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33話

「なんだお前ら……生きてたのか?」


 サニルスの村に着いた途端このセリフである。ギルとマリアが飛びかからんばかりに睨みつけている。超怖ぇ。流石の兵士さんも若干引いている。逃げたほうが良いかもしれませんよ。


「ええ、洞窟は崩れて、魔物も出現しなくなったので、安心なさっていいと思いますよ」

「はぁっ!?崩れた!?」


 すいません。やっぱりマズイですかね?でももうどうしようもないんですが。


「ふん、嘘も大概にしろ。どうせ大したことも出来ずに逃げてきたんだろう」

「あぁん?」

「ブチ殺すの」


 飛びかかろうとしたギルとマリアの襟首を掴んで止める。兵士さん涙目である。そんなに怖いなら言わなきゃいいじゃない。そのプライドはなんなの。


「ふ、ふん。まるで野盗のようだな!野蛮な……」

「ガルム・クエイスト・ファイロ・イむぐぅっ!?」

「シャルル・ルーボン・アクウォ・キュはむぅっ!?」


 上級火魔法を詠唱し出したギルの口と、上級水魔法を詠唱し出したマリアの口を塞ぐ。やめんか。シャレにならんぞ!?こいつらマジだ。マジの目だ。これはやべぇ、完全に怒りを買った。これはこの村の事を聞くのは諦めたほうがいいな。

 ワタワタ暴れているギルとマリアを見て兵士は顔を引き攣らせている。魔法を放とうとしたのが分かったのだろう。震えて冷や汗も流している。


「えーと……帰ります。後で確認しといてみて下さい」

「……分かった」


 兵士の目に少し希望の光が灯ったように見えた。彼の目が合った時、ちょっと親しくなれるんじゃないかって思った。うん、分かる。怖いよね、この二人。次あったら友達になりましょう?

 目で「ありがとう」と言ってくる兵士に私も目で「いえいえ」と言って村を去る。





 馬車を走らせて『獣人の街』に帰ることにする。一ヶ月篭ってた間ずっとドロップしたもの集めたから、結構お金になる……はず。迷宮化しかけてた洞窟と本来の洞窟の魔物の部位が同じとは限らないがな!

 いやぁ……実際違ってたらどうしよう?だってさ、迷宮だとドロップするけど地上の魔物は部位を切っていかなきゃならんからな……。実際違うだろ実際。どうしよ?


「ちっアルが止めなきゃ殺れたのに」

「悔いが残るの」


 恐ろしい……後ろが恐ろしい……。マリアさん……もうちょっと聖女っぽくなりませんか……?リョウはオロオロするばかりだ。私は操縦席の所をトントンと叩いてリョウに笑いかける。


「リョウ、こっち来てみる?」

「うん!」


 あら可愛い。リョウをひょいと持ち上げて膝に乗せる。小さいし軽いから余裕だ。リョウって何歳なのかな?正確な年齢なんてリョウ自身も知らないだろうな……。見た感じ5歳位かな?でも栄養失調だったからもしかしたらもうちょっと上だったりするのだろうか?ま、わからないけどね……。

 リョウを抱き込み馬の綱を持つ。リョウの頭の位置は私が頭を乗せるのに最適だ。リョウもリョウで私に凭れ掛かっている。


「アル、あれ何?」

「あれは兎だねぇ、ぴょんぴょん跳ねるのが可愛いよ」


「あれは?」

「ん?ああ、あれはヨルムの木だね。夜の内に動くんだ。その間に実が出てくる時もあるんだ」


「木って動くんだ」

「違う違う。あれが特別なんだよ。動いたりする木は珍しいんだ」


「ふぅん。すごいんだね」

「ふっ。そうだねぇ、すごいねぇ。あ、これ飲んでみる?甘いよ」


「飲む」


 私はホットチョコをゆっくりリョウに飲ませる。


「!……これ好き!」


 ビックリした顔でこちらを見上げる顔が可愛い。


「そうかそうか。これ全部リョウのだから、ゆっくり飲もうな?」

「うん!」


 はぁ……可愛ええ。子犬って感じだわ。癒される。


「……アルが完全に取られた」

「黙ってろよ……」


 後ろで何やら2人も仲良くやっているみたいだ。それにしても人数増えたな。今は子供ばかりだからいいけど、のちのち馬車で馬一頭っていうのはちょっと不味いかなぁ。馬車の中もちょっと狭くなったしなぁ。夜は2人しか馬車で寝れない。今はギルが地面で寝ている。

