38話
視点がコロコロ変わります。ご注意下さい。
……ギル視点……
アルの身内の話なんて聞いた事がなかった。俺も自分の事はあまり言わないし、アルの事を尋ねた事もなかった。幼い内から家族から離れて旅をしているのだ。多分死んでいるのだろうと考えていた。俺の両親も死んでいるし、同じ境遇なのだろうと思っていた。
クラウドと名乗った男とレイという男とわいわいと食事を囲む。アルが作った料理をクラウドは嬉しそうに頬張っていた。これが兄か……なんか信じられない気持ちだな。
ぼんやりクラウドを眺めていたら、目が合った。皿を持ってこちらに近づいてくる。その様子にちょっと戸惑う。……この人の事を俺は知らなかったとはいえボッコボコにした。
戦った後ノリで握手までしたから嫌われてはいないはずだが……。
「いつから付き合ってるんだ?」
「ごふっ」
そっと耳元で囁くものだから、料理が別の所に入ってむせた。かなり苦しくて涙が滲む。
「大丈夫か?」
クラウドが俺の背中をさすってくれる。良い人だろうとは思う。だがとんでもない事言ったぞこの人。あんな戦いまでしたのだから、このセリフから推測されるのはマリアじゃなくてアルの方だろう。任せたぞ、とまで言われたし。しかもアルへの気持ちがダダ漏れな気がする。でもアルは男なんだぞ?そのへんは兄としてどう認識しているのだろう?
「つ、けほ。つ、きあってません、よ」
「あ?……ああ、だからアルリリアも否定してたのか」
「ん?」
アルリリアって誰の事だ。俺が首を傾げていると、兄が凄く険しい顔になった。
「お前……まさかアルリリアって名前も知らなかったのか?」
「え……?」
「いや、黙ってる方も悪いのか?いやでも……アルリリアは可愛いから許す」
え?何のことだ?アルリリアって誰の事だ?そんな女の子みたいな名前の子は知らない。兄の顔がどんどん剣呑なモノに変わっていく。彼が話題にするのはアル位のものだから、つまり……アルの名前がアルリリアって事なのか?なんでだ?
「ちょっと待て。ギルとやら。お前はアル……アルリリアが好きなんだよな?守るって言ったよな?」
「ごほっ……!もうちょっと声の音量下げて貰えませんか!?」
アルに聞こえるだろう!好きとか気付かれたくない。俺の変態趣味がバレルのは避けたい。アルは男なんだから……。……ん?なんか、妙に引っかかる。
「俺の妹が好きなんだよな?」
「い、もう、と……?」
かなり間近まで迫った兄の気迫に気圧されながら、その言葉を咀嚼する。妹、妹とはつまり、女の子の場合に使われる言葉で。
「その反応、お前まさか……男だとでも思っていたのか?」
「いも、いもうと……」
兄の言葉をどこか遠くで聞きながら片言な言葉が漏れる。
「んな馬鹿な……『閃光』のアルが男で通っているから嫌な予感がしたが……ずっと旅してたんだったら気づかないのか?そもそも好きになったら気付くだろう。あんなに可愛いのに。お前馬鹿なのか?あんなに可愛いアルリリアが本気で男だと思っていたのか?なんで男だと思ってて好きになるんだ?お前は変態か?男色趣味なのか?やっぱりお前のような変態にアルリリアはやらん。殴るから歯を食いしばれ。殺されないだけ感謝しろ、アルリリアが悲しまないならお前を屠る事が出来るのに、惜しい事を」
最後の方は兄に胸倉を掴まれて殴られた。俺はあまりの衝撃に抵抗できない。なすがままに殴られる。
「うわぁっ!?兄さん何してんのっ!?」
殴っている兄を見てアルが慌てて止めに来る。その姿はとても可愛い。確かにアルは可愛い。だから好きになった。勿論その内面も好きだ。強いくせに偉そうにしないし、料理を作った時に美味しいと言うと嬉しそうにしたり、辛い時も泣かずに堪えるし。
近づいてきたアルの顔を見ると、心音が速くなっていくのがわかった。
「止めるなアルリリア……この馬鹿、アルリリアの事を男だと思ってやがった」
「あ……」
ピシッと固まるアルに、セリフを聞いたマリアも「え?」っとなっている。
「あ~……あー……うん、ごめんなさい。私が悪かったんだ。だからその、ギルを責めないでくれませんか」
アルはクラウドの言葉に否定をしない。それは、つまり、そういう事で。
……主人公視点……
顔を赤くさせてわなわな震えるギルを見て私は動揺する。マリアも訝しげな顔を浮かべている。
「男?なんで?アルは女の子の匂いがするよ?」
リョウの何気ない言葉にギョッとした。え?リョウ、知ってたの?
