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夢見る星の銀花の大地  作者: らいん
第1章
15/21

金策

予定していたところまで書こうとしたら、長くなりそうだったので半分に分けることにしました。

なので今話と次話はいつもより少しだけ短いです。

 テストの結果発表があった翌日の土曜日、レクス達は再び3人で購買棟を訪れていた。

 本日のお目当ては防具である。6階を中心にレクスは軽鎧を、エリルとリーシアは頭用の防具やアクセサリー関係を見て回っている。


「レクスさん。見てください、この仮面! カッコイイと思いませんか!?」

「お、おう」


 エリルが鼻と目の辺りだけを覆い隠すような仮面を見つけて嬉しそうにしている。この子はいったい何を目指しているのだろうか。


「う~ん、18000バルシですか。昨日4万ポイントも貰えましたし、悪くないですね」

「い、いや、それはちょっとエリルには似合ってない気がするな~?」

「む~、そうですか? ならもうちょっと違うデザインのを探してみます」


 エリルのポイントなのだから好きな物を買えば良いと思うが、さすがに使うかも怪しい仮面を買うのは止めておきたい。それとも本当にあの仮面を使うのつもりなのだろうか。


「レクスさん、とても素敵な物を見つけましたよ。なんでもカップルで身に着けていると必ず結ばれるペアリングだそうです」

「お、おう」


 エリルと入れ替わるようにしてリーシアが2つの指輪を手にやってきた。

 言葉の通りに捉えると幸福を呼ぶアイテムのように聞こえるが、指輪のデザインがなんというかもの凄く禍々しい。どう見ても呪われた装備品としか思えない。


「2つセットで48000バルシですか。これでわたくし達の未来が約束されるのならお安いですね」

「い、いや、そんなものなくても俺とリーシアの未来は約束されているようなものだし、必要ないんじゃないかな?」

「あらいやですわ、レクスさんったら。でもそうですね、わたくし達ならこのようなモノがなくても結ばれるのは必然でしたね」


 必然かどうかは知らないが、なんとか呪いのアイテムを装備させられるのは免れたようだ。必ず結ばれるとか本当にそんな効果があるとは到底思えないが、万が一ということもあるので絶対に着けたくない。


 リーシアが(呪いの)指輪を元の場所に戻しに行ったので、レクスは目の前に陳列されている軽鎧の品定めを再開する。

 今レクス達がいる店は、この大陸で一番大きな防具販売のチェーン店である。チェーン店なので特に面白みのない普通の鎧しか売っていないが、質は一定水準で保証されている。


 この店の鎧の販売方法は半オーダーメイドとなっており、まず初めに店舗内に展示されている鎧を見てデザインを選ぶ。気に入った物が見つかれば採寸して材質を選べば、あとは注文通りの鎧を作ってもらえる仕組みだ。

 当然、体格が大きかったり体を守る部位が多くなるほど素材を多く使うので値段も高くなるのだが、一般的な軽鎧を鉄製で注文すれば40万バルシ前後。鋼製なら70万バルシ以上。ミスリル製ともなると桁が1つどころか2つも違ってきたりする。


(この前リーシアとカタログを見ていたときにも思ったけど、想定していたより高いな……)


 レクスの身長は平均より低い方なので、少しだけ安上がりになるのが今はありがたい。

 さすがにミスリル製が欲しいとは言わないが、せめて鋼製ぐらいは買っておきたいので、そうなると要所要所を守るようなデザインのモノを選んでコストを削減するべきだろうか。

 軽鎧を眺めながら少しずつパーツの少ないデザインの方へと移動して行く。展示用マネキンから肩当てが無くなり、膝や肘が露出し、手甲や脛当てまで無くなった。

 最終的に残っているのは胸当てと腰周りだけとなったので、これはさすがに鎧としては機能しないかもしれない。


 そこから先は女性用の鎧となっているのかビキニアーマーを着たマネキンがいくつか展示してあった。

 やはりビキニアーマーは素晴らしい。ついこの間も放課後にビキニアーマーの良さについてベアードと2時間ぐらい語り合ったばかりなのに、こうやって実物を見るとまた語りたくなってきた。

