3話
視点が主人公→ラインハルト→主人公と変わります。ご注意下さい。
私は二歳になった。魔王城の生活は意外と快適だった。魔王城の人たちは明るくて、ミトラスのような悪魔悪魔しているやつはいなかった。最終的に魔王がいたのは今から二百年も前の話だ。魔王が存在しない魔王城にいてもあまり意味がない。それが他の過激派の意見だったようで、一人、また一人と姿を消していったようだ。そして過激派はミトラスだけになってしまったらしい。魔王として私が一人前になったら、過激派を呼び戻す案をミトラスは練っているようだった。一人前、それは人間を虐殺し、破壊の限りを尽くす魔王。そうミトラスは言っていた。しかし、他の魔族は穏健派と称しても、別に人間が好きというワケでもないらしい。過激派が倒してくれたら嬉しいけれど、自分からはやらない。そんな程度だ。
そして今は私の部屋に来ては人間の恐ろしさをミトラスは説いてくる。
「その時です。人間がいきなり我が部下を殺し、約束を破ったのです。奴らは下等な生物であるため、契約もすぐ破る。言葉を操らず、すぐに襲いかかってくるものいるのです」
「そうなんだ」
「ええ、人間は恐ろしい生き物で、爆発的にその数を増やし、我らを虐殺しに来るのです」
「こ、怖いね」
「ええ、ですが安心してください。魔王様がこのまま成長を続ければきっと全滅させられます」
「うん、頑張る」
順調にミトラスを騙します。従順に言われた通りに人間を恐れますよっと。私は今は自分が魔族だと言い聞かされている。ミトラスは私の反応に満足したようだ。そして、普段もそのように振舞う。どこで監視されて、誰の口から私の本心が漏れるか分からないからだ。
「失礼します……。魔術の勉強の時間……です」
「おや、もうそんな時間ですか。失礼しました」
そう言ってミトラスは出ていく。そして入って来たのはゴブリンの女の子だ。メス、ではなく女の子と称するのは姿が人間の形とそれほど変わらないからだ。しかし人間と完全に同じ姿という訳でもない。ゴブリンの肌のような緑色だ。耳も少し尖っている。初対面でラインハルトが紹介してくれた時に。
「彼女はミト。ゴブリンです」
「っ!?言わないっていってたじゃないですかぁ!なんでいうんですかぁ!」
と、彼女は自分がゴブリンという種族なのをひどく嫌っているようだった。その時はフードを深く被っていて、肌の色までは分からなかったのだが、ラインハルトがいきなり暴露してからはそのフードは今は被っていない。
「隠してもいつかはバレる。それが早まっただけだ」
「うう……馬鹿なんですかぁ……。ゴブリンと同類なんて思われたら授業聞いてもらえなくなっちゃうかもしれないじゃないですかぁ……。そんなの屈辱ですぅ……」
確かにゴブリンってのは私の中でなかなかに直情的で単純で馬鹿だという認識だ。気持ちは分かる。彼女を見る限り、ゴブリンとは思えないほどその瞳からは理知的な色がある。だからこそ、ゴブリンは馬鹿だと言われるととても傷つくのだろう。知性が高い分なおさら。ラインハルトはそんな乙女心は分からないらしい。
「魔王様はそんな狭量じゃありませんよ」
「ラインハルトは馬鹿なんだな」
「……!?魔王様!?」
「……!!魔王様!!ありがとうございます!!」
馬鹿な、私が狭量とかそんな問題じゃない。乙女の心理なのだ。思わず本音を言ってしまい、ラインハルトの目は絶望の色を宿していた。……悪いことをしたかな。でも、乙女を傷つけたのだ。相応しい罰だろう。彼がショックを受けた代わりに、ミトは私を非常に気に入ったようだった。話が長くなってしまったが、彼女はそういう理由からもメスというには相応しくない。
「さあ、今日は中級の魔術を教えますよ~!外に出ましょう!」
そう言って彼女は嬉々として私を連れ回す。
「さぁさぁ、今日は調教のお勉強ですよ!」
マナー講師のヴァネッサが嬉々としてやってくる。どうやら彼女の脳みそはどんどん腐って行っているようだ。
「あぁん魔王様そのニラミ……最高ですよ!……でも調教は冗談じゃなくて本当です」
まじか。二歳の子供に一体何を教えるつもりなんだ貴様。
「調教は魔族のマナーでも重要なのです。時には鞭を、時にはロウソクを使います。やり方を間違えちゃうと魔族の笑いものですよ?」
「や……うん。それは五年後にお願いしようかな」
「いやぁん!今すぐたたいてくださぁい!」
はぁはぁと彼女は息を荒げる。どうやら出会った時には発情していたようだ。それが本音か。
「マナー講師変えて貰えないのかな……」
「私以外のマナー講師はインキュバスさんですよ!貫かれたいんですね!分かりますぅ!その時は私もぜひ参加させてください!」
「わぁ!ヴァネッサ素敵!あなた以外の講師なんて考えられない!」
「ホントですか魔王様!ありがとうございます!私頑張ります!」
冗談じゃねぇよ!!!!!!!なんでエロいやつばっかしか講師がいねぇんだよ!二歳で処女失うなんて意味分かんねぇよ!ヴァネッサで良かった!まだ女性だから!
