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夢見る星の銀花の大地  作者: らいん
第1章
6/21

実力テスト

 放課後になった。

 それだけなら当たり前なのだが、目の前に不思議な光景が広がっていた。教室に沢山の女の子がいるのだ。

 クラスメイトの約半分は女子なのだから居てもおかしくはないが、どうやら別のクラスの子も集まってきているようだ。

 教室内に入ってこないで、廊下の窓から中をチラチラと窺っている女の子も複数いる。

 どうやら彼女達のお目当てはレクス――の前の席に座っているラディバートのようだ。

 この男、いつの間にこんなモテモテになっていたんだと記憶を探る。



 昼食は学食で一緒に食べた。

 今朝のエリルの騒動のときにやった勝負は結局こちらの負けだったので、約束通り学食で奢ったらメニューの中で一番高いティーメル産黒毛牛のステーキ(2480バルシ+ごはん大盛り100バルシ)とか注文された。

 ついでにクラスメイトも誘った結果、男5人でのむさ苦しい昼食だった。


 午後の授業は今日も担任からの雑学講義だった。

 森に生えている食べられるキノコや野草の見分け方、野営をする際の注意点などを説明される。

 特にキノコの見分け方は「今後の実力テストなどで重要になるからしっかり復習しておくように」と言い残してから担任が出て行き、本日の授業は終わった。


 放課後になり、一息吐いたところで女子に囲まれた。目の前にいたラディバートがである。

 考えてみてもラディバートが急にモテ出した理由がわからない。もしかして昼に学食でステーキを食べていたから金持ちのイケメンと勘違いした女子が寄って来ているのだろうか。

 本当はこちらにステーキを奢らせる気で勝負を持ち掛けて、おかげで素うどんを啜るはめになったのに。


「レクス、今パーティー組むって話が出てるんだけど、オマエも一緒にどうだ?」

「えっ、パーティー?」


 女子に囲まれていたラディバートが突然パーティーに勧誘してきた。


「ああ、近々パーティーを組んでの実技試験があるって先生が言ってただろ。それがどうやら最大5人まで組めるって噂らしくてさ、オマエもオレのパーティーに入らないか?」

「そういえばその試験に合わせて今は特殊なカリキュラムになってるんだっけ」


 どうやらラディバートを囲んでいる女の子達は、彼にパーティーを組もうとお誘いにきているようだ。確かにラディバートほどの実力があれば前衛として申し分ないだろう。

 レクスがどうしたものかと少し悩んでいると、妙にトゲトゲしい視線を感じた。それも複数である。

 よく見ると周りの女の子達がレクスのこと睨んでいたり、嫌そうに顔をしかめている。どう見てもアウェーだ。

 ラディバートと同じぐらいの実力はあると思われているハズ……なのだが、やはり顔か。ラディバートの方がイケメンで背も高いからなのかとショックを受ける。


「あー……、せっかくのお誘いだけど、今回はちょっとパスしておこうかな。皆が誘ってくれてるんだから、ラディもその子達と組んであげたらどうかな?」

「ん、そうか? オレとレクスが揃えば前衛は完璧だと思ったんだが、まぁ無理に誘ってもしょうがねえしな」


 レクスの返答にラディバートは残念そうにするが、周りの女の子達はあきらかに安堵した表情を浮かべる。やっぱり顔なのか、ちくせう……。


「また機会があったら誘ってよ。それじゃ俺はそろそろ帰るから」

「おう、お疲れー。また明日なー」


 このまま教室に居ても虚しくなるだけなのでラディバートに別れを告げて教室を出る。

 教室を出る際、入口付近で中を窺っていた数人の女の子がレクスを見ると波が引くように道を開ける。

 別に取って食べたりはしないのだが。解せぬ。



「レクスさん、ごきげんよう」

「リーシアか、お疲れ様。一緒に帰るかい?」

「はい、もちろんです」


 教室棟を出た所でまたリーシアが待っていたので、そのまま一緒に寮へ向けて歩き出す。

 先程、複数の女の子から冷たい反応をされたばかりなのでリーシアが妙に可愛く見えた。もしかしてこの子は天使なのかもしれない。


「今朝はレクスさんにしては珍しく大暴れしてましたね」

「見てたのか……」

「ええ、昨日は様子がおかしかったので、今日辺り何かあるだろうなと思って見学させていただきました」


 クスクスと笑うリーシアに全て見透かされていたようで、気恥ずかしくなる。


「でも今朝の乱闘騒ぎ……、いえ、模擬戦の効果でラディバートさんの方はかなり株が上がったみたいですね。1年生女子の間で『イジメられてた女の子を颯爽と助けて、クールに去っていくイケメン』として昼休みは話題が持ち切りでしたよ」

