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29話

 あっという間に祭り本番。慌ただしくも皆一様に楽しそうだった。街に出ると浴衣を着ている人たちが多数いた。みんな獣のしっぽを出して可愛い……。

 着物の構造はどうなっているのだろうか?やはりあそこだけ穴が空いているのか……。この街の風景を作り出した日本人の執念を感じるぞ……。いや、分かる。分かるぞ。この『獣人の街』でこそこの風景を作り出したかったんだろう!?可愛いよねっ獣耳ついた女の子の着物姿!


「凄い。人」


 マリアが呟く。確かに街は人で溢れかえっている。まだ結構朝早いのだが……。


「もうすぐ踊り出すってよ見に行こうぜ」

「うえぇ、お前可愛い子見たいだけだろぉ?開始時は混んでるから嫌なんだよ~」


 獣耳の青年たちがそう会話しているのが聞こえた。私は時計を確認する。7時25分。ふむ、こんな朝から踊るのか……巫女さん大変だな~……一目見てみたかった。


「見に行くか?」


 ギルの提案に驚く。


「そんな顔してたか?」

「物凄くしてたぞ」

「ふっ、そっか~」


 もう苦笑するしかない。いや見たい。見たいよ?そんな顔に出てたか。踊る女の子って一生懸命で綺麗だからさ、見たいんだよ。

 きっとこの日の為にめちゃくちゃ練習してきたと思うし……でも神社があるのは石段を何段も登った遥か上。鳥居から先に入れない私に見ることはかなわない。見えない壁で阻まれる。嗚呼、勿論力ずくであの結界を壊すなら、見えるだろう。そんな事、絶対にしないけどな。何かの為に守られ、神聖さを保っているのが分かるんだ。

 魔の者が入れば今回の舞いがどうなるかなんて……想像もしたくないな。


「混んでるみたいだし、やめとく」

「そうか?ここでも十分混んでるのに更に多いらしいからな……まぁ、それもアリだな」


 そんな会話をしていたらマリアが袖をツンツンと引っ張った。マリアはとある建物を指差していた。

 衣装貸出屋だ。うわぁ……そんなのまであるのか……。


 ギルで外で待機させて店の中に入る。見ると、結構な人数の女の子で占めている。作業っぽい人が汗を流して必死に走り回っている。


「いらっしゃいませぇ!当店現在混み合ってまして!3時間待ちですよ!」


 まぁそうだろうな。っていうかこの混み合いで3時間は早い気がする……。


「む」


 マリアはちょっと気が引けるみたいだ。ちょっと考え込む。


「ねぇ店員さん。これって自分で着れるなら今からでもアリ?」


 店員さんは私の言葉にキョトンとする。


「え……まぁご自分で着られるなら……でも見た目より凄く難しいんですよ?」

「ふっ。まぁ大丈夫なんですよ~」


 私がヘラヘラ笑って了承を得ようとしていたらマリアが不安そうにこちらを見つめている。


「人間さんの着物はちょっと割高です。使用する人数が少ないので。ちなみに貸出は買取価格と同等です。持ち逃げされたら困るので。ちゃんと返してくれたら返金します。なのでまぁ欲しかったらお返し頂かなくても大丈夫な便利設定なんですよ~!でも、本当に欲しいなら本店で新品買われた方が可愛いし流行りも取り入れてますんで、またよろしくお願いしますね?」


 そう言って店員さんは着物を取りに行ったのかパタパタと奥へと走っていった。


「私。着れない」


 不安なマリアがそう言ってくる。私はそんなマリアの頭をポンポンと撫でる。


「大丈夫。この私にお任せあれ」




 私は簡単に着付けが出来る。昔昭和喫茶というのをやってその時着付け役になった時に練習した。

 他の着付け係りは元から着付けられるメンバーだったのに何故か物凄く頼み込まれて練習させられたのだ。おかげで浴衣の着付けも出来るようになった。

 って事でまぁ、難なくマリアの着付けに成功した。私は男装しているが、下に薄めの服を着せてあったので問題もあるまい。


「凄い。アル。有難う」


 尊敬の眼差しで見られる。うんうん。可愛いよマリア。ピンクの浴衣に黄色の帯。薄いピンクの髪のマリアによく似合う。私はマリアの髪を軽く結い上げる。

 涼しげでとても可愛い仕上がり。うわぁ……この可愛らしさを少し分けて頂きたい。仕上がりに満足げに相槌を打つ。私達は料金を払って早々に着付けの店を出ていく。ギルは外で待機していた。