 寝苦しそうだが、なんとか慣れて貰うしかない。女子供優先と考えるあたりギルも良い奴だ。地面で寝れないと言っていた頃が懐かしい。




「さて、今日はここらで野宿だね。明日には『獣人の街』に着ける」

「おお……早くベットで寝たい」

「ギル。坊ちゃん」

「うるさい」


 おや?今マリア……ギルって名前で呼んだ?2人を交互に眺めてみるがいつも通りだった。聞き間違い?弱いの。とか、変態呼びだったよね?


「じゃあマリアが変わるか?」


 ええ!!ギルが!ギルがマリアを名前で!?


「嫌。超嫌」


 やっぱり気のせいじゃなかった……!い、いつの間に名前で呼べる関係に!あれか、あの結界で2人きりになっていた間か。いや、仲良くなったのは非常に喜ばしいことだ。2人の会話に耳を傾けつつ料理を作る。2人にはチンジャオロース風炒め物。あと、じゃがいものスープ(味は人参)。あとお粥。お粥はリョウのだ。ちょっとずつ固形にしていこう。まだ胃が慣れていないだろうし。

 飲み物は大分自然に飲めるようになった。大進歩だ。ちょっとずつ体の方も筋力をつけていこう。栄養を取り入れていったら自然につくと思う。ずっと祭壇で動かずにいたみたいだし。

 あとは魔法だな。何属性が使えるのだろう。あとでリョウと試してみよう。


 今日はお粥も結構口にしてくれた。かなり順調だった。



……




 カチカチカチカチ……



 時計の音が鳴り響き、部屋に静寂が訪れる。先ほどまでの嵐の音が小さくなる。私は部屋に立ちつくし、呆然としている。私はアルリリア。あれ?でもこの部屋は昔懐かしい、両親と過ごした家。でも私の姿はアルリリアである少女の姿だった。

 呆然と外を眺める私は帰ってきたんだろうか。今なら助けられるんじゃないか。力もある。能力も高い。助けられる。私は両親を救いに行こうと玄関に向かおうとする。

 するとガシッと足を誰かに掴まれた。この家には誰もいないのに。一体誰が私の足を掴むというのか。恐る恐る足元を見る。私を掴んでいたのは血まみれになった母だった。


「ひっ……」


 思わず声が漏れる。


「なんで、どうしてよ優樹ゆうき……苦しい、痛い痛い痛い痛い痛い」


 怖くなって後ずさる。足に何かが引っかかって無様に転がる。引っかかったものを見ると、それは父の首だった。


「どうして、優樹。こんなに愛しているのに。どうして殺すんだ」


 虚ろな何も映していない瞳をした父の口から言葉が漏れる。私は怖くなって顔を塞ごうとする。塞ごうとしたその手には、血がべったりとついていた。生暖かく、先ほど母を殺した感触がよみがえる。


「お前が殺した」

「ち、違う」

「あなたが今私たちを」

「違う、違う……」

「「何が違うの?」」


 両親の虚ろな目が私の方に向く、背筋も凍るその光景に目を背け、私は玄関に走り出した。

 しかし私が玄関に着くことはなかった。そこは血の海だった。ギル、マリア、リョウ、ケルト、ウッド……沢山死んでいた。全員私を見ていた。全員私を責めたてるように見ていた。


「「「「「お前が殺した」」」」」



……



「―――――っ!」


 ドッドッドッドと跳ねる胸を押さえつけて目が覚めた。


「はぁ……はぁ……」


 状況を確認する。自分の手は血には染まっていない。火はまだ消えていない。ギルが寝苦しそうに唸っている。震える足を叩き起こし、馬車を確認する。マリアはスヤスヤ眠っていた。

