30話
祭りが終わり、次の日からは慌ただしく掃除が行われ、通常営業に戻る店も出てきた。まるで夢のような祭りだったな……。もうすっかり日本色はなりを潜め、異世界の町並みが並んでいる。
「楽しい祭りだったな」
「うん」
マリアが嬉しそうに頷く。
「さて、散財したし、そろそろ冒険者やって金稼ぐか」
もう随分と冒険者やってないわ。クラーケンは倒したけど、お金になってないし。
「そういえばマリアってギルドランクいくつ?」
「A」
「おおっ!?凄いな」
私たちよりも上だったとは……!流石聖女さんだぜ!
「じゃあパーティーに入っても大丈夫だな、私達はBランクだし」
取り合えず冒険者ギルドへと足を運ぶ。冒険者ギルドはやはり獣人ばかりだった。あの祭りの後でもこんなに人がいるのか……。取り合えず受付に並ぶ。しばらくしたら順番が回ってきた。
ギルドカードを提示し、ちょうど良い依頼がないか聞いてみる。
「人間さん……アルさん……冒険者……少年」
狸耳の受付のお嬢さんが何やらブツブツとつぶやいている。そして意を決したように口を開く。
「もしかして『閃光』のアル様?」
思いもよらない質問にピシッと固まってしまった。ななななんで知ってるんだー。祭りがあったからもうすっかり忘れたわっ。またあの暗黒の名前を呼ばれるとは……。
「おお。有名なの。アル。凄い」
後ろからマリアが嬉しそうに声をあげる。それで確信できたのか、受付のお嬢さんが嬉しそうに微笑む。
「やはりそうでしたか。いやぁこんなギルドに来ていただけて嬉しいです。お噂は聞いてますよ」
ニコニコと嬉しそうに語る受付のお嬢さん。笑顔が引き攣っている自信がある。まさか二つ名で苦しめられるとは……。
「実は私の父がここのギルドマスターなんです。だから父から聞いて知っているんですよ。まだまだ新鮮な情報です。ふふふ。まさかご本人に会えるだなんて……」
新鮮な情報……?まだ広まってはいない……とか?広まっていませんように……。
「と、取り合えず依頼を……」
「わ、そうですね!失礼しました!これなんてどうでしょう?ここから南に1週間は掛かる村があるんですけど、そこの近くに迷路のような広い洞窟があるんです。魔物が多い上に、明りがなくて暗いので、Aランク指定の中でも結構難易度が高いのです。ですからBランクの方には普通推薦しない所なんですけど、クラーケンを倒した『閃光』様なら受注しても余裕だと思います。遠いんですけど、かなり身入りが良いんですよ?」
「じゃあ、それで……」
「はいっ流石は『閃光』様です。迷いがありませんねっ」
ひぃっ……あんまり『閃光』『閃光』言わないでくれぇ……。心が痛いです。何故かマリアは嬉しそうに目を輝かせてるし、正直しんどい。クラーケン倒すときはせめてギルも呼ぶんだった。
そうすれば道連れに……ごほんごほん。
依頼内容はここから南に一週間のサニルスという村。その近くの洞窟探索。奥に行けば行くほど瘴気が濃く、動物が魔物になる可能性が高い。よく高ランクの魔物が出てくるのでサニルスには常に兵が駐屯している。
直接出処を叩いて魔物を減らせば村も比較的安全になる。しかし量も多いし迷路になっており、暗くって一匹一匹がそれなりに高ランクの魔物が出るため、強い者でないと行けない。危険が多いのでなかなか行くものがおらず、困っているので報酬もそれなりに高い。
「洞窟だからライトと、迷路だからマッピングするものがいるな」
『獣人の街』は普通に本も売ってたりする。まぁ屋台でも使う位だから安価だと思ったが……凄い安いな。この街で紙を出荷しているのだろうか。
「これ。ピンク」
マリアが手に取って見ているのはピンクに光るライト。それはちょっとやめといた方がいいんじゃないかな……。
「これでいいだろ」
ギルは普通のライトを持っている。
「ピンク。可愛い」
「うるさいぞピンク馬鹿」
「む」
「はいはい、そこまで……安いしどっちも買っといたら?私は青にしようかな?」
「アルまで!?」
「流石アル。分かってる」
まぁ私は夜目が利くからな……むしろライト邪魔なんだよね。まぁそれは二人が見えないので転んだりしたら危ないから買うけどさ。
色々買い込み、準備を整えて出発する。
久しぶりに馬車で道を走る。馬も疲れが取れたのか結構元気だ。後ろで馬車に乗り込んでる二人がさっきから罵り合っている。こちらも元気そうで何より。
「眩しっ!てめぇそれ洞窟でやったら殴る。本気で」
「やってみ。アルが守ってくれる」
「マジでムカつくこのピンクめ!」
結構激しい罵りだ。いいのか元貴族……。なんかこう、礼儀とか習ってるはずなんじゃないのか?
