41話
途中の街で馬車を新しく購入。ラインハルトが馬車を扱るらしい。ついでにギルとリョウもやりたいと言い出したので、練習して段々扱えるようになってきた。道中長いので、いくらでも練習できるからなぁ。
「主の素晴らしさをそこまで理解していらっしゃるとは、流石兄君」
「お前もなかなかじゃないか。どうだ?妹は優良物件だぞ?」
「恐れ多い。まさかそんな事出来ますまい」
「即答するお前が俺は気に入っているよ」
「「ははははは」」
馬鹿と兄が意気投合し、楽し気に会話を交わす。
「クラウドってこんな奴だったっけ……?」
「ラインハルトってこんなキャラだったんだ……」
先のセリフはレイ。後のセリフは私だ。お互い顔を見合わせてしみじみしてしまう。
「にしてもアレだな、お前本当に強いな。魔物だってほとんど瞬殺じゃねぇか、なんでSランクじゃないんだ?」
「うーん……」
それはね、魔王だからですよ。なんて言えない。苦笑いを浮かべて受け流す。本当に余計な事しか聞かないな、こいつは。
「アルは沢山の人に好かれてるよな……」
「え?うーん……」
ギルがそう言って何故かちょっと落ち込んでいる。好かれ……好かれてるのか?兄からは確かに好かれているが、なんかラインハルトは微妙だ。マリアは最近避けられてるし……あ、リョウからはすっごく好かれてる自信はあるよっ!
「でも、それだけ……ければ」
「ん?ごめん聞き取れなかった」
あまりに小さな声で言われて聞き取れなかった。
「なんでもない!」
ギルが顔を赤くして立ち去った。なんだったのだろう?元気は出たって事で良いのかな?
さて、料理でも作るか。
「手伝う」
そう言ってリョウが人参を切る。おお、お手伝いですか。なんて癒される。たどたどしい所がまた何とも言えない。
「俺達も結構世界を回ってきたが、お前の出す料理は美味いな」
横からレイはそんな事を言って来た。
「全部の街を回って全部の料理でも覚えて来たのか?たまに知らない料理も出るし。どっちにしろ子供が覚えてていい量じゃねぇよな。本当、何歳なんだって聞きたくなるぜ」
おいおい、レイさんよ。本当に余計な事しか言わないな、この人。
「アルリリアだから凄いのは当然だ」
「主が素晴らしいのは当然だ」
馬鹿と兄が横からしゃしゃり出る。この2人は本当にブレないな。いや、ブレた結果がコレなんだけどね。私は兄の将来が心配ですよ。私が魔王だと知った日にはどういう行動に出るか分かったもんじゃない。
食事が出来上がって皆で囲んで食べる。マリアは最近とんと喋らなくなった。以前から口が達者という訳ではなかったが、それよりも口数が減っている。たまに泣きそうになっている時もあり、声を掛けようにもササッと逃げられてしまうのだ。
やっぱりマリアにはバレている気がする。特にあの女はアバズレだから、他の男で啼かせるのも良い。
……ん?今、何考えた?
食事を黙々と食べているマリアと目が合って、思わず目を逸らしてしまう。今何を考えた?思い浮かぶのは桃色の髪の女性を沢山の男に犯させてしまう光景。そのあまりの映像に食欲を失ってしまった。
「アル?どうした」
止まっている私を見て、兄が心配そうに覗き込んでくる。
「大丈夫です」
そういって、食事を再開する事にした。あまり食べたくはないが、無理にでも流し込む。不自然に見えないように。
次の街で、再び『食の街』トリエステに戻ってきた。以前も思ったが、甘い匂いが街を包んでおり、とても魅力的だ。今回は長く滞在したい。
「うわ、これおいしそー」
「アル、これも美味しそう」
「リョウ、半分しない?」
「する」
リョウもすっかり青年らしく大きくなった。昔の可愛らしい天使はいずこ……。まぁ今でも素直な事には変わりがないけど……。トリエステ以外の街でも『閃光烈火』の名前は有名になってきている。それにももうすっかり慣れた。パンケーキとショートケーキを半分こしながら食べる。マリアはチーズケーキにしたようだった。
しかし……トリエステ、凄く治安良くなってるね。前の殺伐とした空気が和らいでとても良い街になってる。まぁ、私が大量殺人鬼なのは変わらないけれど……平和になって良かったなぁ……。
男4人衆はというと、どこか買い物に行った。
パフェも食べ終わり、3人で街を散策する。
「えっ……もしかしてアルくん?」
驚いたような顔をした超美少女が声を掛けてきた。
「『閃光』のアルってアルくんの事だったんだ!?凄い!かっこいい!」
「えーと……ごめん。どなた?」
こんなに美人な人を忘れてしまうなんて……不覚。こんなに食い気味にくる知り合いなんていたか?
