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49話

今回は少し短め。アル視点がかなり混乱をしているので読みにくいかと思います。ご注意下さい。

 毎日騎士の訓練を見て、毎日夜には結界を張りに出かける。寝たら確実に悪夢を見る事になるので、眠い時は本当に辛い。意地でも寝たくはないのだが、睡魔はどうしても襲ってくる。魔王で不死なんだから、不眠属性も付けといてよ。


「……と、大丈夫ですか?」

「シャオたん」

「……シャオ……たん?」


 私がフラついたのを支えてくれたのはシャオたんだった。思わずシャオたんと心の呼び名を呼んでしまった。すげー恥ずかしい。顔は赤くなっている事だろう。


「すいません。つい出来心で」

「い、いえ……それは構わないのですが……それより大丈夫ですか?顔色が良くありません」


 気遣わしげに私を見つめるシャオたん。マジイケメン。最近あんまり眠っていないので、そりゃあ顔色は悪くなっているだろう。寝るのが怖い。必ずと言って良い程見るあの悪夢は見たくないのだ。我に返るたびに、殺していないか不安になる。現在は騎士の訓練中だったのだが、倒れそうになった。御蔭で、騎士達も心配そうにこちらを窺っている。ビシバシ訓練をさせていたが、信頼関係は築けたと言って良い。だからなのか、彼らをとても殺したくなる時がある。


 私は緩く力を込めて、シャオから離れて自分で立つ。


「ええ……まだだ、まだその時じゃない……!」

「……大丈夫ですか?」


 キリッとしたら頭の心配をされたような気がする。きっと気のせいである。まだ、冗談を言えるだけマシだ。


「ここは任せて、お休みになられては?」

「ん……」


 私は心配そうに見ている騎士達を見て、自分が休んだ方が良い事を悟る。


「じゃあ、そうしようかな……」

「付き添いはいりますか?」

「……いや、構わない」


 私は軽く手を振って、動かしているか良く分からない足を何とか動かす。自分じゃない体を動かすような、酷く気持ち悪い感覚。人の気配が消えた所で、壁を背にしてズルズルとその場に座り込む。


「はぁ……」


 これ、いつまで持つんだろう?だるいよ、正直。あ、眠い。もう5日ほど寝てないからなぁ……。魔王の体は、強いけど、流石に睡眠が足りないかもしれない。


「アル!」


 真っ青な顔をした兄さんが走ってくる。ああ、こっちこないで欲しいなぁ。重い瞼を何とかこじ開けて兄さんを見る。最近の兄さんの体調も悪そうだ。夜は何をしているのか、目の下には隈が出来ている。食事もあまりとっていないのか、痩せてきているようにも見える。

 泣きそうな顔で私の顔に触れてくる兄さん。その手は冷たくなっており、震えている。ああ、兄さんの方が先に死んでいってしまわないか、心配になってきたよ。どうして兄さんはそんなに体調が悪そうなの。

 私は兄さんの手に触れる。


「兄さん、大丈夫?」


 その問いに兄さんが涙を流した。


「馬鹿かっ!自分の体調を見てから言えっ……!人の心配している場合じゃないだろう……!?」


 兄さんの腕の中に包まれる。冷たい手とは違って胸は暖かかった。抱き留める腕はしっかり後ろに回っているが、私の負担にならないようあまり力を込めていない。

 その気遣い、凄く無駄だよね。どうせ、私は勇者でないと死なない。心臓を抉り出されようが、頭をかち割られようが、手足をもがれようが、私には関係のない話。馬鹿らしい。どうせ、魔王となった私は死んでいるも同然。そんな風に心配される、ほど……。

 おっと、ちょっと変な事考えたような気がする。ああ、最近寝てないから……。顔に手を当てて悪い考えを振り払う。最近この仕草が癖になってきたよ。

 フラつきながら立ち上がるのを兄さんが支えて手伝ってくれる。


「ふっ、有難う。兄さん」

「お礼なんて、言うな。俺は、アルリリアになにもしてやれていないのに」


「兄さん……」


 沈痛な面持ちで私を見る。私は溜息をついてから兄さんに向き合う。


「兄さんが何もしてない訳ない」


 綺麗な顔に伝う涙を拭って微笑む。私の精神年齢からすると、随分と年下になる兄。私の事を心から心配してくれる肉親。貴方はただ、そこにいてくれるだけでいい。生きていてくれるだけでいい。余計な事は考えなくて良い。ただ……悲しい顔をされるより。


