40話
視点が変わります、ご注意下さい。
大陸に着く春頃には船全体に『烈火』がギルに浸透し、『閃光烈火』というパーティー名というのが浸透していた。どうやら兄との対戦を見ていた船乗りがギルの技を見て『烈火』と言い出したらしい。そういえばパーティー名すら決めていなかった。どうしてこうなった。街を歩けば指を指されて囁かれる。
「あれが『閃光烈火』よ」「すげぇ、あんななりなのにセイレーンやクラーケンを倒したんだぜ?」「『烈火』様カッコいい!きゃー!」
「……ギル。何か言いたいことは?」
「……ノーコメントだ」
「流石アルだよね」
リョウは最近マリアの代わりのように事あるごとに褒めてくるようになった。正直しんどい。いや、リョウは可愛いんだけどね。向かい側の男が急にドンッとぶつかってきた。
「おうおう!最近調子乗ってるみたいじゃねぇぐはっ!?」
「スリープ」
ドスッと鳩尾に私が一発。すかさずギルが睡眠を掛けて眠りにつかせる。この行動今日は何回目だろうか。手慣れ過ぎて怖い。取りあえず輩は放置でそのまま進む。輩の仲間は一瞬で眠らされた私たちの素早さに唖然と口を開いている。
「流石『閃光』だぜ。見えなかったぞ」「きゃー!『烈火』様の魔法よー!」。
……うん。
「さぁ、さっさとこの街から出よう!」
「全力で同意する!」
「「え~!?」」
私の宣言にギルは全力で頷いてくれたが、他の人がなんか知らんが不満げだ。何故なんだ。つかあの船長どれだけ吹聴しやがった。恨むぞ……魔王が呪いをかけるぞ。
私たちは逃げるように『貿易の街』を出た。何故か盛大に送られた。涙を浮かべる女性がいたりしたが気のせいだと思う事にする。
「まーあれだけ強けりゃそうなるわな」
「流石俺の妹」
レイと兄の言葉にげんなりする。私は魔王だから、ついてくるのは危ないんだけど……いくら言っても聞きはしなかった。そりゃまぁあれだけずっと探してきたんだから無理はないんだろうけど……。
たまに聞こえる声が私の不安を煽る。本当は離れて欲しい。いつか本当にあの映像が事実になるような気がして気が滅入る。
道中はレイと兄は徒歩だ。今までの旅もそうだったらしいし、慣れているそうだ。流石に彼らまで乗せられないからなぁ。
次に向かう街は……『食の街』クォーツ。フルーツなどが多い街らしい。次の街に思いを馳せながらリョウを見る。船にいる間に、リョウが恐ろしく成長した。筍のようだ。今はもう私と同じだけの背丈になってしまっている。言葉使いも少し成長なされた。まぁ私に対してだけは相変わらず天使なのだが。
ギルも最近ちょっと背が伸びてきている。成長期だろうか。
「料理上手いなアル、流石俺の妹。愛している」
「どーも……」
時折兄が「好き」だの「愛してる」だの平気で言ってくる。この世界の人間は兄妹に対してそういうことを気軽にいうものなのだろうか?
『食の街』クォーツに着いた。そして何故か冒険者ギルドの受付嬢が『閃光烈火』を知っていた。目を輝かせてこちらを見つめてくるのがいたたまれなかった。『貿易の街』ほど騒がれないのが救いだ。この街には沢山のフルーツ系のスイーツがある。それを制覇するのだ。
生のフルーツを乗せたケーキ、ゼリーに、コンポートしたフルーツを入れたケーキ。そしてリンゴパイ。見た目と味が違う事には目を瞑ろう。
現在はカフェでクォーツ名物のフルーツパフェをリョウと2人でつついている。それを微笑ましい顔で兄が眺め、レイがそれを呆れた顔で見つめる。ギルとマリアはというと、別の席で紅茶を飲んでいる。どうにもマリアには避けられているようだ。
「おいしいー!」
「ふっ、リョウ、ここにクリームついてる」
「あ……もう、アル過保護過ぎ。自分でとれるよ」
リョウの頬についたクリームを手に取ってパクリと食べた。リョウはちょっと恥ずかしそうに顔を赤らめている。最近はあんまり手伝う必要性がなくなってきているのでお姉ちゃんはちょっと寂しいのです。
「アル。兄さんにもやってくれ」
「なんでやねん」
兄さん食べてすらないじゃねぇか。この人本当に大丈夫なのか?
しかしまぁリョウもお年頃なのかな。こういうのちょっと嫌がっているみたいだ。背もとうとう私を越してしまった。実年齢一体何歳なのだろう?まだ伸びそうで、体格もちょっと男っぽくなってきた。いくらなんでも成長が早すぎる。体の負担はどれほどのものだろうか。たまに節々が痛くなる時もあるみたいだし、こんなに成長が早いと心配する。5歳から12歳っぽくなるまで半年程度だ。大丈夫なのか?これ?