マリアも聖女とは思えぬ態度……。ギルを煽るのが上手い。そんなスキルが必要な生活でも送ってたのか?
「変態。寄るな。チクる。アルにチクる」
「ぐぬぬ……マジで最低だなお前!」
「褒め言葉。有難う」
道中はこんな感じで常に騒がしい。その仲睦まじい二人の会話を聞き流しつつ今日の献立を考える。久しぶりにカレー粉使った料理にしよう。そうしよう。
無事サニルスという村に到着。村の周りは厳重に柵で囲ってあり、門には兵が立っていた。私達の到着で警戒しているようだ。
「洞窟の探索に来ました。冒険者です」
私は名刺代わりになるギルドカードを提示する。
「Bランク?大丈夫なのか?」
兵士は怪訝な顔をしている。
「まぁ取り合えず依頼はキチンと受けてきているので、なんとかしますよ」
「まぁ、死んでもこちらの責任はないからどうでもいいが……外に魔物を引き出しては来るなよ?」
「はい。善処しましょう」
兵士は咳払いしてから右側を指差した。
「あの山に洞窟がある」
「ありがとうございます」
そう言って兵士は黙る。しばらく見つめていたら嫌そうな顔をされた。
「なんだ?早く行け」
「あーすみません」
中には入れてくれないのか。いいよいいよ。別に。私は諦めて山の方に向かう。
「感じ悪い」
「ああいうのは一度殴ったほうがいい」
「気が合うの。今から、行く?」
「おお、そうだ。そうしようぜ。この力を見せつけてやる」
ギルとマリアは意気投合している。しかし会話内容は物騒だった。おいおい、山賊じゃないんだから……。取り合えず二人を止めておこう……。
「やっぱりあいつ殴るべきだったんじゃ」
「アルの優しさに。あいつは超感謝すべき」
ギルとマリアはグチグチ言いつつも洞窟に来ていた。兵士さん、私たちが帰ってくるまでにちょっと離れてた方が良いかもしれません……。しかし、あの村はなんだってあんな厳重に保護されているんだ?
危険なら離れてしまえば簡単なのに……。まぁ洞窟から出たら教えてもらおう。
取り合えず大きな山が目印なので迷うことなく到着した。洞窟の入口がどこかちょっと迷ったが、ちょっと歩いたら見つける事が出来た。洞窟内は少し奥も見れない程の暗さみたいだ。まぁ見えるんだけどね、私は。洞窟の奥にコウモリがぶら下がっている。
しかし、よほど強力な洞窟みたいだな……かなり強い魔力圧を感じる。
「暗いの」
「そうだなぁ……ピンクライトなんて役に立つのかぁ?」
「む」
「まぁまぁ……取り合えずちょっと行ってみる?」
「そうだな」
「行く」
迷いがないな。流石は聖女様と、私と長年旅をしてきた魔術師様だ。そうして私達は洞窟に足を踏み入れた。
私が先頭、マリアが中間、ギルが最後尾。
マリアがマッピングの紙を片手に歩く。少ししたら、分かれ道になっている所に来た。迷路状になっているってのは面倒だなぁ。洞窟はピンクと白のライトが照らしている。マリアは白のライトも買っているのだが、ピンクの方が気に入っているらしい。
「どっちに行こうか……」
ううん、どちらも奥が曲がっていて壁しか見えない。それに、どちらの道にも魔物の気配が充満している。
「右」
マリアが即決した。まぁこんな所で迷ってても仕方ないな。取り合えず右に進む。
「暗っ!!」
ギルが驚いた顔をしている。奥に進んだところで広い場所に当たった。奥がライトで照らせないほどの暗さ。
「ファイロ・イニスタリー・ファイア」
ギルが下位全体魔法を詠唱して辺り全体を明るくする。眩しい……。
きぃきぃきぃ……
バサバサと大量のコウモリが上で密集していた。それだけいると気持ち悪いな……。
「また分かれ道か」
奥の方に二つに別れる道があった。視認できるところに魔物がいないのに、索敵だといたるところのいるように見える。もしかして上の層とか下の層とかあったりするのだろうか……。迷宮じゃん、そんなの。
