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39話

視点がころころ変わります、ご注意下さい。

 地がどす黒く染まっていく。殺した。たくさんたくさん殺した。

大量の死体が散らばり、脳髄や内臓が零れ落ちている。

 時にはナイフで切り裂き、時には内側から爆発させて、魔法で焼き、裂き、刺し、凍結し、感電させる。死体の中には、リョウ、ギル、マリア、兄もいた。驚いて後ろに飛びのいた。


「やぁね……そんな驚いた顔して……自分が殺したんじゃない」


 驚いて声のした方を見ると、黒い黒い姫が手を赤く赤く染めてこちらに近づいてきていた。知らない女の子がとても恍惚とした笑みを浮かべている。私が人を殺した事を本当に喜ばしく思っているのだ。


「ほら、こっちにもいるわよ。人間なんて腐るほどいるのよ。さ、一緒に踊りましょう?」


 私は女の子と共に人を殺していく。赤い湖が出来ていく。とても綺麗、綺麗綺麗……。さぁ、ここに腕を飾りましょう?真っ赤な血で咲く綺麗な薔薇なの、クスクス……。ほら、手が天に助けを求めてるみたい。とっても詩的で素敵な光景……。ほら……あなたも。さぁ……一緒に遊びましょう?

 人を殺すたびに安堵する。もう彼らが私を映す事はないと思うと安心出来た。煩わしくって、殺せばもう何も考えなくて済んで良い。


 ―――嫌だっ!!


 嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!


 こんな気持ちになんてなりたくない!!



「―――――っぅあ!?」


 心臓が早鐘を打つ。精神を蝕まれるような気持ちの悪い感覚に吐き気がした。なんだ、今の夢は……?とてもリアルで、現実に起こったみたいな……。いや、あんな非現実的な光景で何故そう思う?分からない。なんだこの感覚は……気分が悪い。夢でとても気持ちよく人を殺した気持ちが入り込んできて、くらくらする。あの、少女は一体誰なんだ?あの少女の気持ちが私に流れ込んで来たような気がした。あの気分は私のモノじゃない。私じゃない。私じゃない。嗚呼……気が狂いそうだ。


 しばらく時間が経ってようやく落ち着いた。いつもなら1分もあれば落ち着くのに……5分以上費やした。そこでようやく周りの状況を確認した。ギル、マリア、リョウがすぐ近くで眠っていた。


「アルリリア」

「あっ……」


 必死な顔をした兄が私の手を取る。皆寝ているという事は今は夜中、なのかな?良く分からない声を聴いた後に私は意識を失ったんだった。どうやら、兄は寝ずに起きて看病してくれていたらしい。


「何か、病気なのか?嫌だ。そんなの……せっかく会えたのに」

「兄さん……」


 兄の手は震えて冷え切っていた。ただ一人の肉親が倒れれば、そりゃそうなる。私も兄に倒れられたら卒倒しそうになるだろう。

 私は病気なのか?いや、そんなのない……あるとすればあの悪夢。訳が分からない、精神を喰われていくような気持ちの悪い夢。ひたひたと、何か得体のしれないモノがはいよって来ている。

 無防備に寝ている仲間たちを見て嘆息する。少し私が手心を加えれば簡単に彼らを屠る事が出来る。それこそ、あの夢のようなモノが現実になるだろう。


「大丈夫です」

「アルリリア」

「大丈夫なんです」


 自分に言い聞かせるように「大丈夫」と繰り返す。そうしないと不安で押しつぶされそうだった。


「ん……」


 ギルが身動ぎして目を覚ます。ぼんやりと眠そうな目が私に向けられる。その瞬間カッと目が開いた。


「アル!」


 すぐに起き上がって私に駆け寄ってくる。必然的に兄の隣に来るようになるので、兄がちょっと顔を顰めていた。その様子をみて思わず笑ってしまった。


「なんで倒れたんだ?マリアも分からないって……呪いでも禁術でも病気でもないって」

「そう……」


 ギルの必死な様子にちょっと安堵する。嫌われてはないみたいだ。倒れる前にドアも開けてくれていたし、心配もしてくれている。それが何より嬉しい。

 それにしてもマリア、どういう見方したんだろう?聖女的なもので見ても分からなかったのだろうか?しかし単なるヒーラーはそこまで詳しいのだろうか?隠す気あるのか、マリアさんよ……まぁ、心配してくれたのは有難いんだけどね。


