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45話

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……マリア視点……


 アルが、アルが倒れた時。血の気が引いた。触れた腕が赤く焼け爛れた。


「……っ」


 その事実に声も出なかった。他の人が見えないようそっと「ヒール」を呟く。聖女としての能力を使わないよう、細心の注意を払って。そこからは、触れる様な事はせず、苦しそうな顔を浮かべるアルの表情を窺う。

 アル、『閃光』、アルリリア。ふと、出会った時のアルの表情を思い浮かべた。私の頭を撫でた瞬間、驚きで目を見開き、自身の手を眺めた、その動作。すぐに柔らかい笑みを浮かべたためにまるで気にしなかった。というか、そんな仕草だけで出会ったばかりの私が気付く訳がない。

 気付く訳が、ないんだよ。


「……っぅ」


 泣きそうになって、慌てて目に力を込める。待って。まだ、「ソレ」だと決まった訳じゃない。神託による神の御声も聞いていない。そうだ、違う。触れて焼けただけでそうと決めるのは、良くない。


「おい、マリア……アルは、大丈夫なのか?」

「……分から、ない」


 ギルの言葉に声が震えないよう細心の注意を払った。改めてアルの綺麗な顔を見る。アルが魘される、その悪夢は、果たして、それは……混乱する頭はまるで整ってくれない。


 ―――魔王。


 マリアの頭にはどうしてもその2文字がチラついた。マリアの体は生まれた時から薄い光属性のヴェールを纏っていた。其れゆえの聖女。だから王城で来るときに備えて修行をしていた。馬鹿な、なんで、どうして。

 アルの目は固く閉ざされ、苦しそうに唸る。夢、魔王は夢を見る。果てしなく苦しい夢、身内を、知らぬ者を、好きな者を殺して行く。アルが見ているのは、きっとそう言う夢。その夢は現実との境目を失くす『猛毒』だった。


 私は呆然として自分の手を眺めた。気軽に近寄っていた。抱き付いていた。優しく撫でて貰った。優しい笑みを向けて貰った。私が触ると焼け爛れるのに。そんなの微塵も感じさせない。

 優しい優しいアル。


 ―――違う、違うよ。そうだよね?そんなんじゃないよね?だってアルはあんなに優しい。世界を破壊する所か、人を救って行く。私も救われた。孤児にだって食事を与える。迷宮の心臓だって助ける。人を、助けてる。

 だから、アルはそんなんじゃない。



 やって来たラインハルトというダークエルフがアルを主と慕う。けれど聞き間違いでなければ、あのダークエルフは「魔王」と呼ぼうとしたのではないだろうか?魔……しか言っていない。確証はない。気になるなら聞けばいい。でもそれを聞いたら取り返しがつかないような気がした。

 怖い。怖くて聞けない。

 兄と共に楽しそうに笑うアル。たまに私と目が合うと、困ったように笑う。私が気付いている事に、気付いたのだろうか?アルは、私に触れると焼けるなんてこと、すぐに気付いたんだから。



「……見つけた!パパを殺した悪魔め!」


 憎い目でアルを睨みつける女の子がいた。その姿は必死で、誰もが息をのむ。アルは目を細める程度で、その攻撃を意にも解さない。それどころか、冷酷に嗤った。


「子供のお遊戯?それで私が殺せると?……笑わせる」

「あ……あんたに!あんたに何が分かるって言うの!」


 その目は、声は、ゾッとするほど冷たくて、体からどんどん体温が奪われていく。……アルが人を殺した?うそ、うそだよね?だってアルは船上の英雄だもの。『閃光』の名を表するSランク最有力冒険者。誰からも好かれる、誰でも平等に接する、命の大切さを、誰よりも知っている。


 ―――死にたがり


 敢えて危険な道を行き、死のうと試みる。それで死ねば嬉しいし、死ななければ誰かを救う事が出来る。そんな賭けを彼女は平然とやっていく。

 アルは死にたがっている。それは、それは彼女が、魔王だと承知の上だから。死にたい理由は魔王だから。

 違うよ、そんな、嘘だって言ってよ。アルがそんな風に恨まれる事をするわけがない。違うって言ってよ。理由があるなら言ってよ。どうして、どうして。どうして何も言ってくれないの?私たちは仲間なはずじゃないの?私が、聖女だからダメなの?



