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たとえ夜を明かすのに幾億の剣戟が必要だとしても【Web版】(書籍版タイトル:幾億もの剣戟が黎明を告げる)  作者: 御鷹穂積
オールドプロミス→ニュークローズ

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233/307

233◇連携

 



 アカツキが時間稼ぎをしているのは分かっていた。

 動く屍と化した騎士達の魔力炉は模擬太陽の光によって活性化している。

 円卓レベルともなれば、じきに膨大な魔力量になる。

 防壁を破られてしまうだろう。

 だが、アカツキは強い。彼を無視して屍騎士を止めようと動けば阻止されるだけでなく隙きを晒すことになる。彼相手にそれは避けねばならない。

 魔力が防壁突破が叶う量に達するまでの短い間に倒すのは、難しいだろう。

 彼はまだ底を見せていない。

 視界を封じるのは効果的だが、見えなくなって困るのはヤクモも同じ。

「おい」

 その声は、ヤクモのものでもアカツキのものでもない。

 壁越しに聞くような、ぼやけた声は木箱の中から発せられた。

 潜んでいる魔人だろう。

「邪魔するなよランタン。サムライが絶滅していなかったことを、ヤマトとして喜んでいるところなんだ」

「知ったことか。高魔力の騎士共がどんどん集まってきている」

 乱暴な口調だが、声は女性のものに聞こえる。

「元々忍ぶつもりはなかっただろう」

 異変を知った騎士達が近づく気配はヤクモも察知していた。

「《騎士王》とやる前に許容量を超えたらどうするつもりだ」

「なぁランタン、下手なこと言うなよ。ヤクモは些細なことも聞き漏らさない奴なんだ」

 許容量。彼が相手どれる敵戦力という意味合いの比喩でなければ、魔法に関するものか。 

「貴様こそ戯れはよせ。たかが一騎に時間を掛け過ぎだ」

「無駄を愛せないなんて可愛そうな奴だな。生きてて楽しいか?」

「……アカツキ、貴様」

「冗談だよ。分かってる」

 会話している間も、自然体でありながら隙きが無い。

「というわけでは済まないな、ヤクモ。次で終わらせよう。どこかに『治癒』持ちはいるだろう? 大丈夫、死なないよう気をつけて斬ると約束するよ」

 彼の中では、あくまで自分が上という認識なのだろう。

 傲慢とも言えるが、それを覆すだけのものをヤクモが示せていないというのもある。

「今度は、こちらから行くよ」

 言い終えたその時には、彼が刃の圏内に侵入していた。

 単純な速さではない。

 こちらの呼吸や瞬き・視線や意識の隙間を利用し、自身も特殊な動きをすることで『接近を認識し辛く』したのだ。

 目の錯覚などというように、しばしば瞳は現実を歪めてとらえてしまう。

 誰かが近づいてくる時、人は距離を正確に計っているのではない。余程近距離でなければ、相手の動きを見て『近づいてきているな』と判断しているだけ。

 ではどうやって判断しているか。足を前に踏み出しているだとか、手の振りだとか、肩や頭の些細な揺れ。それらの情報を無意識に取得し、処理する。

 無意識故に、そこに手を入れることは難しい。

 たとえば、判断材料となる足の動きや手の振りを意図的に変えると。

 目は実際よりも相手を遠くにいると判断してしまうことが、ある。

 もちろん、簡単なことではない。

 自身の肉体を完全に操り、また相手の視界を正確に想像出来る者でなければ。

 体格に劣る分、身体操法に力を入れたこの戦い方はまさしくヤマトのそれ。

「……これに反応するのか」

 アカツキの驚くような声。

 接近はされたものの、ヤクモは視覚と現実のズレを修正。

 とはいえ目で見えているものを現実に合わせるのは難しい。だから違う感覚を利用した。

 音だ。足音までは誤魔化せない。わざと、なのかもしれないが。

 閃霞に使った粒子は既に鎧に戻してある。

「同じ手品は通じない」

 彼はもう、迷わず回避を選ぶだろう。敢えてヤクモの攻撃に対応してみせようとはしない。

 袈裟懸けに落とされる彼の刃を受け止めた、その時。

 一組の剣士が飛び込んできた。

「……無粋だな」

 アカツキは驚かない。想定内だったのだろう。

 魔力防壁は通常、自身や仲間を守る為に展開される。外からの攻撃を阻むが、中から外への攻撃は通す性質がある。

 これを逆にすると、つまりヤクモとアカツキを閉じ込めた今回の例で言うと。

 内側から外側への攻撃を阻む、ということになる。

 魔力防壁の性質から言って、外側から内側への攻撃は通るのだ。

 人の侵入も可能。

 入ってきたのは、グラヴェル組。

 宵彩陽迎(よいいろひむかい)皓皓(こうこう)の刃は『両断』の美しい光を帯びている。

「刀……あぁ、ヤマトの少女か。こちらも美しいな」

 赫焉刀を動かし、ツキヒの反対側からアカツキへ向かわせる。

 瞬時に距離を詰めたグラヴェルが閃光のように宵彩陽迎を薙ぐ。

 彼は土塊の地面を蹴った。

 土が削られ、小石程の塊が舞い上がる。

 宵彩陽迎がその塊を斬ってしまう。

 それによって『両断』の効果は終了してしまう。

『なんで……』

 魔法の効果も知らないだろうに、あたりをつけて対応した。

 彼はヤクモと鍔迫り合いを続けたまま柄から刀身を伸ばし、ただの薙ぎを受け止める。

「魔法の才能に富んだ人間が接近戦を挑んでくれば、そりゃあ警戒する」

 アカツキは当然とばかりに言う。

 確かに怪しむまでは妥当だが、極短い時間で完璧に対応するとは。

 ――戦闘勘が鋭すぎる。

「じゃあ、警戒不足だね」

 グラヴェルの口を使った、ツキヒの声。

 彼の剣が、切られる。

 雪色夜切の刀身が纏う『両断』によって。

「……接近は魔力の移動を――」

 円卓の騎士戦からツキヒは学んだのだ。

 魔法は遠くに発動させようとすると魔力の移動が必要になり、そこで狙いがバレることがある。

 いかに『両断』という破格の魔法が使えるとはいえ、強者ともなればそれを回避するのは不可能ではない。

 だから使うならば接近するか、敵がこちらを意識出来ない程の距離を隔てて行うか。

 ツキヒはアカツキとヤクモの戦いを見て彼の反応のよさを理解した。

 だから自分の最大の攻撃と突撃を囮にしたのだ。

 既に鍔迫り合いしているヤクモにも近づくことで、その刀に極短時間で『両断』を纏わせた。

「お見事」

 アカツキの剣が少女に戻る。




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