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5話

残酷な描写が入ります。ご注意下さい。

 六歳になった。最近ミトラスは遠征して、他の悪魔達と連絡をとったりしているようだった。一応、念話とかあるのだが、距離制限だったり、結界内にいることにより連絡謝絶になっている者もいるらしい。いよいよマズイ。そろそろ逃げる準備でもしといたほうが良いかもしれない。ミトラスとの戦力差が分からないし、せめて手合わせをしてみたい。それで実力が勝っていれば、殺そうかと思う。日本が平和で戦争も何もなく、異世界に来ても殺人が出来ない。ってのは、まぁ異世界ものであったりするのだけれど。私も実際は殺したくはない。が、この世界で自由を得るために、母の無念を晴らすために、この世界の平和のために、殺戮を好むミトラスは排除した方が良い。ミトラスは人間を下等の生き物だとし、人間を本当に虫のように殺してしまうのだ。そんな奴を生かしていくなんてとんでもない。

 ミトラスを殺せるように日々訓練し、魔力量も戦闘経験も大きく成長出来た。これで、近々ミトラスと戦闘をしようと思っている。勝てることを祈るのみ。


「ミトラスは今日も留守なのか?」


 そうラインハルトに尋ねる。


「最近忙しそうですからね。魔王様はミトラスに何か御用が?」

「ん。手合わせしてもらおうと思ってさ。ラインハルトじゃ相手になんないし」

「ぐぬぅ……否定できませんね。これでもAランクなのですが……魔王様はお強いですから」


 私の正直な感想にショックを隠しきれない模様だ。


「Aランク?」

「あ……いえ、なんでもないんです」


 ふむ、Aランクね……。ラインハルトが慌てて隠そうとしていたが確かにAランクと言った。この世界に冒険者ギルドがあるのは知っている。数々の冒険譚や魔法書にも載っていたりしていた。やっぱり異世界と言ったらギルド!って感じでここから逃げおおせたら行きたいところ第二位にランクインしている。

 ちなみに一位は父と兄のところだが、これは今は置いといて……。

 ランク評価がされるのはその人間が経営する冒険者ギルドが評価している為だ。モンスターの方も、ギルドにより評価されている。Aランクというランク付の仕方は正しくそれの事だろう。ラインハルトは冒険者をしたことがあるか、もしくはAランク付けされた魔族という事になる。隠そうとしている時点で冒険者をした事がある方が可能性が高い。そういえば、私の母が殺されて謝ろうとしてきた事があったな。それに、この世界はエルフやダークエルフを迫害したりはしていないようだし。人間もダークエルフを人と認識しているので、魔族や魔物認定はしないと思われる。悪いことを行っても、犯罪者として指名手配だ。


 ……ふむ。冒険者をしたことのある人間に友好的なダークエルフであるラインハルトは何故魔王城にいるのだろう。仮定として、脅されているとか?家族を捕らえたれたりしているとか?ミトラスだから可能性としてはありえそうだ。彼にとってももしかすると、ミトラスは殺したいほどの悪魔なのかもしれない。





 今年で七歳になった。最近やっと魔王城に蔵書されている本を全部読むことが出来た。もう本の虫って位読みまくった。おかげで大量の魔法を覚えることが出来た。何個かは詠唱を忘れたが、イメージさえ覚えていたら魔法は発動するので問題はない。問題があるとすれば魔術が使えないことだ。綺麗に陣を書いても発動しない。まぁ、無詠唱にして使えるから良いんだけど。


 勇者との戦いの記録なんていう本もあった。どの勇者がどのような能力を持ち、どのように魔王と戦い、魔王を討ち滅ぼしたか、とか。正直本当か分からないが、内容は面白かった。勇者とは、金の髪を持ち、伝説の剣を抜きし存在。魔王を討ち滅ぼせる唯一の存在。

 ということは私を殺せるのは勇者のみ、ということになるな。まだ勇者が召喚されたとかは聞いてないので、私が死ぬことは今のところないと言っていいのかな。まぁ、ここに情報が来てないだけで実はいましたーとかありそうだけどな。

