43話
ミノリが居る為、私達は早々にトリエステを出た。ほとぼりが冷めたら食べ物を制覇出来ると思っていたがそうでもないらしい。
世の中とはうまい事行かないみたいだ。
「アルは優しいな、あんな娘消せばいいのに」
「おい、何言ってんだ。兄よ」
道中兄がとても不穏な言葉を口走る。思わず頭を抱えそうになった。この兄さん本当にダメだわ。
「主はいつも正しい」
とか馬鹿が言ってたがスルーしておく。その信頼はどこから来るんだよ。魔王だと知っているだろう?この人もダメな人だ……。
「アルは別に恨まれるような事をしてない。なんでそこまであいつを庇うんだ?」
と、ギルに言われる。え、あの……父親殺したら恨まれると、思いますが?……分からない、貴族様の感覚が分からない。確かに父親は犯罪を犯してたと思うけど……うーん。
馬車を走らせていると、豪華な装飾を施した騎士達が道に2名立っていた。紫紺の髪の者と濃い緑色の髪の男達だ。敵意や悪意は検出されていない。
「……まさか」
マリアが小さな声で呟く。絞り出したような声で、顔色はかなり悪い。その明らかに違うマリアの様子に私達は警戒した。リョウもギルもマリアを守るように動く。私たちの反応に緑の騎士が肩を竦める。
「そんなに警戒なさらなくても、危害を加えるつもりはありません」
「どうだか」
緑の騎士の言葉にマリアが吐き捨てるように返事をする。緑の騎士は苦笑した。紫紺の騎士はずっと無表情だが。
「噂の『閃光烈火』パーティーに手を出すなんて愚かな事しませんよ」
「そうね。あんたらなんて。あっという間に消し炭」
「おお、怖いですね」
そう言っている緑の騎士は特に怖がっているようには見えない。マリアは睨み付けるが、緑の騎士はそれを笑って受け流している。その様子にずっと見守っていた紫紺の騎士が嘆息した。
「はぁ、そこまでです。ライア」
「はいはい、お前は真面目だよなぁ……」
ライアと呼ばれた緑の騎士は、少し後ろに下がる。その代わり紫紺の騎士が一歩前に出てきた。そして綺麗な礼をした。ゆっくりと頭を上げてマリアと目を合わせる。
「……お迎えに上がりました。聖女様」
「……っ」
リョウと私以外は驚いて息をのみ、マリアと騎士を交互に見た。マリアはギリ、と歯を食いしばっている。リョウはただ単に聖女の意味を理解していないだけだろうな。
聖女事情がここに来て向こうからやって来ましたね。とりあえず、私は前に一歩でる。紫紺の騎士はあまり動かない表情筋を一瞬だけピクリと動かした。
「……『閃光』様」
「はい?」
話しかけられたので笑顔で返事を返す。勿論警戒は怠らない。彼らは恐らく王都から派遣されたと推測される騎士だ。聖女というのは王都に保護されるものだ。流れ的になんら不自然な事ではないのだが……。だが、マリアはそこから命からがら逃げてきたのだ。警戒するなと言われるなと言う方が無理な話だ。本当に保護したいのなら良いが、マリアの命を狙った刺客かもしれないのだ。
「あまり、驚かれないのですね。聖女様からお聞きになられていたのですか?」
「いいえ」
「……そうなのですか」
「私にとって大事なのはあんたらがマリアの敵か、味方か。それだけだ……聖女かどうかはさほど問題じゃない」
「うわっすげぇ!聖女様が問題じゃないだって!『閃光』ってのは思考もぶっ飛んでるな」
後ろに下がっていた緑の騎士が耐えかねたようにしゃべった。それを諌めるように紫紺の騎士が睨み付けて黙らせる。実際問題聖女かどうかは大問題なんだけどね……前から知ってたなんて言えないし。
というか兄さん、その人睨むのやめてくれませんか?ぶっ飛んでる発言くらいで怒らないでくれ。頼むから。
「私達は聖女様の味方です。保護をしにきたのです」
「今頃、何しにきたの……信用出来ない」
マリアが喋ったので紫紺の騎士は目線を私からマリアに向けた。
「ローズウィップ神官長率いる悪因子は排除致しました。時間が掛かってしまいましたが、今は安全です。聖女様の心配もごもっともなのですが……どうか付いてきてくれないでしょうか?」
「……」
そう言われたマリアは黙って何か考えているようだ。その間一切騎士は動かない。……隙ないな~。割と手練れって感じだ。魔力も保持している所をみるとかなり上位騎士。
緑騎士もちょっと砕けた印象を受けるが、紫紺の騎士と強さで言えばさほど変わらない。
「俺……指揮官と同様の威圧放つ子供なんて見たことないんだけど……」
緑の騎士がそう呟いてため息をつく。
「そうですね。これがSランク最有力と謳われる『閃光』といった所でしょうね」
紫紺の騎士もそれに頷いて答える。私の事か……。
「威圧?放っていませんよそんなもの。警戒しているだけです」
「ええっ!?」
「……っ!」
2人共驚いたようで、目を見開いている。
「ちょ、これで警戒してるだけとか!なぁ、こいつといた方が普通に王都に保護されるより安全なんじゃねぇの?」