「私にとって大事なのはあんたらがマリアの敵か、味方か。それだけだ……聖女かどうかはさほど問題じゃない」


 泣いてしまいそうになった。その言葉は純粋な私への心配だった。アルが私を仲間と思っていないはずがない。それは今までの態度からも分かる。思えば、聖女と分かった上で、見捨てる事なく私を助けてくれた。アルならいくらでも私を殺す事が出来た。なのにそれはしなかった。触っても、抱き付いても、ただ穏やかな笑みが返って来るだけ。


 王城の書籍に、他に症例がないか確かめに行きたかった。少しの希望でも見つけたかった。アルが助かるものがあるなら、見つけたかった。

 でも、いくら探したって見つからない。見つかる訳がない。光属性に反応するのは闇属性だけなのだから。絶望に打ちひしがれながら、ただ本を読み漁った。



「あぁっ――いやぁぁああぁあああああああっ!!」


 魔王復活の神託を受けてしまった。その瞬間絶叫した。声が飛ぶほど叫び、涙が流れる。周りの神官がぎょっとした顔で私を眺める。そんなのは、どうでも良かった。どうでも良かった。

 私は神殿で泣き崩れた。



 魔王は、最初から人格のない破壊者ではない。徐々にその精神を蝕まれ、死にゆく。それがどれだけ残酷な事か、今ようやく理解した。


 やだ―――やだやだやだやだよ!アルに死んで欲しくない!なんで、どうしてアルなの?誰よりも優しいのに、私を救ってくれたのに!

 うそだよね?なんで?なんで触ったら焼けるの?違うよね?いやだよ。なんでこんな神託受けてるの!?こんなのが聞きたいんじゃない!

 ―――聞きたくない!!


 ドキドキと心臓が嫌な音を立てる。

 未だかつて魔王の復活を止められた者なんていない。もしかしたら知らない間にあったかもしれないが、書籍がないので確かめようがない。震える足が図書室に向かう。


「―――マリア」


 凛とした声が聞こえてビクッと震える。その声は、恐らくは未だに悪夢に魘されているであろう―――魔王アルリリア。


「マリア―――ごめん、ごめんなさい」


 泣きそうな顔を浮かべるアルに、こちらの胸が締め付けられる。どうして、なんで謝るの。私はアルに謝られるような事なんて、されていない。涙がとめどなく零れ落ちていく。

 何も出来ない。無力。聖女では魔王を救えない。神託は受けてしまった。そんな声を聞きたいが為に王城に来たわけじゃない。

 そっと私の涙を拭うアルに思わず飛び退く。アルは本当に気軽に私に触ってくる。痛いんじゃないの?焼けてるんじゃないの?どうしてそんな風に困ったように笑ってるの?

 恋敵だなんて思っていた自分が馬鹿らしい。アルはもうその時点では悪夢に魘され、ずっと苦しみ続けていたのだから。恋なんて、する余裕すらないだろう。


 そこでハッとした。私は誰にも言っていない。じゃあギルは?ギルは、この事を、知らない?アルのお兄さんは?リョウは?この事を知った彼らは、どうするのだろう?ギルはアルの事が好き。アルのお兄さんはやっと見つけた妹に喜んでいる。リョウはアルに救って貰って特に懐いている。


「ア、ル―――ギル、は」


 枯れた喉は上手く音を発する事が出来ない。だが、アルはそれだけで察してくれたようだ。緩く首を振る。


「知っているのは、ラインハルト位だろうな」


 なんで、言わないの?違う、言えるわけがないんだ。魔王なんて、言えるわけがない。そんな馬鹿な話、言えるわけがない。

 魔王とはこの世界でも最も忌み嫌われる存在であり、最も危険な破壊者なのだから。


「私をはやく殺したくなかったら、黙っていてほしい」


 その言葉に、グッと喉が詰まる。殺す。聖女は勇者と共に魔王を討伐しないといけない。それは歴代の聖女の使命。その為に修行してきた。世界の命運を握る、勇者の手助けとなるように。


 ―――そんな事の為に、修行したんじゃない。アルを殺す手伝いをするために修行したんじゃない。


「やだ……死なないで……」


 アルはびっくりした顔を浮かべた後、苦しそうに顔を歪めた。私は伸ばした手をそれ以上先に出す事が出来ない。聖女が魔王を苦しめる存在だから。

 私を眺めるアルは、泣きそうに笑った。そして、信じられない事に、私を抱きしめた。

 ―――ダメ。焼けてしまう。アルが、やだ。違う。アルを傷つけたい訳じゃない。殺したくない。やだよ。もがいても、もがいても、アルの強い腕から逃れる事は出来ない。ただ、私を慰めてくるように背中をポンポンと叩く優しさに胸が詰まって、泣いた。