「兄さんは笑っていてくれた方が、もっと嬉しいかな」

「アルリリ、ア……」


 兄さんは泣いた顔で、口元だけ笑わせた。無理に笑っているのが丸分かりで、苦笑する。本当なら、ちゃんと心から笑ってほしいのだけど。まぁ、今の私の状態がこれじゃあ、無理な相談なのかな。

 私が死んだら、兄はどうするのか……ああ、どうして妹だなんて言ったのだろう。無責任で、自己中で、考えなし。


「兄さん。私が死んだらね」

「アルリリア?」


「私が死んだら、忘れてね。忘れて……幸せになってね」

「悪い冗談はやめてくれ……」


 絶望したような顔を浮かべた兄。ああ、忘れてくれ。こんなふざけた存在なんて忘れてくれ。今も……そんな兄を殺したいと願う私なんて、忘れてくれ。お願いだよ。


「兄さんが幸せに笑ってくれたなら、私も幸せだから」


 肉親はもう彼しかいない。ただ、彼の幸福を願う。いつまでも妹という存在に縛られず、生きて行ってほしい。魔王なら勇者が倒すから。世界はきっと救われるから。


「……生きろっ!!」


 少々乱暴に肩を掴まれて怒鳴られた。


「生きてくれよっ……頼むから……」


 最後の声は、掠れるような声しか出ず、膝をついて泣き崩れた。私も膝をついてそんな兄を眺める。

 ……何泣いてんだ?こいつ……というか、放して欲しい。汚いんだから。そうか、殺せば良い。こいつは弱いし、簡単だ。頭に入っている所は汚い色だから、あまり晒したくはないのだけど……でもここからだと手っ取り早いからなぁ。


「アル」


 兄さんの頭に手をやろうとした所で声を掛けられ、ハッとした。今……今、殺そうとした、のか?信じられない気持ちで自分の手を見てから、声を掛けて来た人物に顔を向ける。

 リョウだった。泣いてしまったようで、目が赤くなっている。そんな顔も可愛らしい。


「クラウドさん、立って下さい。そして休んでください。最近寝ていないでしょう。これはきっと……悪い夢ですから」


 リョウは兄さんを立たせて寝室へと誘導していく。フラフラする兄をしっかり支えるリョウ。リョウもすっかり大きくなって……。

 私も、眠いので寝室へと向かう事にした。


「悪い夢……夢……そう、全てが夢なら良かったのに」


 前世の両親が死んだ事も、私が死んだ事も、記憶を引き継いで転生した事も。現世の母が死んだ事も、父が死んだ事も、魔王な事も、全て、夢なら楽だったのに。苦しい、もう何も見たくない。嫌だ、人を殺すのは。







「―――はっ!はぁ!はぁ……」


 寝て、悪夢を見ていた。寝てなかった事で、眠りは深く、夢も現実のようにリアルで。真っ赤に広がる地面が、とても美しく見える光景。ああ、ダメなんだ。これは夢だ。あの世界に行ってはいけない……。


 ―――どうして?


 あれだけ魅力的なのに、どうして拒んでいるのだろう?殺してしまえば、全て楽になれるのに。頭を振ってその考えを消す。毎度毎度、神経がすり減っていく。

 本当に殺していないか怖くて、確認しにいく。そろりとベッドから降り、扉を開ける。そこには警備の騎士が―――。


「あ……れ」


 警備の騎士はそこに崩れている。その目には何も映していない。それは、空虚な闇。


 ドサッ


 信じられなくて、足をもつれさせて尻餅をつく。


「な……あ……あ」


 体が恐怖で震えた。まさか。まさか私が殺した?自分の手を見てみるが、血で汚れていない。だから大丈夫……本当に?私の魔法に自動洗浄がある。血なんてすぐに洗い流せる。だから私が殺していないという保証はどこにもない。

 私は走って他の部屋に向かう。その途中、警備の騎士が何人か死んでいた。嘘、嘘嘘……違う違う……もしかして、私が寝ている間に?殺してしまっていた?

