はれんちマンション(転一)
第15弾の『起承転結』小説です。叶愛夢さん(起)→阿厨季夜さん(承一)→御谷朋さん(承二)→春野天使(転一)→月朱さん(転二)→七夜十歌さん(結)の順番で物語りは進んで行きます☆
「キャー! ハレ君のパンツってかわいい〜!」
……百円玉を数える僕の手がピタリと止まる。
「静香さん、何してるんですかー!」
いつの間にか静香さんは、勝手にベランダに出て、僕が干した洗濯物を一つ一つ吟味していた……。静香さんは、母さんがバーゲンで買って来たクマの模様のトランクスを手に取って見てる。
「やめてください!」
僕は慌ててベランダまで走り、クマのトランクスを奪い取る。
「こんなのはいてんのね〜」
静香さんは面白そうにククッと笑う。僕だってこんなパンツははきたくない! けど、新しいパンツをわざわざ買うのも……パンツごときにお金を使う訳には。
「後で、アイロンがけしてあげるね〜」
「しなくて良いです! それより、早く帰ってください。仕事行かなくて良いんですか?」
静香さんはクラブで働いているはず。
「今日はお休みよ〜っていうか、昨日で辞めちゃった。だから、当分お休みね」
脳天気に笑う静香さんを見て、パンツを持つ手がワナワナと震えてきた。
「……明日からハローワークで仕事探してください。益々家賃の滞納増えますから」
「転職かぁ。今度は何しようかなぁ〜」
静香さんは、胸の大きく開いたショッキングピンクのTシャツにヒョウ柄の超ミニスカのスタイル。
Tシャツからはみ出そうな巨乳を両腕でギュッと挟むような格好をして、上目使いに僕を見る。
「グラビアとかいいかもぉ」
静香さん、ほ○のあきのつもりだろうけど……かなり無理があった。静香さんってほ○のあきより、年上かも……。
ピンポ〜ン!
良いタイミングでインターフォンが鳴った。今日は人がよく来る。僕はクマのパンツを部屋に放って、玄関に走る。
「はい、どなたですか?」
「……横溝正二です……」
地獄の底から響いて来るような、くぐもった低く暗い声。うちのマンションの住人の一人、自称推理小説作家の横溝さんだ。どうやら、横溝正二ってペンネームらしい……良いのか? そんな名前でマンション契約して?
「……あの、どんな用件ですか?」
横溝さんが黙ったままだったんで、僕は聞き返す。
「家賃……払いに来ました……」
低い声で横溝さんは続ける。あっ、そうか、今日は家賃の支払い日か。家賃代振り込みにしたらいいのになぁ。ま、銀行口座にお金が入ってる人って少ないから無理か……けど、一応ここマンションなんですけど。僕は、あれこれ考えながら、ドアを開ける。
「……」
ホテルに備え付けているような浴衣をだらしなく羽織った横溝さんが立っていた。金田一耕助を意識したボサボサの髪。虚ろな瞳をして薄笑いを浮かべている。そして、片手には出刃包丁が! 包丁の先はまっすく僕に向けられていた!