「リョ、ウ?……なんで、言わ、ない?」
「え?だって知ってると思って……」
ギルはどこか苦しそうに言葉を吐く。その質問に戸惑いながらも答えるリョウ。なるほど、知っていると思っていたからわざわざいう事もなかったわけか。
というか、なんで知って……匂い?あ、そうか、リョウって獣人だもんな。獣人の中にはそれ程嗅覚が鋭くない人もいるけれど、リョウは獣並の嗅覚を持っていたって事か。じゃあ女だと知ったうえで懐いてたって事か。なんだ、やっぱりリョウは天使だったのか、そうかそうか。
思わずリョウをぎゅっと抱きしめる。ああ、でも確かに抱きしめて寝てたりもしたから、匂いがわからなくてもそっちでも気付いたかもねぇ。
リョウはまだ常識に疎い所があるから、女がズボン穿いてても疑問に思わなかったのだろう。
「……っ!!」
ギルが走り出した。私から逃げるように。
「……嫌われたかなぁ」
「「それはない」」
「えっ」
ギルの態度にショックを受けていたらマリアとリョウがすかさず突っ込みを入れて来た。
「なんだなんだ?妹さん仲間にも性別言ってなかったのか?そりゃあないぜー」
レイがグサッと的確に傷を抉ってくる。私が胸を押さえてショックを抑えていると、兄が背中を撫でてくれる。
「大丈夫だ、アルリリア。可愛いアルリリアに気付かない方が馬鹿だから」
兄さん辛辣ぅ。いや、でも隠した私の方が悪いんだよ、どう考えても。変な音を立てる心臓を押さえて呻く。どうしよう。マリアとリョウは嫌われてないっていうけど、どう考えても嫌われたよね?顔を赤くして怒ってた。
「ん?」
顔を上げると、マリアが手をわきわきしながら近づいてきている。なんかちょっと怖いのですが。
「え、な、何かな?」
「ちょっと。胸の確認」
「胸の確認て」
ちょっと笑いそうになった。マリア、その手の動きはやめたほうがいいよ。聖女的に。
大人しくしていると、マリアの手が私の胸に置かれる。最近少し胸が出て来たので、分かると思う。むにむにとしばらく揉まれる。……あの、もういいんじゃないかな?知らないと思うけど、結構ダメージあるんですよ……。
「胸が、ある……私より……」
マリアは自身の胸に手を当てて呆然と呟く。
「お前ら、そういうのは男の前でする事じゃねぇよ?」
レイが苦笑を浮かべながら突っ込みを入れてくる。
「そうだね、レイの存在をすっかり忘れていたよ」
「ひでぇ!」
さっき私の傷を抉った仕返しである。でもまぁ大したダメージは受けていないようだった。しかし、レイって良いリアクションするね。
「ねぇ、アル。ギルのこと。好き?」
「は?うん、好きだよ」
「そ、そうじゃなくて。その……」
顔を赤らめながら言いにくそうにしているマリア。
「れ、恋愛的に……」
おお、恋バナ?恋バナなの?あまりの懐かしさに感動すらしてしまう。この世界だとそういう甘酸っぱい話なんてしてこなかったからな。
「兄さんは許さんぞ」
兄が全力で否定して来た。何故。戦いの後は結構仲良くなってたのに。さっき殴ってたけど、それは私が全面的に悪いだけだし。
もじもじしているマリアを改めて見る。マリアってギルの事好きなのかな?私のギルへの気持ちが気になるって事は、たぶん少なからず好意を抱いているんじゃないかな……?
