37話
視点がクラウド→主人公に変わります、ご注意下さい。
……クラウド視点……
幸せだった。家族に恵まれて、とても幸福な日々を過ごしていた。可愛い妹も生まれた。母や妹になかなか会えないのは寂しかったが、父に説得を受けて諦めていた。妹は黒の髪に黒の瞳で、所謂「黒の忌み子」という存在だった。あの時はアルリリアが酷い目にあうだろうと諭されただけだった。
しかしあの日、その存在が如何に危険な存在であるか思い知らされた。離れた小屋に父と連れ添って来ていた。開かれた扉からは死臭が漂い、ツンとして、吐き気がした。すぐに父が慌てて俺の目を塞いだが、すでに俺の脳に焼き付いてしまっていた。母の、遺体が。
父は、母の遺体を小屋ごと焼いた。ごうごうと燃え盛る炎をただ呆然と見つめた。父は泣いていた。父と母は仲が良かったから。
俺も、泣いた。きっと母にはもう二度と会えない事は分かってしまった。
「逃げるぞ」
父は俺の手を取って村から逃げ出した。あの時は意味が分からなかったが、すぐに分かった。「黒の忌み子」は冒険者ギルドでは討伐対象とされていたのだ。迫害を受けるどころの話ではない。殺されるのだ。そして、その「黒の忌み子」を隠した者も討伐対象となり得るのだ。
何故、どうして。妹はただ黒い髪を、黒い瞳を持つだけの、他の子供と何ら変わらない子だったはずなのに、どうして。俺達は、色んな街を転々とした。誰に狙われているか分からない。そんな焦燥感だけが募っていった。
「すまない、クラウド……情けない父を許してくれ」
父は旅の途中で死んだ。俺を魔物から庇って。どうしてこんな事になってしまったんだろう。
「クラウド……」
涙も零さず、ただ父の墓の前でぼんやりしていると、幼馴染のレイが声をかけて来た。旅の途中で偶然再会した彼は執拗についてきていた。殺しに来た奴なのかとも疑った事もあるが、今では信用している。
「俺は、妹を探す」
父は死んだ。母も死んでいた。けれど、アルリリアは?あの狭い小屋の中で、遺体はなかったと父から聞いた。誰かが連れ去ったか、魔物の腹に収まったか。そんなのはどうでも良かった。
ただ、妹を探す事だけを生きる糧にした。そうしないと、何かが壊れてしまいそうだった。死体は見ていないのだ、俺は。きっとどこかで……どこかで生きていても可笑しくはない。
旅をしている間に、冒険者ランクはおのずと上がっていった。Aランク。まぁ、Sランクは化け物だと聞くし、俺には関係のない話だった。『獣人の街』に行ってみたけれど、空振りに終わった。
「だからさぁ、お前もいい加減……っと睨むなよ」
「諦めたら俺は生きる気力なんて湧かない。それはお前が良く分かっているだろう?」
帰りの船でレイが俺を諭してくるので、睨む。俺も、心のどこかでは知っていた。あの状況では、もう生きてはいないだろうことは。それでも足を止める事は出来ない。止めた時は、俺が死ぬ時だった。
「ちっ……わぁかってるよ……でもなぁ、妹さんの髪の色さえ分かんないんじゃ、どうしようもねぇよ?」
「……」
妹の髪の色は、流石にレイでも言えない。なので、ここは沈黙を貫く。妹を探すときは、決まって人の気配が薄い所を狙う。妹が衆目にさらす事が出来ない存在というのは、今までの旅で身に染みている。
「なぁ……クラウド。お前、いい加減現実見ろよ。分かってんだろう?」
「うるさいぞレイ。黙れ、次の街でお前とは解散だ」
今回は妙にしつこい。船だからか、暇なのだろう。お世辞にも良い船とは言えないからな。
「おいおい……俺ぁ、お前の親父さんに約束したんだよ。そう簡単に離れるつもりはサラサラねぇ」
「大きなお世話だ。迷惑だ」
「お前なぁ……!」
レイは父と何やら約束をしていたらしい。本当に余計なお世話だった。妹探しを止める様なら、レイを斬ってでも行く。
レイも俺の頑なな態度に苛立ったのか、机に手をついて声を荒げている。しかし、その言葉が途中で止まっている。不思議に思って食事から目を離してレイを見ると、口を開けた状態のまま何処かを熱心に見つめていた。
その間抜け面を見て、俺の後ろの席を見ている事は分かった。気になったので俺も後ろを振り返る。
ガターン……!