 リョウは、起きて……泣いていた。


「リョウ……」


 リョウは驚いてビクッとなった。ポロポロ零れる涙は止まらない。リョウの隣に座って、そっとリョウを抱きしめる。抵抗される事はなかった。ただ、震えて泣いていた。


「何が悲しいの」


 リョウは答えない。


「何が怖いの」


 優しく優しく撫でる。まるで壊れ物を扱うように。


「こ、わい……」

「うん」


「誰か、殺しちゃったかも、しれない。ここに来る前に、腕が、飛んだり、足が、飛んだり。させ、て」

「大丈夫」


 私は言い聞かせる。リョウに言いきかせるように、自分に言い聞かせるように。


「大丈夫。怖くない。大丈夫、大丈夫……」


 大丈夫、私はまだ、彼らを殺していない。大丈夫、まだ大丈夫。リョウは声を抑えて静かに泣いた。私の分まで、私の不安や罪の分まで泣いてくれた。リョウは良い子。……良い子。

 この子はまだきっと誰も殺してなんてない。大丈夫だよ、リョウ、怖くないよ。


 リョウはしばらく泣いた後、私の腕の中で寝てしまった。へにょんとした獣耳がとても可愛らしく、クスリと笑った。

 さて、起こすの悪いから、このまま抱いて寝るか。




「どういうことなの」


 そのセリフに目を覚ます。目を覚ますとマリアと目があった。どういうことなのってどういうこと?起きようとしたら上に温かいものが乗っていた。そういえばリョウを上に乗せたまま寝たんだった。

 穏やかな寝顔に思わず笑みが零れる。けれど、昨日の泣き姿を思い出して少し気が陰る。リョウが腹の上でもぞもぞ動いて少し目を開いた。私と目が合う。リョウは私の上で寝ている事を確認し、私の胸に顔を埋めてまた動かなくなった。

 ……寝たな。腹の上に居る事を確認してから寝たな今。まるで猫のようで可愛い。ちょっと暑いけど。また眠ってしまったリョウの頭を撫でる。毛並も少しだけだけど良くなってきたかもしれない。


「何故。その状況」

「ん?えーと昨日眠れないっていうもんだからさ。抱きしめてあげてたら安心したみたいで、そのまま寝た」

「なんだその羨まげほんげほん」


 おや、ギルももう起きてたのか。


「おはよーギル。マリア。ふっ、可愛ーよね?リョウ……つい構いたくなっちゃうよ」


 クスクスと笑いながらリョウの頭を撫でる。ギルとマリアは顔を見合わせてからバッと馬車から降りていった。少し離れた場所でなにやら2人で話し合っているが良く聞こえない。うわ、これ動けない。どうしよう。起こしたくないなぁ。可愛いし。動物を飼っている方ならきっとこの気持ち分かって下さると信じてます。手の平で寝てしまったハムスターとか、膝の上で寝ちゃった兎とか、もうどうしようもなくなるこの気持ち。

 今日の朝ごはんは抜きだな。


 リョウのあまりの可愛さに出るのが少し遅くなってしまった。『獣人の街』に着いた頃にはもう日は暮れてしまっていた。さっさと馬を預けて宿屋を探す。前回泊まってた店が開いていたのでそこに泊まることが出来た。部屋は3部屋。マリア。ギル。そして私とリョウだ。まぁ妥当なところだろう。何故かギルがリョウと寝ると主張していたが、リョウはまだギルのこと怖がっているみたいだし、私から離れるのを嫌がっているので仕方ない。


「またか、またこいつを抱きしめて寝るのか……!」

「必要とあらば」


 キリッ。何故かギルがショックを受けている。意味が分からん。腰の辺りでリョウがギュッとしがみついてきた。おお、可愛いのう。とりあえず撫でよう。もふもふ。


「これは。思わぬ。ライバル……」

「マリアは黙ってろ……!」


 悔しそうにマリアを睨み付けるギル。


「『閃光』様!お久ぶりです!ご無事でしたか!」


 『獣人の街』の冒険者ギルドに行くと、狸耳の受付嬢が嬉しそうに声を掛けてきた。


「もう一か月以上も音沙汰ないので、父に叱られたんですよ。Bランクの冒険者をあの洞窟に入れるとは何事だ!って!で、『閃光』様だと思ってたから大丈夫だって思ったって言い訳したら人違いだったんじゃないか!ってさらに叱られちゃって!」