元気にもぐもぐとデザートを食べてるから、大丈夫だとは思うんだが……。嬉しそうにしているリョウを眺めながらパフェをつつく。
そして何となく外に目を向ける。人通りは結構多い。店内は若い女性が多く、私達は視線を割と集めている。それもこの街に来てから結構慣れた。『閃光烈火』と知っている者でも絡んでくる輩もいない。平和なもんだ。呑気に紅茶を飲もうと口を付ける。そして店の入り口にとんでもない人物が立っていて吹いた。
その人物は褐色の肌をしており、耳はとがっている。そして青い髪を腰まで伸ばしている。そしてその色っぽいイケメンの顔が全開の笑顔でこちらを見ていた。
「嗚呼!お会いしとうございました!魔おぐえぇっ!?」
私が持てる最速で腹を殴った。仕方ない。なんてことを口走ろうとするのだ、この男は。客は突然に入り口に移動した私を見て「流石『閃光』だわ」と囁いている。意外と便利だね、その二つ名。今だけはちょっとだけ感謝するよ。
私は魔王と大きな声で呼ぼうとした男が呻いているのを冷たい目で見て言い放つ。
「私の名前はアルだ。それ以外で言ったら許さんぞ?ラインハルト?」
そう、今痛みで蹲っている男はラインハルト。すっかり存在を忘れていたが、魔王城で世話をしてくれていたダークエルフだ。
「げ……げふぅ……しょ、承知。アル様……」
「何の用だコラ。私は平和に暮らしてるだけなんだ。取りあえず今は邪魔しないでくれると有難いんだが」
「とんでもない!お邪魔なんてしません!」
「今全力で言いふらそうとしたエルフのセリフとは思えんなぁ」
ぐりぐりとラインハルトを踏みつける。その様子にギル達が近づいてきた。
「どうしたんだ?突然攻撃するなんてアルらしくもない……その人は?」
「え?この人?えーと……」
「魔……アル様の教育係をしていた。ラインハルトだ」
私が迷っていると、復活したラインハルトが自己紹介した。もうちょっと強く殴っといた方が良かったかな……。ちょっと魔王とか言いかけていたが、まぁ気づいたみたいなので良しとしよう。
「教育係……?」
兄さんの目が鋭く光った。ひぃ!魔王城の事聞かれたらまずい!
「アル様はそれはもう高貴なお方で……」
「おい黙れ阿呆が」
取りあえず目を突いておく。ぐああああ!と大ダメージを受けて馬鹿が転がりまわる。ちっ店の迷惑じゃないかこの馬鹿め。この人こんな馬鹿キャラだったか?なんか結構真面目だったように思ってたんだけど。
「取りあえず店の迷惑だから全員表出ましょうか……」
取りあえず宿屋に場所を移して事情聴取。どうやらラインハルトは出て行った私をずっと探していたようだ。あの日から4年ほど経っている。よく分かったな。髪も違うのに。と思ったが、ラインハルトは匂いに敏感らしく、エルフの村の中でも一番鼻が良かったらしい。つまり、匂いで判断していたと。私に似た匂いがこの街に現れて探し出したんだそうだ。
「ああ!こんなにお綺麗になられて!俺は本当に嬉しいです!」
何この懐き具合。この人こんなんだったか?別人の双子じゃないよね?寡黙キャラどこ行った?
「ミトラスがいなくなって感謝しているのです。それに『閃光』として冒険者をなさっているなど……」
うっ……と少し涙目になっている。超引くんですけど。私は昔の記憶を探ってみるが、間違ってもこんな人じゃなかった。ギル達も困惑している。
「で?なんで探して?私は見ての通り平和に暮らしたかっただけなんだけど?」
「ええ!分かっております!邪魔など致しません!ただ少しお仕え出来ればいいんです!」
「……ラインハルトの手伝いはいらないなー……」
「そんな!こんなにお慕いしてますのに!完璧なアルに仕えさせてください」
身を乗り出して手を握って見つめてくるラインハルト。熱い眼差しを私に向けてくる。大人の色気のある瞳はちょっとドキッとしてしまう。しかもイケメンだしな。そういやエルフって長命だと聞くけど、ラインハルトはいくつなのだろうか?魔王城にいた時はもう今と同じ姿だったよな?