「早かったな」

「どう?似合う?」

「あーまぁ、うん」


 微妙に口を濁しながら曖昧に頷く。マリアはその返事だけでも満足なのか、ちょっと頬を上気させて喜んでいるみたいだ。おお……なんだか微笑ましいな。もしかして私邪魔な感じじゃないか?畜生このリア充めが。


「ほら、行くぞ」


 ギルが咳払いをしてから私とマリアを促す。照れちゃって。マリアが可愛いなら素直になればいいのに。相変わらず女性の扱いが悪いなぁ。可愛いとか似合う位言えばいいのに。


 街は本当に日本の縁日のような賑わいを見せている。

 金魚すくい、輪投げ、くじ引き、ベビーカステラ、イカ焼き、ナスの浅漬。わたあめもあった。どういう仕組みのものを作ったのかしれないが……良く出来ている。

 マリアは嬉しそうにたこ焼きを頬張っている。私もわたあめを食べている。奇抜な髪色と、獣耳やしっぽがなければ完璧日本だ。


 船旅が順調に進んで良かったなぁ……少しでも遅れていたらこれが見られなかったんだから。


「苦しい」


 マリアがお腹をさすりながらそう呟く。流石に食べ過ぎだ。少し緩めに帯を締めていたってのに。


「食べすぎだよ。休む?」

「ううん。アレする」


 マリアが指差したのは金魚すくい。細い鉄枠に薄い紙を張っている。そういえば紙ってのは異世界では高級品ってイメージあるけど……多分誰か作ったんだろう。じゃないとこんな所で使える訳ないもんな。

 銅貨3枚で1本挑戦出来る。これって金魚すくったらどうするんだろう……。マリアはザブッと水に突っ込んですぐ破いていた。「む」と唇をとんがらせて拗ねている。


「これ脆い。詐欺?」

「人聞き悪ぃな嬢ちゃん」


 店のおっちゃん苦笑いしながら話しかけてくる。


「こりゃぁコツがあるんでい。まぁ、教えないがな!」

「ケチ。詐欺」


 二人のやり取りに苦笑する。


「まぁまぁ、お兄さん。ところで、持って帰ったり出来るんですか?」

「おお?お兄さん……ああ、出来るぜ。ただし入れもんは各自用意してもらわねぇとダメだが……それに飼うにもエサやら何やら必要でほとんどの客は置いてくぜ」


 ほうほう……。まぁそうだろうな。この世界じゃ普通の家に金魚鉢やら水槽やらおける金銭的余裕ないもんなぁ。おじさんはお兄さんと言われて少し機嫌を良くしたみたいだった。どこの世界も同じなんだな……この反応。


「坊主には特別にコツを教えてやってもいいぞ?」

「本当ですか、助かります」


 まぁ大体は日本での金魚すくいと変わらなかった。なるべく水圧で破れないように、金魚の向かう方向へと滑らせる。ただ、日本のポイと違って2分以上になってくると必ず破けるそうだ。時間と水圧との勝負か……。

結構難易度高そうだな。私が教えられている間マリアが横から真剣に見ていたのが実に面白かった。




 祭りはあっという間に過ぎていく。もう最終日になってしまった。


「疲れた。二人で行ってきて」


 マリアは宿屋でそう言ってきた。確かにこの二日は凄い疲れた。人混みに流されるとかザラだったし。マリアは人混みがあまり得意ではなかったはずだ。2日間頑張ったほうだろう。それにほとんどの種類の食べ物も制覇したみたいだったし。


「いや、マリアが残るなら私も……」

「行ってきて。二人で」


 残ろうとしたら、何故か物凄く行くように主張された。


「ギルどうする?」

「行く」


 即答であった。結構楽しんでいるみたいだな……。もしかしたら刺客もいるかもだし、別行動は避けたいんだけど……。まぁ人混みに行ってる時点で油断しすぎなんだろうけど。マリアの部屋に結界でも張っとくか。