 ぼーっとした状態のまま、窓からアルが訓練場で騎士に訓練をつけているのを眺める。騎士に死なないように、死なないようにと願って訓練をつける。それはどんな想いなのだろう。私には理解すら出来ない。

 そもそも呑気に恋愛なんて事柄に現を抜かしていた私になんて理解出来るはずもないのだ。以前逃げたこの王城で、今度は魔王アルを殺すために修行する。

 その考えをするだけで、また泣けてきた。

 泣きそうな顔を浮かべていると、前からラインハルトが歩いてきた。長い青い髪はとても綺麗なものだ。その褐色の肌はどこか色気を感じさせる。実年齢や、その他の事などまるで知らない。けれど、アルは言った。知っているのはラインハルト位のものだろう、と。つまり、彼はやはりアルを魔王だと知っていたという事だ。


「何故そんなに悲しむ」


 その言葉に意味が分からず、首を傾げる。


「主は主だ、そんなに悲しむ謂れはない」

「知らない、の?」


 随分と慕っていたのに、彼は知らないのだろうか?

 アルは正確には魔王ではない。アルの所有する闇属性こそが魔王なのだと。つまり、魔王の復活で、アルの意思は死ぬ。本当に、アルは何も伝えない。

 大事な者に、大事な事をまるで伝えてくれない。

 真っ直ぐにこちらを見てくるラインハルトは、知らない。


「俺が主の何を知らないと?」


 アルは、死ぬんだよ。とは言えない。「私をはやく殺したくなかったら、黙っていてほしい」と言われたのもある。何が彼女の精神を押してしまうか分からない。私はその質問には答えず、ただ首を振った。





……主人公視点……


 王都グランドグランの王城で夜会が開かれることとなった。聖女を守り通した冒険者達へのお礼とお披露目といった所か。そういう政治的な問題というのは私には良く分からない。だが、これだけは言える。死ぬほど面倒臭いと。むやみやたらと豪勢な服を着せられて腹の探り合いやらダンスやら。まさかヴァネッサのマナー教室がこの日に役に立つとは。セクハラマナー教室でも役に立つのですね。

 感謝の気持ちとかは全然湧いてきませんけどね。


 私は侍女達に剣を取り上げられ、緑色の綺麗なドレスを着せられて、化粧を施された。コルセットで締め上げられるということもなかったのでそれはちょっと助かった。ヴァネッサめ、あの時の締め上げはお前の趣味か。侍女は手慣れた様子で髪を結いあげていく。


「お綺麗です、アル様」

「……ありがとう」


 侍女が良い笑顔で褒めてくれた。褒められたら、やっぱり嬉しいものだ。でもビックリするほど似合ってないんだろうなぁ。

 ヒールが少し高くてちょっと歩きにくいが、ちょっと時間が経てば慣れていくだろう。私は、それなりに見えるように丁寧な所作を心がける。まぁ、他の人も冒険者風情に期待などしていないだろうが、この格好で粗暴な動きなどあまりしたくない。似合わないものが、さらに拍車をかけてしまう事だろう。

 その動きが、まさしく令嬢のソレと遜色ないもので、侍女がうっとりしてる事など気づく訳もなく。


 コンコンと私の部屋の扉がノックされた。恐らく兄だろう。エスコートする男性が女性の部屋まで迎えに来たのだ。私と合流した後、リョウとギルに合流していく。ラインハルトは護衛として会場にすでに紛れ込んでいる。

 マリアはシャオにエスコートされて入っていくので、ここで合流はしない。驚いたのだが、シャオはこの国の第二王子だったらしい。どうりでイケメンな上に動きが洗練されていると思った。と、いうことは……マリアを王子直々に迎えに来ていたという事だ。危ない事するなぁ……。マリアも知っていたらしい。そういう事は早く言ってくれないものかな。呼び捨てにしちゃったよ。


「どうぞ」

「ああ、失礼する」


 侍女に通されて物凄くキラキラしい王子様のような兄が登場した。元々カッコいいとは思っていたのだが、キッチリした衣装に変えるだけでここまで違ってくるものなのか。

 さらさらの薄茶の髪に、青い瞳、父に似た爽やかなイケメンだ。そんな兄は私を見た途端に目を見開き……花が咲くような全開の笑顔になった。


「ああ、愛しのアルリリア


 そう言って、私の手をとり、額にキスを落とした。うえぇっ、兄さんそういう事する人なの!?私が赤くなって口をパクパクさせていたら、兄が甘ったるい顔を私に向けて来た。

 そっと私の頬に手をやり、そっと顔を近づけてきた。


「うおおおい!?兄だとしてもそれはダメだろ!」


 横からギルが兄を押してきた。いつの間に来ていたのだろう。ついでに言うと、ギルとの合流は先のはずだけど。なんで来たんだろうか?

