結果発表
実力テストが終わってからの3日間は何事もなく過ぎ去った。
行われた授業のほとんどは座学だったが、実技指導の教師ほぼ全員がテストの採点に駆り出されているらしいので仕方がないのだろう。
モンスターについて勉強する魔物学のような、冒険者として役立ちそうな知識を教えてくれる授業なら座学でも楽しいのだが、国の歴史などの授業は小さい頃から散々聞かされてきた上に興味もなかったので非常に退屈だった。
体を動かす授業は体育があったが、グラウンドで普通に球技に興じるだけだ。
ちなみに体育は男女は別々で、別のクラスとの合同授業となっていて、1組は4組と7組が合同で、残りは2組と5組と8組、3組と6組と9組が合同らしい。
そしてテストが終わって4日目の朝、ついに結果が発表される日がきた。
朝から掲示板に結果が貼り出されるとのことなので、レクス達は3人で一緒に登校して掲示板へと向かう。
早めに登校したつもがすでに掲示板の前には1年生による人だかりが出来上がっていた。結果を確認するのも大変そうだと話ながら掲示板に近付くと、ラディバートを発見した。
「おはよう、ラディ。早いね」
「おっ。首位パーティーのお出ましか」
「えっ、俺達が首位なの?」
「おう。一番左上を見てみろよ」
いきなりネタバレを喰らってしまったが、探す手間は省けた。言われた通りに一番左上の1位を確認してみる。
1位 銀の幾星花 87点
☆エリルクム・デュートバレス(2組)
レクス・ディアス(1組)
リーシア・メティーナ(9組)
「ほんとだ、1位だ」
「本当に1位ですね」
「1位! 1位なんですか!? 見たいのに見えません!」
エリルが必死で背伸びをしているが人垣に阻まれて掲示板が見えないようだ。
仕方がないのでエリルの背後に回ると、腋の下に手を入れてエリルを持ち上げてみた。
「たかいたかーい」
「いやぁああああああああ! 恥ずかしいので降ろしてください! って、どこ触ってるんですか! 胸に手が当たって、あああああああっ!? ほんとに私達が1位じゃないですかああああああああああ!」
大はしゃぎである。エリルは今日も朝から元気なようだ。
周りの女生徒から向けられる冷たい視線がイタイのと、リーシアにこっそりと抉るように抓られている脇腹が痛いのでエリルを地面に降ろすと、顔を真っ赤にしてリーシアの陰に隠れてしまった。
改めて掲示板を確認してみると、2位が76点で、7位までが70点台。中間付近は団子になっているのか同率が目立つ。そして最下位は全滅したパーティーがいくつかあるようで、思っていたよりも全体的に点数が低い。
「ラディ達は何位だったの?」
「オレ達は50点で33位だな。全109パーティーで平均点は34点らしいから、まぁそこそこの順位ってところか。最後のマッドゴーレムに苦戦して重傷者が出たのが痛かったな」
「えっ。ラディならマッドゴーレムぐらい簡単に倒せそうだけど?」
「いや、オレは遺跡の探索中に膝に矢を受けちまってな。ペナルティで左足を麻痺させられてたんだ」
「そういうことか。冒険者にとって膝に矢は致命的だから仕方ないね」
ラディバートの話から少なくとも2人は重傷者が出たみたいなので、かなり減点されたのだろう。にも関わらず50点ということは、それさえなければ1桁台の順位だったのではなかろうか。
「んで、レクスよぉ。向こうでさっきからオマエのことをすっげぇ睨んでるあの男はどうしたんだ?」
「この前ちょっと絡まれてね。せっかく気付いてないフリしてるんだから、放っておいてくれないかなぁ……」
「いや、なんか近付いてきてるぞ?」
「えぇー……」
このまま勝負なんてなかったことにしてくれないかと思っていたのに、わざわざナルシスの方から話しかけてきた。
「この僕を笑いに来たのか、レクス!」
「いや、そっちから近付いて来たんじゃ……?」
「言っておくが今回は本当に不運が重なって力を出す前にトラップで全滅してしまっただけで、本来の僕の実力ならキサマよりも上なんだからな!」
「ああ、全滅しちゃったんだ。実際、俺達も今回は運よくトラップを回避できたところもあるからなぁ」
レクスとしては純然たる事実を言ったつもりなのだが、ナルシスは額面通りに受け取らなかったらしい。
「くそっ! どこまで人のことを見下せば気が済むんだ!」
お前が言うな。と思ったが下手に喋ってもまた神経を逆撫でしそうなので黙っておいた。早く開放してくれないだろうか。