「ああ、それで放課後になってあの状況だったんだ……。って、あれ? 俺は?」


 エリルを助けたのはレクスも同じである。むしろ先に動いたのはレクスであるはずなのだが、なぜかラディバートの株だけ上がっているようだ。

 別に女の子にチヤホヤされたくてエリルを助けた訳ではないが、この扱いの差は何なのか。


「レクスさんの評価ですか? お聞きにならない方が良いと思いますけど」

「えっ何それ、凄い気になるんだけど。俺はなんて言われてるの?」

「そうですね、主に『キレると女の子相手でも容赦なく制裁を加える鬼畜』とか、『ラディバートさんに便乗して助けた女の子に恩を着せて、武器倉庫に連れ込んだロリコン』とか、『訓練と称して巨乳の女の子を転ばして乳揺れを楽しんでたチチスキー』と言った噂が流れてますね」

「なんでそんな根も葉もない噂になってるの!?」

「それはもちろん、わたくしが広めましたから」

「なんて事してくれちゃってんの!?」


 これで先程の教室での女生徒達の反応に納得がいった。

 リーシアによってとてつもなく酷い噂が流布されていたのである。天使かと思っていたら悪魔だった。最後のチチスキー以外全部嘘じゃないか。


「ふふふ、こうやってレクスさんの評判を地に落としておけば悪い虫が寄って来なくなると思いまして」


 悪い虫本人に言われてしまった。


「でもラディだって女の子を伸してたよね? なんで俺だけ……」

「ラディバートさんは女の子には手加減をした一撃しか入れてなかったですよ。レクスさんは全力で切り伏せたり投げ飛ばしたりしてましたから。生徒どころか先生ですら引いてましたよ」


 なんてこった、せめてもの情けで顔は狙わなかったんだけどと今更ながら少し後悔した。


「やってしまったことは仕方ないけど、武器倉庫に連れ込んだってのは酷すぎない? 武器を取り替えたらすぐに出たと思うけど……」

「レクスさんがデュートバレスさんを倉庫に連れ込んだ時点で周りの女の子達は顔を赤くして目を反らすか、ラディバートさんへ熱い眼差しを向けてましたからね。あることないこと吹き込んでおきました」


 リーシアが悪びれた様子もなくのたまう。もうヤダこの子、返品したい。


「ああそういえば、レクスさんに一つご報告がありました」

「まだ何かあるの……?」


 クーリングオフとかできないだろうかと悩んでいたら、リーシアが何かを思い出したように手を打つ。


「デュートバレスさんを蹴ったあの男性、ベルネアの地方貴族であるウォルス子爵の次男だったんですけど、あの騒動の後すぐに学園を退学されたようです」

「……は? 退学? もしかしてクビになったの?」


 あのチンピラみたいな風貌で貴族だったのかと驚いたが、それよりも不穏な単語が聞こえた。

 いくらデュートバレス家の娘をイジメていたとはいえ、あれでクビになるとは思えないが。


「いえ、自主退学だそうです。彼はわたくしと同じ9組の生徒だったのですけど、『己の未熟さを知った。修行の旅に出る』と退学されたのだとか。午後の授業開始前に担任の先生からそう説明されました」

「それ本人が自分からそう言い出したの?」

「それがですね、ミリスに調べてもらったところ、なんでも寝かされていた医務室から書き置きだけ残して忽然と姿を消していたようです。ただ書き置きは本人の筆跡で間違いなかったとか」


 何か凄くきな臭いモノを感じた。あの男は場慣れしていたし、あれくらいでへこたれるような感じではなかったが、突然書き置きだけ残して消えるとは。


「学園長に話を聞きに行った方が良いのかなぁ……。これ絶対に何か隠してる予感がするよね」

「レクスさんにすら隠し事をするとなるとそれ相応の案件ということになりますから……。できれば杞憂であって欲しいのもですね」

「まったくだよ……。ああ、それはそうとリーシアって9組だったんだね。知らなかったよ」


 9組ということは1組から一番遠い教室である。

 リーシアが入学すると聞いて、慌てて学園長に『リーシアとは別のクラスにしてください。あとできるだけ離れた教室が良いです。お願いします、なんでもしますから』という手紙を送っただけのことはあったようだ。