……私より年上でこの落ち着きのなさはちょっとなー……。遠い目をしているとシュタッとラインハルトの手が払い落とされた。見ると、横でギルと兄が若干怒りを滲ませて笑っている。怒っているのが伝わって来るのに笑顔……それが逆に怖い。どちらかがラインハルトの手を払い落としたようだ。
「この人ほんとなんなんだよ……」
「うんー……本当なんなんだろうね?」
「そんな!酷いですアル様!ずっとお世話してたじゃないですか!」
「そこんところ詳しく」
喚くラインハルトに詰め寄る兄。なんだこれ、収拾つかねぇ。誰かヘルプ。しかもこのダークエルフ余計な事言い出しそうで怖い。本当に魔王って言わないよな?ラインハルトは兄の問いかけに凄く嫌そうな顔を浮かべた。
「何故貴様に言わねばならん?」
「それはアルの兄だからだ」
「兄君で御座いましたか、大変失礼しました」
ラインハルトの口調と態度がコロッと変わる。私以外だとああいう尊大な言い方になるのか……兄って知って態度が180度変わったぞ。この人こんな人だったのか。正直引く。
「ラインハルト、余計な事は喋るな。私が説明するからな」
取りあえず貴族の家に誘拐されて、その際母が被害にあって無理に連れてこられた事、私がそこから逃げて来た事を簡単に説明した。
嘘を付くのはちょっと良心が痛む。でも馬鹿正直に魔王なんて言える訳ないだろう。しかもマリアは聖女だから、敵同士だし。いや、別に敵になるつもりもないんだけど……。チラッとマリアの様子を伺うが、俯いているので良く分からない。
兄は話を聞いて頷いていた。何か思う事があるのか……。
「主」
ラインハルトが捨てられた子犬のような目で見つめてくる。というか、勝手に主とかよんでんじゃねぇよ……。私は溜息をついた。
「邪魔しない、余計な事言わないなら、勝手についてくるといいよ」
「有難きお言葉……!」
「え……こいつ仲間にするの?」
ギルがあからさまに嫌な顔をした。まぁそうだろうな。なんかうっとうしいし。私としてもあまり付いてきて欲しくないんだが……。付いてくるなと言っても付いてきそうだしな。
リョウが不安そうな顔をしているので撫でる。もふもふ癒されるわ。最近背が大きくなってカッコ良さが出てきたが……許す。いつまでもリョウは私の天使である。
……ラインハルト視点……
魔王様が外界に出て行って、冷や汗が止まらなかった。ミトラスを跡形もなく屠ったその実力。剣で切り裂くことも出来ないその丈夫さ。そしてあの何物も写さない瞳。もう世界は闇に包まれると思った。魔王を倒すべき勇者が召喚されたとはまだ聞いたことがない。
終わった、と思った。魔王様の手にかかれば色んな街が一瞬で地図から消えてなくなるだろう。俺は必死で追った。だが、闇を使っての移動手段では流石の俺でも見つけることは難しい。生憎、近くの村にはまだ被害が出ていない。俺が追ったとして何が出来るだろうか?
魔王様に教育を施したのは自分だ。その内容が人間を悪いモノとして語ったモノであることは自分が良く分かっている。そんな教育をされた者が人間をどういう風に扱うか……考えただけでもぞっとした。
ひたすら当てもなく探していると、ぞっとするほどの魔力が使われる気配がした。自分が通り過ぎてしまった街だ。結構離れている。あの方向はトリエステだった。ああ、トリエステという街が消えた、と思った。必死になって走った。
が、トリエステに着いたとき拍子抜けした。街は至って平和で賑わっていた。とてもじゃないがあの魔力で破壊された街ではない。破壊されたどころか、街が以前にも増して平和になったという噂が耳につく。
どういうことだろう。あの気配は気のせいだったのだろうか?匂いを辿っても特に魔王様の匂いはしない。
それ以来大きな魔力の放出が見られずに4年の歳月が流れた。どこも壊れない。魔王の復活も囁かれない。不思議な事だった。だが、ホッとした。魔王様の考えは良く分からないが、今すぐ壊す気もないのだと。
俺もどうせ簡単には見つけられはしないし、結構気が抜けてしまっていた。ちょっとエルフの里にでも顔を出そうかと考えていた。その時だった。冒険者の中に新しく二つ名が囁かれる強者が出たというのだ。二つ名もちになるほどの実力者は、決まってSランク試験を受ける。
勿論ほとんどが不合格でSランクになる者は少ない、だがその冒険者は年も若く、確実にSランクになれる実力があるらしい。
一人は『閃光』。光の速さで動き、敵を絶つ。見た目はなよなよした子供であるにも関わらず強力な腕力を持っている。
