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48話

 ラミル家の問題は解決した……ラミル家の人々に対する態度は大幅に改善されている。人々は急な態度の変化に戸惑いを隠せないようだったが……いずれ慣れるだろう。

 そんなラミル家に怒りの色を滲ませる者もいる……ラミル家に貶められた者たちだ。父を殺され、母を殺され、罪を擦り付けられ……ラミル家は相当酷い事をしてきた。きっといつか報いを受ける事だろう。自分たちが犯した罪を……。

 私が手を下す前に、恐らくラミル家に復讐したい誰かがラミル家を潰しにかかるだろう。


「ラファウが心配だな……」


 その復讐にラファウが巻き込まれるのは嫌だった。自分の死すら受け止めていた彼は、領主になればとても良い働きをするに違いないのだ。


「ラファウ、とは?」


 リョウが耳をピクリと動かして聞いてくる。その耳の動きが正義だ。可愛いな、癒されるな、殺したいな。混在する気持ちの悪い感情を、頭を振り払って消し去る。

 今は王城の図書室に入り浸っている。魔王復活を食い止められないか探しているのだ。何もせずにただのうのうと待つのは性に合わない。


「リョウが気にする事じゃないよ」

「そうですか?」


 ああ……リョウの喋り方が余所余所しい。なんでこんな事に。リョウは驚いた事に一度見て聞いたものは二度と忘れないのだそうだ。何それ怖い。だから敬語もすぐにマスターしたのだろう。確かにこの容姿だと、前みたいな喋り方はちょっと違和感があったけど……見た目は大人、中身は子供!みたいな感じだったからなぁ。他人が見たら今の方が自然に見えるだろうな。私としては寂しいけど。


 ぱら、と禁術の解呪方法の本を捲る。傀儡術をその身に刻まれて意のままに操られるような状態になった者の解呪の方法。


 1つ、描いた術者を殺す事。

 2つ、詠唱した術者を殺す事。

 3つ、本人を殺す事。


 最後のヤツは解呪できてねーよっ!!

 思わず大声で突っ込む所だった。なんだこれ。解呪というか殺害方法に移ってるじゃないか。これは酷い。思わず本を投げ出す。

 別の本を探す。次は……ふむ、死者蘇生?そんなの出来るんだ?魔王城には魔物を蘇らせてアンデットにするというのはあった。でもその魂は蘇った訳ではなく、周りの生命体の魂を固定させるのだ。固定されるものとして多いのは精霊だ。人の目に映る事は少ないが、周りにいる精霊が勝手に魔物に固定されるらしい。

 精霊は固定の体を持たないので、喜んで体を手にするとかなんとか。だからアンデットの術の成功率は高い。やった事ないから分からないけど。王城にもアンデットの本があったな。禁術になってるけど。


 さて、話がすっ飛んだけど、今は死者蘇生の本の事だったな。魔王城にもそんな本なかったぞ。王城の特殊技能だとか?どうなんだろう。

 っていうか見開きに「死者蘇生は不可能だ。それでも良いなら先を読むと良い」って書いてあるんだが?いさぎがよいですね。私そういうの好きですよ?先を読み進めるとしましょう。



 死者蘇生は、自らの寿命を大きく削る禁術だ。魔術陣を描き、その上に亡骸を乗せる。そして、亡くなった者の遺品を大量に乗せる。亡くなった者の過去や歴史が長く刻まれているものほど良い。

 そして、術の詠唱には魔力が大量に必要となる。長い詠唱を終えるまでに魔力を保持出来る人間は稀だ。よって死者蘇生は普通の者では不可能と考えて貰っても良い。歴史上に存在する勇者や賢者などには可能だろう。

 しかし、彼らとて成功する訳ではない。明確な意思、亡き人を強く想う心。そして亡き人の記憶を正確に辿れるもの。詠唱時には亡き人が生まれてから何を思い、何を言い、どんな行動を起こしたか、正確に辿れば辿るほど良い。

 そんな事はどう考えても不可能だ。それこそ、共に歩んできた双子位のものだろう。その想像力と記憶力は如何なるものか。しかし正確でなければ精霊や別の魂が宿るだろう。

 私はこの著を書くにあたり成功した者を見た。しかして、それは成功だったのだろうか?