「ハンデを付けて勝ったからって、余裕ぶって……! 傲慢なのはキサマの方じゃないか!」
「えっ、ハンデ? 俺達は全力だったけど?」
テスト中におふざけでエリルに落とし穴を踏ませたり、エリルからウォーターバレットを撃たれたりしたが、ハンデを付ける余裕などはなかったのだが。
「そこの足手纏いの留年女をパーティーに入れておいて、ハンデを付けていないって言うのか!」
なるほど。どうやらナルシスはエリルのことをハンデだと言っているらしい。
あまりにも面白いことを言うので、思わずぶん殴るところだった。
「一つ言っておく。俺のことを悪く言うのは構わないが、俺の大切な仲間を侮辱するのは止めてくれないか。あの成績は俺達3人が協力したからこそ取れたモノであって、エリルはパーティーリーダーとしてちゃんと貢献してくれた。エリルのことを何も知らないくせに、ふざけるな。またエリルのことをハンデとか言ってみろ、そのときは容赦なくぶっ飛ばす」
殺気を込めてナルシスを睨みつける。こういうときは女顔っぽいと言われる自分の顔だと迫力が足りなくて、少しもどかしい。
「レクス、レクス。ちょっと締めすぎだ。もうちょっと手の力を抜いてやれ」
「あっと、つい」
ラディバートの言葉で冷静になると、いつの間にかナルシスの胸ぐらを掴んで締め上げていた。
ナルシスは首が絞まって苦しそうにしていたので慌てて開放する。
「げほっ! ごほっ! く、くそっ! やってくれたな!」
剣呑な空気に周りに居た生徒達が離れて行く。ケンカはしたくないのだが、エリルをバカにされてレクスも謝る気など毛頭ない。
「ナルシス様! ケンカはダメです! 落ち着いてください!」
「先に手を出したのはアイツだぞ、アントン!」
「今のはナルシス様にも非がありました! リバオール家の名に恥じないためにも、一度頭を冷やしてください!」
「ぐっ……! うぐ、ふぬぬ……!」
人混みの向こうから駆けてきたアントンの必死の説得により、なんとか大事には至らなくて済みそうだ。
「今回は見逃してやるが、この借りは絶対に返してやるからな! 今に見てろ!」
捨てゼリフを吐き捨ててナルシスが去って行く。アントンはレクス達に向かって頭を下げると、慌ててナルシスの後を追って行った。あの2人の関係はわからないが、アントンは苦労人のようだ。
「借りた物を返すのって、人として当たり前だよね?」
「そういう意味じゃねぇよ……」
ラディバートが呆れたような顔をしていた。本当は意味がわかっているけど、面倒なので誤魔化しただけだ。
「あの、レクスさん。ありがとうございました」
エリルがリーシアの陰から出てきて頭を下げる。
「お礼なんて言わなくても良いよ。実際に今回のテストはエリルにかなり助けられたしね。ああでも、リーダーとしてって言うのは言い過ぎだったね、ごめん」
「なんでわざわざ余計な一言でオチを付けるんですか!?」
照れくさいからである。言わせんなよ恥ずかしい。
「ところで成績の内訳って教えてもらえないのかな?」
「ああ、内訳なら放課後に成績とポイントが授与されるときに、ついでに教えてもらえるみたいだぜ」
「そうなんだ。ちょっと騒ぎすぎて周りの迷惑になってるし、それならそろそろ教室へ行こうか」
「ええ、そうですね」
「はい」
その日の授業も座学のみだった。明日の土曜日は休みなので、2連休を挟んで来週から本格的に実技の授業などが始まるようだ。
昼休みになったがレクスは珍しく1人である。テスト明けからの3日間は毎日エリルとリーシアと一緒に3人で昼食を食べていたのだが、今日は2人ともクラスの友達と食べると言っていた。
それならレクスもクラスの友達と一緒に食べようかと思っていたのだが、ラディバートは女の子が作ってきてくれたお弁当を食べていたので見なかったことにした。そしてベアードはベアードで先約があるからと断わられた。友情よりも女か、ちくせう。
他のクラスメイト達もみんな都合がつかなかったので、仕方なく今日は1人で食べることにした。決してボッチだとかハブられているわけではない。多分。
購買部でパンを買い、中庭で食べようとしたらカップルだらけだったので校舎裏の隅の方に移動して、校舎の壁にもたれるようにして地面に座り込む。
今日は新作のシーフードマヨネーズパンというのが発売していたので衝動買いしてみた。略すとシマパンである。実に素晴らしい。
(やばっ! 余計なこと考えてたら咽喉に詰まった!)