 しかしマネキンが着ているのではどこか物足りない気もする。胸が小さすぎてポロリしそうな感がないからだろうか。鎧から零れる柔肉が素晴らしいのだ。

 今度、リーシアがいないときにエリルを連れて来て試着させてみるのも良いかもしれない。あのドジっ子ならただ普通に着ているだけでも素敵なサプライズが期待でき――。


「レクスさん、凄く物欲しそうな顔で見つめていますけど、もしかしてそれを買うつもりなんですか?」

「え?」


 いつの間にか戻ってきていたエリルが引き攣った顔でこちらを見ていた。エリルの気配にすら気付かないほど思考に没頭していたらしい。


「わたくしとしてはこちらのデザインの方がレクスさんには似合うと思うのですが。ああでも、色はやはり赤が良いと思うのでこれも捨てがたいですね」


 反対側にはリーシアまで居た。しかも似合うってなんだ。


「いや待って、違うから。これは俺が着たいとかじゃなくて……そう、こんなので本当に鎧として機能するのか考えていただけだから」

「アッハイ。ソーナンデスネ」

「うふふ、大丈夫ですよ。わたくしはレクスさんの趣味にケチをつけたりなんてしませんから」


 酷い誤解を受けていた。泣きたい。




「やっぱりこれが一番良いかなって思ってるんだけど、どうかな?」

「そうですね、よくお似合いだと思います」


 レクスが気に入ったのは、上半身は左胸を中心に体の左側を守るのに特化させたものだ。肘当ては両手に着いてあるが、手甲と肩当ては左にしかない。下半身は腰周りを中心に膝まである足甲とシンプルな普通の軽鎧である。


「私、鎧のお値段って知らなかったんですけど、これでも32万バルシもするんですね」

「ああいや、俺は鋼製にする気だから、このデザインでなら55万かな」

「ふぁっ!? おでん缶1833個分ですか!」


 おでん缶は1個が300バルシである。確かに約1833個分なのだが計算の早さの方がビックリだ。


「ええっと、前にレクスさんが私のことをお金持ってるって言ってましたけど、レクスさんの方がお金持ちだと思うんですけど?」

「ああ、エリルはまだ気付いてないみたいだけど、俺って特待生だし」

「えっ! そうだったんですか!?」

「うん、ほらこれ」


 レクスは自分の生徒カードをエリルに見せる。特待生の生徒カードはプリントされている校章の色が通常の白と違い銀色なので、パツと見では同じに見えるがよく見ると違っている。


「ほ、ほんとです! 今まで知りませんでした!」

「隠すつもりはないけど、積極的に言い触らすつもりもないからね」


 特待生は様々な恩恵を学園から与えられる。学費と寮費の免除に学園施設の優先利用など、そして毎月学園から生活費の受給だ。学園から支払われる生活費の金額は最低でも3万。好成績を収め続けたり研究成果を発表するなど学園の利益になることをすればそこから金額は上がっていく。


「特待生ということは、レクスさんって何か凄い力を持ってたりするんですか?」

「かもしれないね。何せ俺は学園長の推薦で特待生になったぐらいだしね」

「学園長先生の推薦でですか!? うわぁっ、やっぱり何かあるんですね!」


 エリルが期待の眼差しでレクスを見ていた。本当は身内贔屓、というよりこの学園が王立なのだから、王子のレクスが贔屓されているだけなので真実は黙っておこう。


「う~ん、でもさすがに55万はちょっと高いかなぁ? 1年ローンを組んで月々5万払いなら買えなくはないけど、生活費に困りそうだし」

「生活費でお困りになりましたら、わたくしが何とかいたしますよ。それよりもむしろ一緒に住んでしまえば早いですね、そうしましょう」

「さも名案みたいに言われても、そんなヒモみたいな生活したくないんだけど?」


 ローン払いのためにリーシアからお金を借りるのも、借金ループみたいでできれば避けたい。


「頭金を用意して、月々の支払い額を減らすのはどうですか?」

「それが一番現実的だよね。問題は頭金をいくら用意するかだけど」

「いくらぐらい払えそうなんですか?」

「昨日のポイントも合わせて、せいぜい9万ぐらいかな? 当面の生活費を残さないといけないし。仕方ない、ちょっと金策でもしようか」




 レクス達3人は街の中にある冒険者ギルドへとやってきた。

 最初は学内のクエスト掲示板を見に行ったのだが、良さそうな依頼が残ってなかったからだ。なんでも連休前の放課後にはあらかたの依頼は受注されてしまうらしく、完全に出遅れていた。