 勇者は光属性をもっていて、それにより魔王を倒すのだという。本にも、最後は魔王に向かって光の魔法を放ち、止めを刺すことが多い。光属性は勇者にのみ許される属性で、逆に闇属性は魔王にのみ許される属性らしい。

 光や闇は、特殊な魔法が使える事が多く、歴代の勇者はハーレムを作れるものだったり、姿形をどんなものにでも変形させられたり、魔法を無効にさせたりとあるらしい。私がオリジナルを創りだす事が出来るのも、この特殊能力に含まれているのかもしれない。よって、オリジナル魔法は闇属性に位置する魔法と考えられるのではないだろうか。

 魔術のものを無詠唱で使っている。その魔術は元々は無属性であっても、私が無詠唱に変えたことで闇属性に変わっている可能性は大きい。


 光と闇に特殊で持つ事が出来るのが、道具箱だ。好きなだけアイテムを入れておける便利空間だ。その中は時間が止まっており、食べ物も腐ったりしない。適当に放り込んでいても、頭で欲しいものを思い浮かべて手を入れると、勝手にソレが出てくるスグレモノ。空間なのに道具箱と称されている。それは、リュック等の道具箱が実際別に存在するためである。

 迷宮のアイテムで希に出現し、冒険者たちの間では人気で、値段も相当高級になっている。一般の冒険者は手にする事は難しい。貴族が高値で買い取ってしまうためだ。

 だから、私としてはこの便利機能はとても嬉しいものだ。


 便利といえば、闇属性には闇を渡る能力がある。行ったことがある所限定で、影がある所、または夜ならどこでも一瞬で出現することが出来る。一回以前の母と過ごした家に行ってみたが、既に家はなかった。父が取り壊したんだろうと思う。抜け出したのがバレるのは不味いので、すぐに元の魔王城に戻ったが、その日はすごく落ち込んだ。しかし、まぁこの能力はこれから旅をするのに便利なのでこれからも使うと思う。



「ミトラス、手合わせしてもらっていい?」


 今日はミトラスが珍しく一日中いられるらしい。準備は着々と進んでいるらしい。だから、今から止めようかと思う。ミトラスより強ければ、私の目標が達成される。


「ラインハルトは?」


 ミトラスはそう尋ねる。おそらく、ミトラスは最近忙しいので相手するのが面倒なんだろうと思う。だけど、逃がすつもりはない。


「ラインハルトは弱すぎて相手になんないだよ」

「そうですか?ラインハルトもなかなか手練なんですがね?相当お強いのですね、魔王様は。仕方ありません。私がお相手いたしましょう」


 よし!のった!ミトラスは持っていた書類を置いて立ち上がる。いよいよだ。私は緊張でバクバクと心臓が暴れる。手もちょっと震える。落ち着け、殺人ではない。コイツは魔族だ。血も涙もない。遠慮することはない。

 母もコイツに殺されたんだ。まるで、目の前の羽虫を払うみたいに。ならば、私もソレに答えよう。


 目には目を、歯には歯を。


 魔王城の庭に二人で出てゆき、構える。


「では、ルールを決めますか?」


 そうミトラスは話しかけてくる。ルールか……。そういえばラインハルトの時にはそんな取り決めしていなかった。相手が降伏するまで、戦闘不能になるまでだ。まぁ今回も降参か戦闘不能でいいんじゃないだろうか。


「相手が降伏するか、戦闘不能になるまで」

「はい、では。行きますよ。サニスト・サンド」


 いきなり中級の土系単発魔法を放ってくる。ほとんど不意打ちだ。だが、私もそれくらいじゃやられない。防御膜も張っているので、そのまま突っ込み、剣で土魔法を振り払う。ボフッと土が舞い、目くらましになる。土系はこういう目くらましが結構厄介だ。土埃が晴れ反撃に出ようとすると、足元に魔法陣が浮かんでいる。いつ用意していたのか、魔術による魔法道具を放ったらしい。急いで後方に飛んで避ける。ドォン!と大きな音を立てて地面を抉る。

