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たとえ夜を明かすのに幾億の剣戟が必要だとしても【Web版】(書籍版タイトル:幾億もの剣戟が黎明を告げる)  作者: 御鷹穂積
オールドプロミス→ニュークローズ

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217/307

217◇騎士

 



「来たって、誰がです?」

 アサヒの疑問に、ヴィヴィアンが短く答える。

「騎士です」

「あーちゃん王の態度からするに、普通の騎士とは思えませんけど」

「あーちゃん王? ……えぇ、彼らは特に優れた武勇を示した者達です。民は円卓の騎士とも黄金林檎の騎士とも湖の騎士とも呼びますが、共通する階級などはありません。その戦力は単騎での魔人戦にも対応可能と言われています」

「それは、闇の中で?」

「えぇ」

 一口に魔人と言っても色々あるが、優秀な領域守護者であるということだろう。

 聞けば、彼らの内数組は《ヴァルハラ》に置いてきたのだという。

 《カナン》が、師を含む領域守護者達を《エリュシオン》に残してきたように。

 扉を開くと、三組の騎士達が地面に片膝について待っていた。

「楽にしろ。で、何用だ」

 彼らが何か言うより先に、アークトゥルスは話を進める。

 アークトゥルスの言葉を受けて立ち上がった彼らの内、一人の青年が口を開く。

「……そちらは客人でしょうか」

「あぁ、ヤクモとアサヒ。《カナン》の《黎明騎士デイブレイカー》候補だ」

 青年が訝しむように兄妹を見る。

 隠しているのではなく、純粋に魔力がないのだと気付いたのだろう。

 そんな輩が《黎明騎士デイブレイカー》候補と言われて、素直に信じられないのは当然。

 青年はそんな感想を口には出さなかった。

「そう、ですか。《カナン》の……」

 青年の視線に、違和感を抱く。

 戦士としての兄妹の技量を疑っている、というものだけではない気がした。

「そして余は、これから客人らをもてなさねばならん。言いたいことがあるならさっさと述べよ」

「……では、そのように。ですがその前に、客人を部屋に案内されてはいかがかと」

 つまり、部外者に聞かせる内容ではないと言いたいのだ。

「不要だ。今話せ」

「しかし」

「二度は言わん」

「承知しました」

 有無を言わせないアークトゥルスの圧に、青年は不承不承といった具合に応じる。

「此度の《カナン》訪問による、魔石の確保が必要量に届いていないとのことですが」

 都市間の交流は単なる情報交換に留まらず、交易も含まれる。 

 既に《アヴァロン》の魔力不足については聞いていたから、驚きはしない。

 民を捨てない道を貫くこの都市でも、魔力不足は問題になっている。

 だから、《カナン》から魔石を購入なり交換なり出来ればという思惑があったのだろう。

 そして青年が言うには、それは目標となる値に届いていない。

「《ヴァルハラ》奪還による魔石回収に続き、二度も目論見が外れる形となっております」

 ――なるほど。

 考えることはみな同じ。

 こちらが《エリュシオン》奪還に踏み切った理由にも、魔石回収は含まれる。

 こちらは敵の魔人が大量の魔力を蓄えていた為にその目的も果たせたが、《ヴァルハラ》はそうもいかなかったのだ。

「このままでは日照時間は減り続け、やがて《アヴァロン》は闇に閉ざされましょう」 

 悪循環なのだ。

 人々から魔力が回収出来ないと、それだけ模擬太陽が輝く時間を短くするしかない。

 だが日照時間を短くすると、人の魔力炉が活発化する最大時間が短くなり、回収可能な魔力量に影響が出る。

 作物の成長や、領域守護者が戦闘に回せる魔力にも。

「前置きが長い」

 だが、アークトゥルスにはそんな話の内容が本題でないと判断したらしい。

 そしてそれは、当たっていたようだ。

「……《ヴァルハラ》にしろ《カナン》にしろ他都市にしろ、今後魔石の取り引きは可能です。秤が釣り合えば取り引きは成立しましょう。その為には、魔力に相応しい何かを、こちらが差し出さねばなりません」

 《カナン》も余裕とはいかないが、今回の魔石回収によって危機から脱したのは事実。

 魔力と釣り合うだけの何か、というものが提示されれば取り引きはするかもしれない。

 ヤクモは判断する立場に無いが、有り得ないとも言えなかった。

「……申してみよ」

「我らが他都市に優っている点と言えば、みずう――」

「却下だ」

 答えを決めていたように、アークトゥルスは言った。

 相手が何を言うかまで、彼女には分かっていたのだ。

「アークトゥルス様、ですが」

「湖の水は売らない。この都市に住まう者に与えることも客人に振る舞うことも惜しまんが、取引材料には決してしない」

「せめて、理由をお聞かせください。そうも頑なに取り引きを拒むのは何故です」

 水。

 水不足に悩まされる都市もあると聞く。

 確かに食料、水、魔石は人の痛みに不可欠なもの。

 充分に取引材料にはなるだろう。

 以前から話題に出ていたことが窺えるが、どうやらアークトゥルスは断固として反対しているらしかった。

「この水は、何かと引き換えにしてよいものではないのだ」

 具体的とは言えない回答に、騎士達は不満の表情を浮かべる。

 青年は一瞬兄妹を見たが、すぐにアークトゥルスに視線を戻した。

「……加護と関係が?」

「くどいぞ」

「我らにも話せぬと?」

「話は終わりか?」

 アークトゥルスの態度は険しさを増していた。

「……王はお疲れです。本日はお引取りを」

 ヴィヴィアンが話に介入すると、騎士達は諦めるように引き下がった。

「お疲れのところ、失礼しました。ですがどうかお忘れなきよう、この都市に迫る危機を」

 騎士達は帰っていく。

 アークトゥルスは先程までの空気が嘘であったかのように笑顔になった。

「腹が減ったぞモル」

 追求は少なくとも、今は受け付けないという意思表示だろう。

 疑問はあるが、無理に聞き出す場面でもない。

「うん、腕を振るって作っちゃうよ!」

 応じるように、モルガンも両拳をぐっと握る。

「デザートも多めでな」

「抜きでしょう」

「ちっ……」

 アークトゥルスは悔しそうに表情を歪めた。




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