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ある異世界の祈祷師の場合











ある異世界の祈祷師の場合










「、、ぇ?」



どこかから呼ばれた気がして、彼女は天を仰ぐ。



「いかがなされましたか?巫女姫様」


「いえ、、何も」



頭を振り、彼女はそっとため息をつく。


様々な色の布の垂れた台座の上。


その上にちょこりと座る小さな少女。


真っ黒な髪に、様々な飾りが施され、まるで彼女自体が祀られているようだ。


凍てついたアイスブルーの瞳。


表情がぴくりとも変わらないその少女、、巫女姫。


彼女は、この世界で、そう呼ばれていた。



(時給1250ペインよ、、)



どこの誰かもわからない人間に向けてそう話す。


こう重おもしく飾り立てられている彼女も、内情は、どこかの給仕と、そう変わらない時給なのであった。



「巫女姫様、どうか、どうかご慈悲を、私の娘の為にお祈りを、、!」



苦しみを顔に刻んだ男が、彼女の取り巻きの男たちに抑えられながら、そう懇願する。


巫女姫の前で止めないか!と叱責されても尚、手を伸ばしてくる。


どうか、どうか、、!


、、それは、彼女が聞き飽きた言葉のひとつであった。



「、、その者、」



彼女がゆっくりとそう言う。


空気がぴりりと緊張を帯び、男も、彼女の取り巻きの男たちも、一斉に彼女を見る。



「こちらへ、」



す、と手で示す。


男は、ひたすら有り難き、有り難い、とぶつぶつ呟きながら、彼女の前にひれ伏した。



「そちの娘だな?」


「!!は、はい、、一人娘の、、マイカと、、」



震える手で、差し出された写真。


弱った表情で、病床で、、笑っている少女の姿がそこにあった。


ちら、と、取り巻きの一人の顔を見る。



「、、彼女に、救いを与えよう」



そう呟き、彼女は、写真に手を翳す。


ふわ、と、白い光がその写真を照らし、男は驚愕する。


地上の人間が、見たこともない術を使う異界の者。


神より導かれし、救いの巫女姫。



「、、これでよい。娘は、、神に呼ばれている。名誉なことだ。現世のお前のような者は悲しむであろうが、、名誉なこととして、見送ることである。この者が神に仕えれば、またいつの日にか、、お前たち親子は、相まみえるであろう」



そう言い、写真を男へ返す。


男はボロボロと涙を零し、有り難や、有り難や、とひれ伏した状態のまま、取り巻きの男たちに引かれて行った。


その姿を見届け、彼女はふぅ、、と、ため息をつく。





「、、災難でしたね、巫女姫」



取り巻きの男の一人が、そう話しかけてくる。


彼女は、男を睨みつけた。



「白々しいことよ」


「姫も、その話し方が板についてきました」



胡散臭い笑顔だ。


事実、こいつは真っ黒だった。


また、その片棒を担いでいる彼女も。



「あの男も、、可哀想だ。一人娘か、、」



彼女は額を抑える。



「長くないんでしょうね。あの写真からして」



男が何てことないように言う。


彼女の胸が痛みに走った。



「男は、信じただろうか、、」


「えぇ、あの様子だと。今も外で涙を流して巫女姫へ感謝の言葉を述べているようです」



この男の言葉は、いつもナイフのようだと思う。


彼女の胸を、的確に抉る。



ーー白い光は、手元へつけた鏡の光。取り巻きの男が照らした光を、反射をさせているだけ。


そこに少し、気づかれないよう微力の、特殊な粉を掛ける。


空気に拡散するそれは、少し離れた所から見れば、さぞかし幻想的な光景に見えるだろう。


彼女の浮世離れした、エキゾチックな佇まいも、それを増長させる。


つまり彼女には、なんの能力もなかった。




「、、どうか、どうかあの娘に神のご慈悲があらんことを、、」



ぎゅ、と、彼女は手を合わせ、祈る。

男が、愉快そうに笑った。



「巫女姫、、貴女が祈ってどうする。貴女には、その力があるんですよ」


「くだらない、、すべてお前の作る幻だ。私はただの、操り人形だ、、」


「わかっているなら、全うしてくださいな」



話は終わりと言わんばかりに、男が背を向けた。


どうか、と、涙交じりに祈り続ける彼女の頭上から、空から漏れた光が、きらきらと照らしていた。














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