表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
たとえ夜を明かすのに幾億の剣戟が必要だとしても【Web版】(書籍版タイトル:幾億もの剣戟が黎明を告げる)  作者: 御鷹穂積
デイブレイク・レイヴン/トライ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

267/307

267◇銘々(2)

 



 昼下がり。

 ドルバイト家の庭園は、幼い頃から二人のお気に入りの場所だった。

「うーん、この子まだ咲かないね」

 悩ましげな表情で、マイカが蕾に顔を近づけている。

 淡い黄色を帯びた灰色の毛髪と瞳。大人しそうな顔をしているが、彼女が無邪気に笑うことをトルマリンは知っている。

「そうだね」

 トルマリンの気のない返事を変に思ったのか、マイカがこちらを向く。

「どうしたの?」

「いや……」

「ヤクモもアサヒも、元気そうで安心したね」

 彼らは帰還したその日に、夜の任務に参加した。久々の《班》行動で分かったのは、彼らの動きが更に洗練されていたこと。

「そのことではないよ」

「そ? じゃあ……ぼくのことで当主サマに怒られた、とか?」

 途端にマイカの表情が曇る。

 ドルバイト家に限ったことではないが、《偽紅鏡グリマー》を道具として見ている者達は彼ら彼女らを家に入れない者も多い。

 そんな中、長兄であるトルマリンはマイカを対等なパートナーとして扱っている。今もこうして敷地内に招いて花など見ているのだ。

 魔法を持たない彼女を相棒とすることを、父は認めてくれた。

 だからといってそれは、快く思っているわけではない。

 度々注意を受けることはあった。

「まさか」

「ほんと? じゃあ、なんでそんな顔してるのさ」

 すすす、と近づいてきたマイカは、ぐいぐいと指でこちらの頬を押してくる。

 その手を優しく掴んで離す。

「本戦が始まるだろう? 少し、悔しくて」

 トルマリン組は去年、本戦に出場した。

 だが今年は予選の一回戦で敗退。

 ヤクモ組に負けたことは認めているが、それと悔しさは別。

「おぉー……」

 意外そうな顔をするマイカ。

「変なことを言ったかい」

「いやぁ、トルも男の子っぽいところがあるんだねぇ」

 今度はなんだか嬉しそう。

 トルマリンに掴まれていた手をもぞもぞ動かし、いつの間にか手を繋いでいるような状態に。

「大丈夫、トルが強いって、ちゃんとみんな分かってるよ」

「わたしとマイカが、強いんだ」

「そう? でもそっか、ぼくといたいが為にあれだけ魔力操作を頑張ったってことは、今のトルの強さはぼくのおかげとも言えるわけで。うん、そうだね。もっと感謝すれば?」

 悪戯っぽく笑う彼女は、トルマリンをからかっているつもりらしい。

 そのままでもよかったが、たまには仕返しをしてもいいだろうと思いつく。

「その通りだね、ありがとう」

 彼女を正面から見つめて、微笑む。

「うっ……!? ちょ、っとやめてよトル、冗談だって」

 彼女の白い肌がみるみる内に赤くなっている。

「わたしは本心を言っただけだよ」

 照れが限界まできているのか、彼女は空いている方の手で顔を隠してしまう。

「わ、わかったから……」

 どんな顔をしているのだろうと、その手を退けようと腕を伸ばしたところで。

「トルマリン様! 愛しのシベラが参りましたわ!」

 叫びながら庭園に入ってくる者を確認して、二人は咄嗟に離れた。

 マイカが一瞬不満げな顔をしたが、相手が相手だ。

 ツインテールに結われた髪の色は赤紫。同色の瞳は吊り目がち。

 『青』の十七位シベラ=インディゴライト。

 トルマリンの婚約者である。

 彼女は二人を見て、視線を鋭くする。

「……相変わらずお優しいのですね。このような所にまで《偽紅鏡グリマー》を連れ歩くだなんて」

 そう言う彼女は《偽紅鏡グリマー》を連れていない。

「今日はどうかしたのかな、シベラ」

「あら、用件がなければ婚約者に逢いに来てはならないと?」

 どことなく拗ねたような声を出すシベラ。

「そうは言っていないよ」

「一応、ご報告をと足を運んだのです。トルマリン様は風紀委の連中と懇意にしているとのことですから」

「あぁ、確か一回戦で」

「えぇ。心配するほどのことではないかもしれませんが、トルマリン様の友人と戦うわけですから……その」

 彼女の心配を理解する。

「どうか安心してほしい。真剣勝負だと理解しているよ。その勝敗できみや彼女への態度を変えることはない」 

 パァッとシベラの表情が明るくなる。

「さすがトルマリン様、シベラは信じておりました!」

「あ、ありがとう」

「ちなみにトルマリン様は、どちらの応援をなさるおつもりで?」

 婚約者と仲間。

「どちらも、というわけにはいかないのかな」

「……トルマリン様らしいですわ」

 シベラの浮かべた笑みは、無機質だった。

「では、今日のところはこれで失礼いたします」

 普段であればあれこれ理由をつけて長居するシベラが、その日は素直に帰ってしまう。

「あーあ、怒らせちゃったね」

 マイカが言う。

「嘘を吐きたくはない」

「乙女心を傷つけて、罪な男だねトル」

「きみを応援していると、そう言えばよかったのかい?」

「そしたら、ぼくの機嫌が悪くなってたよ」

 正解など無かったということ。

「トルはさ……いやいいや」

 マイカが言いかけた言葉が何か、トルマリンには想像がつく。

 ヤクモのように、人間と《偽紅鏡グリマー》など関係なく相手を愛おしんでいるのだと、周囲に言えればいいのだが。

 トルマリンはそれが出来ずにいる。

「いつになったら咲くのかな」

 再び花に視線を戻したマイカが、ぽつりと漏らした。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
◇書籍版②発売中!(オーバーラップ文庫)◇
i651406


◇書籍版①発売中(オーバーラップ文庫)◇
i631014


↓他連載作↓

◇勇者パーティを追い出された黒魔導士が魔王軍に入る話(書籍化&コミカライズ)◇
i434845

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