「……それは言ってはいけません」
緑の騎士が紫紺の騎士の肩を揺らす。紫紺の騎士が疲れたように首を振る。この2人意外と仲良さそうだな。そのちょっと面白い行動に少しだけ警戒を緩める。
「……行くなら」
マリアが私を見て複雑そうな表情を浮かべる。
「行くなら、皆で行くの。……いい?」
どこか苦しそうに私に訊ねるマリア。その言葉に驚く。マリアは私が魔王だと気付いている訳ではないのか?わざわざ危険因子を王城に招くなんて。
「……そうですね。それで付いてきてくださるならば……聖女様には神託を受ける仕事がありますので」
紫紺の騎士が重々しく頷く。
「……所で何処に行くんだ?」
ギルの疑問が零れる。
「王都、グランドグランの王城です」
「はぁっ!?王城!?」
紫紺の騎士が淡々と答えたが、ギルが驚く。
「当然でしょう、聖女様なのですから」
紫紺の騎士のセリフに私も頷く。まぁそうだろうな。
「主」
「ん?」
ラインハルトが小声で話しかけて来た。その表情は晴れない。
「良いのですか?王城などに……その、主は」
うん、そうだよねぇ。言いたい事は分かった。魔王が王城て。国でも奪う気かってな。確かに行かない方が良いのかもしれない。でもマリアも心配だし、ちょっと行ってみたいって気持ちも否めない。特に王城の書籍なんかは読んでみたい。聖女がいるくらいだし、魔王に関しても書籍もあるんじゃないだろうか?最近の白昼夢について分かる事があるかもしれない。それに、近くにいた方が殺しやすいしね。便利。
「主?」
「ん?」
少し心配そうに私を覗き込むラインハルト。あれ?今何考えてたっけ?そうだ、王城に行くって話だったな。
「まぁ……いいんじゃない?」
私達は王都グランドグランに行くことになった。ブラックフォードから東隣の国だ。道中騎士2人は馬を走らせていた。緑の方がライアで、気軽に話しかけて来た。
紫紺の騎士がシャオ。こちらは話しかけないと基本黙っていた。両極端だが、ライアとシャオは幼馴染で結構仲が良いみたいだ。幼馴染で先にシャオが先に騎士として合格し、同時期に入ったライアは悔しさで少しグレタ事もあった。道を踏み外そうとしていたライアだったが、シャオが懸命にライアを説得。見事ライアは立ち直り、騎士として合格した。ペラペラとライアが喋るので、一回シャオに沈められていた。目元を少し赤らめていたので照れたのだろう。
微笑ましい事だ。あいも変わらず私は悪夢を見るが。
シャオに悪夢で苦しんでいる所を見られてちょっと恥ずかしかった。真面目系寡黙キャラのイケメンに真顔で心配されると恥ずかしいのは何故でしょう。
やたらと心配げに見つめられて不覚にもきゅんとしてしまった。シャオさんかっこよすぎだろ。
無事に王城に着き、大きな門を抜ける。王城だけあってかなり大きな城だ。白を基調としており、魔王城とは真逆の色合いだろう。私は王城内部に入る前に足が止まった。
「どうしました?」
急に歩みを止めた私を不思議そうに見つめてくるシャオ。悪夢にうなされているのを見られてからシャオがちょっと過保護になった気がする。
「いや……入れるかなーって思ってね……」
「?……許可なら出ると思いますよ?聖女様を今までお守りしてくださったのですから」
「……ですよね」
そういうことじゃないんだけどねっ。なんかここから結界張ってあるんだよ……。どういう種類かは分からないけど、壊さないと入れない部類だと困るな。取りあえず結界に触ってみるか。
結界に手で触れようとするがスッと手が通り抜けた。見れはするが、触れないのか……。良く分からない結界だ。触れられなかった右手をしばらく見つめてから足を踏み出す。
結界は通ることが出来た。なんだかなー……。なんの結界だったんだろう。私は首を傾げつつ、皆が歩いていくのに付いて行った。
王城は広い。しかも同じような景色ばかり続いているので確実に迷子になるだろう、普通は。私の場合マッピングしてるんだけど。最終窓から出れば良いし。
私達は客間に通されてしばらく待った。色々なものが装飾されていて豪華だ。それに装飾の仕方もセンスがある。しばらくしたらシャオが戻ってきた。
「無事宰相様から許可が下りました。王城にお好きに滞在下さい。お部屋もご用意させていただいております」
シャオの後ろから何人もの侍女が現れた。
「では、それぞれご案内しなさい」
「はい」
侍女達がそれぞれ案内してくれた。一人一部屋らしい。どれだけ客間があるんだか……。金持ちってのは部屋の数の単位が違うぜ。
「ん?」
何故か部屋を案内してくれた侍女さんがじりじりと近づいてくる。ぞわぞわして思わず後ずさる。侍女さんの目が猛獣のようにぎらついている気がする。
「な……何々!?」
「……お世話をするよう主から言いつかっております」
なん……だと。まさか、脱がせる気か?ガシッと後ろから羽交い絞めにされた。なにっ!?気配が感じられなかっただとっ!?この侍女……出来る!