後ろの席にいた少年は急に立ち上がった。その顔は蒼白で、驚愕に染まっていた。只ならぬその反応にレイと目を合わせる。
彼の事は知っている。船員が噂をしているのを先程聞いたからだ。あまりじっくりと見た事はなかったが、随分と綺麗な顔を……。
「……?」
何故かその顔に既視感を覚えた。胸に手を当てて首を傾げる。
「どうした?」
「いや……」
小さな声でレイが心配げな声を掛けてくる。なので、首を振っておく。『閃光』とは知り合いじゃない。会った事はない。だから、見た事あるなんて事は可笑しい。だが何故かモヤッとしたものが晴れない。
チャリチャリチャリ……
「すい、ません!」
その音で思考の海から浮き上がる。どうやら、『閃光』が小銭をばら撒いてしまったらしい。ウェイトレスにお金を支払った後、慌てて拾っているようだったが……手が震えていて、拾った金をまた落とす。これじゃあ何時終わるか分かったモノではない。
俺はレイに目くばせをした。レイも頷く。困った人がいれば助ける。それが俺達の信条だ。
俺達が近づくと、何故か彼はビクッとしていた。
「ありがとう、ございま、す」
俺達が拾い集めた小銭を震えた手で受け取る。何処か怯えたような、泣きそうな顔だった。『閃光』のアルは、このような顔をする奴だったのか……?
聞いた話じゃ、もっと果敢で勇猛な……。
「いやぁ、噂の『閃光』と呼ばれる男もこういうドジするんだって思ったらちょっと親近感が湧くな!」
レイがわざと明るい声で話しかける。レイも彼の様子が可笑しい事は知っているのだろう。場を盛り上げる為に言っているのだ。たまにそれがイラッとするけど、基本的には良い奴なのだ。
『閃光』は何処か儚げで、女の子の様に見えた。勘違いする男もいそうだな、と思う位。とてもではないがクラーケンを倒すような人間には見えない。
「そうですね……クラウド様の妹君にお会いしたかもしれなかったので」
その言葉に驚きが隠せなかった。今まで探して来て、何の手がかりも見つからなかったのに、こんな寂れた船の上で見つける事になるとは。人生とは分からないものだった。
名をアルリリア、見た目は言えない。と彼は言った。確かにそうだった。こんな食堂で言う事は出来ない。だとしたら、だとしたら本当に生きているのだろうか?
彼は生きていると言った。今まで、諦めていた。それでも諦めきれずに探し回った。ついに生きている事を知った。彼のついた嘘なのかもしれない、けれど、その希望に縋る事しかできない。
「もう二度と私を探さないでくださ……」
「どういう事だ!!」
妹の伝言とやらに俺は激昂した。生きているなら会いたい。会って話がしたい。なのに、妹は会いたくないのだという。妹は俺に幸せになって欲しいのだという。知らないのか?俺はお前に会えただけで幸せになれるのに。周りにどう思われようと構わない。討伐対象になっても構わない。ただ、妹を幸せにしたい。もうこの世に、彼女しか肉親がいないのだから。
苦い顔を浮かべた彼にこれだけは聞いておこうと思った。
妹は、笑っているか?
せめて、笑っているなら良い。生きているなら良い。幸せならば良い。そう思った。『閃光』のアルは少し考えてから―――笑った。
その笑顔は、母と同じで、優しい笑みで。
色は違うのに、確かにアルは……母と同じ顔で。
『閃光』のアル。
その名を反芻する。アル。アル……。
「……アル……アル、リリア?」
目を見開いたアルの肩は女性のように華奢で。
「あんたが、アルリリア、なのか?」
その問いかけに、彼女の瞳が動揺して揺れるのが分かった。
「おいクラウド!トチ狂ったのか!?こいつの名前はアルだよ!『閃光』のアルだ!女どころか男だぞ!」
レイが俺を羽交い絞めにする。抵抗はしない。だが、俺の中では確信が芽生えていた。彼女はアルリリアだと。昔の面影が残る、俺の妹だった。
……主人公視点……
見ているなんかすっごい見ている。あの日以来兄の視線が痛い。遠くで見つめている時もあり、時には話しかけてくる。
「なぁ……アル。あの人なんなんだ?」
「うっとおしいの。超ウザい」
その視線は当然ギルやマリアも気づいている。リョウも若干不安気にこちらを窺っている。今日も兄は私を遠くからじっと見つめているので、ギルとマリアはちょっとイラついているようだ。
「あー……はは、どうすっかなぁ……」
どうしてこうなった。何故か兄は妹であると疑っているようだ。何かしたっけ?色も性別も偽っているのに、何故そう思ったのか……。というか彼はまともな精神状態なのか?ああ、失礼かもしれないがまともであると考えるのが難しい……。もしかして妹探しで相当精神が参っていたのか。どう対処したもんか。
あ、目が合った。
目が合った途端に嬉しそうな笑顔で寄ってくる兄。私、引いてます。兄が歩いて近寄ってきたら、ギルとマリアが守るように立ちふさがった。
「あんたさ、なんなんだよ」
「しつこい。超ウザい」
兄がその2人を不機嫌そうに一瞥する。リョウは怯えて私の後ろに隠れてしまっている。しかし……守られてるってなんか良いな……ちょっと恥ずかしいけど。
「銀髪……恋人……?」
兄が何やらぶつぶつ言っている。そしてキッとギルを睨み付けた。
「そこの銀髪に決闘を申し込む」
……は?