「あ、そか、こんな恰好じゃ分かんないよね。ヘンリーだよ!えと……何年ぶり?」
「え!へ……ヘンリーか!」
驚いてまじまじと見る。確かトリエステで『リーザック』に絡まれていたヘンリーだ。あの時は少年のような恰好をしていたが、女の子だったことは覚えている。
「ご、ごめんあんまり綺麗になってたから分かんなかったよ」
「え?もう……アルくんてば相変わらず口が上手いね」
ポッと頬を赤らめてもじもじする様子は実に可愛らしい。
「どうしたヘン……げっ!?」
次に現れたのは元リーザックメンバーの……名前は忘れたけど。顔は覚えているよ。ヘンリーの幼馴染だったやつだ。今でも一緒にいるのか……。このゴリマッチョハゲは相変わらず悪人面してるな。私の顔を見た瞬間に凄く嫌そうな顔を浮かべた。それに苦笑して、手を振る。
「やほー久しぶりだねぇ……」
「お前今『閃光』とか呼ばれてんのか……」
「そーみたい。似合わないっしょ?」
「そうだな……」
「何言ってんのイレデデルったら!凄くアルくんに似合ってるよ!」
イレデデルはお前は知らないから……という顔をしている。ですよねー。やっぱ私に似合わないよね。ヘンリーは結局何にも知らせてないから。
「急にいなくなって……心配したよ?」
「うっ、そ、それはすまないと思ってる……」
潤んだ瞳で見上げられてきゅんとしてしまった。
「ううん!元気ならいいの!今はね……ミノリって子と住んでて……あ、丁度来た」
「えっ!?」
ヘンリーの言葉に何故かイレデデルが動揺している。なんだろうか。一緒に住んでる人間の事知らなかったのか?意外と奥手なのか?そんなんだとそのミノリにヘンリー取られるぞ~?ヘンリーがミノリを呼んでこちらに向かわせてくる。その間ずっとイレデデルがおろおろしている。ミノリという子はどうやら女の子らしい。赤い髪が目立つ10歳程のちょっとボーイッシュなイメージの子だ。その子と目が合う前にイレデデルが間に立ち、遮られた。
「ミノリと会うな」
イレデデルが真剣な表情でそう言ってきた。少し小さめの声なので後ろのヘンリー達には聞こえていないようだった。チラッと見えたヘンリーの顔が不思議そうな顔をしていた。それにしてもイレデデルが真剣な表情してたら犯罪しかしてない様に見えるな。実際凄く良い奴なんだと思うけど……。
「どういうこと?」
「それは―――ぁ……」
言葉を発しようとするが声が何かに遮られたように出ない。イレデデルは手で喉を抑えて目で訴えてくる。……ああ、そういえば私に関する情報を規制していたな。それに引っかかる子って事か?あの場には『リーザック』以外の人間は検索されなかったはずなんだけど?規制を掛けたのは全員大人の男だった。さっきみたいな可愛い女の子が関係しているとは思わない。
「イレデデル?どうしたの?」
ヘンリーがイレデデルの前から現れる。ミノリを連れて。そのミノリと目が合った。その瞬間……憎悪にまみれた目で睨まれた。
「……見つけた!パパを殺した悪魔め!」
しまったという顔をするイレデデル。ナイフを取り出してきつく睨まれる。
「え?え?ミノリ?どうしちゃったの!?」
「下がってお姉ちゃん!こいつは殺人狂なんだよ!」
混乱するヘンリーを自分の後ろにやって私から守るようにする。ミノリという女の子がとても良い動きで切り掛かってきた。それを軽く避けてナイフを持った手を掴んだ。
「……っ!離せ!」
「……イレデデルさんよ、説明求む。もう、解除しましたよ」
私はイレデデルに掛けた制限を解除した。ミノリは捕まえられた状態で蹴りを繰り出してきた。それを空いた手で受け止めつつ視線をイレデデルに向ける。
「あの時の事をどこで見てたのか知らんが、お前の事を覚えてるみたいだ。あの中にミノリの父親がいたんだ」
マジか。あの時大量に殺した中に親がいたのか。しかも見てたって?気配がなかったぞ。隠密スキルでも持っているのか?……確かに今サーチしても検索されない。これだけの殺意の籠った視線を向けられても検索されないのか……。
「殺してやる!……死ねぇ!」
ミノリは殆ど半狂乱で体全体でひねって力の限りの攻撃を加えようとしてきた。捕まえたままの腕が脱臼しても構わないと言う勢いだ。女の子の肩を抜くなんてしたくないので腕は離した。体全体を使った攻撃は小柄なミノリでも結構な威力になっていた。
受け流すとまた怪我をしそうなので勢いを殺してあげる。自分の身体への被害など考えていない。受け止めた際ナイフを突き立てようとしてきたが、急に飛びのいた。その瞬間土魔法が横から流れていく。
リョウの攻撃だ。騒ぎを聞きつけた人々に外れた土塊が当たらないよう結界を張った。
「リョウ!やめろ、ここじゃ人が多い!」
「でも……」
私の言葉に少し躊躇するリョウ。その会話中も絶え間なくナイフによる攻撃と蹴りを繰り出してくるミノリ。相当鍛錬している動きだった。父を殺した奴を殺す為に、その為だけに鍛えられたのか。
それはどんなに辛くて苦しかったか。憎くて、憎くて……そうか、そんなに私を殺したいか。私は自然と笑った。本当、奇遇だね……私も私に死んで欲しいんだよ、ミノリ。
あなたは分かってくれる?