「マリアがないって言うなら心配ないんじゃない?」

「アル……いや、アルリリ、アなのか」

「アルでいいよ。長いし」

「あ、ああ……アル、本当に大丈夫か?」


 うーん……大丈夫だとは言い難いなぁ。あの夢は本当に意味が分からないし。最近起きてる時にも見てるし。でも、聖女が分からないんじゃ、私にも分かる訳がない。ただとても不吉で、不気味で、憂鬱な気分にさせられる夢。あの夢を見ると、酷く疲れる。嗤って人を殺す自分を描き、ギルに問う。


「なぁギル?私がギルに刃を向けたらどうする?」

「はぁ?んなのある訳……」


 ないと即答しようとしたのを、睨んで諌める。私の顔を見て息をのんだギルは、しばし考える事にしたらしい。


「兄さんは?どうする?」

「アルリリアに殺されるなら喜んで死のう」

「兄さん……怒っていい?」


 即答に思わず頭を抱えてしまいそうになる。しかも本気でそう思っているからなおさら性質が悪い。喜んで死ぬだなんて冗談でも笑えないのに。あの悪夢で兄が死んでいるのを見て胆が冷えた。


「ギルは?」

「やっぱ……アルがそんなのありえないけど……もしアルが間違ってそっちに向かって行くなら、止めたい」


 ……おお。なんかちょっと感動してしまった。思わず笑みが零れる。私が魔王で、世界を滅ぼそうとしたら、止めてくれるだろうか?ギルのその言葉はとても安心する。


「ふっ、止めてね。必ず」


 魔王になんて生まれて来たくはなかった。あの日あのまま死んでしまっていたかった。人を殺したくはなかった。何もかも忘れてしまいたかった。でもギルなら止めてくれる。そんな安心感が私を包む。もし間違っても、きっと殺してくれるんだろう。あの赤くて寂しい場所から私を助けてくれる。でも、その日まで、私があなたを守るから。


 次の日、リョウが物凄く心配して来た可愛い。流石私の天使です。頭を撫でてやると、嬉しそうに尻尾を振るのが凄く可愛い。私を女だと知っていたのも嬉しい話だ。


「天下の『閃光』様も倒れるなんてあるんだな~風邪か?」

「まぁたぶんそうなんじゃないですか?」

「返事が適当すぎる」


 レイの言葉に適当に返事をしながらリョウをもふる。返事が適当でもレイはあまり気にしていないようだ。


「しっかし、お前の仲間は心配しすぎだな」

「ふ、まぁ今まで倒れた事なんてなかったですから」

「まじか」


 本当に心配させてしまった。今まで倒れる所か傷すらほとんど作らなかったからなぁ。


「アル」


 マリアの声がしたので振り向くと、手を伸ばした状態のまま固まっていた。不思議に思って首を傾げる。


「マリア?」


 どうしたのだろう?そう思って伸ばした手に触れようとした。


「……っ!」


 触れようとしたら、慌てて手を引っ込めてしまった。今、避けられた?何故?マリア自身も困惑しているようで、自分の手と私の手を交互に見比べている。


「い……」

「い?」

「なんでも、ない」


 何か言いかけたマリアは、疲れた様な溜息を吐いて緩く首を振った。とぼとぼと私から遠のいていく。何かに悩んでいるようにも見えた。

 マリアは、私に触れるのを躊躇った?……そういや昨日倒れた時に、マリアに見て貰ったんだよね……いつもはヒールしてるけど、マリアが触れば私の皮膚は爛れる。もしかして、それに気づいた?