しかもこういうときに限って飲み物を買ってくるのを忘れていた。咽喉の下あたりを必死でドンドンと叩いて嚥下を促す。
「これ、飲んでいいよ」
不意に横から差し出された缶コーヒーを受け取ると一気に飲み干して、なんとか事なきを得た。
「ぷはーっ! あー、死ぬかと思ったぁ……」
「ちゃんと噛んで食べないからよ」
「ごめん助かったよ、ありがとう。ええっと、ヴェーラさんだったっけ?」
「そ。よろしくねー」
レクスにコーヒーを差し入れてくれたのは、実力テストでナルシスとパーティーを組んでいたヴェーラだった。
ヴェーラは相変わら制服を着崩して胸元を露出させているのだが、今日は前に見たときよりも1つ多くボタンを開けているのか黒いブラが丸見えである。サイズは普通だがしっかりと谷間は確認できるので非常に嬉しい、ではなくてありがたい。いや、目のやり場に困ってしまう。
しかも軽く香水でも付けているのか、近くにいるだけで凄くイイ匂いがする。前に会ったときと違い、フェロモンムンムンすぎてレクスは座った状態でなければ思わず前屈みになるところだっただろう。ある意味立っているのだが。
ヴェーラはそのままレクスの真横に座ると、袋の中からおにぎりを取り出して食べ始める。レクスとしても1人の昼食はやはり寂しかったので願ったり叶ったりだ。
「あ、そうだ。コーヒー代、100バルシでいいかな?」
「え? あー、いいよいいよー。どーせ半分くらい飲んじゃってたヤツだしー」
「ほんとにいいの? 何だか悪いなぁ……」
しかし半分飲んでたということは、間接キスとかいうヤツではなかろうか。リーシアにバレたら大変なことになりそうである。
「あ、もしかして間接キスしちゃったーとか思ってる?」
ヴェーラが意地の悪そうな顔をして覗き込んでくる。むちゃくちゃ顔が近い。
「べ、別に間接キスぐらい、なんとも思ってないよ」
「ふーん、そうなんだ? じゃあ間接じゃなくて、ウチと本当にチューしてみる?」
「マ ジ で !?」
「あっははは! 冗談に決まってるでしょー! やだー、必死になっちゃっておっかしー!」
「ですよねー……」
素で反応してしまったが、からかわれているだけだった。
「というかレクス君ってリーシアさんの婚約者なんでしょ? 他の女の子とそんなことしてて良いの?」
「いや、待って。なんで婚約者の話を知ってるの?」
「え、だってリーシアさんって同じクラスなんだけど、クラスのみんなの前で堂々と言ってるし?」
「マジか……」
前のパーティー勧誘のときは同じクラスだなんて言ってなかったのにと思ったが、確かにあのときはそんな会話をするタイミングもなかった。
いや、それよりもリーシアが婚約者と言い触らしていることの方が重要である。確かに口止めするのを忘れていたが、まさか積極的に話を広めていたとは。
「ねーねー、それでもしかしてレクス君って本当は貴族なんだけど、身分を隠してたりとかしないの?」
再度ヴェーラが意地の悪そうな顔で覗き込んでくる。だから顔が近いというに。
「え? なんでそう思うの?」
「だってリーシアさんが貴族でその婚約者なんでしょー? それならレクス君も貴族でもおかしくないし、何か事情とかあって身分を隠してたりするのかなーって」
意外と鋭い。が、前提が間違っているのでバレることはなさそうだ。
「いや、俺は本当に貴族じゃないよ。というか俺が貴族に見える?」
「全っ然見えない!」
「あっはい……」
貴族として見られないのは嬉しいはずなのに、なんだろうこの脱力感は。
「簡単に説明すると、親同士が昔から付き合いがあってね。それで勝手に婚約者にされたんだよ。そもそも本当に身分を隠しているならリーシアに婚約者って言わないように口止めしたり、リーシアにも身分を隠すように言ってたかな」
「う~ん、それもそっかー。なら残念だけど仕方ないかー」
「残念って何が?」
「ん? レクス君がもし貴族だったらウチも狙っちゃおうかなーって思ってたんだけどねー。でも貴族じゃないなら諦めるしかないかー」
「お、おう」
もしかしてヴェーラがナルシスと一緒にいたのは玉の輿狙いだからなのだろうか。いくらお金のためでも、アレはさすがに止めておいた方が良いと思うのだが。
「ちなみにー、もしレクス君が貴族だったら、このままここでチューなんかよりももっとイイコトしてあげようかなって思ってたんだけどー」
ヴェーラがしなだれかかるように体を密着させて耳元で怪しく囁いてくる。脳まで溶けてしまいそうな甘い声だ。