 ツンツンとマリアに袖を引っ張られる。


「ん?」

「浴衣。着てく?」


 マリアはこそこそと耳打ちしてくる。いきなりの耳への奇襲に驚いて変な声を上げそうになったが、なんとか耐えた。よく頑張った私。でも若干顔が熱いわ。しかし浴衣?一昨日来た着物が気に入ったマリアはその日の内に本店を探して新品の浴衣を2着買っていた。ピンクのものとアイボリーに赤い差し色が入ったもの。

 ……女物しか買ってない訳だけど。


「大丈夫。アルなら女物も似合う」

「えー……」


 男と思って女装させようとしているんですか……。てっきり女だと気づいたのかと……。っていうか皆気づかないモノなんだな。この世界の女性はスカートが主流だし、ズボンは基本的に男って感じだからかな。ズボンを履いている女性も勿論見かけるが、とても立派なお胸を持っていらっしゃるのでまず間違えないだろう。

 いやうん、まだ10歳だから仕方ないのだよ。女装か……女なんだから微妙な気持ちだ。前世でも甚平とか男物の渋めの着物位しか来た事ないんだよね……。背も高いしイケメン顔だったから、可愛らしい女物のピンクとか恐ろしく似合わなかったんだよ……。


 ハッ……そう考えたら女性ものの着物着れる機会って今を逃したらないのでは?次こんな祭り何時参加できるか分からないし。次の機会には背が伸びて似合わなくなる可能性もある。

 おお……まだ子供だから許される女装もあるのだ……!よし、着よう。着てみたかったし。


「じゃあ着ようかな……せっかくだし」


 マリアは満面の笑顔でアイボリーの着物を差し出してきた。おおう……この可愛らしい着物を着ろと。やってやらぁ。前世からの憧れの品だ。



 着付けは問題ない。髪は特にアレンジも加える事なく後ろで縛ったままだ。


「可愛い」

「ふっ、どうなんだろうね……」


 おお、可愛いマリアに可愛いって言われたぞ!お世辞でも構わない!


「さ。行ってきて」


 マリアは早々に部屋から私を追い出す。外に立っていたギルと目があった。


「……」

「……」


 無言。ひたすら無言。呆然と私を見下ろすギル。……あ。普通に女物着ちゃったけど……それって変態なのでは?

 きっとギルの脳内はこうだろう。「え、なにこいつ。男のくせに可愛い系の女物の着物着ちゃってる訳?はしゃいでるの?変態なの?」…………ごめんなさい!はしゃいでしまった!つい女子トークのノリで!

 その考えに思い至って居た堪れなくなった。カアッと顔が熱くなるのを感じる。やべぇ恥ずかしい。考えなしの馬鹿でした。いつも突っ走るなとギルにも忠告を受けていたっていうのに……。


「う……ごめ、着替えてくる」


 あまりの恥ずかしさに手で顔を覆い隠して自分の部屋で着替えなおそうと逃げようとした。そしたらガッと肩を掴まれて止められる。ひいいいい!やめて!これ以上どんな羞恥プレイをっ!?

 ギギギとカクつきながらギルに振り返る。サッと目を逸らされた。おいっ!傷つくよ流石に!いや、私が悪かったんだけども。


「その、ままで……行こう」


 顔を赤くしてフルフル震えながらそう告げてきた。そうか、そんなに笑いを堪えて……どんな罰ゲームですか……これ?



 もうむしろ開き直りました。もうとことん女の子として振舞ってやりますよ……くくく。開き直ればどうという事はない。むしろ女なんだから普通だろ!別にいいだろコレくらい!

 ヤケクソ気味に祭りを楽しむ。3人に一人がこちらを振り返っている気がする。……気のせいだ。気のせい気にせいきのせ……あ、また見られた。うそ……私の着物似合わな過ぎ!?