「女に講師なんて本当はやりたくなかったんですけど、ラインハルトに言われて断れなかったのよねぇ。でも、今は感謝してるわ。魔王様とっても素敵な調教をしてくださるから……。今はインキュバスになんて譲る気は本当はないんだけどね」
ラインハルトよ、あなたが神か。私の貞操はラインハルトによって守られていたらしい。彼は苦労人に違いない。
……ラインハルト視点……
魔王城に魔王様がやってきた。
ミトが魔王の信託を受けた次の日だった。ミトラスは彼女の家族をも殺して連れてきたらしい。その事実に激しい怒りを覚える。見たところ人間の幼児だ。一歳ほどに見える。そんな子供を親元から離す。それはとても残酷なことなのだ。ミトラスは分かっていない。ヘタをしたら、魔王様に恨まれてしまうだろう。しかし幸いなことに目の前の幼女は理解していなさそうだった。
しかし、良い事なのか、悪い事なのか、正直分からない。ミトラスは彼女に、同族を殺す教育を望んでいる。人間を恨み、なんの感情も抱かずに殺すことは果たして良い事なのだろうか……。いや、良い訳がない。いつか彼女をこの魔王城から逃がすことは出来るだろうか。しかし、その時に魔王様が人間に育てられた事を忘れ、恨んでいたとしたら……。逆にそれは危険だと言える。人間を殺してしまうだろう。私は人間がそんなに悪い者ばかりでないことを知っている。昔はちょっとだけ人里に降りていたこともある為だ。
だから魔王様は非常に不気味な子供だった。
その瞳には理性を宿し、言葉を扱い、魔術を詠唱し、または無詠唱を行い、礼儀作法を覚える。そんなのは一歳や二歳の子供にまともに出来るなんて思わない。ミトラスや、ミト、ヴァネッサ、その他のメイドも気付かない。人間の事を彼らは知ら無さ過ぎるためだ。俺は正直に魔王様が恐ろしかった。
ミトラスは人間の子で、黒の忌み子と言われるものだと言っていたが、人間だなんて思いたくない。あんな化け物みたいな一歳が人間であってたまるか。むしろ彼女は長らくを生きている魔術師と言われた方がしっくりくる。
魔術師はその内包する魔力で年をとるのが遅くなるのだ。彼女はソレじゃないのだろうか。しかし、それならばミトラスを退けられるのではいだろうか?親を殺されたら、ミトラスをもっと恨むのではないだろうか?俺の推測は混乱を極める。
黒の忌み子、それは人間にしては多い魔力量を秘める子供の事だ。その子供が生まれるのは規則性がない。全く魔力のない両親からも生まれたりする。
そして、その魔力量故に、一歳までに必ず魔力暴走を起こし、周りの人間を殺し尽くす。自傷が出来ず、また、平民の出の者にはその大きな力を扱う事が出来ずに、山に捨ててしまう事が大半だ。山に捨てられた子供は、餓死するか、魔物の餌になり、強い魔物を生み出す事になる。平民の出の者には扱いきれないと言ったが、じゃあ貴族なら大丈夫なのか?という話になってくる。正確には扱えるだろう。しかし忌み子なんて者は貴族には相応しくないため、生まれたら直ぐに殺される。だからなのか、この世に黒髪黒目は存在しない。また黒の忌み子がこの世に早くから葬り去られるのは、別の理由が存在したりする。黒の忌み子は理性がない、ほとんどが魔物と変わらないとされているのだ。だから、匿った人間は黒の忌み子と共に討伐対象にされる事もある。あれだけ強い魔力を持つ者が魔力を扱い、襲ってくるのは、どの人間の目にも恐怖にしか映らないだろう。
だから、黒の忌み子が成人したなんて話は聞いたことはない。
しかし、魔王様は意思ある人間だった。その事についても、黒の忌み子であるというのに疑問がでてくる。本当は、黒の忌み子は育て方さえ間違えなければ、理性ある子供になるのだろうか?それとも、魔王様が異常であるのか?そのどちらかだ。魔王様は色々なことをどんどんと吸収していった。
ミトやヴァネッサは嬉しそうに魔王様の素晴らしい所を俺に報告してくるのだが、俺は酷く不安に駆られる。