「ふっ……くくく……あはははははっ!」
私の笑いにピタリと動きを止めて青ざめるミノリ。ひとしきり笑った後、ミノリとしっかり目を合わせる。ミノリはビクリと震えた。
「子供のお遊戯?それで私が殺せると?……笑わせる」
「あ……あんたに!あんたに何が分かるって言うの!」
私は一歩ずつミノリとの距離を詰める。凍りついてしまったかの如く動けないミノリ。それもそうだろう……バインドで止めているんだから。
「何をしたの!?……この悪魔め!」
くつくつと笑いながら距離を詰め、焦るミノリとの距離はなくなった。私はミノリの顔を掴んだ。その様子にイレデデルが焦っている。
「ちょ……お前まさか……」
その様子に苦笑した。私は掴んだミノリに視線を戻す。顔を覆っているのでミノリと目が合う事はない。ただ、震えや涙で濡れた感触は伝わってきた。
「殺してやる……殺してやる……悪魔、悪魔め……」
「残念、悪魔じゃないんだ……私は」
―――魔王だよ。ミノリの耳元に囁いた瞬間ミノリがその場で崩れた。私はそれを支えてイレデデルに視線を向ける。イレデデルは顔面蒼白だ。まるで私がミノリを殺してしまった事を恐れているようだった。
「イレデデル。ミノリちゃん運んであげて。大丈夫、眠らせただけだよ」
イレデデルが恐る恐る近づき、ミノリが息をしているのを確認してホッとしたようだ。
「ねぇ、どういうこと?ミノリと知り合い?」
近づいてきたヘンリーがそう尋ねてくる。
「んー……知り合いじゃないけど……敵、かな?」
「えっ!?……な、なんで?」
「もう行こう、ヘンリー」
さらに詰め寄ろうとするヘンリーをイレデデルが止めてくれた。イレデデルは涙を流して眠っているミノリを抱えて歩き出す。
「え?イレデデル?ちょ、ちょっと待って!ご、ごめんねアルくん!またね!」
ヘンリーは私とミノリを見比べたあと、慌てて追いかけて行った。
「アル。何?今の」
入れ替わるようにマリアとリョウがこちらに近付いてきた。
「あ~……なんか私があの子の父親殺したみたいでさ」
「……は?」
私のセリフにマリアとリョウがピタリと止まる。
「人。え?人違い……でも、なくて?」
「そうだねぇ……ん~しかも沢山殺しちゃったから……娘がいるなんて知らなかったなぁ……」
この街では沢山人を殺した。まさかあの時の光景を娘に見られているなんて。というか、あの人達の中に子供がいた事が驚きだ。まともな生活送っているとは到底思えない。
「冗談」
マリアが否定の言葉を求めているが、生憎事実なので否定することは叶わない。マリアの声は震え、顔は青ざめている。
「そんな事アルはしないでしょ?」
リョウが不安げに私を見上げてくる。だが、私は首を横に振る。代わりにリョウの背中をポンポンと叩く。今では頭に手が届かないので背中を撫でたりしている。すっかり大きくなって……。
「理由。ある、よね?」
マリアが詰め寄ってくる。マリアが私の腕に触れようとしたが、その手は不自然に下げられた。……やはり触らないんだな。
さて、理由は確かにある。まぁでもそんなの関係ないと思うな。どうせ、私が彼女の父親を殺した事に変わりがないんだから。
私があの日殺した者は犯罪に手を染めた者達ばかりだ。それに一人一人殺す人間に質問した。殺人の計画、または手助けをした者、殺人を犯した者にも。貴方は手伝いをして、殺人をして、楽しかったですか?と。皆YESと答えて死んでいった。
殺人を犯した者は互いに殺させ合った。皆殺し方が手馴れていて楽しそうでしたね。
死んでいった者の一人が彼女の父親だったのだろう。悪いと思うが、ロクデモナイ父親だと思った。けど、だからって彼女を傷つける必要はない。私が彼女の父を殺した極悪非道な人物ならそれでいい。それが彼女の生きる意味になるならば。
「理由はあるけど、私が彼女の父親を殺した事実は変わらない」
言い切ると、マリアは泣きそうになっている。
―――凄く殺したくなる。