 私はその術者を見た。生気全てが吸われたかのようボロボロになった彼は、数日前までは20歳程の青年に見えた。なのに今の彼は枯れ枝のように今にも折れそうな老人に成り果てた。寿命を削られた結果だと彼は言った。

 そして成功を果たした彼の愛する者もまた老人になってしまった事から推測が立つ。

 死者蘇生には術者、亡き者の両者の寿命を必要とする事だ。

 亡き者は死んでいるのに、得てして妙な話だ。しかし目の前の老人はそう語るのだから、間違いがないだろう。

 彼は愛する者との再会を成功させた。それは、たった5分だった。蘇った愛する者は言った。「苦しい、殺して、殺して」と。


 5分。


 彼女は死をこいねがった。お願いだからと、早くと。5分の命を死を願って散らせた。彼は泣きながら彼女に縋りついたという。

 彼は語る。自分の死者蘇生では不十分であったと。彼は決定的に素質が足りなかった。そして、方法も浅はかだったと。その素質がナニであるか、別の方法があるのか、結局分からなかった。彼が目の前で事切れたからだ。

 話の途中で、彼の寿命は尽きた。

 しかし彼は5分死者を蘇らせた。


 自身の寿命を削り

 愛する者の寿命も削り

 5分間の再会を果たした


 得たのは果たして何だったのか


 それは私にも分かりかねる。ただ、かつて青年だった老人の死に顔は、とても幸せだとは言えなかった、とだけ記述しておく。

 無理矢理死の世界から連れ戻された彼女はちゃんと死後の世界に戻れただろうか?せめて、死後の世界で幸せに暮らせるよう願うしかあるまい。



 ……これは酷い。読むんじゃなかったかもしれない。辛い。うう……。これ実際にあった話なのかな……?


「大丈夫ですか?」


 私の様子が可笑しくなったのでリョウが心配そうにのぞき込んできた。私は軽く首を振って大丈夫だと伝える。


「その本、キツイですよね……」

「リョウも読んだんだ?」

「ええ……」


 リョウは眉間のあたりを指で揉みながら険しい顔を浮かべている。しかもリョウは一度でも見たら二度と忘れられないから、余計にきついだろう。内容をまざまざと思い出しているに違いない。

 せっかく蘇らせたのに、その相手は死にたいともがく。そして術者自身も寿命が大きく削られて老人の姿となった。


「ですが、5分だけでも。と考える程大切ならば、僕も考えますね」

「ええっ!?」


 まぁ、声だけでも聞きたいとか、あるかも、しれないなぁ……。私も、両親に会いたい。会って話がしたい。けれどこの方法では生き返らせることは不可能だ。だってまず亡骸がないんだもの。というか前世の両親に至っては世界すら違うというね。


「アルが死んだならば、僕は絶対に試みるでしょう」

「……リョウ」


 ぎゅ、と胸が締め付けられる思いがした。私は、近いうちに確実に死ぬ。だがリョウの寿命を削ってまで5分生きたいとは思わない。まさかピンポイントで私が死ねば使うと言われれば、怒らざるを得ない。


「リョウ、それやったら……怒るから」

「分かっていますよ」

「その顔、分かってないだろ?絶対するなよ?」


 リョウの顔を見て溜息をつく。うう、この子やりそうだ。リョウは良い子だ。だからこそ、死者蘇生は嫌だ。

 私は魔王で、もうすぐアスタロトが復活して、消えてしまう。勇者が召喚されれば、私は討伐される。その流れはきっともうどうしようもないのだろうと思う。どの書籍を読んでも、勇者は魔王を討伐している。魔王が殺されると、世界が喜ぶ。魔王の復活を阻止……なんて記述はどこにもない。魔王が復活してからはもう、倒される流れしか書かれていない。


 ―――誰もが私を殺したがる。


「……冗談でもそういうの、やめてよ」

「……アル」


 リョウの少し悲しそうな顔から目を逸らす。ああ、魔王が復活したら、リョウはどうするのだろう。私が勝手に連れ出したせいで……なのに、私の勝手な行動を素直に感謝し、死者蘇生すらすると言う。

 ギュッと拳を握りしめる。ああ、殺したくなる。でも私は殺したくはない、殺したくはないんだよ、リョウ。死者蘇生もして欲しくない。例え勇者に討伐されたとしても、だ。

 私はもう、十分生きたよ。


「……そんな顔、やめて下さい」


 ……顔?自分の顔に手を当ててみるが、分かる訳がない。私は今、どんな顔をしている?


「生きる事を諦めないでください」


 その的確すぎる突っ込みに苦笑が漏れる。そんな顔してたか?