「別に恋愛的に見た事はなかったなぁ」
「なんで?」
「なんでって……」
うーん、そう言われても反応に困るな。ギルは出会った時子供だったからなぁ。精神的な意味でなんだかお姉さんの気分だったんだよな。
しかし、好きな人か……パッと思い浮かぶのは前世で好きだった幼馴染だ。今までに好きになったのは彼だけだ。だからって今でも好きという事はない。だってもう二度とあの世界には帰れないのだから。それに、私は本来なら死んでいるんだし、いつまでも引き摺ってる方が可笑しい。
でもこの世界ではまだ好きな人が出来ていないって事は……引き摺ってんのかな。いや、私の精神に見合うオジサマなら大丈夫さ。もう前世とあわせるとイイ歳になってるし。ウッドとか結構好きだったしな。渋い声がなんとも腰に響く。
まだ私も子供だし、これからさ。むしろマリアがおませさんなのさ。
「笑ってないで、答えて」
「ふ、ごめん」
マリアがあんまり可愛いから思わず笑ってしまった。必死になって聞き出そうとしている姿は何とも和む。甘酸っぱいねぇ……。いやはや、青春とはこういう事をいうのかねぇ?
「うーん、なんでと聞かれても困るけど、そういう意味では好きではない、かな?」
「なんで?ギル。恰好良いのに」
カァッと頬を染めて言うマリア。恋する乙女の威力半端ない。ニヤニヤしてしまうのも、仕方ないと思う。
「ふ、マリア可愛い」
「真面目に。答えて」
ニヤニヤしてたら睨まれた。でもねぇ、そうはいってもねぇ。理由なんて分からないよね。恋はするもんじゃなくて落ちるものでしょ?うわ、寒い。自分で言ってて寒くなったよ。
「そういうの、理屈じゃないと思うんだよ。気が付いたら好きになるって事ない?どうしようもなく恋焦がれる……気付いた時にはもう手遅れって感じでさ。そういうのあるんじゃない?マリアだってそうなんでしょう?」
「……違う。別に、私は。ギルなんて」
「……ふ、別に私はギル限定で話してた訳じゃないんだけどね?」
「む」
ニヤリとして言ったら、めちゃくちゃ睨まれた。ただ、顔が真っ赤なのでまるで威力がない。マリアとギル……うん、いいな。すっごくお似合いのカップルだよ。
「さも恋した事あるような言い草じゃないか?」
レイ……貴様の存在を本気で忘れていたよ。本当に余計な事いうな、こいつ。マリアの目が鋭くなったじゃないか。ついでに言うと兄の目線も厳しい。
「誰だ?まさかギルか?」
「やっぱりギルなの?」
「いやだから違うって……」
兄とマリアに詰め寄られる。
「う、うーん……確かに好きになった事はあるけど……ギルではない人だよ」
「誰?どんな人?」
「え?うーん……どんな……」
私は遠い記憶を掘り起こして幼馴染を描く。
「強くて、恰好良くて。人の為に本気で怒って、本気で泣いてくれる人だなぁ……」
「それ。やっぱりギルじゃん」
「おおっ!確かに似ている!……いやいや、ギルじゃなくてだな」
確かに言ってて似てるなって思ったよ。なんだろうな、何が違うんだろうな。重なる事もあるけれど、ギルはギルだから。でもあれだな、ギルは銀の髪で幼馴染は金だから髪の色は違うな。ああ、何もかも、全てが懐かしいな。
「馬鹿な事を2人でやって、お互い笑いあって……ああ、目元が、少し違うかな?穏やかで、いつも笑ってて、でも、涙脆くて……綺麗な青の瞳と……」
「お前何歳だよ」
レイの鋭い突っ込みが入る。私はそれに苦笑を浮かべる。もうすぐ11歳ですけど、精神年齢は27歳来そうですが、何か?