「左」
マリアがまた即決する。マリアを見ると真剣で険しい表情をしている。ギルも余計な茶々は入れない。魔物のテリトリー内なのだ。いつ襲われても可笑しくない。何時でも剣を抜けるように警戒を怠らない。
しばらく曲がりくねった道を歩いていると奥の方に魔物を発見した。
「魔物だ」
「む」
「了解」
警戒しつつ魔物に距離を詰める。魔物との距離が近くなり、魔物の方から襲いかかってきた。飛びかかる魔物を剣で斬る。ギギンという音がして魔物は少しだけ傷が付く程度で後ろに飛ばされている。うさぎを5倍に大きくした黒い魔物。私の攻撃で沈まないとは……かなり硬いようだ。
「ファイロ・ファイア」
ギルが魔法で援護する。魔物は悲鳴を上げて転げまわる。どうやら魔法の方が弱い魔物だったらしい。かなりダメージを食らっている。火に弱いのか。魔物は消滅したので次に進む。……ん?消滅?
ガジッ
という音がして私の右足が止まる。驚いて見るとそこに魔物が齧り付いていた。
「……なっ!沸いたのか!?」
見れば半身が土に埋まっていた。齧り付いた魔物を上に蹴り上げる。
「ファイロ・ファイア!」
宙に浮いてバタついている魔物にすかさずギルが魔法攻撃を食らわせる。燃えてもがいている魔物に止めの剣を突き刺す。死ねば魔物の小さな部位だけ残って消滅した。
「大丈夫か?」
ギルとマリアが駆け寄ってきたので、私は頷いて無事だと答える。
「だが……今のって……」
「そうだな……地面から出てくるって……」
「迷宮化。しかけてる」
「だよなぁ」
むしろもう迷宮なのではないだろうか?上にも下にも敵がいるのだ。これだけいると索敵もあまり意味がない。警戒して気配を探って視認するしかないだろう。
「てかアルって奥の方見えるのか?」
「え」
「さっき見える前に見つけてたから」
「え、け、気配で……」
おう……そうだった。かなり暗いらしかったな……普通に警告しちゃったよ。
「流石『閃光』なの」
「そうだな、索敵も『閃光』だとは」
やーめーてー。なんでそこで二つ名を呼ぶのー。
「冗談はそれくらいにして……迷宮になろうとしてる洞窟なんて入ったことないぞ?」
「危険。もしかしたら。道が塞がる」
「まじっすか!」
ビックリした。迷宮化しかけているモノってそんなに危険なのか。
「迷宮。生き物。成長段階だと、階数すら変わる。超危険」
「よくそんなの知ってるな」
ギルが感心したように言う。
「え。そ、それは……企業、秘密」
マリアは若干目を泳がせている。その情報はもしかして王都で保存されているネタですか……?その動揺の仕方だとそれが強いな。迷宮になっているものは多数あるが。途中の段階のモノなんてないからな。
「取り合えず、一旦帰るか?」
「そうだな」
「そうするの」
満場一致で帰ることに……したんだけど。
「ふさがってるな」
「ふさがってるねぇ……」
「手遅れ……」
ギル、私、マリアは壁を呆然と眺めて立ち止まっている。確か殆ど真っ直ぐきたはずである。行き止まりなんて有り得ない。
「これは、心臓を壊すしかないの」
「心臓?」
「迷宮の最深部。迷宮化となった元凶がいるはずなの。まだ完全に迷宮として固まってないなら普通の洞窟に戻ることも可能なの」
「ほんとよく知ってるなピンク……何者だ?」
ギルの質問にビクッと震える。目線を彷徨わせて動揺を隠しきれない。ギルの追求から助けてやる為に少し話題を変える。
「そんなことより、まずはその心臓とやらを壊すことが先決だな。こちらは幸いにも食料を大量に持ち込んでいるし、長期間でも生存可能だ。ただ、暗いのと、普通の迷宮と違って道が変わる可能性がある事が問題だな」
ギルとマリアは真剣に頷く。
