俺と紅2
紅はあの場所に居るんだと思う、……あの子が考え込む時に向かう場所。
お前と出会ったあの場所くらいしか、紅の居るところは思いつかない。
俺は靴を履き替え、……とある場所へと足を動かす、足音を立てずに。
案の定、お前はその場所に居て――。俺はわざとらしく足音を立て、しゃがみ込んでいる君を俺の方へと振り返らせる。
君の目には涙が流れることなく溜まっていて、俺に振られるんじゃないかって思っているような顔つきを紅はしてるな。
……紅には俺がバイだってことを話したことはねぇーからな、付き合うことは無理だって考えているんじゃねーの?
紅にも話しておけば良かったな、反省反省。あとで文句ぐらいは聞いてやっか。
あんな強烈な告白を紅にさせちまう程に俺は、無自覚にお前を追い込んじまったんだからな、紅の望むことをしてやらねぇーといけねぇーな。
「振られるって顔してんな、お前。決め付けはいけねぇーよ? 俺は無自覚にお前だけは特別扱いしていたみてーだしな、お前の告白の返事を聞いて貰えるとありがてぇーんだがな」
と俺は意識的に優しい声で紅に言う。
紅は目を見開いて、呆然とした様子で俺の目の前で立ち尽くしていた。
そんな紅の様子に俺はクスリと笑い、
「好きだよ、お前のことが。……好きなんだ。……鈍感で悪かったな、優しいお前を自棄にさせる程に追いつめちまって。……本当に心の底から悪かったと思ってる……ごめんな」
と俺は言う。
その俺の言葉に紅は、
「嘘だ!……だってだって、風紀委員長は僕の名前を呼んでくれたことがなかったじゃないですか!僕を呼ぶ時は“腐男子”か“うちの子”って呼んでいたから、俺は……!!」
とそう言うから、俺は数歩彼の方へと近づいていき、その小さな身体を包み込むように俺は……紅を抱きしめる。
そしてこう言った。
「呼びてぇーよ、呼びてーけど……俺はお前の名前を“声”に出して呼ぶことは出来ないんだ。内心ではいつも、お前のことは名前で呼んでいる……それだけは信じてほしい。
……でも、どうしても呼んでほしいとお前が願うなら、……紅と呼ぶことしか俺には出来ねぇーんだよ」
そう俺が言葉にすると、紅はゆっくりとした動作で俺の背中に手を回し、力強く俺を抱きしめ返してくれた。
理由は聞かねぇーでくれた、……それが“今”の俺にとってどんなにありがたいことか、紅にはわからないことだろう。
……紅はいつか自然と知ることになるんだから。俺の側にいることが必然なら、その答えは必ずお前の前に現れる。
「好きだよ、紅」
紅が不安にならないよう、“今”の俺はたくさんの言葉を……紅に捧げることにしようじゃねぇーか。