「そいつは?今どこに?」
兄が質問してくる。どこって……異世界の日本ですが。そんなの言っても分からないだろうし。頭大丈夫かって言われちゃうよ。神薙さんなら話通じただろうな。
「やっぱり、ギル?」
私が言いあぐねていたら、マリアがそう訊ねてくる。
「いいや……死んだよ」
シンと部屋が静まる。嘘は言っていない、嘘は。「私が」死んだんですけどね。彼はまだ生きてると思いますよ。
「ごめん」
「ふっ、いーえ?」
マリアが気まずげに謝ってくる。
「と、取りあえず!あのギルの所に行ってやったらどうだ?」
「ああ……」
レイが場の空気を変える為に声を上げる。うう、それか……せっかく気分が違う方向に向かっていたのに。気が重いが、行くしかないだろう。ギルは部屋の方に行ったのかな?
索敵でギルの所に向かう。やっぱりギルは部屋に篭っているみたいだ。コンコンとドアをノックすると、中で身動ぎする音が聞こえて来た。
「……ギル」
返事はない。……無視ですか。ショックを禁じ得ないです。ドアにこつんと額を当てて呼びかける。
「ギル、ごめん……黙ってて。本当に悪いと思ってる。いつ言おうかって……タイミングが分からなくて……ごめん、言い訳だな」
はぁ、と溜息をつく。こんな時に言い訳しか出て来ない自分が情けない。皆が誤解してるって分かってて敢えて言わなかったんだ。
「嫌われても、仕方ないって思ってる。……ごめん」
今までずっと一緒にいて、言わなかったのは完全に私が悪い。私は扉に体重を預けたまま目を瞑る。あれだけ心配してくれる人を騙している。黒の忌み子も、魔王も、まだ言えていない。
魔王がこの世界でどういう存在か、よく知っている。魔王城の書籍に書いてあった。世界に破滅を齎す。今までに6度。この世界に魔王が現れた。その度に世界は暗雲に包まれてたくさんの人間が死に絶えた。
私も、きっとそういう存在。殺したくない。破壊なんて希望しない。でも……私が闇属性を持っている事に違いはない。闇属性は魔王の象徴。こんなの言えない。
そんなに悩む位なら、すべて壊せばいいじゃない。
「……え」
……何?今、私は何を考えた。一瞬囚われた絶望への希望。目の前を壊し尽くし、何もかもなくしてしまえば怖くない。嫌われる心配もない。自分が一人になってしまったなら……そんな甘美な誘惑。
……いや、甘美でも、なんでもない。そんなのは、望んでいない。ドキドキと心音が速まる。酷い不安に駆られる。その考えは、可笑しい。そんなの私の考えじゃない。
がちゃ、ともたれていた扉が開いてよろけた。ぽすっと開けた人間の胸に飛び込んでしまった。私はのろのろともたれた状態のまま上を見上げる。
「……っ」
ギルが息をのんでいるのが分かった。顔を赤くして口を開けたり、閉じたりしている。身体が、鉛のように重い。私も何か言いたいのだが、いう事を聞いてくれない。ギル、ごめん。私は……そこで私の意識は途絶えた。
……マリア視点……
知らなかった。アルが女の子だったなんて。なんて、馬鹿だったんだろう。そんな事すら気づかないなんて、仲間失格。でももっと性質が悪いのが、この恋情。アルが女の子だと知って、どうしようもないこの気持ちに気付いてしまった。
アルが男だと思っていたなら、こんな気持ちになる事はなかっただろう。こんなに焦る事はなかっただろう。気付く事もなかっただろう。
いつの間にかギルを好きになっていた、みたい。
アルを真っ直ぐに想い続けるその姿。アルが男だったら、恐らく実る事はなかっただろうギルの想いは、女なら叶ってしまう。それが酷く嫌だった。そして気付いた。これは嫉妬なんだと。
「―――アル!!くそっ!!」
迷宮化した洞窟で閉じ込められた。アルが行ってしまうその姿を必死に追いかけようとしているので、止めた。
「ダメ。死ぬ」
「止めんな!アルが……!」
今にも飛び出していきそうなので、必死で止める。ギルが行けば、ギルまで死んでしまう。それだけは嫌だった。この空間なら魔力枯渇までは生きていける。ただの延命に過ぎないが、それでも良かった。少しでも彼を生かしたかった。