あ、まただ。
以前倒れた時に似た声が聞こえる。いや、その声は私の声だ。でも、違う。私は絶対そんな事考えない。ギリと唇を噛んで耐える。
ドキドキと妙な音をたてる心音を聞きながら、そっとマリアから視線を外す。人を殺すことが楽しくて仕方がないの。それが親密で、良い人であれば、あるほど心地よい。例えばそう……この人間なんてどうだろう?聖女を殺すなんてきっと気持ちがいいんだろう。この獣人はどうだろう?私に助けられた命が私によって刈り取られた瞬間はきっと絶望に染まるんだろう。
……違う。私は、そんなの考えていない。これはなんだ?私は気持ちが悪くなって手で口を押さえてふらついた。
ふらついた私に気が付いた2人が心配そうに私を見つめてくる。私は無理やり気持ち悪さを押し込んで笑顔を張り付けた。
「ごめん、ちょっとフラついちゃって……」
「アル前にも倒れたよ。大丈夫?」
リョウが心配そうに尋ねてくる。ああ、私が殺人犯でも心配するのか。その顔を見ていることが出来ずに目を逸らす。
「悪い……ちょっと一人にさせて」
「アル……」
私は2人から逃げるように離れた。この「殺人衝動」が収まってくれるまで離れようと思ったからだ。心配そうに見つめてくる人を殺したいと願うこの考えはなんだ?私じゃない、こんなの……。
当てもなくフラフラ歩く。気が付いたら以前の『リーザック』のアジトに来ていた。今でも思い出されるあの時の大量殺人。血は自動洗浄ですぐに洗い落とせた。けれど……あの時殺人で、人を殺した嫌悪は抱かなかった。それが、怖い。
じゃり、という音がしてそちらに顔を向ける。ミノリが立っていた。酷く驚いた表情で立っていた。……気絶させたはずだけど?嗚呼……いつの間にか日が落ちかけている。どれほどの間ぼんやりしていたのか。
「どうして、そんな顔してるのよ」
ミノリのその言葉に首を傾げる。私は今どんな顔をしているんだろう。憎々しげに見つめてくるその瞳にホッと安堵した。その表情は何故か安心する。あの衝動が生まれないから。この子はこんなに私を憎んでくれる。それが、何故か嬉しい。
ニコッと自然に笑顔が零れた。
「ふっ……何?そんなにお前も殺されたいのか」
「……あの仲間があんたの正体を知らないって事は分かった。でもあんたがいくら猫かぶっても私は騙されない」
そう言ってミノリは腰に携えた剣を鞘から抜き去り、私へと向けてきた。
「嗚呼……お前を父親の所に送ってやるよ」
「……っ!」
私が少し動いただけで体に力が入って硬直する。私が一歩そちらに踏み出すと、ミノリが一歩下がる。怯えきっている。その様子に肩を竦める。
「今日は体調が悪いんで……遠慮しておこう。命拾いしたな?」
私は硬直したミノリの横を通り過ぎようとした時。
「いつか絶対……絶対あんたを殺してやる……」
と、声を掛けられた。
「そう……楽しみだ」
そう言い返して通り過ぎる。殺すなら殺してほしい。私は私がとても恐ろしい。止められなければ、止まらなければいい。その思考が怖い。一体私はなんなんだ。私は震える手を見つめる。
しばらくそうしていたが、チラと物陰に視線を向けて、溜息を吐いた。
「来たんだ?」
「はっ……申し訳ありません」
陰からラインハルトが出てきた。大分時間が経っていたから、マリアに聞いて心配で来たのだろう。広げた手をぎゅっと強く握りしめる。
「私は……魔王だよな?」
「……そうですね」
何を言ってるんだという顔をするラインハルト。当然魔王と知って育てていたので当たり前の質問だろう。
「私は、もうすぐ……」
死ぬんじゃないかな、そう思った。が、口に出すことはなかった。単純に死ぬならば……まだ、良い。もし、もしもだ。この殺人衝動にとらわれて、「私」という心だけが死んだなら……。
ゾクと背筋が震えた。私は、本当にトンでもない存在なんじゃなかろうか?その考えを頭を振ってかき消した。
「……いや、なんでもない」