一人は『烈火』。炎を自在に操り、炎上させる。至近距離で剣士とも戦える実力派魔術師だ。
その噂は気になった。『烈火』……。剣士とも戦える魔術師。魔王様ならそれ位の実力はあるだろう。しかし、魔王様が人間と混じって生活が出来るのだろうか?あんな教育を受けたのに?まぁ恐らく人違いではあるあろうが、一目見といてもいいだろう。そんな気軽な考えで『閃光烈火』が滞在する街に足を運んだ。
クォーツに着いた瞬間驚いた。魔王様の匂いがしたのだ。にも関わらず街は平和そのもの。俺は困惑を隠せないまま魔王様を探した。街の話題はもっぱら『閃光烈火』のパーティーの事だ。噂の人物が近くなればなるほど魔王様の匂いは強くなった。まさか、魔王様が噂の冒険者なのだろうか。
予想は当たりだった。しばらく呆然としてしまった。魔王様は人間と楽しそうに笑い合っていた。それも『閃光』と呼ばれる冒険者として。その笑いは人間そのもので、世界を壊すような人物の顔ではなかった。
『閃光』の名は船を何度も救った英雄として伝わっている。魔王様が、人間を救っていたのだ。信じられなかった。まるで夢でもみているのだろうと思いさえした。
仲間に優しく微笑むその姿からは世界を破壊する気がサラサラない事が分かる。胸が震え、涙があふれた。
魔王様は、彼女は立派に成長していたのだ。俺たちの愚かな教育などに目を向けず、世界を自分の目で見据えて真実を見つけていたのだ。俺はなんて愚かで、馬鹿だったのか。俺は一体何を心配していたのか。
彼女は確かに闇を使う魔王であるが、絶望の魔王ではないのだ。ミトラスの野望は潰えたのだ。なんて素晴らしい。俺は笑顔で魔王様にお声かけすればいい。優しい魔王様ならば笑って迎えてくれるだろう。
「嗚呼!お会いしとうございました!魔おぐえぇっ!?」
確かに笑顔で迎えられた。鉄拳が加わっていたが。それすらも喜ばしいものだった。魔王様ならば今の一撃で殺すことも可能。つまり殺す気がないという事。なんてお優しい。もう俺はこの方に一生ついていこう、心にそう誓った。
「リョウーあんまり前出ると危ないよ。ソレ毒あるから」
「うん!」
魔物の討伐依頼を受けて彼らは黙々と魔物を討伐していく。ギルという魔術師は中々腕が立つみたいだ。そしてこのリョウという少年もかなり良い線行っている。レイという男はガーディアンらしい、怪我をしないよう傍で見守っている。こいつは普通だな。
マリアという少女はヒーラーらしく、魔王様の傍で大人しくしている。魔王様の隣には兄君も立っている。ミトラスが殺してきたのは母だけだったようだ。魔王様もちょっとうっとうしそうにしているが、基本的に嬉しそうになさっている。
マリアや兄君を横目で確認しながら、リョウの魔物討伐指導をする姿は人間そのものだった。
「何?ラインハルト。視線がうっとうしいんだけど……」
「失礼致しました」
じっくり美しいご尊顔を眺めていたら、顔を顰められた。そんな表情もお綺麗です。
「ゾッとする事を考えられた気がする」
「気のせいで御座います」
そうか?と疑い深げに眺められたが、俺としてはそんな事考えていない。
どれだけ魔王様が素晴らしいか実感していた所だ。
魔王様のお強さはお変わりがないようで、仲間を慈しむお心は本当に素晴らしい。世間では『閃光』のアルは男で通っているようだがとんでもない。こんなに美しくも強く、優しい方はいらっしゃらないというのに。
「主は何故いつまでそのような恰好を?」
魔王城にいらっしゃる時から男物を好んで着ていらっしゃったが、まさかまだ着られていたとは……。綺麗なのだから、もっと女性らしい服装が良いと思う。
「ああーうん……ギルドカードが男になってんだよ。使えなくなったら困るし、取りあえず今は保留」
「そうなのですか」
勿体ない。魔王様の美貌をこの世に知らしめることが出来ないではないか。
「すごく嫌な事考えなかったか?」
「気のせいで御座います」
魔王様は見当違いの事を考える方だな。
「ラインハルトはアルの女性用の服の姿を見た事が?」
「ええ、女性用どころかドレス姿を見ました」
「なん……だと!」
悔しそうに顔を歪める兄君を見て、少しだけ優越感に浸る。ただ、それもこれも母君を殺して攫って来た事が原因なので、素直には喜べない。まぁ、全てミトラスが悪いんだがな。
「アル、ドレス着よう」
「なんでやねん」
兄君の問いかけに、感情の篭ってない声を返す魔王様。しかしなんだかんだと楽しそうにしていらっしゃる姿は、とても人間味に溢れている。本当に素晴らしい方にお仕え出来て、俺は嬉しい。
大所帯になってまいりました。