ちょっと今からでも王族とバラして大人の階段を上ろうかと本気で悩んだが、レクスは必死で誘惑に耐えた。ここでちょっとでも反応をすると冗談抜きでリーシアにSATSUGAIされる。
しばらく様子を窺うようにしていたヴェーラだったが、レクスが無反応だったせいか、つまらなさそうに体を離す。
「なーんちゃって! 冗談だよ、もうー。 ほんとはウチってば身持ちは固いほうなんだから、本気にしちゃダメだよー?」
「え。あ、うん」
とても冗談とは思えないような雰囲気だったのだが、そういうことにしておこう。女ってコワイ。
「さってと、次は体育で着替えないといけないからもう行かないと。それじゃねー」
「ああ、うん。それじゃあ、また」
いつの間に食べ終えていたのか、ヴェーラは何事もなかったかのように軽い足取りで去って行く。
それからしばらくして予鈴が鳴ったが、レクスの暴れん棒はまだ興奮状態から治まっておらず、危うく午後の授業に遅刻するところだった。
放課後になり、エリルとリーシアの2人と廊下で合流した。
「レクスさんの体から、ヘンな匂いがする気がするのですが」
リーシアは会うなりいきなりレクスの制服を嗅ぎながら、そうのたまった。怖すぎる。
「さっき教室を出ようとしたところで香水を付けた女の子とぶつかったから、それじゃないかなぁ……?」
「香水……? 香水とは違う気もしますが、人とぶつかっただけでしたか」
内心ビビりながらもなんとか平常心を保って誤魔化し、リーシアもとりあえず納得したようだ。危ない。ヴェーラと会ったのが2時間前でなければアウトだったかもしれない。
3人で購買棟へと移動すると、1階で飲み物を購入してから2階のテーブル席を陣取る。
エリルが通学鞄代わりにもしている収納ポシェットから2枚の紙を取り出した。先日行われた実力テストの内訳が書かれた紙である。
成績とポイントの授与についてはすでに終わっている。今朝のホームルームで1年生は全員生徒カードを担任に提出し、帰りのホームルームのときに成績とポイントが授与された生徒カードが返却されたからだ。
今日1日は生徒カードの提出がいる施設の利用や、購買棟でのポイント使用ができなかったことになるのだが、そもそも1年生は現段階ではポイントを持ってない生徒が大半を占めているので、あまり関係はなかっただろう。
そしてパーティーリーダーだった生徒にはテスト結果の内訳が書かれた紙が渡されている。3人で学食に集まっているのも反省会をするためであり、レクス達の他にも学食内には1年生の集団があちこちで見受けられる。
「エリルはもう読んだの?」
「いえ、一緒に確認しようと思っていたのでまだ見てないです」
1枚目の紙の上半分に獲得した成績と学内ポイントが大きく書いてあり、成績は細かい項目に分かれ、それぞれ獲得した数値が振ってある。
学内ポイントは順位1位で10万ポイントとベニズダケの納品で2万ポイントの合計で12万ポイント獲得したらしい。
成績もポイントも三等分なので、成績は卒業や進級の足しに少しだけなった程度だが、学内ポイントは1人4万ポイントも貰えたようだ。
1枚目の下半分と2枚目には実際にテストで評価された部分が記載してあり、全パーティー共通と思われる説明文と、学園長からの一言アドバイスのような個別の私信が書いてある。
そしてレクス達のパーティーの評価は次のようになっていた。
・クエスト中の被ダメージ 8点
【説明】マッドゴーレム以外のモンスターに苦戦しているパーティーはありませんでしたが、遺跡内でトラップを踏む人が多かったです。戦闘中も足元に注意を。
【学園長より】戦闘やトラップにおけるダメージはゼロなのに、自爆や仲間内での被ダメージが目立ちました。おふざけは程々に。
・昼食 10点
【説明】長時間探索時には乾パン、干し肉、缶詰などの携帯性や保存に優れた食料を持っていきましょう。夏場に腐りやすいものは厳禁。ピクニックではないのでお弁当など言語道断。
【学園長より】栄養が偏ったり、味に飽きないように様々な種類の缶詰を用意していたのが素晴らしかったです。ただし、いくら缶詰とはいえ食事は行儀よく食べましょう。
・虫対策 8点
【説明】夏場の森林を探索する際には虫に注意。今回は配置されていませんが、血と一緒に魔力を吸ったり、疫病をバラ撒いたりする蚊などもいます。暑くても長袖を着るなど虫除け対策を。
【学園長より】虫除けスプレーが効かない蚊がいる場合もあります。森林などではスプレーに頼りすぎずに露出の少ない格好にしましょう。決して若さに嫉妬しているわけではありませんよ?