「望むところだ。負けたらもうアルに近寄るな」
ええええええええええっ!?ちょ、待てよ……。兄よ、どうしてそうなった?っていうかギルも物凄くやる気満々なのだが!?
「ギル。勝つの」
「当然だ」
マリアもギルを応援する。兄は私を見てニッコリ微笑む。
「『閃光』のアル?俺が勝ったら本当の事を喋って貰うぞ?」
兄の笑顔がなんだか黒くて恐怖を覚えた。ひぃいっ!?え、なんでそんなに自信満々なの!私は冷や汗を流しながらギルの勝利を願った。
「俺は、クラウド」
「俺はギルだ」
甲板に場所を移して、お互い名乗り合い、戦いが始まった。クラウドからは魔力は殆ど感じられないので、剣士なのだろう。素早く懐に入り込み、斬撃を繰り出す。ギルは魔法使いでありながら、懐に入られても打ち返す冷静さと力がある。初級魔法で牽制したり、腰につけた剣で止めたりしている。クラウドも魔術師を相手にしたことがあるのか、魔法攻撃を手慣れた様子で撃ち落とす。
「強えーな。あの魔術師。剣士相手にあれだけ打ち返すか」
レイが感心したように頷いている。その手には酒の入ったコップがあった。完全に観客気分である。マリアとリョウも見守っている。
「クラウド様も強いね。ギルの魔法って結構威力あるんだけどな。あれ撃ち落とすのか」
「まぁ、俺ら一応Aランクだしな」
「そうなんですか。レイさんはガーディアンですよね?」
「おう。どんな攻撃すら止めて見せるぜ?」
「おお……」
カッコいいっすレイさん。
「しかし……決闘とはなぁ……悪いな、『閃光』さんよ」
「いいえ……」
そんな話をしていたら兄がギルの攻撃にかすったようで、顔を歪めている。ギルの攻撃が変わったのだ。今まで火属性ばかりだったものが、風属性を加えて火属性の攻撃に別の動きを加える。予測の出来ない火の動きに兄が翻弄される。
「あの魔術師……マジで強いな……」
レイさんの目がギラリと光る。自分も戦いたい。と、そう言っているように見える。確かに、剣士相手でさえ簡単にイナすギルは強い。ほとんど初期位置から動いてすらいない。魔力もほとんど無駄に消費していない。兄は火を避けるだけで手いっぱいになっている。その間にギルの火球は増えていく。ギルの口元を見る限り、ひたすら詠唱しているようだった。甲板が火球の熱でかなりの暑さになっている。
「おいおい……あの魔術師マジか?あんなのブチかましたら……船が沈むぞ」
「あーそれはご心配なく。私が結界を張っているので」
「……っ!流石は『閃光』と呼ばれるだけはあるんだな」
「当然なの。アルは凄いの」
マリアが自慢げに頷く。リョウもコクコク頷いている。私はというと『閃光』の二つ名にげんなりしてしまう。しかし結界張っているとはいえ、流石にギルもやり過ぎのように思う。あれじゃあ兄が怪我をしてしまう。というかAランクの相性的の悪い剣士で、距離もさほどない状態なのに優勢になれる魔術師って……。
もしかしなくてもギルってSランク相当ある魔術師?めちゃくちゃ強い?いつもは仲間として協力していて気付かなかった。いや、フォローのタイミングとか威力とか相当良いなとは思ってたが、こう、対戦を目の当たりにすると凄さが如実に出るな。
ギルの火球の熱で兄が酷く汗をかいている。レイもまた、その威力に戦慄を覚えているようだ。ギルの魔法を眺めていると冷や汗が出てきた。ギルに使用されている魔法が上級に切り替わっている。今までの少ない魔法量ではない。
「やり過ぎだ!ギル!」
叫ぶが、聞こえていないのか、ギルの詠唱がやまない。
「おい……まずいのか?」
私の叫びにレイの顔色が悪い。
「不味いも何も……ギル、上級魔法詠唱してる」
「はぁっ!?こ、こんな所でか!?」
「ちっ……止めます」
小さく舌打ちして火球の壁に突撃していく。後ろでレイが何か叫んでいたが無視だ。とりあえず止める。まさかここまでするとは思っていなかった。一瞬でギルの前に立ちふさがる。すでに詠唱を終えたギルが魔法を放とうとしていた。
「止まらんかこの馬鹿っ!殺す気かぁっ!」
ばしゃあっ!