 なんじゃありゃ、あんな強力な魔術道具もあるのか。あれってほぼ上級魔法と変わらないじゃねぇか。


「サニスト・ヴェント・グラス」


 避けている先に草系の魔法を放ち、蔓を伸ばして私を拘束してくる。すぐに切って動けるようになるが、また別の詠唱を終えたミトラスが攻撃を放つ。


「ヴェローテン・ヴェント・イージ・ウィンド」


 風系の全体魔法の中級だ。周りは風に包まれ、また周りが見えにくくなる。やはり、戦闘には初級や中級がむいているのだろう。そして、上級は魔術道具に頼るのか。凄く良い戦闘だった。隙はなく、逃げる先に魔術道具を投げる。普通ならもれなく死んでいる。

 やはりミトラスは手練だったようだ。だが。


 キィン!


 ミトラスの体に私が切りつける。が、さすがはミトラス反応して剣を打ち返す。だが驚いているようだった。さっきまでは少し遠くで風に囲まれていた私が目の前に来ていたのだ。


「ふむ、闇を渡ったのですか。厄介ですね」


 打ち返しつつそうミトラスは独りごちる。やはり魔王の特性はすぐに分かったようだった。キイン!と打ち合っていたが、ラインハルトより剣の腕は劣るようで、何度か体に傷を与える。


「くっ……!サニスト・サンド!」


 ガン!と私の顔に当たる。全く痛くはないが、おそらくは目くらましなんだろう。ミトラスは飛びすさる。見えなかったが、索敵により方向を捕らえ、その位置に草系上位の蔓による拘束を行う。手応えがあり、動きもなくなったのでそこに炎系上位敵単体に大ダメージを与える技を投下。

 しようとしたら。


「参りました!」


 と、ミトラスの声が聞こえてきた。え、参りました?土による視界不良が晴れたのでミトラスの方を見ると、蔓に何十にもくるまれて動きが取れなくなっていた。こんなあっさり……?いや、手合わせだから手を抜いていたのかもしれない。

 蔓による拘束を外し、ミトラスが姿を現す。


「流石ですね、目くらましすら意味がないだなんて」

「手抜いてました?」

「いえいえ、本気でしたよ。それでも魔王様に傷一つ付けられそうもありませんでしたね」


 ん?今のヌルゲーが本気なの?もしかして私はとっくにミトラスを超えていた?


「これならば戦闘も問題ありません。今からでも魔王様就任が出来そうですね。他の魔族共も呼んできても問題なさそうです。まさかその早さで私を超えるとは……私は自信を失いそうですよ」


 そう言っているミトラスは満足げで、どこか期待に満ちている。


「さぁ!魔王様、これから忙しくなりそうですよ!まずは近場の街を襲いましょうか。ああ、手合わせは面倒だったのでしなかったのが今では悔やまれますね。もっと早くからでも襲いに行ける実力があったとは……。ラインハルトめ、黙っておったな。後で仕置をしてやらんと」


 ミトラスは上機嫌で、饒舌にペラペラと喋っている。


「ねぇ……その話、本当?」

「え?街に襲いに行くことですか?本当ですよ。なんなら今からでも行きますか?」

「違うよ、私が、ミトラスより強いって話」

「ええ、強いです。自信をお持ちになってください。私が五人いても勝てはしないでしょう」

「そうなんだ」

「ええ」


 ミトラスは言い切り、実に晴れやかな笑顔だ。恐らくこれから起きるであろう世界の混乱を思い描いているのだろう。嬉しそうなミトラスの顔を握りつぶしたい衝動が溢れる。そして今、その衝動を抑える必要もない。

 私もつられて満面の笑みを浮かべつつ、奴にとっては最期の言葉を放つ。


「……じゃあ…………死ね」

「……え?」


 ミトラスに強力なバインドを仕掛ける。ミトラスが全部の魔力を入れても外せない程の、バインドを。ミトラスに這わせるように防御膜をしき、体内に魔術を出現させ、内蔵を破裂させる。