張り付いてきた侍女さんを払いのけて怪我させる訳にもいかず、大人しくされるがままにされる。
「じょ、女性だったんですかっ」
侍女が目を丸めて見つめてくる。……そうだよぉ……恥ずかしいからあんまり裸を見ないで欲しいのだけど。侍女の一人が服を持ってバタバタと出ていくのが見えた。
「失礼……ではこちらに」
通されたのはお風呂場だ。うわ、湯船とか何年ぶりだろう?わくわくしてしまうのも、仕方ないと思う。自動洗浄で清潔には保たれているけれど……やっぱり湯に浸かりたいっていうのはあるよね。この世界下水道は整っているけれど、お風呂はまだ全然なんだよなぁ……。
侍女達に丁寧に髪と体を洗われ、オイルマッサージを受けた。なんだか偉い人になったような気分になった。
「それではこれに……」
侍女が手にしたドレスに絶句した。フリルなどをふんだんに使った白色の可愛らしいドレスだったからだ。
「え、これ?これに着替えるの?」
「ええ、とてもお似合いになられると思いますよ」
だめだ……この人達から、逃げられる気がしないっ。私は泣く泣く侍女のされるがままにドレスを着させられ、化粧を施され、髪を結われた。そして鏡を見て驚いた。
……誰だこいつ。こんな綺麗系の顔だったか?メイドさん仕事しすぎぃ!原型留めてないだろコレ。うわー……恥ずかしいわ。
「では、客間にご案内致します」
「えっ!?戻るの?この格好で?」
「とてもお似合いですよ」
良い笑顔の侍女さん。良い仕事したぜ、という清々しい顔だ。やべー……私が戻るって事は皆もいる可能性があるってことだよね?うわ、恥ずかしい恥ずかしい!むりむりむり!こんなん似合わないでしょう!普段剣振り回してるのに!いやいやながらも侍女にグイグイ押されて客間の前に案内された。
恐る恐る中を確認する。皆服装を変えられていた。みんな同じような目にあったのだろう。
リョウは恥ずかしそうに頬を染めて耳がしゅんとしてて可愛い。でも服装が赤茶色と白色をメインで金色が入った服装でカッコいい。こうしてみるとどこかの王子に見えなくもない。というか服にちゃんとしっぽの穴があるなぁ……すぐに用意したんだろうか。
ギルは流石元貴族だけあって慣れていたのか、普通の顔だ。白色メインの服で薄い水色が入った服装。銀と白でとても綺麗に見える。やっぱ貴族だわ、ギルは。
ラインハルトは……うん、なんか放心状態になってるが大丈夫か?遠い目をしている以外は服もカッコいい。長い髪が後ろで綺麗に束ねられている。
マリアは薄ピンクのドレスを着せられている。清楚感が漂っていて、如何にも聖女って感じだ。もともと可愛いしね。癒されるわ……。
兄さんはいつもと同じ感じだな。なんでだろう。服装は薄い緑に金色の飾りを付けたものだ。兄さんも貴族に見える。凄いな。
意を決して私は皆が集まっている客間に足を踏み入れた。入った瞬間全員に見られた。
「……」
……うん。なんかみんな固まって私を凝視している。やめて見ないで。恥ずかしい。似合わないって分かってる。いやでも最近は胸もちょっと出て来たんだよ?成長期でしょ?
「アル凄い!お姫様みたい!」
おおう……リョウ、ありがとう。なんかリョウに褒められたら素直に嬉しいな。不思議。ギルは私からサッと目を逸らした。……ショック。
「やはり愛している」
とか兄が言ってたがスルーの方向で。
「……あれ?『閃光』様は女性だったのですか?」
後ろから声が掛かった。シャオたんだ。助けてシャオたん、私似合わないの。
「……とてもお綺麗ですね。驚きました」
「……くっ」
私はついに膝をついた。精神へのダメージがデカい。シャオに真顔で言われたらきつい。似合わないって分かってるから……正直に言ってほしかった。男みたいなやつが何女装してんだ?とか言われる方がまだマシだ。
「だ、大丈夫ですか?」
「くくく……わ、私はこの程度では負けんぞぉ……」
シャオが慌てた様子で私を気遣うが、私は不敵に笑った。似合わなくても良いもの、だって魔王なんだもの……。別に悲しくなんて……悲しくなんてないんだからね……。
王城にいる間、マリアは割と忙しそうだった。城内は本当に安全になったようだった。良かった良かった……で、私達はいつまで滞在するのかな?