 リョウが瞬きすると、その目から涙が零れ落ちた。私は立ち上がってその涙を拭う。へにょっとしてしまった耳を撫でる。ああ、もふもふ癒されるなぁ。ついでに、抱きしめてしまおう。座っているリョウの頭は、丁度良い位置にある。抱きしめやすいなぁ、いいなぁ。

 ……ごめんね、リョウ。




……リョウ視点……



 アルは僕をひとしきり抱きしめた後、図書室を出て行った。涙は乾き、目元が少し乾燥しているようだ。未だに視界が少しぼやける。


―――死者蘇生


 禁術中の禁術。死者を蘇らせる、世界の秩序を乱す魔術。僕は、アルが死んだなら、迷わず使うと断言できる。アルがいないなら、この世界はきっと無意味だ。


 アルは宣言通り、僕の世界を変えてくれた。


 忌み嫌われるこの黒を変えてくれた。誰ももう僕に石を投げない。殺そうとしない。色を変えるだけで、ここまで世界が優しくなった。

 魔力を扱えるよう、知識を与えてくれた。もう誰も傷つける事はない。嫌いだったこの力で、人を守る事が出来るようになった。

 もうあの暗い世界ではない。それがどれだけ嬉しい事なのか、アルは知らないだろう。この命さえ差し出しても良いくらい、感謝している。

 ―――それなのに、アルは生きる事を諦めた顔をする。ああいう顔はやめて欲しい、ただでさえアルの体調は最近悪いのに。この間荒い呼吸を繰り返して膝をついていた時なんて、心臓が止まるかと思った。


『良い子』


 あの洞窟で、そう言って僕の胸に人差し指でツンと突いた。その瞬間、僕の内の魔力がまとめられた。あの時はまるで分からなかったが、今なら分かる。アルのあの時の魔法は、かなり特殊なものだと。王城のどの書籍にも載っていない。

 自分の胸に手を当てて、そっと息をはく。その手が僅かに震える。

 「魔力隠蔽」や「魔力封印」というのはある。だが、「魔力隠蔽」は魔力圧を隠すだけで、体内魔力をどうにかするモノではない。しかも、あれは迷宮で手に入るマジックツールでしかない。

 「魔力封印」も、魔術でしかない。あんな風に気軽に詠唱ナシで出来るモノではない。しかも、その封印は閉じたら最後、術者が解放、死亡しない限り開ける事が出来ない。封印された側が気軽に開け閉め出来るようなモノでは決してない。しかも魔力暴走が起きないように調節されるような便利なモノ。

 ハッキリ言って常識外の魔法。髪の色を変える魔法しかり、どう考えても異常。

 オリジナル魔法なんて、伝説上の勇者や、賢者、精霊王位だろう。アルの強さなら、賢者と言っても過言ではないだろう。でも、どうしてこんなに胸が騒ぐのだろうか?色を変える魔法が、どの4属性どこにも見つけられないから?詠唱を無視しているから?

 アルが生きる事を諦めている理由に、もしかして関わっていたり……。


「アルは?」


 その声でハッとして顔を上げる。思考の海に沈んでいて気付かなかった。そこにアルの兄のクラウドが立っていた。


「……先程、出て行かれましたよ」

「そうか」


 そう言ってドカッと少々乱暴に椅子に座る。どこか焦っていて、目の下にうっすら隈が出来ている。ここ最近、ずっと書籍を読み漁っているのだ。貸出可能書籍は部屋にまで持ち込んで、夜遅くまで読んでいるみたいだった。

 クラウドはアルの体調が優れない事を心配している。アルは大丈夫だと言って苦笑しているが、信用できない。生きる事を諦めているアルの言葉なんて、全く信用出来ないのだ。


「……お前が読んだことない奴を」

「……分かりました」


 僕もアルの病状を探している。でも、なかなかそれらしい物が見当たらない。まだ僕の読んでない物をクラウドに渡したとして、本当に正解に行き当たるか……順に本棚を廻って何冊か手に取る。


「どうぞ」

「ああ、有難う」


 軽く頭を下げて図書室を去っていく。アルが心配で心配でたまらないのだろう。それは僕も同じだった。そういえば、クラウドはアルが黒の忌み子だと知っているのだろうか?……家族なんだから、知っているんだろう。あれだけ心配しているのは、そのせいもあるかもしれない。

 ……そういえば。

 黒の忌み子と評される原因があったな。あれは魔王。魔王は歴代黒い髪と黒い瞳をしている。それ故に魔王でない子供も討伐対象として……。


「……あ、れ?」


 何か、何かが引っかかった。


 アルは黒の忌み子。

 オリジナル魔法を生み出す賢者。

 無詠唱という異常性。

 4属性どこにも所属しない魔法。 

 死にたい理由。

 マリアが避ける。

 ―――悪夢。


 バサバサ……


 その音にハッとする。どうやら本の山をなぎ倒していたらしい。ガンガン頭が痛い。体からは血の気が引いており、震えが止まらない。震える足を動かし、目的の本棚に向かう。本を取り出して、ページを捲る。手が震え過ぎて、上手く捲れない。