 私はマリアに伸ばそうとした手をじっと見つめる。

 ―――魔王は聖女に触れると焼ける。

 マリア、もしかして……もしそうなら、殺してしまわないと。


「アル?」


 抱きしめていたリョウが腕の中で顔をあげて首を傾げる。その姿はとても可愛らしい。思わず撫でる。私がいつまた倒れてしまうか、心配でたまらないという顔はむしろ凶器だな。私の心臓鷲掴み状態だわ。

 落ち着け私……さて、他の人の様子を見るに、マリアは言っていないようだ。確信が持てないのか、どうなのか……これは様子見だな。




 船旅は少し遅れている。雪がチラついてきている。兄とレイと知り合ってからある程度暇はしていない。楽しく過ごさせて貰っている。ギルとも思ったよりはギクシャクしなかったので良かった。まぁある意味体調の方を心配しているんだろうけどね。

 手すりに座って海の彼方を眺める。


「アル、雪降ってるから中に入れ。風邪引く」

「んー……」


 ギルがドア付近から呼びかけている。それに曖昧に頷いておく。ちょっとまだ手すりから降りたくない気分だった。ぼーっとしているとぱこっと軽いもので頭を叩かれた。見ると、薄い本のようなものを丸めてギルが立っていた。


「風邪引くっつってるんだけど」

「ふっ、ごめんごめん」


 心配しているのだろう、怒っていらっしゃる。まぁ、倒れたからなぁ……私は笑って手すりから降りた。


『―――……っ』

「―――っ!?」


 何かが微かに聞こえ、バッと振り返る。その様子にギルがきょとんとしている。


「どうした?」

「今、何か聞こえなかったか?」

「……いや?……何か聞こえたのか?」


 相変わらず私の言動を信用し過ぎだろ、ギル。だが、このざわつきは……何かが、いる。サーチで魔物を検索するが検索されない。ふと、白い雪に目が付く。ちらちらと振る雪。その一粒が私の近くに振った為、手を出して受け止めた。一瞬で溶けた雪が血のように赤く染まる。驚いて目を見開いて周りを見ると、すべての雪が赤く輝いていた。ゾクと背筋が凍る。


「ギル……雪が……」

「雪?うん……だから中に入ろうぜ?」

「……!?」


 ギルの様子でさらに驚く。ギルにはこの赤い色が見えていない。急に索敵のアラームが鳴り響く。


「敵襲だっ!ギル……―――っ!?」


 ギルを見ると、微塵も動いていない。まるで石になってしまったように、時が止まってしまったように。でも揺れる船と、舞い散る赤い雪は変わらず動いている。


『クスクス』

『クスクス』


 複数の女性が笑う声が響く。頭に直接響くような不快さにクラクラする。


『悲しいの』

『連れてくの』

『生贄、生贄、クスクス』


 赤い翼をもったただれた体の女性が船の周りに現れる。船にうっとりとしてこびり付く赤い羽根の女性にゾッとした。


「ちっ、魔物か!」


『人間が動いてる』

『姉さん。動く人間がいるよ』

『あら、本当』

『歌いましょう』

『魅惑的にね』

『美しくね』

『説得するのね』

『『『『~~~~~~~~♪~~~~~~~♪』』』』


「――――っ!!」


 不協和音が頭に鳴り響いてガンガンする。


「―――うっるせぇええええええええ!!」


 私は絶叫した。その絶叫に驚いた女性達がハラハラと海へと零れ落ちる。落ちた場所から赤く赤く海が染まっていく。その場所から手が。大量の手が伸びてきた。ガクンと船が大きく揺れて、時が止まったギルが落ちそうになったので慌てて掴む。

 船がふらふらと方向を変えて、赤い赤い道を進む。異様な光景だ。取りあえず落ちないようにギルを船の中に入れる。扉は開かないようしっかりロックする。そして船が向かう道を睨み付ける。


「セイレーンか……!」


 歌で船を惑わせる魔物、セイレーン。自分のイメージにあるセイレーンとは大きく外れる外観をしていた。てっきり人魚のような外観をしていると思っていた。魔王城の書籍には外観までは記述されていないからな。赤い羽根を生やし、唐突に、索敵に引っかかる神出鬼没性。とても厄介な相手だ。対処法はどうだったか。

 歌には歌を。惑いには誘惑を。


『貴様らは大罪を犯した』


『人間が歌いだした』

『本当だわ、不愉快な旋律ね』


 キイキイと耳障りな音が響く。私は口の端を釣り上げながら嗤った。


『この船は私が監視した船だ。貴様らのような下級の魔物が手を付けていいものじゃない』


 ザワリと気配が怒りに変わる。下級と言われたことに怒りを覚えているようだ。ふらふらと体を真っ赤に染めた女性が一人私に近づいてきた。ぺた、と私にこびり付いてきて、鼻をつく腐敗臭、アンモニア臭に顔を顰める。ベトベトの血腥い手を私の首に当てて締める。ゆったりとした動きと違い、その力は首の骨を折るのに十分なものだった。

