった。

 寝室から顔を出した妹が、こちらへと歩み寄ってくる。

 白雪が如き長髪、黒き眼に、すべらかな肌。慎ましやかな胸を本人はいたく気にしているが、ヤクモにはよく分からない。誰に劣等感を抱くまでもなく、少女の美は完成されている。

 アサヒがヤクモの横に座る。ポスッという軽い音と共に、臀部が座面に沈んだ。僅かな衝撃、空気の振動。横に座る少女の熱と、周囲に漂う薫香。人一人増えただけなのに、室温が上がったような錯覚を覚える。冷える夜が、暖かくなる。不思議だ。

「眠れないんですか?」

「そうだね」

 不安が無いと言えば嘘になる。

自分と妹の力は疑っていない。ただ、知っているから。勝負の世界は何があるか分からないと。

 恐怖を感じることを恥ずべきことのように言う者がいるが、ヤクモはそれを誤りだと考える。

 恐怖を感じられることは、正常の証。感じないというなら、それは感覚が麻痺しているのだ。戦いに臨む上で必要なのは恐怖を殺すことではなく、飼い慣らすこと。感じた上で、制御すること。

 脅威を正確に解析し、どう立ち向かうか考えること。

 本戦に駒を進めた訓練生は皆、強者。怖くないなどと、取るに足らないなどと、そんなことを吠えるのは傲慢というもの。自分達は特に最初の段階で大きく劣っている。天与の才が無い。ならばこそ、驕りなどとは無縁であらねば。

 身体が震えるのは、寒さの所為だけではないだろう。

「武者震いですね」

 そっと、組み合わせていた両手の上に、彼女の左手が乗る。

 それだけで。

 たったそれだけのことで充分とばかりに、震えが止まる。

「……そうだね」

 武者震い。そうか。そうかもしれない。本戦に進出した十六組の戦士。いずれも領域守護者を名乗るに相応しい猛者達。彼らと戦うことに、心が奮い立っていた。それもまた、嘘ではない。

「僕らは、優勝する」

「はい」

「家族の皆が、これからも都市の中で暮らせるように」

「そうですね」

 意思確認を済ませる。

「僕らは、魔王を倒す」

「はい」

「世界に、太陽を取り戻す為に」

「わたし達なら、出来ます」

 空を閉ざした張本人、魔人の王たる存在――魔王。

 その実在を、ヤクモ達は知った。その所在へと至る情報源も得た。

 ヤマトが差別されるのは、魔力をほとんど生み出せないから。魔力を生み出せないことが差別の対象となるのは、魔力こそが都市の存続に不可欠な要素だから。

 この世に太陽が戻れば、その状況も変わる。

 ヤマトが虐げられる理由は無くなる。

「勝ち続けるだけです、今までと何も変わりません」

 初めて彼女と戦った五歳の時から、ずっとやってきたこと。来る日も来る日も魔獣を撃退し、時に魔人を殺して家族を守った。十五になり都市内で活動するようになってからも、それは変わらなかった。確かに妹の言う通り。何も変わらない。

 やると決めたことを、やり通すだけ。

 自分の中でスッキリと整理がつく。

 途端、ふぁあと欠伸が漏れる。緊張がほぐれたことで、眠気が思い出したように存在を主張。

「眠れそうですね」

「アサヒのおかげだね」

「お役に立てて良かったです」

「ありがとう、助かったよ」

「そうですか……。ところで兄さん、わたしの方はどうにも不安が消えなくて」

 ちらりと、横目でこちらを窺うアサヒ。

「……一緒には寝ないよ」

「ぬぁっ、何故ですっ! ここまでお膳立てしてまでも食わぬとはそれでもヤマトの男児ですか!」

 清麗に匂やかな淑女。そう思わせる魅力が確かにあった。一瞬前までは。

 一転、大げさな仕草で表情を崩して叫ぶ彼女に『これがなければ……』と思うヤクモだったが、これもまた彼女の一部と思い直す。

「もう夜も遅いから」

「添い寝! 添い寝だけでもいいので!」

 騒ぐ妹を立ち上がらせ、寝室まで背中を押す。

「兄さんはそういうところが本当にダメだと思います!」

「ごめんね」

「あっ、じゃあ優勝したらあの暁には――」

「おやすみ」

「いけずです!」

 彼女を部屋に押し込み、扉を閉める。妹もそれを開けてまで駄々を捏ねはしない。

 明かりを落とす。ソファーに戻る。寝転ぶ。毛布を被る。

 暗闇の中で先程の妹の言動を思い出し、自然と表情が綻んだ。




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