木霊する二つの奇声
「キエエエエエエエエ!!」
橋に一人の女性。
「キエエエエエエエエ!!」
橋に一人の男性。
二人は世界を救うべく――。
奇声をあげている。
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「はい。こちら日本奇声株式会社です。今回のご用件は何でしょうか」
西暦2024年、東京某所にある日本奇声の本社には、毎日何千件もの問い合わせがくる。
ゴキブリ退治から、要人の暗殺。そしてエチゼンクラゲをひたすら引き揚げひたすら乾燥させたり、夜の相手の派遣、焼きそばパンをコンビニに買いに行くなど、色々な仕事を請け合う。
しかしこれらは副業のようなものである。
本業は――奇声をあげること。
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「太一くーん! 朝ご飯出来たよー!」
「うう……。おはよう」
「おはよー」
星野太一は、付き合っている早田真紀子に起こされて朝食を食べる。今日の朝食は米と味噌汁とかす汁と豚汁だった。
太一は朝食を食べ終えると、今回の任務について少しでも多く情報を頭に叩きこむべく、机と向かい合い資料を読み始めた。
真紀子も、太一に少し遅れて朝食を食べ終えると、食器を洗う。その後太一と同じく資料を読み始めた。
太一と真紀子はペアになり今回の任務を遂行する。
今回の任務には世界の命運が少しばかり懸かっているため、彼らは熱心に資料を読む。
プルルルル。プルルルル。太一のスマートフォンが鳴った。
『もしもし太一君?』
「おはようございます田中さん」
『おはよう。真紀子ちゃんも居るわよね?』
「居るよー」
田中とは、今回の任務で太一と真紀子のサポートをする立場を担っている。
『資料は読んだわよね?』
「「はい」」
『では作戦は10:00から。その時間に大高田橋に集合ね。OK?』
「「はい」」
『じゃあまた』
電話が切られる。スマートフォンには通話時間3:58という表示と、画面の上部には8:21という数字。
「じゃあ準備運動だね」
真紀子はある部屋に入っていった。太一もその横の部屋に入る。
「キエエエエエエエ!!」
「キャィエエエエエエエエエエエ!!」
2039年日本奇声株式会社設立。きっかけは、奇声能力の発現と、世界の綻び。地球に奇声能力を持つ者が現れたのだ。
奇声をあげる事で様々な事を起こす。火を熾す奇声。氷を出す奇声。時間を止める奇声。
奇声能力を持つ者はその後から稀に生まれた。奇声能力を持つ者は日本奇声に入ることが多い。そしてこの世界の綻びを修正する。世界の綻びは放っておくと強いエネルギーを放出する。そうなれば地球が滅びるのは早い。
今回の太一と真紀子の任務も世界の綻びを直すことだ。
真紀子の奇声――空気調整の奇声――と、太一の奇声――飛行の奇声――のコンビは、世界の綻びを直すにあたって重宝される。
空気調整の奇声は、空気の温度を変えたり、水中に酸素のある空間を生み出したりする。それによりいかなる状況でも作業が出来る。
飛行の奇声は空を飛ぶ事が出来る。そしてこの奇声は自分だけでなく他人も飛ばすことが出来る。
よってこの二つは相性がいい。
時計が9:44を指した。
太一と真紀子は荷物をまとめると、大高田橋に向かった。そこには田中が居た。
「来たわね。じゃあこれ」
そう言って田中は、ヘッドホンを二人に渡した。通信用だ。それともう一つ、カプセルらしき物も。
これを綻びに投げ込むことでそれを修正することが出来る。
今回赴くのは、南鳥島の少し西側だ。
「では、行ってきます」
「行ってらっしゃい」
「キエエエエエエエエ!!」
橋で真紀子が奇声をあげる。
「キエエエエエエエエ!!」
橋で太一が奇声をあげる。
二人は世界を救うべく――。
奇声をあげる。今後もずっと――。
アホ