 押された兄は眉を顰めて「チッ」と舌打ちしている。この2人険悪だな。どうしてこうなった。

 兄を睨んでいたギルがふ、とこちらに視線を向けて来た。そして、ピタ、と動きが止まった。


「……ギル?」


 私は首を傾けて固まってしまった友人に呼びかける。おい、似合ってないからってその反応は失礼過ぎるんじゃねぇのか、おい。仮にも貴族だったならある程度お世辞でもなんでも言いやがれ、それがマナーってものだろう。それともあれか?似合わな過ぎて褒めるのも躊躇う程なのか?え?傷つくよ?流石に傷つくよ?


「……ギルバート様」


 見かねた侍女がギルをつつく。それにハッと我に返ったギルの顔が赤く染まった。片手で顔を少し隠しながら、目線が泳ぐ。真っ直ぐにこちらは見られないようだ。

 凄く失礼である。まぁ、おばさんはそれ位じゃ怒ったりしないよ。なにせ年上だからね!心は大海のように広いのだ。若造の不躾な態度を笑って許せる位は出来るのだ。

 なんせギルも元貴族とはいえ、ずっと長い間冒険者として身をやつしていたのだ。多少無礼でも仕方があるまい。私も変な行動起こすかもしれないので、お互い様だろう。

 別に、一言も褒められなかったからって悔しくもなんともない。悲しくもないよ。本当だよ。


「行きましょうかギル……兄さん」

「ああ」

「あ……ああ」


 兄が自然に私の腰に手を回して先を促す。歩いた先にリョウが佇んでいる。その姿は実に様になっている。リョウは先日と同じ色合いの衣装だ。

しかし前の衣装に比べて豪華で煌びやかな装いだ。最近大人っぽくなってきてカッコいい。小首を傾げる姿は小さい時のクセのようで、可愛らしい。カッコいいのに可愛らしいとはこれ如何に。



 私は兄の腕を取って会場に入場する。リョウとギルは後ろから護衛のように付き従っている。会場に入ると、一気に注目を浴びた。耳を澄ませると「あれが例の?」「まぁ、所詮冒険者なんて粗野なんでしょうけれど」「ですがあのギルバート様はブラックフォードの……」など等聞こえてきた。

 やっぱりあまり期待はされていなかったようだな。しかし、ギルがブラックフォードから来ているなんて情報どこで手に入れたんだか。お貴族様の情報網って凄いなぁ。


「マルオストン王がご入場されます」


 その声で会場がシンと静まり返る。重厚な印象を受けるグレーの髭をたっぷり蓄えたおじ様がゆったりと登場した。選手入場みたいだね。横に付き従える護衛はライアだった。普段おちゃらけているが、こうしてみているとキリッとしていてカッコいい。

 ああいうの結構ストレス感じてるみたいだけど、大丈夫なのか?まぁ、仕事なのだからきっちりやるのだろうけれど。


 長ったらしい王様の口上も終わり、皆談笑し出した。見てみると、順番に王に挨拶に向かっているようだった。私達も行くべきなんだろうか。

 取りあえず、流れに任せて王へ挨拶に向かった。


「今宵は楽しんでおるか?」


 王が笑顔で話しかけてくる。その笑顔もなんだか胡散臭い。これから異世界の人間を拉致する人間だからなぁ。勇者可哀想。いきなり見ず知らずの世界救えとか、狂ってるとしか言いようがない。


「ええ、素敵な夜会をありがとうございます」


 ニコッと微笑んで淑女の礼をとる。


「かの『閃光』殿がまさかこんな素敵なレディだったとはな、皆驚くだろう」


 ははは……。訓練を行った騎士とかショック受けるんじゃない?女にコテンパンにされたんだから。取りあえず愛想笑いでもしておくか。


「改めてお礼を言おう。聖女を守って頂き、本当に感謝している」

「いえ、当然の事をしたまでです」


 何度か王と他愛のない言葉をかわしてから、会場に戻った。すると、シャオを付き従えたマリアが近付いてきた。マリアは神官のような白を基調とした服を着ている。

 これが聖女の衣装だろうか?シャオと腕を組んで歩く訳ではないようだ。シャオの装いは騎士の恰好だった。恐らくエスコートではなく護衛なのだろう。しかし、第二王子が護衛だなんてこの国は大丈夫なんだろうか?まぁ、この国の仕来りとかあるんだろうが……。