 まぁ、私には意味がないんだけどね。ニッコリとこびり付く魔物に笑いかける。


《嗚呼……気安く触るなよ……下等が》


『―――ひぃっ!?』


 私の傀儡術にビクンと身体を大きく仰け反らせる女性。離れようとする女性の首を掴む。女性は恐怖に顔を歪めて口をパクパクさせる。


『あなた……あなた様は……まさか』

『嗚呼、早く、速くお前らを殺さないと。前に進めない。私はそれほど暇じゃあないの』


『お姉様方!!早く逃げてぇぇ!!この人は!この方はぁ!!――魔』

『五月蠅いな』


 パンと喚く女性を粉々に砕く。セイレーン達の怒りが、爆発するように上がった。


『殺した』

『シノエ……嗚呼、なんてこと!』

『許さない』


 一気に襲い掛かってくるセイレーン達。ああ、なんて手っ取り早いんでしょう。歌なんてまどろっこしい事より、こちらが実に「らしい」じゃないの。本体を叩くことが出来れば、とても容易い。

 セイレーンは空に溶け、海に溶ける。その全部を攻撃するなんてなかなか出来たものではない。まぁ、出来るんだけどね。でも、疲れるから。こっちの方が良い。実体で向かってくるなんて。怒りに我を忘れて飛び掛かってくるなんて、実に下等。


「アハハハハ!!かかってこいやぁ!全員まとめてぶっ殺してやるっ!!」



……ギル視点……


 身体が凍ったように動かなくなる。それ以外は全て動いているのに。それは完全に異常だった。


「敵襲だっ!ギル……―――っ!?」


 目の前にいるアルが敵を察知し、知らせてくれるが、もう俺は動くことが出来なくなっていた。


『――――gutdgaiu』

『――――yrdfnrxseyt』

『――――trjtrsjrsrsrsrsnntr』


 頭にわんわんと不快な音が反響する。その瞬間、ぶわ、と気持ち悪い魔物が視界に映った。腐ってきている体に、血のような赤い羽根を張り付けた、見たこともない魔物。


「ちっ、魔物か!」


 アルが険しい顔で呻いている。そういえば、何故アルは動いているのだろうか。もしかして、自分だけが異常なのか。


『hrshrsrsjrsjctfrrt』

『trhxgcrvshttcrzwrhtr』

『chrexbfx』

『uybtjytcrbg』

『ukytvjrcxddryt』

『jbytjvrtjytrv』

『tvesdsd』

『『『『~~~~~~~~♪~~~~~~~♪』』』』


「――――っ!!」


 不協和音が頭に鳴り響いてガンガンする。


「―――うっるせぇええええええええ!!」


 ガンガン響く不快な音にアルが苦痛に顔を歪めて絶叫した。その声に驚いた魔物は何匹か海へと落ちていくのが見えた。その瞬間ガクンと船が揺れて自分の身体が浮くのが分かった。落ちる―――!と、思ったが、アルがしっかりと俺を捕まえてくれた。礼を言いたかったが、口すらまともに動かない。

アルはドアに俺を投げ入れてガチンと何かでドアを押さえた。危険だ、とめないと。そう思っても指ひとつ動くことはない。冷や汗が流れる。一体どうなっているのか。


「セイレーンか……!」


 扉の向こうでアルが吐き捨てるように言っているのが聞こえる。あれが……噂に聞くセイレーン。数々の船を沈めてきた魔物。最近では歌が歌える吟遊詩人が必ず船を守って歌うので、被害が減っていたものだ。だが、この船に吟遊詩人が乗っていない。だから狙われたんだろう。

 セイレーンに惑わされた船は確実に沈む。その事実に冷や汗がでる。沈んだ船から脱出すれば、生き残る者も何人かいるようだが。ここは大海だ。とてもじゃないが泳いで大陸に行く事は叶わない。絶望的。