 それでもミトラスは生きていて、驚愕の表情をしている。「なぜ……」と口をパクつかせている。なぜって……理由分かんないのかな、分かないんだろうね。おそらくラインハルトにも言われたのだろう。一歳の人間の子供は出来事を正確に覚えることは出来ないと。ソレを信じて疑わなかったのだろう。

 ミトラスは内蔵を破裂させられた状態で今の状況を理解出来ずにいる。なぜ、魔王様が自分を攻撃しているのか、今まで懐いていたのに、と。


 私はそのオロオロしている姿に酷い苛立ちを覚える。ミトラスは私の母を殺した事さえ、忘れているのかもしれない、と。


 私はひらすら防御膜内の回復しようとしているミトラスの体に攻撃を放ち続ける。火で熱し、水で溶かし尽くし、風で粉々にし、土で擦り潰し、氷で固め、石で砕き、草でねじ切り、雷で電解し……。

 そんな事をただ淡々と繰り返していると、フッと索敵にミトラスの気配が消える。

 攻撃を中止し、ミトラスがいた所を見ると。人型の防御膜にみっちりと赤茶色のモノがこびり着いていた。


「……死んだのか。あっけないな」


 私はそう呟き、最後に残っている死体を燃やして無に返す。死体と言っていいかも分からないグチャグチャの状態だった。そしてミトラスを形作るものはこの世から消滅した。


「さて、逃げるか」


 ミトラスの魔力圧がなくなったんだ。ラインハルトやミト、ヴァネッサ、メイド隊がやってくる。私は闇の道を作り、足を踏み出す。チラリと走ってきたラインハルトが見えたが、気にせず前に進む。


 そうして、私は魔王城から逃げ出した。



 トンと地面に降り立つ。魔王城から空を飛んで数時間の場所まで一瞬で到着する。私が知っている場所で、魔王城から最も離れた場所。以前母と暮らしていた家があった場所だった。この場所はミトラス以外知らないので、ミトラスが死んだ今見つかる可能性は低い。


 家があった場所に向かって膝を突き、母に祈る。


「母さん……母さんを殺したヤツを殺しました。ごめんなさい。有難う」


 人の命を奪った事に対する謝罪、私のせいで死んでしまった事に対する謝罪。

 私を産んでくれた事に対する感謝、私を黒の忌み子と知っていてなお変わらぬ愛情を注いでくれた事に対する感謝。

 そんな気持ちを綯交ぜにし、ただ祈る。どれくらいそうしていたかは分からない。少しだけ太陽が傾いていた。


「母さん、私はもう少しだけ、生きます。勇者に殺されるその時まで」


 そう言い残し私は立ち上がる。


「さて、まずは見た目を変えないと」


 そう言って水鏡を作る。そして、以前覚えていた色彩変化を行う。色は母と同じ茶色の髪その色よりも少しだけ濃い茶色の瞳。微調節しながら慎重に色を変える。納得のいく色が整うと、その配色による魔力の配置などを正確に覚えておく。そして常時設定しておく。魔力隠蔽も同様に常時設定しておく。

 しかしすべての魔力が消えるのはマズいので、少しだけあるように見せておく。隠蔽を施していても普通に魔法は使える。でも全属性チートは流石に悪目立ちするので、水属性だけ使える事にしておこう。

 解毒や回復が出来るのでとても便利だ。飲み水も必要になるしね。

 戦闘は主に剣。それに補助魔法と防御膜を掛けての戦闘スタイルにしておく。


「……と、髪長いな」


 空間に放り込んであったナイフを取り出し、髪を切る。バサバサと髪が地面に落ちる。後ろは流石に切りにくかった。揃っておらず、ちょっとガタガタになっている。


「床屋とかあんのかなー……あ」


 床屋で揃えて貰おうと考えていたら、落ちた髪を見てそれは叶わない事が分かった。黒くなっていたのだ。恐らく体から切り離される事で魔力の干渉がなくなったのだろう。

 これはちょっと切られるのはマズイ。これから髪はある程度伸ばし、後ろに括ることにしよう。ちょっとくらい髪の長い少年がいてもいいだろう。ちょっと長かったら切りそろえやすいし。