「あ……」


 思わず立ち上がって後ずさる。体はどこも悪くない。呪いや禁術でもない。聖女でも治せない。なのに突然意識を失い、その夢で酷く魘される。次第に体が疲弊していき、やがて。


「うそ、でしょう……?」


 行き当たったその結論に戦慄が走る。ガツと本棚に当たって後ろに下がる足が止まる。

 4属性以外ならもはや光と闇が有力。その上で、聖女であるマリアが避ける。しかもアルは黒の忌み子で……。


 魔王。


 信託は受けた。魔王はもうすぐ復活する。その意味は。


 僕はマリアの所に走った。





……主人公視点……




「―――主っ!」


 廊下を歩いていると、ラインハルトが走って来た。その様子は必死で、ただ事ではない事が分かる。


「主……主……」

「ふっ、なんて顔してんの。ラインハルト」


 恰好良い顔が、涙で台無しになってしまっている。どこか縋る様な声は、とても情けない。


「もうすぐ復活するらしい。……その意味が分かるか?」

「……まさか」

「そのまさかだ」


 告げられた言葉に首を振るラインハルト。彼だけは魔王だと知っててずっと慕ってくれた。魔王復活の噂を聞いて、不安を感じていた事だろう。


「私はもうすぐ……」

「主!!」


 私の言葉を遮るように叫んだ。それ以上聞きたくないと言っているようだ。思わず苦笑が漏れる。もう分かっている癖に。恐らく否定して欲しかったんだろうけれど、それは出来ない。彼にはやってもらう事があるのだ。でもその前に、彼の心を聞こうじゃないか。


「主を変えるなら、今だ。ラインハルト。こんなクソみたいな主に仕える必要性はない」

「……」


 私は死ぬんだ。もはや私が死ねば世界が滅ぶ。ラインハルトはそういう事を望んでいる訳ではない。だから、やめて良い。こんな破壊者が主なんて、彼も嫌だろう。

 ラインハルトは、ギュと震える唇を噛みしめ、出会った時と同じ綺麗な礼をする。床にサラリと青の髪が落ち、とても美しい。


「我が命に、主はただお一人。主に忠誠を。我が剣を捧げる事を、お許しください」

「…………」


 胸がギュと締め付けられる。ああ、まだ私を主と呼ぶのかラインハルト。捧げられるその剣に触れる。


「許そう」


 ラインハルトの手が僅かに震えているのを見て、クスリと笑う。その覚悟は如何なるものだろう。彼ならきっとやってくれる。


「我が騎士に命ずる。魔王を、打ち滅ぼせ」

「……っ!?」


 ラインハルトが絶望した面持ちで口を開閉させている。その命令は、「私を殺せ」という命令だった。多分、私なら無理な命令だ。そんな事する位なら自分の死を願う。それがどんなに残酷な命令か……はかりしれない。

 硬直してしまったラインハルトの肩をポンと叩いて、笑う。


「期待している。我が騎士」

「……」


 口が震え、目に涙が溜まっている。その涙が、頭を下げる事でキラリと光って床へ落ちるのが見えた。


「は……我が命に代えても」







 トンとアンドリィの街に立つ。夜中なので、あまりスパイスの香りはしてこない。だが、かすかに名残があるような気がする。あまりの懐かしさに、笑みが零れる。

 あの時は、ケルトとウッドがいて、ギルがカレー作りをずっと見ていたっけ。彼らは元気にしてるだろうか?商人の道中はそこまで安全とは言えないが……ウッドはかなり強いので大丈夫だろう。

 この大きな街に結界を張る。大きな大きな結界だ。それでいて、念入りに、強固に、魔物が入り込まない様に。何重にも張り廻らせる。


「うーん、これくらいかな?まぁ、時間があったらまた来よう」


 今はいろいろな街に結界を張っている。魔王が復活し、世界に暗闇が訪れる。その際、魔物が活性化する。その為、魔王が直接手を下す前に人々が死んで行くのだ。それは避けたい所だ。まずは行った所を回って、次に行っていない細かい村を回る。どれだけ守れるか分からない。けれどやらずにはいられない。

 世界がどうか救われますようにと願って。

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