だが、年上の男の力なんてマリアでは抑えきれない。ギルはマリアの制止を振り切って結界から出ようとする。
が、ガツという音がして結界がギルを阻んだ。
「……アルの結界か!なん……なんで!くそ!」
ガンガンと拳を叩きつけるが、結界は壊れない。余程念入りに結界を張ったようだった。アルらしい。
しかしその念入りの結界に叩きつけている拳は赤く染まっていく。
「や、やめ……」
止めようとしても、止まらない。なので、仕方なくヒールだけはする事にした。怪我して、ヒール。何度か繰り返している内に、ギルは大人しくなった。
「……」
声を掛けようと思ったが、どう声を掛けて良いモノか分からない。ギルはただ涙を流す事しかできなかった。どれだけ強くアルを思っているのだろう。男同士なのに。馬鹿じゃないの、とは断言できなかった。あまりに真っ直ぐで、強く恋していたから。その姿は、とても綺麗だなって思った。
「弱いの」
「……」
つい、いつもの癖でそう呼んでしまう。弱弱しく顔を上げたギルは、少し笑んだ。その笑みはとても綺麗で、顔が熱くなるのが分かった。
「お前もだ」
ハッとした。マリアもいつの間にか泣いていた。優しいアルがいなくなって悲しいのはマリアも同じ。ただ、ギルの方がもっと痛そうだったから。ギルの辛さが悲しかった。
2人で泣いていると、突然地面が大きく揺れた。洞窟が崩れそうになっているのだ。
「マリア!」
ギルが名前を、マリアの名前を呼んで手を伸ばしてくる。マリアを助けようと。それにマリアも答える。「ギル」と。この時ようやく素直に名前を言えるようになった。
今思えばあの時から好きだったのかもしれない。アルよりもギルの方を心配してしまっていた。それがどれだけアルに失礼か、無意識だったので気付かなかった。
報われなくても想い続けるその姿はとても綺麗で、好きになってしまったんだ。
「いいや……死んだよ」
しつこく聞いたら、予想外の答えが返ってきた。どこか遠くを眺めて呟く姿は懐かしそうに微笑んでいた。そこに悲しさなんて含まれていないはずなのに、何故か私の胸が締め付けられた。
慌てて謝ったが、案の定気にしていないとでもいう風な答えが返ってくる。あれだけ愛おしそうに思い出を語るのに、気にしていないはずがないのに。私は酷い事をしたと思う。自分の気持ちばかりを優先させて、過去を抉り返してしまった。
アルがギルに謝りに行った。しばらくアルの兄クラウド、その友人レイ、リョウと共に話をする。
「ふーん、じゃあアルの名前はアルリリアなんだね!」
「ああ、覚えてあげるといい」
「うん!僕覚えたよ!」
リョウはクラウドと楽し気に会話している。
「すまん、俺が余計な事言ったみたいで」
「……いいの。私が、聞いたから」
レイが謝罪してきたので、こちらも謝る。お互いアルへの追及の手を緩めなかったせいで、アルに辛い事を言わせてしまった。想い人が死んでしまうなんてどれだけ苦痛な事か……ギルが死んでしまったなら、私ならあんな風に笑えない。
アルは本当に、女の子だって信じられない位強い。どれほど、どれほど強いのか、もう私には分からない。ギルが私を好きにならないのも無理はない。こんなに醜い感情を抱く私の事なんて……。
思考が悪い方、悪い方に沈んでいると、バタバタと走ってくる音が聞こえて来た。
「――アルが!はっ、アルが倒れた!」
顔を真っ青にさせたギルが慌てて転がり込んで来た。その言葉に私も冷や汗が流れる。アルが、倒れた?あんなに強い人が?聖女である私よりも余程強いのに?ありえない。だが、ギルの必死な様子で嘘ではない事は分かる。でも、あれだけ元気だったのに?
アルは、強い……辛い事も笑って受け流すくらいには。だから、もしかして病気を抱えていた?もしくは、呪い……死に至る禁術。その考えを持ってすぐに頭を振る。落ち込んでいたから考えが悪い方にばかり行ってしまう。まずはアルの様子を見るのが先決だろう。
聖女なら助けられる事も多い。その為に修行したのだから。私は急いで駆けた。