「それは、申し訳ない事をしました」

「いえいえ!ご無事だったならいいんですよぉ!さ!報酬見てみます!出してみてください!」

「はい……」


 ううん……大丈夫だろうか。ドロップアイテムになってしまうんだけど。

 私はカバンからドサドサ大量のドロップアイテムを出した。カウンターに乗り切らないくらいには大量にある。なんせ一か月も籠ってたんだから……倒す度に律儀に拾ってた。なんか置いていくのもったいなくてさ。

 バサバサ大量に出てくるアイテムに受付嬢は固まっている。


「あの……」


 恐る恐る声を掛ける。


「ひぅっ!?……あ、すみません。あまりに大量でびっくりして……」


 ぎこちなくも行動を再開する受付嬢。ドロップアイテムを検品する。


「これって……ドロップアイテム?迷宮にでも行かれてたんですか?」

「ああ、それが……」


 私はとりあえず洞窟が迷宮になってしまっていたこと、そして出られないようになってしまったこと、しまいには壊してしまったことを伝えた。伝え終わった受付嬢は難しい顔で沈黙した。私は冷や汗が止まらない。せめて何かリアクションをして欲しい。


「これは……私の手に負えませんね……父……いえ、ギルドマスターに伝えますので少々お待ちください」


 真剣な表情の受付嬢はその場から席をはずした。


「アル……これ大変な事になるんじゃないか?」

「知らん……私は知らんぞぉ……」

「アル。どんまい」

「何言ってんの。ギルとマリアも道連れに決まってる」

「「えっ!?」」


 ふふふ……そんな目で見ても私はあなたたちを道連れにします。残念だったな!


「ひどいな……ほとんどアルのせいなのに……」

「アルが心臓壊さずに、持ってきたから……」


 え、でもさ、仕方ないじゃん?リョウって悪い子じゃないし……。え、すごく睨まれてる。どうしよう。私がオロオロしていたら歴戦の戦士のような雰囲気を醸し出した怖そうなお人が出てきた。だが、その大きな傷跡の入った渋いお顔とは裏腹に、恐ろしく似合わない狸の可愛らしい耳がついていた。思わず顔と耳をチラチラ交互に見てしまった。


「事情は聞いた……ふむ。なるほど大量に狩って来たようだな」


 重々しく呟いてそのアイテムを眺めている。声も渋いですよね。真剣な表情してますが……狸耳ってこの人に似あわないな。


「ふむ、なるほど……嘘を言っているようにも見えん、といった所か……クラーケンの件もあるからな」


 あ、耳がピクリと動いた。っべー可愛い。その顔に似合わない。


「……」


 耳ばかりに気を取られていたらギロリと睨まれた。ヒッ怖い!悪役の顔だよそれ。


「洞窟には誰かを派遣しよう。その間、こちらで滞在してもらう」

「壊れているのを確認できたら……なんか、罰則とかあるんでしょうか……?」

「いや、ないな。その洞窟がなくなれば、より安全になるだけだ。報酬を増やそう」


 やった!私はバッと後ろに振り返った。ギルとマリアの顔も明るい。罰則なしで報酬も上がるとか。良い事ばかりじゃないか!


「しかしその話が本当だったなら……一か月どうやって生きていた?」

「あ……道具箱を持っていたので……」

「ふむ、なるほど……」


 顎に手をやってなにやたら考えている。


「『閃光』の」

「は、はい?」


 やめて、その名を呼ばないで。私が嫌そうな顔を浮かべていると、ふっと少しだけギルマスが表情を緩めた。


「Sランクになってみたくはないか?」

「……は?や……なりたくない、ですね」


 ギルマスは驚いたのか目を見開いている。


「なぜだ?」


 なぜと言われても……。魔王が冒険者Sランクとか可笑しいだろう、常識的に考えて。いや、冒険者やってる時点で可笑しいんだけどさ。私が言い淀んでいるとギルマスが大きく溜息を吐いた。


「はぁ……分かった。まぁ取りあえず洞窟の確認をするから、待っていてくれ」


 それだけ言ってギルマスは奥に歩いて行った。

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