『jsrtsxngfxngxrnsxsrtsrydjyctyj』


 怒りを含んだアルの声が歌われる。その言葉は理解が出来ない言葉だった。その音はセイレーンの言葉に酷似しているように聞こえて、ゾクッと背筋が凍る。


『jycuctmuytuytvuytu』

『uktkrxjyejvy5rk6rlr7tbi7ctgfngrsd』


 ああ、やはり、やっぱり。アルは会話している。セイレーンの言葉でセイレーンの歌で。


『trxnyru6rxnevnyrxgarwnhtrntrcntxrgawwjuygivyrdgrxdawvtxmu7iuyvrtrxsdxtbh』


 ゾクゾクと震えた。その暗い響きに、挑発とも取れる響きに。これは、この声は、本当にアルなのだろうか。


「――嗚呼……気安く触るなよ……下等が」


 冷たい、凍りつくような声色でそう吐き捨てるアルの声。ギャアギャアと耳障りな歌たちが怒りにまかせて騒ぎ立てる。


「アハハハハ!!かかってこいやぁ!全員まとめてぶっ殺してやるっ!!」


 実に愉しそうに、叫ぶアル。これは、アルなのか?姿が見えないのが、より恐怖を駆り立てる。絶叫が鳴り響く。セイレーン達の断末魔。あの声を出させている張本人であるアルは、とても愉しそうに笑っている。


 ―――怖い。


 そう思った。しんと、急に静寂が訪れ、体の拘束が解かれた。体が自由になった途端、体がガクガクと震えだした。今まで動けなかったが、こんなにも自分は震えていたのか。怯える自分を叩き起こし、扉に手を掛ける。


「なぁギル?私がギルに刃を向けたらどうする?」


 その言葉が頭をよぎってドキリと心臓が跳ねた。あり得ない。アルが俺を殺そうとする事はあり得ない。


「ギルは私を化け物だとは、言わないのか?」


 そうだ、思い出せ。あの時のアルの顔を。言わないと言った時の嬉しそうな顔を。何も怖がることはない。アルはアルだ……俺は自分を叱咤して扉を開けた。




……主人公視点……




 しん、と海が静寂に包まれる。甲板が血であふれかえったこと以外は、以前の状態に戻った。雪は相変わらず白いし、海は暗い藍だし。不快なので、セイレーンの死体を焼却して何もかもなくした。これで元通り。一安心だ。行きはクラーケンで帰りはセイレーンか。セイレーン戦はちょっとだるいな。

 不協和音が頭に響く。今も少しわんわん言ってて痛い。魔王の防御力でこの状態って……みんなは大丈夫なのだろうか?心配になってドアに走り寄ったが、先にドアの方が開いた。


「ギル!無事?」

「……アル」


 無事な姿を見せてくれたギルにホッと一息つく。


「良かった……急に固まるからビビった」


 ギルが黙ったまま私の頭をわしわしと撫でだした。


「ちょ、え?ギル?」

「突っ走るなと言いたい所だが……今回は言えないな。助かった」

「おお、珍しい」


 褒めてくれるなんて珍しいな。でもあんまりわしわしされると髪がぐちゃぐちゃになるんだが……。あ、髪ゴムが切れてる。いつの間に。まだストックがあるから良いけど。


「おおっ!流石『閃光』様と『烈火』様ですね!セイレーンで沈まぬ船が出るとは!」


 嬉しそうな声を上げたのは船に乗った時に声を掛けてきた船長だ。そのセリフに「ん?」となった。


「『烈火れっか』……?」


 その言葉にギルを見る。船長も嬉しそうにギルを見る。まさか、え、もしかして。『烈火』って。


「いやぁ!お二人揃えば『閃光烈火せんこうれっか』ですな!怖いモノなどなくなりますなぁ!」


 なん……だと。そんな電光石火みたいなゴロはなんだ。


「助かりましたぞ!向こうについたらお礼として二人の功績を伝えましょう!!」

「えっやめて」


「がはは!照れているんですな!なぁに恥ずかしがることはありませんぞ!がははは!」


 そう言って船長は船に戻っていく。


「えっ……やめてぇええええええええええ!」


 その叫びは虚しく海へと消えて行った。

セイレーン戦。船に吟遊詩人は必須アイテム。出会わなければどうという事はない。しかし出会ったら最後。船は確実に沈められる。遠泳に自信がある方は生き残れるでしょう。

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