「そういえば抜け毛はどうなるんだろ」


 気になってプツリと一本抜いてみる。しかし髪は茶色のままだった。

 なぜ切ると黒くなるのに抜け毛は大丈夫なんだ……?よく分からないが、毛根の問題なのかな?……まぁいっか。茶色のままならそっちのほうが便利だ。


 くるりと周り水鏡で自分の姿を見る。髪が軽くなり、腰にも剣を下げ、随分と「少年」らしくなってしまったらしい。この世界、女性の労働基準がどうなっているのか知らないが、男性で行くほうが何かとスムーズなのではないだろうか。……ま、憶測なのだけれどね。前世も女だったのだが、見た目がイケメンだったため、男に見られる事が多かった。単純に前世で男性扱いされ過ぎた事に対する慣れで、こっちの姿の方が落ち着く。

 お嬢ちゃん可愛いねなんて言われるのはちょっと反応に困ってしまうのでな。まぁそれに私の現在の顔は父に似てきて爽やか系イケメンになってきている。今世でもイケメンの人生を歩みそうだ。別に落ち込んではいない。

 母に似たら良かったのにとか思っていない……。本当ですよ?……うう。


 さて、準備も整ったので出るとしよう。まずは近くの町で父と兄の捜索からしよう。近くに住んでいたんだから、そこまで遠くではないはず。索敵で周りの人の気配を探る。500m付近に敵影なし。結構離れてるのか。

 800m程範囲を広げると、人の密集している箇所があった。恐らくそこから来ているだろう。

 そちらの方向はとても森が深く、まだ日が出ているのに暗闇に近い。なるほど、こちらの方面に来る人物はそうそういないのだろう。暗闇の森を毎回抜けて来るあたり、父は優秀だったのではないだろうか。


 私は迷わずその森に足を踏み入れる。森の中で迷うことはないだろう。索敵での目印もある。私は灯りも付けずに進む。暗かったが、闇属性の効果か奥までよく見える。暗いのは分かるのに見えるって不思議。


 真っ直ぐ突っ切り、森を抜ける頃には辺りは赤く染まっていた。町に一度泊まり、明日捜索する事にする。取り合えず、街に行ってみる。索敵では二百名程住んでいるようだ。それは少ないのか多いのかは良く分からないけれど。コレくらいの人数なら父と兄も簡単に見つけられそうだった。取り合えず今は泊まろう。お金なら少しだけれど魔王城から掠め取ってきたからな。

店じまいをしている恰幅の良い女性に声を掛けた。


「こんばんわ」

「こん……ああ、あら?見かけない顔だわね?」

「ええ……えっと宿を探しているのですが」

「こんな寂れた村に宿なんてものないけどね?」


 えっ……まぁそっか。そうか、少ない方だったか。そりゃあ地元民だけしかいないなら宿もないのだろう。


「そうですか、それじゃあ野宿でもしましょうかね。有難うございました。それじゃ」


 お礼を言って立ち去ろうとするが、ガシッとおばちゃんに腕を掴まれてしまった。


「待ちな。坊や一人だけなのかい?親は?」

「一人だけです。親は今探している最中です」

「……訳アリって感じだねぇ。いいさね、今日は私の所に泊まっていきな!」

「いや、そんな。訳アリそうな怪しい人物泊めちゃダメですよ?」

「こんな子供が近くで野宿してたら眠れやしないよ!私の良心が痛んじまう!良いから泊まっていきな」


 ……随分と人の良い人だな。怪しいどころか、世界征服も出来る魔王なんだけど。出来るとしてもしないけど。や、まぁこんな所に魔王が宿探しに来るなんて思うまい。しかしまぁ人数が少ないから人の顔は皆知ってるって感じなのかな。そうだ、この人に父と兄の事聞けばあわよくば父の所に泊まれるのでは?