上級の水魔法を広域に展開し、火球を殆どすべて打ち消す。残りは広域魔法より威力の高いギルの上級単発火魔法だけだ。ギルがはっとなってその残りの火魔法を打ち消す。水で頭を冷やしたようだ。
ざしゃっという音がして後ろを振り返ると、兄が膝をついていた。慌てて様子を見に行く。
「はっ……はっ……」
「大丈夫?」
「ああ……クソ。はぁ、はぁ……『閃光』のアルは、仲間も強いのか……はぁ」
少し煤けた顔が水でびしょ濡れになっているが、とても整った顔をしているので色っぽくみえる。その顔が悔しそうにしているが、どこかすっきりした顔をしている。
「えー……そりゃあどうも?」
「まぁ、せっかく会ったのに男に嫁がせるのは寂しいが……これ以上ない相手だ」
なんの話だ、なんの。ギルが滴る髪をかきあげながら近づいてくる。銀の髪がキラキラ光って、とてもイケメンだ。
「ギルと言ったな」
「はい」
「こいつを守れるか」
「常にそう考えて生きています」
「そうか、任せたぞ!」
そうしてガシッとギルと兄が硬い握手を交わした。
「…………なんの話?」
取りあえず私は首を傾げる。握手していた兄がくるっと私に向き直る。な、なんだろうか。思わず身構えてしまう。
「アル……事情があって言えないのは分かった。だけど、言わせて貰う!そんなの俺は気にしない。お前が認めるのが嫌ならそれでいい!でもな……世界を敵に回しても、俺はお前の味方だ!」
「世界を……敵に回して、も?」
世界を敵に回しても。震えた。その言葉に。兄は笑顔全開で大きく頷く。
「当然だろ?俺は……お前の兄ちゃんだからな!」
言葉も出ない。あまりに大きな愛情に。ちょっと精神病んでるとか思った私を殴ってやりたい。
兄に魔王の事を言わなければ良いだけだ。でも言ってもきっと兄なら笑って受け入れそうな気もするから怖い所だ。
ここまで言われてしまったら、否定する方が酷というもの。まぁ、色々理由を言っているが、ただ単純に嬉しいだけだ。
「やっぱり……兄さんには敵わないね」
そういってクスリと笑うと、兄とギルが目を丸めた。それも一瞬で、兄は嬉しそうに破顔し、ギルが狼狽えた。
「え?兄って……本当にそうだったのか?え?こいつの世迷言じゃなくて?」
「んーそうだねぇ……なんでバレたかなぁ……?」
「それはな。兄ちゃんだからだ」
その理由に何故か納得してしまった。いや、なんか不思議なんだけど。凄い自信だな、兄は。
「兄ちゃんに言わせて貰えばどうして俺を知っていたのか疑問だ。あんなに小さかったのに」
「それはまぁ……親切な人に教えて貰いまして……」
「そうか!まぁ何でもいい!会えたんだからな!」
バシバシと私の背中を嬉しそうに叩く兄。私も嬉しい。気づいてくれたことが。世界を敵に回しても兄と名乗ると言ったその心が。こんなにも素敵で優しい私の……家族。
久し振りの家族との再会に、思わず頬が緩む。正体を隠そうと思った自分がバカみたいだった。今は家族水入らずという事で2人きりにしてもらえている。
兄の個室で2人きり。別に卑猥な事は何もない。
「本当に、アルリリア、なんだなぁ……」
私が色彩の魔法を解き、黒に染まると、兄が吐息を吐き出すように呟いた。その声は妙に色っぽくて兄なのにドキリとさせられる。というか、血による繋がりを除けばほぼ他人なんだけどね。話した事なんて随分と前だし、記憶は前世の影響を色濃く受けているから。
黒に染まった髪を、兄は愛おしそうに撫でてくる。黒による忌避など兄には存在していない様子。黒の忌み子への対応など、リョウの事でしみじみと実感しているのだ。名前すら、食事すら与えないその仕打ち。リョウがどれだけ傷ついたのか、私には分かりかねる。