 リレットスノアの冒険者ギルドはかなり大きいが、ギルド内は明るく清潔な雰囲気だ。王都から離れているが、王国のお膝元にある王立学園の生徒がよく利用するだけあって比較的に治安も良い。

 そもそも土地柄的に凶悪なモンスターが街周辺にほとんどおらず、貼り出される依頼も初心者や学生向けが多いので、荒くれ者も少ない。


 レクスとリーシアは当然として、エリルも冒険者ギルドに来たのは初めてらしくシステムがよくわからない。ギルド内に学園生らしき姿はいくつか見られるのだが知り合いはいないようなので、まずは受付で話を聞いてみることにした。

 受付カウンターには3人のギルド嬢が座っていて、右の受付がちょうど空いたのでそちらに向かう。


「こんにちは。ご用件をお伺いします」


 そこに座っていたのは二十歳過ぎぐらいの若い女性だった。受付嬢をしているだけあって美人で声も可愛らしく、スタイルも抜群だ。リーシアがいなければ思わずナンパしていたかもしれない。


「お姉さん。よろしけば今度、俺と一緒にお茶でもあいだだだだだっ!」


 と思っていたらリーシアの前で無意識にナンパをしていて、わき腹を捻り上げられた。美人受付嬢恐るべし。


「ど、どうされました!?」

「あっ、いつもの発作が出ただけなので気にしないでください」


 突然蹲ったレクスに受付嬢が驚いて立ち上がるが、エリルがしれっとフォローになっていないフォローを入れる。非常に冷たい。


「あの。私たち初めて来たんですけど、クエストはどうやって受ければ良いんですか?」

「え? あ、ええっと……。初めてということはリレットスノア学園の新入生さんですか?」

「はい、そうです」


 受付嬢は気を取り直してイスに座ると業務を再開した。


「冒険者ギルドに来られたのが初めてとのことなので、最初からご説明させていただきますね。まずこの受付カウンターではクエストの依頼、受注、達成報告などができます。クエストを依頼したい場合は――」


 営業スマイルを浮かべた受付嬢が手馴れた様子でギルドの説明をしてくれたが、基本的には学内ギルドと変わらないようだ。登録料を払えば冒険者カードを発行してくれるらしいのだが、生徒カードで代用できるので2枚持つ意味はないらしい。

 一通り説明を聞き終えた後で、オススメのクエストがないか聞いてみた。


「オススメのクエストですか? それでしたら新入生さんはまずこちらの常設の納品クエストをやってみてはいかがでしょうか」

「常設の納品クエスト?」

「はい、街周辺の森などで素材を採取して来て頂ければ、納品された分だけ報酬をお支払いします。常設なので基本的に期限は決まっておらず、ノルマもありません。こちらが現在納品できる素材の一覧となっています」


 受付嬢から受け取った紙を見てみる。薬の材料となる薬草などをはじめ、錬金でよく使われる素材などが写真付きでいくつも載っており、納品するといくら貰えるかなどの報酬も記載されている。