「……あれ?」
横溝さんは、薄笑いをやめ、真顔になる。
「ノーリアクション? 怖くないんですか?」
「横溝さん、包丁しまって下さい……知らない人が見たら警察に通報されますよ」
僕は深くため息をついた。横溝さんは家賃を支払いに来る時、毎月毎月何やら武装して来る。チェーンソーの時もあったし、斧の時もあったし、オモチャのピストルの時も……。そうやって僕の驚く顔を見て、小説を書く参考にするんだとか。そりゃ、初めて見た時はビックリするけどね。毎月毎月じゃあ……。
「ヤレヤレ、最近の若い人っていうのは無感動だからなぁ」
横溝さんは、金田一探偵みたくポリポリと頭をかいた。『感動』の使い方間違ってませんか? ま、かなりの変わり者とは言え、横溝さんは毎月家賃を払ってくれからいいや。
「ありがとうございました」
横溝さんがどうやってお金を稼いでいるのか、不思議だけど、僕は家賃を受け取ってお礼を言った。
「あー! 何やってるんですか! 静香さん!」
ちょっと目を離したスキに、静香さんは母さんが送りつけてきた段ボールを勝手に開けようとしていた。
「ハレ君、これな〜に? こんなにあるんだから一個くらいちょうだいよ!」
「ダメです!」
僕は静香さんとこまで走って行って、静香さんが開けようとしていた段ボールを取り返す。結構重かった。
「ケチねぇ。マンションの住人には優しくするもんよ」
「……これは、母さんの私物です。静香さんが思っているような良い物じゃないですから」
「母さんの私物……? 何で晴子さんの荷物が段ボールで配達されてきたわけ?」
「いや……これには、深い訳があって……」
顔中に興味津々の表情を浮かべて、静香さんはじっと僕を見つめる。
「う〜ん、もしかして、『お・と・こ』? あの晴子さんに男が出来て家出しちゃたとか?」
静香さんは口を曲げてニヤリと笑った。スキャンダルなネタ大好き静香さん……静香さんにバレたら話がもっとややこしくなりそうだ。
「違います! そんなんじゃありません!」
僕はキッパリと自信たっぷりに否定した。けど、母さんの事情は百パーセント不明。
「じゃあ、どういう理由?」
畳みかけてくる静香さんに、僕の自信は早くも崩れそうになる。
「……」
ピンポ〜ン! 窮地に追い込まれた僕の耳に、またインターフォンの音! 今日が家賃の支払日で良かった。
「はーい!」
僕は静香さんを逃れて、インターフォンまで走って行く。
「どなたですか?」
「あ・た・し!」
インターフォンからハイテンションな声が聞こえる。……勅使河原ヒロミさんだ。いつもは苦手な勅使河原さんも、今日は救いの神に思えた。
「家賃の支払いですね」
僕は明るい声でそう言うと、ドアを開けた。
「ハ〜イ! ハレちゃん、お元気ぃ〜?」
タイトなラメ入り黒いワンピースを着て、体をくねらせる勅使河原さん。勅使河原さんはとても色っぽい。静香さんよりずっと若くて綺麗だ。だけど……勅使河原さんは男だった。いわゆるニューハーフってやつ。
「今日はあたしのダーリンも連れて来ちゃった!」
「……ダーリン……?」
僕は勅使河原さんから家賃を受け取りながら、不吉な予感を覚える。
「じ・つ・は〜、ハレちゃんもスゴクよく知ってる人なのぉ」
「はい……?」
「ダーリン、カモ〜ン!」
勅使河原さんの後ろから、一人の男がスッと姿を現した。スラリとした長身。薄茶色の髪をオールバックにした、チョイ悪オヤジ風な男。
「……!」
僕はその男を見て唖然とした。横溝さんには全く動じなかった僕も、目が点になった。開いた口が塞がらないってのは、こういう時に使うんだと実感した。
「ハレ! 久しぶりだな、元気か?」
「父さん……! 何でここに!?」
その男は僕の父親だった。雨月レイニイ。単身赴任を理由にずーと家に帰って来なかった父さん。父さんの母親はアメリカ人で、父さんはハーフだ。その父さんが、ニューハーフの勅使河原さんとピッタリ体を寄り添わせている。
「何で勅使河原さんと……?」
体の震えを押さえて、僕はようやくそれだけ口にした。
「ハレ! お前には悪いが、母さんとの間にお前が出来たのは、あれは一時の気の迷い、過ちだった……」
真顔で父さんが答える。
「父さんは、やはり女は愛せない。父さんは、今日ここで『カミングアウト』する!」
カ、カミングアウトだって!! 何だ、それはー! 僕の頭の中はクラクラ渦巻き、今にも倒れそうになった。
起承転結の転一、書き上げました! マンションの住人達っていうぐらいだから、何人か登場させないとと思って、個性的な方々を登場させました。(^^;) それから、ハレの父親も。ハレ君はハーフの父親の子だから、クウォーターってことになります。
書くのは楽しかったです。転を書くのは初めてだったんですが、上手く転がったでしょうか…? これから先が大変な気もしますが^^;、後はお二人にお任せします!