「マジで道具箱さまさまだな……これ普通の冒険者なら死んでるぞ」
「流石『閃光』様。超偉大」
うん、マリア……その『閃光』っていうのやめてください。まぁそれに最終的に困ったら闇で帰ってしまおう。うん。
私達は迷宮になろうとしている洞窟を探索する事となった。
「疲れた……」
「む。暗い。超しんどい」
探索して早3日は経った。ギルとマリアはぐったりしていた。私はというと今日もご飯を作る。
「良い匂い……アルのご飯だけが楽しみだよ……」
「料理。天才的」
お褒めに預かり光栄です。しかし、こう暗かったり安全な場所が確保出来ないってのは消耗するな。今はマリアが結界を張って安全にしている。交代で結界を貼りつつ寝る。
迷宮化している洞窟は、何故か帰ろうとすると必ず行き止まりになる。ただし、奥へと進もうとする場合はどんどん前に進むことが出来た。しかし構造が分らない、また変わっていくので、果たして本当に進んでいるかは謎だった。
その先の見えなさに精神が疲弊していく。おまけにこの暗さだ。普通の精神ならもう泣き出しても可笑しくない。
その点マリアとギルは強いと思う。疲れたなんだと文句を言いつつも戦闘のキレは落ちていない。驚きだったのがマリアが戦闘も出来た事だ。風で刃を作って切り刻む。
「ヒーラーじゃねぇのかよ!」とギルに突っ込まれてまたビクッとしていたが、今は助かるので追求していない。聖女様って戦えるんだな……。むねあつ。
魔力の枯渇もしていない。二人共相当強いよな……。
今日のお昼は肉じゃが。こっちの世界だとじゃがいもは人参の味がするので人参の方が多く入れてあるので肉人参と言っても過言ではない。でも味はちゃんと肉じゃがです。醤油とかみりんがこの世界にあるのが救いだった。味噌もあるよ!
次は酢豚作ろうかな。
ずっと洞窟なので時間は懐中時計を見て確認している。持ってて良かった。
「美味しい」
「ほんと美味しいよな。どこでこんなに覚えてきたんだか……」
ギルにじっとりと見られて苦笑いする。
「ところで、心臓とやらはどこだろうな……」
「近くなってる気がする」
確かに何かが近くになっている気はするのだ。全く解らないが何となくそんな感じなのだ。果たして何時になったら着くのか……。
1週間が経った。
「う~ん、長いな……」
「……迷宮化、大変なの」
「そうだねぇ……」
会話も楽しみつつなんとか探索。
2週間が経った。
「……まだか」
「……まだなの」
「……近くなってる気はするけどな」
まだちょっと余力あり。段々と近づいている気もしなくもない。
3週間が経った。
「……」
「……」
「……が、頑張れ」
魔物で出れば詠唱するが極端に会話が少なくなった。
1ヶ月が経った。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおいい加減にしろおらあああああああファイアぁああああああああ!」
「ブチ殺すの……ヴェント・ウィンド……ヴェント・イニスタリー・ウィンド……アクウォ・ウォータ」
二人共壊れた。目が死んでいる。大きく叫んで詠唱しているのがギル。ブツブツとひたすら詠唱しているのがマリア。
「おおお落ち着け!落ち着くんだ二人共ぉ!」
近くなってる!近くなってるよ!もう目と鼻の先ってくらい魔力圧が近いから!お願いだから乱発しないでっ!
ぜぇはぁと息を荒げているギルと、それを冷たい目で見ているマリアが怖い。
「えーと……帰る?」
「アルでもその冗談は許さんぞ」
「アル。ぶん殴るの」
ひぃっ!ごごめんなさい!二人の殺気に思わず足が竦む。本当は帰れるんですって言ったら絶対怒られる。やべぇ、こいつはやべぇ、何が怖いって死よりも恐ろしい何かが待っていそうで怖ぇ。なので何としてでも心臓を壊さないとイケナイ。




