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たとえ夜を明かすのに幾億の剣戟が必要だとしても【Web版】(書籍版タイトル:幾億もの剣戟が黎明を告げる)  作者: 御鷹穂積
オールドプロミス→ニュークローズ

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234/307

234◇到着




 アカツキの《偽紅鏡グリマー》が人間状態に戻る。

 だからといって安心出来ない。

 彼の態度を見るに代理負担対策は済んでいるだろう。身を裂かれる苦痛が彼を蝕むことはない。

 武器破壊は《偽紅鏡グリマー》への精神ダメージも伴う。

 淡黄色の髪の少女は僅かに表情を歪めたものの、それだけ。

 剣が消えたことによって雪色夜切も宵彩陽迎を遮るものはなく、赫焉刀も含めて七つの斬撃が彼を襲う。

 それら全てが、防がれる。

 魔力防壁であれば、綻びの位置によっては斬れただろう。

 だが彼が選んだのは、魔力粒子。最小単位故に破壊不能なそれで、七つの斬撃全てを止めてみせた。

 魔力操作能力だけでは成立しない神業。

 ほんの僅かでも扱いを誤れば斬撃はそのまま彼らに辿り着いた筈だ。

 剣を斬られた直後にここまでの対応が出来る人間が、果たして世界にどれだけいるだろう。

 ヤクモとツキヒは、武器を非実在化していた。

 彼を裂くその直前まで、邪魔するものが現れようと透過出来るように。

 しかし、それさえもアカツキは読んでいたのだ。

 彼の魔力粒子が止めたのは、刀身ではなく柄の上部と下部。

 刀を押し込めなくしたのだ。

 柄ばかりは非実在化出来ない。それを実行しては、握ることさえ出来ないから。

 そして稼いだ時間で、彼は再びパートナーを武器化。

「必ず切断する魔法……? どちらもヤマト混じりかつ|《黒点群》とは驚いたな」

 刃を引いて即座に切り込む、つもりだった。

 それは叶わない。

「おにーさん!」

 ツキヒの声に応じるように回避行動をとる。

 巨大な杭の形をとった魔力攻撃がヤクモの立っていた地面に打ち付けられる。

 屍騎士の一体によるものだ。

「あちらもこちらも、邪魔ばかりするんだな」

「黙れアカツキ。相手の土俵で戦おうとするのは貴様の悪癖だぞ。それで足元を掬われるなど愚かの極み」

「ここは素直に彼らの連携を賞賛すべきところじゃないか。そもそもその悪癖でオレが負けたことがあったか? ないだろう」

「己を過信するな」

 アカツキは返事せず、肩を竦める。

「純粋な勝負は出来そうにないな。またの機会にしようか」

 こちらに向かって優しく微笑みかける青年。

「死んでる奴らが《偽紅鏡グリマー》使わないのってなんで」

 グラヴェルの身体を操るツキヒが小声で言う。

「多分、身体を動かしているだけで意識があるわけじゃないんだと思う」

「……あぁ、そういうこと」

 《偽紅鏡グリマー》の武器化には当人の承諾が必須。

 精神無き屍に、承諾などできよう筈もなく。

 身体が動いているだけにどうにも受け入れがたいが、彼らはもう意志無き死者なのだ。

 だからヤクモを攻撃するにも魔法ではなく魔力攻撃を用いた。

「境界面に魔力防壁を張った。これで外からの介入は防げる。そろそろ魔力が溜まるが……面倒だ、先にそいつらを無力化しろ」

「殺せ、と言わないあたりがお前らしいよ。オレの気持ちを汲んでくれるんだな、ありがとう」

 ヤマトの者を殺めたくはないというアカツキの気持ちを、魔人が尊重した。

 ヤクモとセレナの協力関係とは違う。

 仲間意識からの思いやり。

 彼らは敵だというのに、同時に可能性の体現者のようにも思えた。

 魔人と人間の共存という可能性。

「黙れ、あの御方には報告するからな」

「彼女に怒られるのは、嫌いじゃないよ」

 どうやら彼らの(あるじ)は女性らしい。

「あぁ、そうだ。こういうのはどうだろう。お前ら二組とも、一緒に来ないか?」

 名案とばかりに、アカツキが笑う。

「……おいアカツキ、貴様いい加減にしろ」

「いいじゃないか。彼女も反対はしない。どうだい? 興味ないか?」

「ないね」

 ツキヒが即答する。

「詳しく聞けば気が変わるかもしれない」

「欲しいものがあった時に、よそから奪おうと考える人達の仲間にはなれない」

「……正しい者の意見だな、ヤクモ。残念だよ」

 アカツキの表情は、本当に残念そうだった。

「いいからさっさと終わらせろ」

「木箱の中で退屈なのは分かるけど、オレにあたらないでくれ」

 だが次の瞬間には、元に戻る。

「アカツキ」

「分かったよ、ちゃんとやるさ」

「そうではない。来たぞ(、、、)

 最初、ヤクモはそれが誰か分からなかった。

 それまでと、あまりに魔力の出力が違ったから。

 桁違いに膨大な魔力。

 一筋の光が防壁を突き破り、土塊に降り立つ。

「よくぞ《アヴァロン》を守ってくれた、《カナン》の騎士達よ。ここから先は、余に任せるがいい」

 《騎士王》が、そこにいた。

 彼女を見ても、アカツキの態度は変わらない。

「こちらから赴く手間が省けた」

「……人間か? 誰であろうと、侵入者は許さぬ」

「許さなかったらどうなるんだ?」





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