 ギルの部屋に到着し、ガクガク震える手で扉を開く。

 その部屋は臓物と血で溢れていて……そのぶちまけられた内臓の所有者であった

人物の顔が転がっていた。


「ギル……」


 思わずその首を拾って抱きしめる。


「いやっ……ぁ……ぁあああっ!!」






「―――アル!アル!!」

「はっ!?」


 ドッドッドと脈打つ心臓を押さえて跳ね起きる。私はベッドにおり、横ではギルがいる。ギルが生きている。何故なのだろう?死んでいたのに、何故?私がぶちまけた内臓は綺麗に収まっているみたいだった。

 違う、これはまた悪夢なのか。また私が殺すのか……もう嫌だ。殺したくない。殺してしまえば怖くない、怖くない。

 ―――何度目だ?この悪夢は。夢の中で夢を見る。嫌だ、もうやめてくれ。私の体は自然にナイフに手をかける。不思議そうに、死ぬなんて考えてもいない顔に向かってナイフを降ろす。


 ザシュ!


 ベッドに広がる赤を見て、ホッと息をはく。ああ、綺麗。こんなに、綺麗。


「アル!?アル!なにしてんだ!!」


 ギルが私の腕を引っ張ってナイフを引き抜こうとするが、私の腕はビクともしない。私のナイフは現在、私の太ももに突き刺さっている。直前で標的を自分に変えた。

 ―――危なかったなぁ。

 標的を変えられたって事はここが現実って事で。何回見たか分からない悪夢の中で、私は正解を見つけられたようだ。でも、本当にそうなのか、自分でも自信がない。

 でもギルを殺さなかった。それが、嬉しい。


「ヒール」


 そう口にして微笑む。ああ、治っていく。死にたいのに。どうしようもない。クスクスと笑いが込み上げる。狂う狂う狂う。


「アル、どうしたんだ……」


 心配そうに覗き込む憎い人。違う、しっかりしろ。これはギルだよ。

 ギルの問いかけに首を振る。


「大丈夫」


 大丈夫、まだ殺してないんだから。ギルだって生きているでしょう?だからきっと大丈夫、だいじょうぶ。


「クラウド、さんに……死んだら忘れろって言ったらしいじゃないか」

「ああ……聞いたんだ」


 クスクス笑う。なにこれ可笑しい。笑いが止まらない。


「なんで、笑ってるんだよ……」

「可笑しくって」


「可笑しくなんかない!……なぁ、アル……本当にどうしたんだよ」


 変な笑いが収まってきて、ちょっと落ち着く。困惑しきったギルを見て、殺したい衝動が生まれる。何度彼らを殺そうと思ったか、何度彼らを殺したくないと願ったか。もう数えきれない。ただ生きていてくれる事が嬉しいんだ。だから。


「幸せになれ」

「アル……?」


「ただ、生きて。幸せになれ」


 私が死んで魔王となると知った時、ギルは悲しむのだろう。勇者に討伐される運命にあるという魔王。彼女はただ、愛したかっただけだった。その愛は狂ってしまった。その狂気は今なお引き継がれ、続く。

 私が止めてあげれば良かったんだけど……そろそろ危ないかな。


「死ぬなよ」

「それは……俺のセリフだ。アル……なんで、そんな……」


 ギルの涙は綺麗だな。元々色素が薄いし、銀の睫毛がキラキラ光る。皆泣いてくれるんだな。私が死にそうになっていると知って、泣いてくれる。

 ……偽善だな。仲間だったから泣いているだけだろう?死んで時間が経てば忘れる。薄情な奴ら―――。


 ―――死にたくない。


 怖い、怖い怖い……!


 私は今まで死ぬことを望んでいた。けれど今は私が死んだらどうなる?ギルや、兄さんも死ぬんじゃないの?嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ!また、殺すのか?大事な存在をこの手で―――前世の両親のように。

 させない……殺させない……殺さない。勇者が殺しに来てくれるまで、死にはしない。

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