魔王というのは歴代暴虐の限りを尽くし、敵に情けなんてかけない。そしてその圧倒的力によって周りをねじ伏せる。彼女は……魔王に実に相応しく成長している。それが酷く恐ろしい。彼女の魔力量は見る間に増えて行っている。このまま何もしなければ、この地が……いや、世界すらも滅ぼす存在になるのではないだろうか。
「ラインハルト、ミトラスから聞いた。剣が得意らしいな。教えてくれ」
彼女が三歳になった時、そんな事を言われる。魔術のみならず、剣術も高める気なのだ。魔王様は。
「では、まずは実力を見るために少し手合わせをしましょう。手合わせなので、緊張なさらなくてもいいですよ」
そう前置きをし、魔王様に剣を与えて対峙する。確かに私は剣術のみを言えば、ミトラスよりも強い。私がこの魔王城で剣術に一番長けていると言ってもいい。その私が戦慄を覚えたのだ。魔王様はマトモじゃない。剣を構えるその型は少し変わってはいるが、実に洗練されていた。力はある程度抜いており、だがそれで隙は生まれていない。
「行くぞ」
そういって軽い調子で彼女は踏み込む。が、次の瞬間には彼女の剣は俺の首に当てられていた。
「……?なんで動かない?」
彼女は本当に不思議そうに聞いてくる。違う。動かないのではない。彼女が速すぎるのだ。首に当てられた剣を外し、彼女はヒュンヒュンと素振りをしている。あまりの事に今更ながら冷や汗が出てきた。……化物だ。これは。本気で彼女がかかれば私など簡単に殺されるだろう。こいつは、何者になるつもりなのだろう……。魔王様は世界を滅ぼすつもりでいるのだろうか。なんてことだ。ミトはなんて者を魔王にしてしまったのだろう。いや、彼女が選んだ訳ではないのだろう……だが。これは、人間の三歳でこの状態なのは。
本当に化物だ。
「ん、身体強化掛け過ぎたみたい。外すから、今度こそ動いてね」
そう言って彼女は切り込んでくる。今度はキチンと認識し、動くことが出来る。しかしそれでも彼女の動きに翻弄される。見たこともない動き、奇抜な切り返し。かと思えば、俺と同様の正式な騎士の動き。ヒュンと俺の顔を横切るその剣に、俺は嫌な汗が出てくる。俺も負けずに切り返す。彼女が五回切り込んで俺は一回程度だったが。
「おおっいいねっ」
彼女は反撃を受けるたびに無邪気に笑う。その顔だけ見れば実に微笑ましいのだろう。だがその手は絶え間なく俺を攻撃してくる。笑えない。冗談じゃない。だが、ずっとそうしていると、彼女に隙が生まれた。おそらくは疲労。スタミナ切れだ。そこにすかさず切り込む。
そこで魔が差した。ここでこいつを殺さないととんでもないことになる、と。
ザン―――――
俺は思い切り彼女の頭に切り込んだ。
……主人公視点……
三歳になって、大分体も思うように動き出したのでラインハルトに剣術を教えて貰う事にした。ラインハルトは私に合った小さめの剣を渡してくれた。そういうのあったんだねー、準備が宜しくて良いですな。取り合えず今ある身体強化の魔術を掛ける。力、防御、速さ。本来なら一つだけしか掛からないと書いてあったが、普通に掛けることが出来た。ついでに結界の応用編を掛ける。ほぼ私オリジナルなんだけど、防御膜っていう体のラインに沿って結界を張る術だ。結界自体は存在する。しかし本来、結界っていうのは四角か、球状なのだとか。おそらく細かく変形出来るのは無詠唱であり、魔力の流れが細かく分かる私ならでは、なのだと推測している。皆は魔力自体は見えないそうだ。それはビックリした。私は魔力が強いとか言っていたし。てっきり見えるものだと思っていたが、どうやら違うらしい。
魔力圧というものがあり、雰囲気や空気で魔力保有量が分かるらしい。決して目で見て判断している訳ではなかったようだ。
チートすぎんだろ。私。本当の魔王にでもなるつもりなのか。
……まぁ人間虐殺なんてやりたくないから丁重にお断りさせて頂きますが。気を取り直してラインハルトと対峙する。きっちりと型通りって感じだ。いいねぇ、騎士って感じ。
動き見て覚えられるかな?