「くっ……!ありがとうございました。『閃光』様!」
私は現在騎士に訓練を付けている。ボロ勝ち中である。適当に勝ちつつ、相手の悪い所を指摘する。そういえば王城で住みだしてから夢の頻度が少し下がった。それは正直助かっている。多分だが、あの結界の効果だと思う。良く分からないが王城は居心地がいい。
良く眠れるし、ご飯は美味しいし、お風呂はあるし。
ギルとリョウは王都に置いてある魔法書を漁っているようだ。私もそろそろ見させて貰おうかな。
訓練を終えて適当に庭を散策する。ラインハルトは何故か庭師と庭の手入れをしていた。庭師さんと意気投合で、次のレイアウトは~……って話をしていた。魔王城で花なんて育ててなかったのに……。そういえば、花自体咲かないのかもしれないな……土地柄かな。なんか植物も全体的に黒いもんなぁ魔王城は。
「今日もありがとうございます。アルさん」
「シャオ」
綺麗な紫紺の髪を靡かせてシャオが現れた。私の隣に並ぶように立ち、庭を眺める。
「他の騎士達の士気が上がって、技術も向上しております。本当に感謝しております」
「ああ……別に構いませんよ」
「聖女様には苦労をさせてしまいました。我らが至らないばかりに……聖女様を率先してお助けいただいたとお聞きしました。本当にありがとうございます」
「いえ……」
お礼ばかり言われて少々気恥ずかしい。しかもシャオたんはイケメンだから……余計にな。
「本当に、『閃光』様は噂通りの方なのですね」
「……」
そこには無言を貫く。噂ってどんな噂だろう。聞くのが恐ろしい。シャオたん今日は偉く饒舌だな。
「……そんな『閃光』様にお願いがあるのですが」
「……はい?」
ああ……うん。なんかお願いしたかったから物凄くお世辞言って来たのか。
「アルさん、魔王討伐メンバーに入って貰えませんか?」
「……っ!」
息が詰まった。今、何を……。驚いてシャオを見つめていると、ふ、と目元を緩めた。
「実は聖女様が帰ってきて早々に神託を受けたのです。まだ内密な情報なのですが……今から数年以内に魔王復活、また勇者が同時期に召喚されると」
魔王の復活……?その文字に頭が真っ白になった。その表現は可笑しくないか?だって私が魔王なのだ。魔王はもうすでに存在しているのに。私は背中に嫌な汗が流れるのを感じた。
「今は慌ただしく準備をしているのです。騎士達の訓練が少し厳しくもなりました。……魔王討伐に向けて」
私は何も言う事が出来ない。喋ればきっと声が震えてしまうだろう。
……「魔王復活」だと。彼はそう言った。魔王とは、何を持ってして魔王なのだ。
「まだ誰が討伐メンバーかは……神託を受けねば分からないのですが……『閃光』殿が支えて頂ければ、これほど心強いものもありません」
無理だ。私には絶対に……。何故なら、私が魔王なのだから。だから、私は緩く首を振った。
「何故です?あなたほどの実力なら……あ」
言い募ろうとしたシャオの顔色が変わった。
「大丈夫ですか?どうか、したのですか?」
私は震えていた。気づいてしまった。「あの悪夢」こそ「魔王の根源」であるのではないかと。
人を殺す快楽。親しい者ほど殺した時の快楽は高い。大事な大事な人を、最後に殺すの。だってそうした方が、『彼も』恐怖に顔を歪めるの。憎いあの『女』が引き千切られるのを、犯されるのを、笑って、笑って……なんて良い顔をするんでしょう。
私の知らない記憶が混在する。前世でも見たことのない男性と女性が仲睦まじく手を取り合うのが見えた。それを酷く醜い感情で見つめる『私』。あれは……あれは。
「っ……」
「アルさん!」
思わずその場で蹲ってしまった。自分が自分でなくなる感覚で平衡感覚すら曖昧になってクラクラした。慌ててシャオが私を支えるように背中に手を添えた。
『彼女』は誰だ?狂ったように笑う『彼女』は……。頭がガンガンと痛む。目も霞む。
ああ……この『悪夢』にとらわれた時、それが世界の破滅なのだ。
シリアスさん入ります。