・落とし穴対策 5点
【説明】標識に落とし穴なしと書かれていても進む際には警戒を。標識が入れ替わっていたり、逆手に取った罠の可能性があります。地面を棒で叩きながら歩くだけでも対策できます。
【学園長より】種族の特徴を生かして踏み抜いて行くのは予想外でした。しかし、なるべくオトリを使うような方法でトラップは発動させないように心掛けましょう。
・不審なテーブル 9点
【説明】直前まで無かった物が突如現れた場合は警戒を。安全地帯の障壁が不可視だった場合は、安全地帯の範囲が特定できないので過信は禁物。
【学園長より】木の上の気配と安全地帯の障壁を察知したのは素晴らしかったですが、モンスターを誘き出す作戦は万が一に備えて戦闘準備を整えてから実行しましょう。
・挙動不審なモンスター 10点
【説明】モンスターが普段と違う行動を取っていたら注意。全てのモンスターが悪ではありませんが、子供モンスターが友好的な態度を示しているからといって油断大敵。警戒は怠らないように。
【学園長より】子供であろうとゴブリンはモンスターとして容赦なく討伐するのには感服しました。
・遺跡内トラップ 7点
【説明】遺跡内には侵入者撃退用のトラップが仕掛けられていることがよくあります。床や壁に発動スイッチがないか、トラップそのものが仕掛けられていないか観察しましょう。
【学園長より】丁字路前の矢のトラップを不注意で発動させたのは減点ですが、その後の水を蒔いてトラップを察知した作戦は見事でした。
・ボスモンスター討伐 10点
【説明】モンスターの討伐に時間を掛け過ぎると戦闘中に仲間を呼ばれたり別のモンスターが乱入してくる場合があるので、今回の試験ではマッドゴーレムの討伐時間を評価対象にしました。無理や無茶は禁物ですが、モンスターはなるべく素早い討伐を心掛けましょう。
参考までに、今回のボス部屋への侵入からマッドゴーレム討伐までの最短記録は37秒でした。
【学園長より】早すぎです。高火力の技は崩落の危険もあるので、遺跡や洞窟などでは使用する際には注意してください。
その他の追加評価
・正規ルート +5点
【説明】いくつかのパーティーは先に遺跡を目指すルートを選びましたが、指令書の内容をよく読み、効率の良い探索を。あえて先に遺跡を攻略しようとするのも危険度が高いので、安全で確実な探索を心掛けましょう。
・施設利用 +5点
【説明】安全地帯として確約されている施設や場所があるのなら、そこを利用したりその周辺で休憩を取るようにしましょう。警戒を怠らないのも大事ですが、警戒しすぎるのも逆に注意力が散漫になったりします。休めるときにはしっかり休むのも大事です。
・ベニズダケ納品 +10点
【説明】授業はきちんと聞き、予習復習は忘れないようにしましょう。知識はあって困るものではありません。
【総得点】87点 【順位】 1位
【総評】
今回の実力テストではトラップにかかって死亡、あるいは重症を負う生徒が多かったです。
今後の授業では罠探知の方法などもありますので、しっかりと履修しましょう。
【学園長より】
1位おめでとうございます。まだ荒削りな部分もありますが、3人の個性とチームワークが合わさった、非常にバランスの良いパーティーでした。
皆さんの今後のご活躍に期待しています。
「なんというか、これってほとんどエリルのおかげだよね」
「そうですね、わたくしもそう思います」
内訳を読み終えてレクスがぽつりと漏らした言葉にリーシアが同意する。
「えええっ、わ、私ですか!?」
2人に見られてエリルが驚いたような顔をする。
「いやだって、虫除けと缶詰とトラップは全部エリルのおかげで、評価の大半がそれ関係だし」
「トラップに関しては偶然が重なった部分もありますが、それでもエリルさんのおかげですしね」
「い、いえ。でもお二人がパーティーに入れてくれなかったら、私はきっとソロで挑むことになって、最初のゴブリンでやられてたでしょうからお二人のおかげです」
あのときの状況を見るにそれは否定できなかったが、それでもこの成績はエリルのおかげといえるだろう。
実際問題としていくら冒険者に憧れて昔から修行をしてきたといっても、王宮でぬくぬくと育ってきたため、リーシアどころかレクスも冒険者としての知識どころか一般常識にも疎い。