「行くぞ」
そう言って軽く踏み込む。で、あっさりとラインハルトの首に剣を添えることが出来た。生前私は運動は得意中の得意だった。ほぼ毎日と言っていいほど喧嘩の仲裁をして戦う事があった。剣道はもちろん柔道にカポエラなんてものも出来る。厨二病を発現させてアニメの動きも真似たりしていた。
魔術を覚えるのも厨二病をくすぐられて楽しい。無詠唱でも大丈夫だけど、思わず「炎神よ、我が呼び声に答え顕現せよ!」なんて言ってしまうほどだ。恥ずかしいので、皆がわからないように日本語で。でもそれと同じぐらい体を動かすのも好きだ。思うように動けると楽しいし、動いた後のいい感じのダルさも好きだ。
「……?なんで動かない?」
私が運動得意って言っても全く動かないのは何故だろう。はっ!そうか、私が小さすぎるのか。そうか、確かにやりづらそうだなそれ。それに身体強化強くかけすぎたかもしれん。ああいう補助系の術は、魔力を掛ければ掛けるほど強くなるのだ。わあ、失敗だなぁ。と思って、身体強化の具合を見るため、軽く素振りをする。うん、剣を回せるこのくらいで力は良いとするか、防御は防御膜あるしいらないな、速さも外して打ち合いながら決めよう。
「ん、身体強化掛け過ぎたみたい。外すから、今度こそ動いてね」
そういってまたラインハルトに向かう。今度のラインハルトはさっきより真剣だ。恐らく実力はそこら辺の怠けたお嬢さんじゃないと分かったんだろう。そうかー、さっきは気が抜けてたのか。なるほど。
切り込むと、今度は返しが来るようになった。どれもスレスレだ。うおぉ、怖っ。しかし、ラインハルトのこの動き真似してみたくなる、綺麗な動きだな。頑張って覚えよう。
そうしてしばらくは切りあった。彼の切り返しは辛辣で、ひやりとしてしまう。おいおい!三歳に向ける速さじゃねーぞ!いや、いいんだですけどね。私だし。しかしずっと続けていると体力が先に尽きたのは私の方だった。そりゃあそうだよ。だって三歳の女の子だもの。これだけ動けたのも、身体強化である、力強化「ストレング」のおかげだった。
思わず私はよろけてしまい、ラインハルトが切り込んできた。これは―――――避けられない。
ザン――――
ラインハルトは私の頭に剣を振り切った。が、私にはなんの傷も付かない。防御膜様々である。ラインハルトは動揺していた。顔を青ざめさせてオロオロしていた。まさか当たるなんて思っていなかったんだろう。
さっきまで元気に切り返していたしなぁ……。
「も、申し訳ありません」
「いーよ。怪我もないし」
そう言ってあげても、彼は下を俯くだけで落ち込んでいた。顔色も相当悪いようだ。よほど魔王様に剣を振り切ったのがショックだったのだろう。ちょっと震えているし。真面目ですなぁ。
彼が私を本気で殺そうと思って剣を止めなかったこと、彼が私に怯えて震えている事なんて、私は全然気付かなかった。
もう魔王様はチート級です。