 ちなみに学園長からは『なんでもって言いましたね?』という返事が返ってきた。いつか無理難題を押し付けられそうで戦々恐々としている。


 と、レクスの言葉にリーシアがピタリと足を止める。

 急にどうしたんだろうと振り向くと、そこには般若がいた。


「あらあら、嫌ですわレクスさんったら。まさかわたくしのクラスを今までご存じでなかったと? もう4日も経ってますのに。ふふふ、わたくしなんて1日目の夜にはレクスさんのクラスから座席の位置や交友関係まで把握していたといたんですよ? レクスさんはそんなにわたくしのことに興味がございませんか? それともなんですかデュートバレスさんの巨乳にばかり目がいってわたくしは眼中にないと? あは、あはははははは!」

「痛い痛い痛い! 待ってリーシア! そっち方向に関節は曲がらないから! 折れる! 折れちゃう! あとそこまで初日から知っているのはさすがにストーカぁあだだだだだだっ! はいそうですね夫婦なら当たり前のことですねすみません!」


 このあと滅茶苦茶折檻せっかんされた。





 入学から5日目。

 レクスは始業の鐘が鳴る直前にギリギリで登校してきた。

 昨夜はリーシアが寝かせてくれなかったので寝不足なのだ。これだけ聞くと『昨夜はお楽しみでしたね』とか言われそうであるが、実際には色っぽい話など微塵もなかった。

 同じく寝不足であるはずのリーシアは疲れを微塵も感じさせずに生き生きとしていた。

 夜通し説教のようなものが行われ、2人とも途中で疲れ果ててそのまま眠ってしまった結果、リーシアはレクスの部屋にお泊りする形になったからだ。

 既成事実はないけれど、また捏造されないかと非常に不安である。


 もうこのまま机に突っ伏して寝てしまおうかと考えたところで担任のバルバス先生がやってきた。

 今日も昨日と同じ訓練なら寝不足だとちょっとキツイなーと思っていたら、出欠確認を終えたバルバスが全員20分以内に体育館に集合するようにと告げて、そのまま教室を出て行く。


「体育館に集合って、今日は球技でもやるのか?」

「でも着替えるようには言われなかったし、違うんじゃない?」

「だよなぁ。おっ、どうやら1年全員が体育館に移動してるみたいだぜ」


 クラスメイトに混じってラディバートと話ながら廊下に出ると、他のクラスからもぞろぞろと人が出てきて全員が体育館を目指していた。

 そのまま人の流れに従って体育館まで移動すると、中に入って好きな場所で待機するようにと指示をしている教師がいた。


 体育館は入学式が行われた講堂と比べて半分以下の広さしかないが、講堂と違い椅子などが設置されていないため同じぐらいの広さに錯覚しそうになる。

 しばらくして体育館の舞台袖からマイクを片手に教頭が出てきた。


『皆さん、静粛に。これより学園長先生よりお話があります』


 教頭のその一言で体育館内が静まり返り視線が集まると、教頭が出てきた舞台袖と同じ方から学園長が姿を現し壇上へと上がる。


『皆さん、おはようございます。すでに各担任の先生から少しだけお話がいっていると思いますが、実力テストの一環として少人数でパーティーを組んでもらい、学園が用意したクエストに挑戦していただこうかと思います。あくまで皆さんの実力を拝見させてもらうためのモノですが、好成績を収めるとその分だけ成績単位や学内ポイントが加算されますので頑張ってくださいね』


 学園長の言葉に少しだけ体育館内に喧騒が生まれる。


『今回の実力テストでは、森林の探索において皆さんが適切な対応を取れるかが評価基準になっていますので、忘れないでください。それと、試験の判定には私も参加させてもらいますので、皆さんのご活躍を楽しみにしています。以上です』


 それだけ告げると、学園長は教頭を伴って出てきた方の舞台袖へと下がって行く。それと入れ替わるように今度は端に控えていた学年主任の教師が壇上に上がった。


『ではこれより実力テストの詳細なルールを発表する。聞き逃すと自分が不利になるだけなので黙って最後まで聞くように!』


 学年主任の言葉に少し騒がしくなっていた体育館内が一気に静まる。生徒達は一字一句聞き逃さまいと誰もが耳を澄ませる。

 そして学年主任から説明されたルールは次のような内容だった。


 ・開催日は2日後の月曜日で、場所は学園地下の特殊な装置にて行ける亜空間フィールド。環境設定は森林で季節は夏。

 ・時刻は朝8時半から11時までの間の好きな時間から開始して良い。亜空間フィールドに入った時点でクエスト開始とみなされ、7時間以内に指定された2ヶ所のチェックポイントに到達すること。