「えっと。実はこの近くに父と兄がいると聞いたのでここに来ているんですよ」

「え?なんだい?あんた貴族じゃないのかい?」


 ……なんで貴族って事になっているんだろう?身なりはそれなりに見窄らしくなっているはずなんだけどな。


「近くにいるならなんでまた宿を?」

「実はさっき着いたばかりなので、いるかどうかも聞いていないんですよ。暗くなって来ているので捜索は明日にしようと思ってたんですよ」

「そうなのかい。狭い村だし名前分かれば分かるかもしれないよ?言ってごらん」

「父はヨーシス。その息子はクラウド」

「……」


 あれ、黙り込んでしまった。難しい顔で少し考えているようだ。もしかしたらアテが外れてしまったかな?


「確かにヨーシスと嫁さんのイグル、その息子さんのクラウドはこの村にいたよ」

「え!」


 おっといきなりの当たり!期待した声を上げてしまった。


「……だけど、嫁さんのイグルが死んで別の村に引越しちまったんだ。五・六年前だったかねぇ……。今はどこに行ったかも分かんないよ。何も言わずに出て行っちまったからね」

「……そう、ですか」


 あからさまに残念な声が出てしまったようで、おばちゃんも気の毒そうな顔を向けてくる。


「とりあえず家はないってこった。今日は泊まっていきな」

「はい、ではお言葉に甘えて」



 おばちゃんの名前はシェスティというらしい。村で唯一雑貨屋を営んでおり、母イグルとは良く話した事があるらしかった。


「そうかい、死ぬ前にあんまり見かけなくなったのはあんたを育ててたのかい。でもなんでまたそんな離れた所で」

「それはよく分かりません。私も幼かったものですから」

「そりゃそうさね。しかし良くこの村に住んでいたって分かったね」

「それは……まぁ教えてくれる親切な方がいたもので」


 根掘り葉掘り聞かれるが、流石に正直には答えにくい。貴族だと思ったのは、礼儀と敬語がキチンとできているからという理由からだった。日本人的にこれはなんというか癖みたいなものだからなぁ。気を付けないといけないけれど、目上の人には敬語を使いたい。とりあえず、今まで貴族に誘拐されていたという事にしておいた。人さらいはよく起こるらしかった。だから特に疑問も持たれなかった。あながち間違いでもないし。


 鍛冶師の父ヨーシスと母イグルは村でも一番の夫婦で有名だったらしい。その頃の村は町といってもいいくらいに栄えていたらしかった。彼らがいなくなってから、魔物が襲って来て多くの人の命が絶たれ、今では日々衰退の一途を辿っているという。


「ベル婆って人が魔術に長けていてね、その人が亡くなってしまってから結界がなくなっちまったんだよ」


 ベル婆。そういえば聞いたことがある。ベル婆に止めてもらうどうのこうの……。そうか、その人も亡くなったのか。つくづく私の求める人物は死んでしまうみたいだ。なんだか父と兄に会えるかどうかも怪しくなってきたな。


 ベル婆は、魔術に長けていて、村長みたいな存在だったらしい。両親は恐らく、私が黒の忌み子で、ベル婆に相談をしていたのだろう。亡くなってしまって、また手掛かりが減ってしまった。


 これで全く手掛かりというものが無くなってしまったようだ。取り合えず、冒険者ギルドに所属でもして異世界ライフを楽しみつつ探すことにしよう。

 明日はシェスティさんに近くの大きな街でも聞いて目指すことにしようかな。そこなら冒険者ギルドに登録とかも出来そうだし。

 生活するにはお金がいるし、移動も容易い。異世界の知らない事もたくさん知ることが出来る。

 父や兄と会えなかった事は寂しいが、仕方あるまい。今は出来ることだけしよう。

晴れて自由の身です。これで楽しむ異世界ライフ。

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