今回は本当に運良く1位を取れただけだ。このテストの評価と説明を読んでそれを痛感させられた。
「俺もまだまだってことだよねぇ……、もっと勉強しないと」
「まぁまぁ、そのためにこの学園に通うのではないですか」
「ああうん、それもそうか」
まだ始まったばかりなのにへこんでいる場合ではない。
「じゃあ今回のこの成績は3人で力を合わせた結果ってことかな」
「はい、そうですよ!」
「学園長先生もそこを評価してくださってますしね」
話がキレイに纏まったところ、さっきから気になっていることがある。
「ところで学園長の一言だけど微妙に私情が入ってたりするのは置いておいて、いくつか勘違いしてるのもあるよね。音声は拾ってないのかな?」
クローエイプ関係はこちらの話を聞いていたら、頭上にモンスターがいたことなど全く気付いてなかったとわかると思うのだが。
「109パーティーもあったらしいですし、さすがに全てを事細かにチェックできていないのでは?」
「ああ、それもそうか」
しかも一言アドバイスも考えて書かないといけないのなら、なおさら時間が足りないだろう。
「あの、ところでこの挙動不審なモンスターってなんのことでしょう? そんなのいましたっけ?」
イノシシに追い掛け回されていた子供ゴブリンのことなのだろう。これもエリルのおかげで罠を回避できたみたいだが、一体どんな罠だったのだろうか。
その後も3人でテスト結果の書かれた紙を見ながら反省会を行った。
そして一通り意見交換が終わったところでリーシアが思い出したように話を切り出す。
「そういえばレクスさん、固定パーティーはどうなさいますか?」
「ああ、今朝バルバス先生も言ってたやつか」
固定パーティーについてはレクスも担任から説明を受けた。
なんでも生徒同士でパーティーを組んで学園に申請しておけば、それ以降は離脱か解散の申請があるまでパーティーとして扱われるらしい。
メリットはいくつかあり、先の実力テストのようなパーティーを組む必要が出てきたときに、事前にパーティーを組んでいる扱いとなり申請が簡単になったりするそうだ。ただしテストは4人までなのに5人で固定パーティーを組んでいたら結局は紙に書いて申請する必要はあるらしい。
それと学内クエストの受注条件に『3人以上で』など書いてあった場合に、3人以上のパーティーを組んでいれば簡単に受注することができる。もちろんパーティー以外の友人などと組んで受注することもできるが、そういった場合は書類の提出が必要になる場合もあるそうだ。
他にも生徒カードを紛失などした場合にいくつかの手続きが省略できたり、パーティーでないと利用することの出来ない学園内施設なども存在していたりと様々な恩恵がある。
デメリットは特にないので、気の合う仲間などを見つけ場合には積極的に固定パーティーを組むのを学園からも推奨されている。
「せっかくだし、このまま3人で組んでおく?」
「そうですね、わたくしは賛成です」
「えええええっ! 固定パーティーですか!?」
エリルが驚愕していた。イヤなのだろうか?
「嫌じゃないです! 嫌じゃないですけど! むしろ私で本当に良いんですか!?」
「ダメだったら誘ったりなんてしないよ。むしろパーティーを組んでってお願いしたいくらいだし」
「そうですね。エリルさんがお嫌でなければ、ぜひとも一緒にパーティーを組んでいただきたいです」
「は、はい! 私も、お二人とパーティーを組みたいです!」
全員がこのまま固定パーティーを組むのに賛成なようだ。
「よし。それなら善は急げって言うし、今からパーティー申請をしに行こうか!」
「「 はい! 」」
早速パーティー申請をするために3人で職員棟の事務所へと向かう。
そして――。
「また勝手に私がリーダーにされてるんですけどおおおおおおおおおおっ!?」
エリルが固定パーティー登録された自分の生徒カードを見て、事務所の前でのたうち回っていた。
これがのちに、学園内どころか世界中にその名を轟かせることとなる伝説のパーティー【銀の幾星花】誕生の瞬間であった。
あと3話ぐらいで1章終了予定なのですが、書き溜めていた分がなくなりました。
次話から不定期更新となります。
1章終了まではなるべく一気に書き上げてしまいたいです。