 近付いてきたマリアは、綺麗な礼をしてきた。私も礼を返す。


「アル。超綺麗」

「ふ、ありがとう……」


 ギルにドン引きされたんですが、そう言って頂けると嬉しいです。マリアは、ギルに目を向けた後、何かに耐えるように唇を噛みしめている。言っちゃダメだって言ったもんなぁ。

 別の貴族がマリアに話しかけてきたため、マリアとは離れる事となった。マリアやっぱり聖女だから忙しいなぁ。



 兄と話をしていると、曲が流れてきだした。それに伴い、ダンスを踊る人もチラホラいる。チラッとギルを見ると、緊張した面持ちでこちらを見つめるギルと目が合った。ぎこちない動きで私と向き合い、手を差し出してきた。


「俺と、踊っていただけますか?」

「喜んで」


 なんだか微笑ましくて、クスリと笑ってその手を取る。兄さん、ちょっと睨むのやめてあげてやってくれませんか。それに兄さん踊れないでしょう。まぁ、私もそこまで自信がある訳じゃないけど……魔王城で習って以来だからなぁ……。



 会場がその2人に釘付けになった。流れるような、その踊り、うっとりするようなその美貌。

 『閃光烈火』の踊りは、そこら辺の貴族のモノより力強く、穏やかで、綺麗だった。冒険者として戦いで魔物を切り裂いているとは、とてもではないが見えない。

 令嬢が、貴族が、王でさえ息をのむ。2人は時折囁き合い、楽しそうな笑顔を浮かべて舞う。粗野で乱暴という先入観など、皆忘れてしまった。

 『閃光』は男間違われていたほど男らしいという噂だが、今の彼女は可憐でたおやか。

 『烈火』は貴族から除け者にされたという噂だが、今の彼はどの貴族よりも貴族らしい。


「アル……凄く踊りやすいんだけど。なんで踊れる訳?」

「えー……ほら、攫われたって言ったじゃん。そこで習った」

「なるほど」


 そういう普通の会話がなされているのだが、傍から見たら熱い恋人のように見えた。


 皆その踊りに夢中になっていた為気づかなかった。


 剣を抜き去り、その2人に斬りかかろうとしているものがいる事を。


 『閃光』に刃を向けるものがいた。だが、会場が血に染まる事はなかった。『閃光』が後ろから斬りかかった刺客の剣を素手で止めていたからだ。

 ギルはアルとのダンスで気づかなかった。自分から見て、前から近づいていたっていうのに。いきなり手を離して手を後ろに持って行ったと思ったら、剣を捕えていたのだ。その人間離れした反応に全員の時が止まったかのように動かなくなった。


 バキン!


 その音で皆ハッとした。『閃光』が素手で剣を粉々に粉砕した音だった。そのあまりに異常な出来事に刺客の方が狼狽えた。


「ふ、剣士が剣持ってないからって油断しちゃダメですよ?」


 振り返った『閃光』の笑顔に刺客は寒気を覚えた。自分は殺そうと思って近づいたクセに、失礼な奴である。逃げようと思った時にはすでに『閃光』が刺客の腕の関節をキメて取り押さえていた。

 ほとんど一瞬の出来事。まさしく『閃光』と呼ぶにふさわしい動きだった。


「と、捕えよ!」


 我に返った王が騎士に扮した刺客を捕える為に命令を下す。といっても、もう『閃光』に捕らわれているのだが。


 私は刺客を騎士に渡して一息つく。ここの警備はどうなっているのやら。あの刺客は騎士の恰好をしていた為に紛れて気づかなかったのだろう。刺客を引き渡す時に、騎士から怯えたような目線を向けられた気がする。なんでだ。

 音楽も止まってしまったようだ。もう踊らなくてもイイかな?取りあえずご飯にありつこう。リョウがすでにビュッフェコーナーにかじりついているのだ。


「アル、無事……か?」

「ああ、無事無事……見てたでしょう?」


 私はビュッフェの方を見ながら適当に相槌を打つ。尻尾を振りながら皿に食事を乗せているリョウを見とめてちょっと癒された。よそ見していたら、ぐいっと腕を引っ張られて兄と向き合う形になる。


「怪我は?」

「うん、大丈夫」


 必死な表情の兄に苦笑する。皆心配しすぎなのだ。どうせ、死のうと思っても私は死ねない。勇者が伝説の剣で私を殺してくれない限り。まぁ、知らないから仕方ないんだろうけど。

 遠くの方でマリアがこちらをみていたので軽く手を振っておく。さっと目を逸らされたけど。ちょっとショック。

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