 女性としての尊厳をガリガリと削られつつもなんとか楽しむ。あの似合わねぇクソ餓鬼は何だという視線はシカトだシカト。


 日も暮れてきて祭りも終盤だ。

 もふもふと綿菓子を頬張る。うん。甘いものは癒されるよね……。別に傷ついてなんかないやい。

 その間ギルと一度も目が合っていない。そんなに似合わないなら着替えさせてくれたら良かったのに……。


「ギル」

「へぇっ!?」


 呼びかけるとビクッとなって胸を抑えている。


「えと……楽しんでる?」

「あ、ああ……凄く」


 明らかに嘘ですよね、それ……。女装男子と祭りに出るのが嫌なんですよね?分かります。いやでも本当は女なんで……。そんなに引かないでください。ショックなので。

 似合わないかぁ……まだ子供だからイケルと思ったんだが……そういう問題じゃないのか。男と思ってるんだもんな。


 何となく人が少なめのところに移動していた。周りはカップルが多い。うっ……これはダメージを受ける可能性のあるフィールドだ!定時固定ダメージのある場だ。主に精神の方の。引き返そうとした時。


 ひゅ~……ドン!


 とういう音がして明るい光が足元を照らした。

 その聞いたことのある音にバッと顔を上げて空を注視する。


 ドンドン!!


「―――花火」


 カラフルな花火が空を彩っている。幻想的なその風景に思わず見惚れる。この世界でまさか花火が見られるなんて。


『ゆきちゃん』


 幼馴染と共に過ごした日々を思い出す。


『なんで甚平なんだよ……女の子だろ?』


 私が男物の着物を着ると不満げにそう言ってくる。そんな事をいうのはあなたぐらいのものだ。他の人はこれが似合うと言ってくるのに。


『花火―――綺麗だね。ゆきちゃん』


 二人で花火を見上げたあの風景が重なる。前世と遜色ない色どり様々な花火。カリウム、リチウム、ナトリウム。この世界でも見つける事が出来たのか。


『ストロンチウム……って夢がないよ。ゆきちゃん。もっとこう……感動をだね』


 私が色の元素を読み上げると夢がないと突っ込んでくる幼馴染。でも結局二人であの色はなんだと当てるゲームに移行するのだ。嗚呼……嗚呼、なんて素敵な夢。


「アル!!」


 ギルにグイッと腕を引っ張られて現実に引き戻された。ギルの目は不安で揺れており、腕を持つ手は痛いくらいの強さで掴まれている。


「どこにも……行くな」


 何故か痛そうにそう言ってくる。私はその質問に首を傾げる。


「行かないよ」


 行けないよ。もう二度と。


 ドドドン!


 ラストスパートなのか、今までの花火よりも激しい。私はギルから目を逸らして花火を見る。私はこの光景を作り出した日本人を尊敬する。その人は日本に帰れたのだろうか。それとも、帰れないからこそ、この光景を作りだしたのか――――。


 急にギュッと抱きしめられた。相手は勿論ギルなんだけど……。えっ!?何なに?どういう状況?肺の空気が殆ど出て行ってしまう位強く抱きしめられる。

 腕の中から周りに変な目で見られていないか焦ってチラッと見ると。皆一様にカップルでキスしたり抱きしめたりしていた。おっとぉ……これは、非常に……なんというか。


「えーと……離してくれるか?」


 そう言うとビクリとギルの体が震える。けれど抱きしめる腕は緩まない。


「嫌だ。どこにも行くな」


 ギルの体は震えていた。何がだ。何が怖い?私はまだ、生きているよ。確かにここにいる。まるで子供が縋ってきているようだ……。私はそっとギルの背中を撫でる。大丈夫、怖くない。「まだ」どこにもいかない。


「大丈夫……行かないよ」


 私は自分自身に言い聞かせるように呟く。まだ大切なモノを失うつもりはない。まだ死ねない。

 しばらくギルの背中を撫でていると、段々と腕の力が緩む。タイミングを見計らってそっとギルの体から離れる。


「……ごめん」

「ふっ、いーえ?」


 恥ずかしそうに呟くギルが可愛くて笑ってしまった。

花火、屋台、神社……これを作り出した日本人の情熱、プライスレス。

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― 新着の感想 ―
[良い点] PTメンバーが増えて暫くは面白かったんですがね、、 [気になる点] PTメンバーの心理推移が気持ち悪い。 我慢して読んでましたが、、 [一言] ギルのアルに対しての想いがマジで気持ち悪い…
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