「へぇ~、一角タヌキの角なんかも納品できるんだ。薬草とか集めつつ出てきたモンスターを狩れば効率が良いかも」

「はい。クソ狸の角はサイズで少し変動しますが1本で400バルシ前後になるので非常にオススメとなっています。乱獲して絶滅させるぐらいの勢いで狩りまくってください」

「あっはい」


 にこやかな笑顔のままで受付嬢が物騒なことを言い出した。一角タヌキに何か個人的な怨みでもあるのだろうか。


「他に何かご質問はありますか? わからないことはなんでも聞いてくださいね」

「ん? いま、なんでもって」

「はい、私にわかることでしたらなんでもお答えしますが?」

「じゃあ、仕事上がりの時間とスリーサイズをいだだだだだだあああああぁっ!」


 レクスのわき腹をエリルとリーシアが左右から同時に万力のような力で抉る。


「あの、また発作ですか? 病院に行かれた方が……」

「クエストについてはもう大丈夫です。ありがとうございました」

「レクスさんにはキツいお仕置きが必要ですね」


 エリルがペコリと受付嬢に頭を下げ、リーシアが不吉なことを呟く。2人にわき腹を抓られたままギルドの外へと連行された。




「それじゃあ、また後で」

「はい、ではまた後ほど」


 寮棟へと続く道の途中でリーシアと別れ、レクスは自分の寮部屋へと帰ってきた。

 ギルドを出た後で――レクスへの折檻が終わると――さっそく森へ採取に出掛けてみることとなり、戦闘服に着替える必要があったからだ。街の周辺の森は一角タヌキやゴブリンといった下級モンスターしか出現しないが、装備はきちんと整えておくに越したことはない。

 エリルは朝来たときからすでに戦闘服である例のワンピース風の服を着ていたので、そのまま街に残っている。今日は缶詰専門店の『くじらの卵』の会員カードのポイント5倍の日なので先にそちらで買い物を済ませておくそうだ。


 レクスはクローゼットからダウンベストとベルトを取り出し、ベストを着てベルトを巻くと今度は収納ボックスからウェストポーチと投射用の短剣を取り出す。

 短剣を全てベルトにセットしたところで部屋の呼び鈴が鳴った。随分と早い気がするがリーシアが来たのだろうかと玄関扉を開ける。


「ああ、やっぱりリーシアか。って、あれ? 着替えてないの?」

「はい。部屋に帰ったところで、ちょうど家からの使いの者がお父様からの手紙を預かってきていまして……」


 まだざっと読んだだけだが、なんでも現状について報告するようにと書いてあったらしい。末娘が城を出て2週間経つので心配で仕方がないのだろう。


「今から返事を書かないといけなくなりまして……。多分、3時間もあれば書けると思うのですが」

「う~ん、それだと森に着くのが夕方ぐらいになるね。エリルも待たせちゃってるし、今日は2人で行ってくるよ」

「わかりました。もし早く終わりましたらわたくしも後で合流しますので」

「うん、了解」


 と、リーシアが穏やか笑顔を浮かべたままレクスの両肩を掴む。


「ですので、2人きりだからとエリルさんと不埒な行いをしたら……、もぎます」

「しない、しません、しないから、手の力を抜いて。肩が外れそうなんだけど」


 2人きりとは言うが、休日ともなれば学園近くの森になら他の生徒も普通にいるだろう。人に見られるかもしれない状況の中で不埒な行いをして興奮するような趣味はない。もがれるのも嫌だし。


「そうですか。ならその言葉を信じると致しましょう」

「一応聞いておきたいんだけど、前にエリルを囲っても良いって言ってたのに、手は出しちゃダメなの?」

「それはあくまで2号としてならです。正妻であるわたくしを差し置いて、先にエリルさんに手を出すのは許しません」

「あー、うん。なるほど……?」


 よくわからないがそういう拘りがあるらしい。


「それじゃあ準備もできてるし、このまま出発しようかな」

「あの森は下級モンスターしか出ないようなので大丈夫だとは思いますが、お気をつけて。もし何かありましたらアレを使ってください。すぐに駆けつけます」

「うん、わかってるよ。リーシアも頑張ってね」

「はい。お父様にはとても充実した日々を送っていることを伝えて、余計な口出しをしてこないようにしっかりと釘を刺しておきます。そのようなことしなくてもお父様はわたくしには逆らえないのですが、念には念を入れておいた方が良いでしょうし。うふふ」


 それはそれでどうなんだと思いつつ、エリルとの待ち合わせ場所に向かって出発した。

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