「兄さん、父さんは?」
「……死んだよ」
「そっか……」
ああ、そっか。だから兄は必死に私を探していたのか。生きているかも分からないのに。というか、私じゃなかったら死んでたと思う。本当に、どうするつもりだったのだろう。この船で乗り合わせなければ、二度と会う事はなかったかもしれないってのに。でも、残された希望だったのだろう。
前世の両親は、8歳の時に死んだ。嵐の日だった。あの日私は嵐なのに仕事に出掛けた両親を電話で呼び戻した。そのせいで、両親は死んだ。母は増水した川に足を滑らせ、溺死。父は視界の悪いせいで対向車に飛び出してきたトラックと正面衝突し、即死。
私のせいだった。
そしてこの世界の母も、私が魔王である事により、死んだ。殺したのはミトラスという魔族だが、私が魔王じゃなきゃ来なかっただろう。
そして今父の死も知った。
私は家族を殺す能力でも持ち合わせているらしい。
私は怖い。目の前の家族がまたいなくなってしまう事に。今まで家族の事など考えずに生きて来たから兄が生き延びたんじゃないかって思う。黒の忌み子だけだったなら、喜んで兄の手を取るのに。私は魔王だから。家族を壊すから。人を殺すから。
「アルリリア、おいで」
「……兄さん」
兄が両手を広げて構えている。これは抱き付いて来いという意味合いでしょうね。ちょっと、いやかなり恥ずかしい。でも、やっぱり嬉しいな。
そっと兄の体に自分の体を添えると、兄の腕が私の背を包んだ。ゆったりと子守りのように撫でられて、妙に安堵する。
「恥ずかしいな?」
「ふ、そうですねぇ」
少しくすぐったそうに言う兄に私も頷く。人を殺した事のある人間が兄にこうして優しくされていいのだろうか?
ザザ……。
目の前が赤く染まった気がした。瞬間的に見えた、それは兄の死。その傍らに立つのは嬉しそうに血に染まるアルリリア。
「っ!!」
驚いて兄から体を離す。ドキドキと心臓が妙な音を立てる。急に離れた私を兄は不思議そうに眺めている。今見えた映像は――なんだ?いつも夢で見るような悪夢で、酷い不安に駆られる。兄の体が次第に冷たくなっていく鮮明な夢。白昼夢ってやつなのか……なんだかソレよりももっと危ないものな気がする。
こんな風に起きている時に起る事なんてなかったのに。
「アルリリア」
兄がそっと私の手を取る。兄の手はとても暖かかった。否、私の体が酷く冷え切っていたのだ。震える体を抑える事が出来ない。
「怖くない、怖くないよ、アルリリア。俺は絶対にお前を傷つけない」
……違う……違う、違う。私があなたを殺す事が怖いんだ。あの映像のように、喜んで兄を殺す私が存在している。それはとても残酷で、冷酷で、綺麗で。
―――綺麗?
「……っ」
私は兄の手を振り払う。違う。あれは、綺麗なんかじゃない。嫌だ、殺したくない。違う、そもそも殺そうと考える事自体が狂っている。
「アルリリア……」
少し悲しそうな顔を浮かべる兄。そんな顔をさせたい訳じゃない。
「ちょっと動揺してるみたい。本当に久し振りだからかな……」
「みたいだね……急には無理か」
ああ、なんでこんな空気に。もっとこう再会の喜びとかほのぼのした空気を期待してたってのに。自業自得ですね、分かります。
問、なんで兄さん気付いたの?
答、兄ちゃんだからさ!
アルの笑顔に母の面影が残っていたのです。元々アルの髪色は母の色に近いので兄が結論付けるのも容易くなっていた事でしょう。




