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198◇視線

 



「退屈だー、退屈だー、退屈すぎるー」

 《エリュシオン》上空。

 人の魔力探知範囲から大きく外れる天空の只中で、眠るような姿勢をとりながら不満を垂れるのは魔人・ユウロ。頭の後ろで手を組み、星もない夜空を見上げる。星なんて見たこともないが。

 禁忌の研究に手を出した魔人・カエシウスの処分及びその被害者保護を(あるじ)に命じられた彼は、同じ命令を受けた魔人・ビスマスの意向に沿って静観に徹していた。

 人類が被害者達を傷つけることがあれば力づくで保護するが、その必要があるかどうか見極めるというのだ。

 ユウロからすれば今すぐ侵入して邪魔者を全員殺せば済む話なのだが、生憎とビスマスの方が格上。

 逆らって戦うというのも面白そうではあるのだが、ユウロは従うことにした。

 ビスマス個人に思うところはないが、(あるじ)を悲しませると思うと躊躇われたのだ。

 とはいえユウロは魔人。

 ただ一人(あるじ)を定め、そこへ集った群れの一体ではあるが、魔人なのだ。

 強さと、それを証明する為の戦いに強い関心がある。

 眼下に《黎明騎士デイブレイカー》がいるというのに、これではまるで『お預け』だ。

「退屈過ぎて死んじまう~」

「黙れユウロ」

 腕を組んで空に立つビスマスが、短く一言。

「んなこと言ったって、退屈なんすもん」

「帰還しても構わん、貴様だけな」

「いやいや、サボるつもりはありませんって。プリマサマに『悪い子だね』って言われたくねぇし」

 人類や多くの魔人が魔王と呼ぶ存在こそが、二体の主人だ。

「ならば黙っていろ」

「老人と違って若者は無意味にぼ~っとするのに限度があるんすよ、知ってました?」

「知ったことか」

「千年も生きてたら一日二日くらい一瞬なんでしょうけど、こっちは若いんで」

「さすがは十年級(トドル)だ」

「それやめてもらえます?」

 先に皮肉を言ったのは自分だが、思わず渋面になってしまう。

 生きた年数と実力は無関係だが、人類と違って魔人は年を経ることによる魔力炉の衰えがない。

 弱い魔人は早々に他の魔人に殺されて糧となるので、長く生き残った者はそれだけで強者ということになる。

 強者に従属するにしても、従えるだけの価値を見出してもらえねばやはり殺される。

 長生きというのは、それだけで説得力があるのだ。

 強さの証明になる。

 逆に、実力はあっても年若い者は下に見られる傾向があった。

 力で劣るくせに言葉ばかり強い輩は殺せばいいが、気分が晴れることはない。

 下に見られた、という事実は消せないからだ。

 ビスマスからは侮りや嘲りを感じない。故に屈辱が殺意に発展することはないが、嫌な気分にはなる。

「退屈ならば、下を見ろ」

「人間なんて見てもなぁ。《黎明騎士デイブレイカー》ったって普段何してるかなんて興味湧かないっす」

「西の縁を見ろ。昇降機付近だ」

「はぁ……」

 他にやることがあるわけでもないし、言われた通り見る。

「……? 人間のガキ? まぁ粒ぞろいと言えなくもない、か……? どーかしたんすか?」

 壁の外へ向かおうとしているのか、ぞろぞろと人間の子供が壁の縁へ上ってきていた。

「夜鴉が混ざっている」

 よく見てみると、確かにその通りだった。

「あぁ、確かに。なんか二匹だけ服も違いますね。他は同じのが何匹もいるのに。《黎き士》と似てるっちゃあ似てっかな?」

「あれがカエシウスを殺した」

「――――」

 一瞬、思考が止まる。

「正確には、《黎き士》と共闘したようだが」

「……聞き耳立てたんですか? 器用っすね」

 ビスマスくらいの者となれば、この距離で人間共の会話を聞くことくらい可能だろう。

 それは問題ない。

 思考が止まったのは、聞き間違いを疑う程に有り得ないことだから。

「いやいや……それはないでしょう。魔力なんて感じないっすよ?」

「《黎明騎士デイブレイカー》だそうだ」

 思わず飛び起きる。

「はぁあ? いやいやいや、魔力無しが? 冗談か何かでしょ」

 黒髪の少年と、白髪の少女。

 この二匹が《黎明騎士デイブレイカー》?

 才能の片鱗も感じない。

 魔人なら生まれたその日に死んでいるレベルだ。

 だがビスマスはそんなくだらない嘘をつかない。

 ならば少なくとも、人間達は眼下の二匹が《黎明騎士デイブレイカー》だという会話をし、ビスマスはそれを真実と判断した。

「ふぅん……《黎明騎士デイブレイカー》ね」

「どうやら《カナン》へ帰還するようだ。帰還後は《ファーム・ヴァルハラ》奪還に向けて動くと」

「混血はいないから、まぁ無視でいいんでしょうけど」

 どれか一体でも連れ帰るという状況であれば手出しや追跡も考えるが、そうでないならば見送る他ない。

 任務とまったく無関係だからだ。

「興味が湧いたか?」

「まぁ、正直かなり」

 想像がつかない。

 《黎明騎士デイブレイカー》ということは、人類が言うところの特級相当を単騎で討伐したということ。

 ミヤビのような歴戦の戦士であればこちらも把握しているが、彼らのことは知らない。

 《黎明騎士デイブレイカー》になったばかりなのだ。

「《カナン》の戦士で……最近《黎明騎士デイブレイカー》になったって……まさか」

「クリードの死は《黎き士》ではなく奴らによるもの、という可能性がある」

 魔力も無く、どうやってクリードを殺したのか。

「名前。名前はわかります?」

「ヤクモだ」

「ヤクモね。へぇ」

 よく観察してみれば、確かに身のこなしからして遣うと分かる。

 肉体を鍛えるだけならばまだしも、使いこなせる者となれば稀だ。

 人間となれば特に。

「退屈は紛れたか?」

「《カナン》を落とす予定とかないんすかね」

「無い」

 知ってはいたが、ビスマスはきっぱり否定。

「《黎き士》だけじゃなくて、魔力無しの《黎明騎士デイブレイカー》。更にもう一組いましたよね確か」

「《地神》だったか」

「豊作だ。プリマサマの脅威になるかも」

「あの御方がお決めになることだ」

「そうですけど」

 追いかけて喧嘩でも吹っ掛けようかという考えがよぎるが、ユウロは耐えた。

 少年達が遠ざかっていく。

 どうか彼と戦う機会が訪れますようにと願いながら、ユウロはしばらく彼を眺めていた。





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