 ・パーティー人数は最大で5人まで。中で別々に分かれて行動し、同時に2ヶ所のチェックポイントを目指すのも有り。ただしクエスト終了までに要した時間は成績などに影響しない。

 ・モンスターとトラップは全て魔法で作られた幻影なので攻撃などが当たっても直接的なダメージは無いに等しいが、一定値以上のダメージを受けると死亡扱いとなり強制的に学園に戻される。全滅した場合はその時点でクエスト失敗とみなされ、成績や学内ポイントは当然ゼロとなる。

 ・成績と学内ポイントは個人ではなくパーティー単位で管理され、死亡者が出るとそこから減らされる。

 ・成績発表後、獲得した成績と学内ポイントはパーティーメンバー全員に均等に分配される。

 ・タイミングは自由だが、クエスト中に一度は休憩を入れ昼食を取ること。昼食は調理済みのモノでもその場で調理などしても構わないが、亜空間なので食材の採取はできない。

 ・当日に追加ミッションが与えられるが、それは達成してもしなくても構わない。

 ・なお、クエスト中の行動はトイレのようなプライベート部分を除きほぼ全て監視されることになり、そのときの行動の一つ一つが成績の減算対象になる場合がある。


『更に細かい制限などについてはパーティー登録時にルールブックを渡すのでそちらを読むように。それでも不明な点があった場合は教師に質問するように。ルールは以上だ』


 学年主任の説明が終わると、少しだけ弛緩した空気が戻ってくる。


『では次に、パーティー登録について説明する』


 ただしそれも、その一言でまた緊張した空気に戻った。


『パーティーは先程も説明したように諸君らで自由に組んでもらって構わない。5人以内であれば他所のクラスの者と組んだり、腕に覚えがあるのならソロで挑んでも良い。パーティーが組めたらそちらの端で待機している教師の所にメンバー全員で申請しにいくように』


 学年主任の指差す方を見ると出入り口の横に簡易テーブルが複数並べられており、ペンだけが置いてあるテーブルと紙の束が置いてあるテーブルがあった。

 そして紙の束が置いてあるテーブルには各クラスの担任だと思われる教師達が椅子に座って待機している。


『体育館を出る前に必ずパーティー申請済ませてから外に出るように。もしパーティー申請をせずに外に出た生徒がいた場合はテストを放棄したものとみなされ、その瞬間に0点となるので注意するように。なお、本日の授業はない。パーティー申請が終わったら速やかに体育館の外に出て、後は帰って寝るなりテストに備えてミーティングをするなり自由だ』


 つまり今日は実質パーティーを組むだけで良いらしい。むろんすぐに家に帰ってそのまま寝たりするような生徒はいないだろうが。


『以上で、何か質問のある者は?』


 学年主任の言葉に静まり返る体育館内。実際に質問があってもこの空気の中で質問をするのは難易度が高そうだと思った。


『質問は無いようだな。では只今よりパーティー申請を受け付ける。解散!』


 そう言い残し、学年主任が壇上から降りる。

 空気に呑まれ、生徒達が顔を見合わせる中でいくつかパーティー勧誘の声が上がった。そしてその声を皮切りにあちこちで喧騒が生まれ、それが爆発的に広まっていく。


「よっしゃ、そんじゃオレもそろそろ行くわ!」


 横で話を聞いていたラディバートが体育館内の騒音に負けじと声を張り上げる。


「もうパーティーは決めてるの?」

「おう、昨日の内に5人編成だったら組もうって約束した連中がいるぜ。あとはこの中から探して合流するだけだな」


 ラディバート以外にも予めパーティーを組む約束をしていた生徒達がいるのだろう。あちこちで友達の名前を呼ぶ声が聞こえる。


「レクスはまだ決めてねぇのか?」

「まだ決めてはないけど、あてはあるから合流待ちかな」

「そっか、んじゃお互い頑張ろうぜ!」

「うん、油断しないようにね」


 人混みの中に消えていくラディバートとは逆に、レクスは人混みの少ない方へと歩いて行く。出入り口から少しだけ離れた壁際に移動すると、壁に背を預けた。


(とりあえず人が捌けるまでは様子見かな)


 そう思いながら、しばらく周りを観察してみることにした。

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